プロローグ
心地よい秋風が吹き抜ける秋天の候、読者の皆様はいかがお過ごしでしょうか。
一章のエピローグ投稿から約一ヶ月、作者は帰ってまいりました。
予定の時期より投稿が前倒しになった理由は幸運が重なったからです。
本業があまり忙しくなく、執筆の時間が今まで以上に取れたこと、
天啓ともいえるインスピレーションが沸いてきたこと、
何より感想覧で「面白かった」「続きが読みたい」と書いて下さる方が
いらっしゃったことが大きな要因です。
嬉しいものですね。まさかここまで起爆剤になるとは本人が一番びっくりです。
という訳で前回同様、推敲しつつ一週間程度であげていきます。
「第二章 寥国攻略編」始まります。
美鳳が【愁国】を取り戻してから一月。
聡明な彼女の采配により領内は安定していた。【利邑】は税制が見直されてかつての活気を取り戻し、【慶酒】は外町を完全に復興させ、新酒の開発まで着手しはじめていた。
二大町が復活したためか州都【武言】も都の名に恥じない文明に色づいていた。
領内で生活する領民達の表情は皆明るかった。
しかし、紅華帝国そのものの治安は変わっていない。
平穏がもたらされた【愁国】の領域の外に一歩でも出ると、欲望と腐敗に塗れた人面獣心の男達が暴虐の限りを尽くしている。
今日もまた、武器や氣巧術を扱う彼らの目から逃れるために難民の家族が評判の良い【愁国】に向かっていた。
「もうすぐ、【愁国】に入る! 皆、もう少しだ! 皇女殿下の庇護下に入れば安全な生活と食いっぱくれることのない仕事が約束されるんだ!」
「頑張りましょう。お優しい皇女様は私達難民も受け入れてくれる……」
安定した【愁国】の噂を聞いた難民たちは挙ってその地を目指した。
水路が整備され、物資は豊富、夜になっても強盗が出ないという信じられない楽園の話に飛びつき、かの国を安息の地と見定めて長旅をしてきたのだ。
――しかし。
「いたぜぇ! ご家族一向様ぁ! もぅ。ちょっと目を離した隙に逃げちゃうんだから」
「ったく、鼠みてぇな野郎共だぜ。俺達から逃げられるとでも思ってんのぉ?」
剣や偃月刀で武装する男達は下卑た笑みを浮かべていた。
難民の家族は恐怖に顔を歪める。
「お願いします。水も食料もお渡しします。ですから命だけは……!」
懇願する父親を野蛮な男が容赦なく切り捨てる。
大黒柱の父は断末魔すらあげられずに二等分されてしまった。
「いけないねぇ。人にものを頼む態度じゃないよねぇ。命は見逃してくれなんて贅沢だ」
「そんな! 物は差し上げると―――ぎゃっ!」
「年増は黙ってな。物なんて殺して奪えばいいんだ」
母親すらも一瞬で命を奪われてしまう。
残った娘は親の亡骸の前で恐怖に失禁してしまっている。
「お願い……します。命だけは……。一晩、お相手しますから……」
若い娘は親の仇にすら身体を差しだして涙ながらに命乞いをする。
しかし、非情にもその胸は矢で射抜かれてしまった。
「もったいねぇ。せっかく相手してくれるってんだから事が終わってから殺せばいいだろ」
「あ? 死体でも使えるだろ? 殺したてはまだあったけぇしなぁ……アハハ」
そう言いながら娘の着物を破り始める。彼はネクロフィリアの気があるようだ。
野蛮な仲間すらも死体を弄ぶ彼の行いには若干引き気味である。
「……抵抗する女を抱くのが一番だってのに。なんにも分かっちゃいねぇ」
他の男達は家族が持っていた食料や着物を回収していく。殺した死体からすらも衣類を剥ぎ取っていた。
「いやぁ、それにしてもこの辺りを縄張りにしてよかったなぁ!」
「全くだ。田舎者共が【愁国】を目指して押し寄せてきやがる。おかげで俺達ぁ、網張ってるだけで大儲けできるんだ!」
「国境付近は難民も油断すっからなぁ。〝楽園〟【愁国】の領主様には感謝だぜ!」
【愁国】の外は未だ破壊と狂気に満ちていた。
あろうことか楽園の地と称された【愁国】を餌として利用し、難民を狩る者まで現れ出したのである。
特に国境周辺は難民の犠牲者達の死体で溢れていた。
見かねた国境警備の防人達は弄ばれた彼らの死体を丁重に弔うことになる。
領外へ足を踏み入れる必要があるために本来は隣国の方に死体の処理を打診するべきだが、自治すらまともにできない彼らは死体の片付けなどしている余裕はなかった。
【愁国】は疫病の発生を食い止めることを大義名分として他領から難民の死体を回収し、その弔いを行っていたのだ。
毎日のように増える死体の山に美鳳は心を痛めていた。
自分と同い年くらいの少女の亡骸に触れ、空いたままの目をそっと閉じさせる。
「やはり、いつまでもこの安息の地に留まっている訳にはいきませんね」
紅華帝国第七十三皇女の紅・美鳳は内乱を収めるため、再び領外へ旅立つ決心を固めた。
全ては帝国を再統一し、秩序をもたらすためである。
のっけからヤバい展開ですが、作者は正気ですのでご心配なく。
領外の治安の悪さを再認識した美鳳は安寧の地から腰を上げることになります。




