寥国を支える名軍師
いよいよ【愁国】より宣戦布告が成されました。
開戦直後から敵三ヶ国に囲まれた【寥国】はどうするのか!?
※分割の都合上、今回は短めです。
その頃、州都【聚款】は大いに荒れていた。
ついに【愁国】から宣戦布告が成されたのだ。満喰政権の【寥国】にとって【愁国】とは三度目の大戦にあたる。
仕掛けられたのは【寥国】側なので侵略戦ではなく防衛戦が主体となる。
【寥国】にとって防衛戦は不慣れであった。そのため鎧兜政権時の【愁国】にも領土を奪われていた。《叛族》の民族性は侵略戦と相性が良く故にこそ【圓国】、【彎国】相手に圧倒的な強さを見せつけていたが、防衛戦は守りながら押し返していかなくてはならない。
そして敵軍を指揮するのはかつて【寥国】の進軍を少ない手勢で守り切った雷将軍なのである。さらに【寥国】にとって更なる悪い知らせが舞いこんでくる。
「【圓国】、【彎国】が宣戦布告してきました! 我が国は敵軍に囲まれております!」
「なんだと!? ええい! 雑魚共が群れおって!」
密約同盟に乗っ取り【圓国】と【彎国】それぞれが【愁国】の動きに同調したのである。
満喰も自身の武に自信があったが、流石に包囲されたとあっては穏やかではいられらない。二国はかつて自分が下した弱小国、そして一国は唯一敗れた小国だ。小さな三つの国に仕掛けられたことで彼のプライドは大いに傷ついていた。
「洋を呼べ! 奴の作戦計画の下、一国ずつ潰してくれる!」
自ら呼べと言ったのに辛抱できない満喰は自室の壁を探して腹心の部下を探し歩く。
五つの部屋の扉を破壊した後、ようやく洋の姿を見つけて彼は止まった。
「ここにいたか! お前の知略が必要だ! 俺はどの国から先に潰せばいい?」
「【彎国】については既に手は打ってあります。……【愁国】を抑えれば周辺国の団結は断ち消えますが、相手は我が国を二度も退けた国、容易くはないでしょう。故に殿下は先に【圓国】を叩いていただきたい」
「【圓国】だな! 潰してくる!」
満喰は《叛族》の部下を大勢引き連れて悠々と出陣していく。
洋としてはもっと作戦について話しておきたかったが自分の主君が話を聞いて理解してくれるはずもないと諦め、溜息をついて眼鏡についたゴミを布で拭き取った。
「洋、アタシはどうすればいい? お給料分は働くよー」
「劉殿は【愁国】を迎え撃ってください。雷将軍は強敵ですが、私の計略が上手くいけば愁軍は反転して自領へ引き返します。そこを追い打ちしていただきたい」
「なるほどなるほどー。でも、私の配置はそこでいいの?」
「……? どういう意味です?」
聞き返す洋に向かって刑楽は黙って掌を差しだした。
つまり、これ以上知りたければ金を寄越せということである。
「こんな時までお金とるんですか!?」
「当り前じゃん。情報料は別料金。銀貨二枚!」
痛い出費だが価値ある情報なら買わないわけにはいかない。それを分かって彼女も吹っかけてきたのだろう。洋は血涙を流しながらヘソクリから銀貨を取りだして刑楽に寄越した。「毎度アリ」と銀貨を懐に仕舞った彼女は真面目な顔になって言った。
「【迎梠】を占領した賊二人は紅・鎧兜と惡姫に間違いないよ」
「……確かですか?」
「うん、殺りに行った私の部下も返り討ちで殺されちゃったし、強さ的にも本物だね!」
「部下が死んだわりには嬉しそうですね」
「だって、死んだ奴の財産はアタシが貰うことになってたもん。また儲かっちゃった」
洋は戦慄した。この少女は《叛族》とは違う意味で人格に問題があった。仲間の命よりお金の方が大事なのだ。
(この大陸で強い人はどこかがおかしいのですよね……)
うんざりしつつ刑楽の配置先を悩んでいると、部下の一人が息を切らして駆けこんできた。
