思わぬ裏切り
激突する両将軍。
戦の行方はどこへと向かうのか……?
※あとがきに解説入れました。
例によって読みたい方以外は読み飛ばしで大丈夫です。
両陣営の一兵卒らが声援を送る。大軍での戦争は二人の大将の勝敗に委ねられたのだ。
剣戟が繰り返され、重く打ち付けられる金属音が何度も戦場に響いている。
稀に別の音が聞こえたかと思えばそれは相手の服を掠める音だった。
武器の打ち合いだけで終わるはずはなかった。慾・偉夫は攻撃を躱して背後に跳躍した瞬間、氣巧術を仕掛けてきた。
「火属氣巧術――火龍炎獄!」
彼が吹いた息が炎へと変わり、やがてそれは龍を象った巨大な豪炎へと変貌する。
「水属氣巧術――水龍洪葬!」
大気から水を集めた龍宝はそれを龍を模した激流へと変えて火龍に撃ち放った。
両者の技が激突し、爆発四散。大量の飛沫が雨のように戦場へ降り注ぐ。
「これが氣巧術の打ち合いか? まるで嵐だ……」
「何と凄まじい戦いだ……これが大将同士の闘い」
両陣営の兵士達は待機命令がなくとも助太刀する隙を見つけられなかった。
ただ食い入るように男達の決闘を見つめている。
氣巧術を撃ち合った二人はやがて最初のように偃月刀で斬り結んだ。
「金のためといいながら凄まじい武ではないか。何がお前を強くする? 何を欲して勝利を渇望するのだ!?」
「見目麗しい男がためだ! 欲しい男がいる! 今のままでは抱き足りんのだ!!」
「はぁ? お前、何を言って―――」
自身の貞操を狙われていると誤解した龍宝が慌てて距離をとった。大きな誤解があると察した偉夫がすぐに否定の言葉を述べる。
「お前ではないぞ。お前は体が大きく見るからに男だ。違うんだよ。俺が求めるのは女と見紛う程の美男子だ。髪艶があり、容姿端麗で背が低い華奢な男が理想だな」
「女子のような男が好きなのか? それならば女子でよいではないか!」
「何も分かっちゃいないな。しょうがねぇ! てめぇら、一人寄越せ!」
偉夫が味方側に叫ぶとやがて物を捨てるように寥軍から一人の少年が戦場へ投げ渡された。
それを片手で受け取った偉夫はまるで玩具を自慢するように龍宝に紹介する。
「俺のお気に入りの一人だ。見ろよ、この美しい容姿を。とても男には見えないだろ? こいつは特に髪が美しいから断髪を禁じているんだ。ここまで伸ばすのに苦労したぜ」
「確かに知らねば男には見えんな。しかし眼に力がない。まるで人形のようではないか」
「ククク、仕方ねぇさ。コイツの全てを俺が奪ってやったんだからな!」
「全て、だと? どういう意味だ?」
「コイツは【彎国】の外れの村にいたんだ。侵略したときに村人は皆殺しにしてやったぜ! コイツの親も兄弟も目の前でな!」
喜々として自分の戦果を語る男もやはり《叛族》のはしくれだった。奪うことに良心の呵責を全く感じていない。
「惨いことを……! ならばなぜそやつだけを生かしたのだ!?」
「初めは女だと思って遊んでやった。途中で男だと気づいたがそれで目覚めちまったんだ。自分は犯されることはないと思っている男を屈服させる愉しさってやつにな! 他国を侵略するように男としての尊厳も誇りもどんどん堕として侵して攻略していく。たまらねぇぜ!!」
「下衆めが! それでその者の心を砕いたのか!?」
「城に持ち帰った最初の頃は強情な奴だったぜ。何度も汚されるくらいならと舌を噛みやがったんだ。だから二度と自害できねーように呪いをかけて力づくで可愛がってやった。それを何日も続ければご覧の通りよ!!」
龍宝との戦闘中だというのに偉夫は見せつけるように強引に少年の唇を奪う。少年は偉夫の胸板に手を添えて成すがままになっていた。しかし龍宝は気づいていた。彼の手が震えていることに。自分を嬲ろうとする男を退けようとしていることに。
(そうか、お前は心の大半が壊されても一人で戦い続けていたのだな……)
龍宝は消えるように移動して偉夫から少年を掠め取った。そのまま愁軍の軍医の所まで移動して少年を預けると、再び戦場へと舞い戻った。
「テメェ! 俺の一番のお気に入りを奪いやがったな! 奪うのは《叛族》の特権だぞ! アイツだけは壊さねーように大事に可愛がってやってたのに!」
「黙れ! 人の心を壊した屑が! 腐れ外道が! お前は優れた武を有しているから愁軍へ招いても良いかとも考えていたが撤回だ! この雷・龍宝が引導を渡してくれる!」
殺気を剥き出しにして偃月刀を構える龍宝。先程までとは佇まいがまるで違う。互角に立ち回っていたはずの偉夫が心の片隅に恐怖が芽生えてしまう。それを払拭するように偉夫は叫んだ。
「俺を殺すか!? やってみるがいい! 氣巧術でも剣術でも俺を殺せなかっただろうが!」
龍宝は既に踏みこんでいた。愛刀の紅龍偃月刀を素早く廻しながら閃光の如く駆け抜ける。
その衝撃で突風が巻き起こり、地面の砂は天へと巻き上げられていく。
「天爪流・〈螺旋龍葬〉!!」
「なん……だと……!?」
斬撃の竜巻に呑まれた偉夫は龍の爪に裂かれるように身体を千々に刻まれて肉塊と化した。
血の雨が降る中で佇む龍宝は寥軍を震え上がらせた。
一部の兵士はその場で降伏し、残る兵士はさらに内地へ後退する。
そんな中、龍宝は偉夫に玩具にされていた他の少年達を回収していた。
「龍宝、よくやってくれましたね。おかげでさらに進軍できます」
「いえ、それより先程の少年の具合は?」
軍医に介抱されて現れた少年は少しだけ眼の光を取り戻していた。力なく声にならないような小さな声で「ありがとう」と口を動かしているのがわかった。
龍宝は少年の頭を撫でて安心させてやると、部下達に命じてさらに進軍を続けた。
どんどん侵攻していく愁軍。誰しもがこのまま州都まで攻め込むだろうと確信していた。
ところが前進する美鳳の耳にとんでもない凶報が届いた。
「【彎国】が【愁国】へ攻めて来ているですって!?」
「そんな馬鹿な!? 密約とはいえ同盟国でしょう!? 何故我が国を襲うのですか!?」
予想だにしていなかった同盟国の裏切りであった。
【彎国】と【寥国】の決戦も示し合わせて高度に偽装していたのである。後退しているようにみせかけて戦力を温存していた【寥国】の軍勢は龍宝達の前に立ち塞がった。彎軍はそのまま進路を変えて【愁国】領へ向けて侵攻したのである。
完全な裏切りを悟った《顔無》がすぐに連絡を寄越してはいたが、今から美鳳達が愁国へ退き返すにはギリギリだった。
「美鳳様! 急いで退き返しましょう! 今愁国は手薄です!」
龍宝と同じ焦りを愁軍全体が感じていた。
国家戦力である「一紗」「蕾華」「龍宝」「鎧兜」の全員が国外に出てしまっている。
そもそも手薄なところを狙われないように同盟による包囲網の形成と早期決戦を望んだのだ。これでは本末転倒である。
「姫様! まだ間に合います! 国が滅びれば【寥国】を落としても意味がありません!」
美鳳は首を横に振った。
「今反転すれば寥軍に後ろから追撃されかねません。私達はこのまま前進します」
「そんな!? お国はどういうおつもりですか!?」
「龍宝、貴方は私が錯乱して愚かな采配をとっているように見えますか?」
美鳳の目は真剣だった。かつて兄に奪われた国を取り戻そうと決意したときと同じ眼をしていたのだ。
「既に手は打ってあります。それに〝あの娘〟も頑張ってくれるはずです。だから、私達は後ろを振り向いてはならないのです。帝国全土の統一と治安の向上という野望のため前に進むのです!」
「御意!」
愁軍はさらに前進を続ける。それにより混乱したのは寥軍だった。
「くそ! どうして反転しないっ!?」
「これでは逆襲できんではないか!」
慌てる部下達を抑えて前に出てきたのは劉・刑楽だった。
「敵が上手だったってことでしょ。あーあ、洋の作戦は失敗かぁ」
彼女は挨拶代わりに疲労した愁軍兵士の首を数人とる。
暗器を使った挙動が早すぎて龍宝も自身と主君の身を守るのが精一杯だった。
「姫様! おさがりください! コイツは今までの雑魚とは違う! あなたをお守りしながらは戦えません!」
「……みたいですね。それにしても【彎国】に二重密約を結ばせて我が国を襲わせるとは、洋という人物は相当切れ者ですね」
「キミ程じゃないでしょう? お姫ちゃん? 【圓国】【彎国】双方と密約結ぶなんてさ。それに自分の領民を見捨ててでも勝ちを取りに来る狡猾さ……虫も殺せない見た目の癖に案外腹黒いんだねぇ。……キライじゃないけど」
「別に見捨てたつもりはありませんよ。単なる優先順位の問題です」
「ふーん、まぁいいや。皇女なら高く売れるそうだし君を捉えて―――」
言い終わる前に偃月刀が少女の首目掛けて薙がれた。
それを刑楽は一瞥もせずに躱す。
「いきなりひどいなー。雷将軍―。女の子相手に」
「貴様は姫様を愚弄した。女子とて容赦せん。それに俺の部下もお前に殺されている。戦場ではお互い様だろう」