「報告します! 【宍国】より同盟断りの文が届きました!」
「えぇ!? 昨日向かっているという返事があったのになぜ!?」
「道中盗賊に襲われて気分を害されたとか……」
「そんな! 迎えの者も寄越したのに! 彼らは何をやっていたのですか!?」
「それが、担当の役人が別の者に安値で下請けさせたようでして……先方から告げられた賊の特徴から察するに……その下請けが盗賊行為をやってしまったのかと……」
「――外交使節を襲ったと!? 我が国の領民達はアホばかりですか!?」
「あはっ! うけるー! 高価な馬車だからカモだと思ったんじゃないの?」
洋は頭を抱えた。外交使節として向かわせたのは比較的まともな役人達だったはずだ。しかし財を維持して楽をしたかったのか、他の仕事で手を回す余裕がなかったのか彼らは絶対に失敗してはならない時に最低な悪手を打ってしまったのだ。
領民の質が悪いから信頼できる筋に頼ったのに無許可で下請けに出されるとは面目丸つぶれである。もう笑うしかない。
「アハハハハ!! こんな国潰れてしまえばいいのです! アハハハ!!」
「胡様! お気を確かに!」
「あーあ、洋が壊れちゃった。しっかりしてよ。君は大事な――」
「――大事な?」
「大事な金づるなんだから!」
「社交辞令でいいので優しさをください……」
嗚咽する胡・洋の負担はとても大きいものだった。一族への義理立てがなければすぐにでも職務放棄したい心境だっただろう。しかし、彼を縛るのは《叛族》への義理立てだけではなくなっていた。
この州都【聚款】で比較的まともな市政官達は知恵者の洋に頼りきりだった。
彼が職務を放棄した瞬間、決戦前に【寥国】は崩壊することが分かっていたからだ。
「胡様! あなただけが頼りなんです!」
「どうかお知恵を! どうか!」
自分がいなくなれば残ったまともな人間が不幸になる。
胡・洋を動かす原動力は責任感だった。
「……分かりました。現状【迎梠】に回す戦力がありません。付近の野良盗賊を利用しましょう。アレでも我が国の領民、役に立っていただきます」
洋は盗賊達に【迎梠】は食料がたんまりあり、警備が手薄だと流したのだ。【寥国】中に散っていた複数人の盗賊達は大挙として【迎梠】を目指すことになる。この戦争では使える戦力は州都の防人も全て投入しなければ押し負けてしまう。
故に手薄になった州都【聚款】が野良盗賊に襲われないため、【迎梠】に目を向けさせるという狙いもあった。
「鎧兜殿下と惡姫。……蛮勇二人といえど、今は町を預かる者として町人を守らなければならない。これでしばらく足止めはできるでしょう」
「ひゅ~、洋ったら陰険~」
「貴女のような守銭奴に言われたくありませんよ。それより劉殿は予定通り愁軍を迎え撃ってください。但し果敢に攻める必要はありません。彼らが反転するのを待つのです」
「ん~? 了解~!」
愁軍の進軍を阻むため、刑楽も残りの州都軍と《戮族》の部下達を率いて出陣していく。
残された洋は興奮作用の強い漢方をカフェインの強い茶で流しこんで決意を固めた。
「この戦争が終わったら出奔しよう……」
欲望第一で未来志向ができない《叛族》と守銭奴の刑楽、他人任せの部下達、そして無教養の領民達。あらゆる不安材料に挟まれた洋の精神は既に限界に達していた。
胡・洋は苦労人ですね。
彼一人で【寥国】が持っているようなものです。
満喰が領主に就任して以来、前任者が築き上げた財産を食いつぶし、
戦争で他国から掠奪を続けている【寥国】。
そんな国が滅びないのはブラック企業が中々潰れないのと同じ理由です。
胡・洋のような優秀な人間に支えられています。
彼は現代風に言えば社畜ですね。