「主君を馬鹿にされてキレるかー。今どき珍しい重臣だねぇ。でも、キレてるのはこっちもなんだよ、雷将軍。キミはアタシを怒らせた」
身に覚えのなかった龍宝は首を傾げた。
「何の話だ?」
「慾・偉夫を殺したっしょ? ホント、大変なことをしてくれたよ」
「仲間の仇討ちというわけか?」
「あー違う違う。彼はアタシの大事なお客さんだったんだよ。それも大口顧客。活きの良い美少年が手に入ったから高く買ってもらうつもりだったのに、台無しだよ。おかげで在庫が余っちゃったじゃん。餌代もかかるのに」
「成程。貴様も屑という訳か。これで女子を手にかける罪悪を感じずにすむ」
「そんなの気にしなくていいよー。だって死ぬのはキミの方だし」
少女は小刀を逆手で構えると龍宝に襲い掛かってきた。
慾・偉夫将軍。
ヤバいキャラでしたが、参考にしたモチーフがあります。
それは作者のスマホに勝手に表示される「寝とられ漫画の広告」です。
作者は純愛好きで百合好きなのですが、なぜか健全なまとめサイト等を見ているのに奴らが出てきます。
「好きな子が目の前で」「彼氏がいるのに……」とかやかましいのです。
大体褐色肌でマッチョでイケメンで笑顔に裏がある感じの奴が犯人でしたから。
スマホスクロール中に間違ってタップしてしまおうものなら
「好きなんだろ? 素直になれよ」と言わんばかりにまた「寝とられ漫画」が乱流します。
という訳で私怨をふんだんに混ぜて擬人化してみました。
彼は完全に龍宝の下位互換です。
氣巧術、指揮能力、剣捌き、どれをとっても龍宝に劣ります。それでも及第点ですが。
水術を打ち消す火術を使いましたが、そもそも水のないところで上級火術を消せるレベルの水術を扱う龍宝のが凄いのです。
そして、愁国はピンチです。
残されたのは影と最低限の警備兵力だけ。さてどうなるかというところで次回に続きます。
※以下はちょこっと解説です。
【彎国】と【寥国】はいつ同盟したか。
美鳳が交渉をしくじった訳ではありません。
彼女の後に【寥国】の使者が訪れました。
あのとき訪れていた客は【寥国】の使者だったのですね。
かの国は元から【彎国】を抱きこむつもりでした。
ですが、領主の子睿が拒んでいた訳です。彼にとっては憎き簒奪者ですから。
ちなみに洋は初登場時に「【愁国】が【彎国】か【圓国】と同盟したらマズい」
と話していましたので、自分が同盟結ぶつもりだったら
この発言は矛盾してるんじゃないか、と思われるかもしれません。
何故この発言をしたかというと彼の部下が子睿と長期にわたって交渉中だったからです。
本編は基本的に愁国目線で話が進むので意図的に描写しませんでしたが、
以下のようなやりとりがあったのでしょう。
①第一次交渉
洋の部下「【寥国】と同盟してください」
子睿「略奪者と結ぶ訳ねーだろ。おとといきやがれ」
②第二次交渉
洋の部下「同盟してください。【圓国】攻めに協力しますし!」
子睿「それだけじゃ足りねーよ。同じ条件既に提示して【愁国】が同盟打診に来てるんだぞ?」
洋の部下「それは本当ですか?」
子睿「誠だ。今は先に来たお前の顔を立てて検討中と返事を渋っている状態だ。どうする?」
※大嘘。既に【愁国】と同盟済み。部下は現状を洋に報告し、洋が上述の通り、
【愁国】と同盟されたら困ると焦りだす。
③第三次交渉
洋の部下「我が国が今まで奪った領土も返還するので同盟してくれません?」
子睿「いいぜ。必ず守れよ」
洋の部下「約款を条約文で記載します。必ず守ります。先んじて領土の一部返還します」
子睿「その意気や良し。ちな、黙ってたけど既に愁国と同盟済み。これ利用できないか?」
洋の部下「じゃあ愁軍が我が国を攻めたとき空になった【愁国】せめてくれません?」
子睿「成功報酬も出せよ。上手くいけば妹の泣き顔が見れて雷将軍奪えるかもしれん」
大方こんな筋書きだったのだと思います。
・領土返してほしい。でも満喰に勝てん。楽に取り戻したい。
・生意気な妹を困らせたい
・龍宝将軍ほしい
これが子睿の思惑ですから。
数少ない洋の優秀な部下は子睿説得に手間取り、
【宍国】との同盟交渉に行けず、
【宍国】側を招く無礼をかますことになってしまいました。
それと満喰は何も知りません。意図的に知らせていません。
「奪った領土を返還する」なんて報告すれば激怒されますから
洋が水面下で行動していたのです。




