エピローグ
短いですが、死闘の後です。
【武言】は鎧兜の降伏により落ち、【愁国】は完全に美鳳の統治下に戻った。
ついに悲願である故郷の奪回を果たしたのである。
やがて鎧兜から武装解除の命令が降り、【利邑】と【慶酒】の闘いも和睦が成った。龍宝を先頭にした貴従兵は鎧兜軍を捕縛しながら武言城へ入城した。
「ご苦労でしたね」
美鳳は手筈通り防衛戦を展開し実績を上げた龍宝を労うが、彼は困惑の表情を浮かべている。無理もないだろう。仇敵を殺す決意を常日頃から聞いていた自分の主がその相手と和解したのだから。
「まさか、鎧兜殿と和睦するなんて思いませんでした」
「ええ。私も殺すもやむなしと思っていましたが、一紗が説得してくれました。おかげで憎悪に身を焼かずにすみました」
「一紗ですか。惡姫と呼ばれ敵を皆殺しにしていた女が言葉で戦いを制すとは……」
此度の戦の結果は龍宝も驚いたようだ。やさぐれていた頃の一紗を知っているのだからその驚きは当然だったが。
後日、防衛戦を戦い抜いた貴従兵や泰然一派には勲章を贈呈され、その栄誉を与えられた。祝勝会は【利邑】の食料と【慶酒】の酒をもって行われた。
町人は美鳳が領主へ返り咲いたことに沸き立ったが、驚いたのは鎧兜服従の事実である。美鳳が統治し、鎧兜が補助をする形は美鳳が都落ちする前と同じようだが、今回は美鳳の傍盾人の配下という形なので彼に統治権や指揮権はない。以前の鎧兜なら文句を言いそうだが一紗の配下になってからの彼は穏やかだった。
「あの鎧兜様があんなに朗らかに話しておられる。美鳳様と和解したのは本当かもしれんな」
「ああ。心なしか声音にも優しさが感じられる。お顔は見えないが、きっと穏やかな表情をしておられるのだろう」
民衆の言葉を聞いた鎧兜が兜を脱いで見せる。
「ほらよ。テメェらが見たかった穏やかな顔だ」
「「ひぃ~!」」
彼の素顔を見た民衆は脱兎のごとく逃げ出した。
コンプレックスだった顔の傷も揶揄うために使えるようには吹っ切れたようだ。
彼は「ンガガガ」とひとしきり笑った後、兜をかぶり直した。
「こらこら、あんまりイジメてやるなよ」
「姉御、俺は素顔を見せただけだぜ? あ、それよりこっちにいい店があんだ。来てくれ」
鎧兜に勧められ、一紗は【武言】の町を見て回った。なぜか左肩に乗せて移動してくれる。〈膂族〉の筋肉と拳法家としてバランスの取れた姿勢があったため乗り心地は悪くなかった。
裏町の隠れた名店等も案内してくれたので観光気分で楽しむことができた。
満足して城に帰ってきた一紗に沈痛な面持ちで蕾華と美鳳が近寄ってくる。二人の様子から自分が異世界に帰ることを心配していることに気づいた。
【愁国】を取り戻した今、一つの区切りが付いている。戦時中は切迫した状況で「帰らない」という結論をだしたが、平穏になった今は深く思慮して結論を出せる。故に二人はもう一度一紗の真意を確かめに来たのだろう。
「あ? なんだテメェら? 辛気臭ぇ面しやがって姉御が心配するだろ」
調子を取り戻した鎧兜は妹に対する口調だけは元に戻っていた。
揶揄って見せる鎧兜は三人娘の様子を交互に見てただなるぬ雰囲気を感じ取った。近くにいた龍宝にも視線を送るが、「俺は知らない」というジェスチャーをされたので部屋の端で黙って待機することにしたようだ。
一紗は二人を抱きしめ、努めて優しい声音でその耳元に囁いた。
「言っただろ? 俺は元の世界には帰らねーよ」
「「本当?」」
「【愁国】を取り戻してもまだこの国は安定しない。独立を望む勢力も多く、内戦は毎日のように起こっている。この世界に来たばかりの俺のように、飢えや治安の悪さで苦しむ人もいる。美鳳の夢はそんなこの国を平定して治安と平和を取り戻すことだろ?」
「はい。いつかあなたの出身国と同じような平和な世を作りたいと思います」
「はっ! 俺に政権を奪われるくらい弱っちぃ美鳳にできんのか?」
「兄上! 今は取り返したじゃないですか!」
ポカポカと胸板を殴るも鋼の肉体を持つ兄には全く効果がなくゲラゲラ笑っている。
兄妹でじゃれ合っているように見える美鳳達だが、つい先日まで領地を取り合い憎しみ合っていた関係である。
普通の兄妹のように打ち解けるにはまだまだ時間がかかるだろう。
一紗がいなくなれば二人の仲も険悪に戻ってしまうかもしれない。一紗は改めて自分の決断は間違っていないと確信した。
しかし僅かに残る躊躇いを察してか蕾華が控えめに尋ねてくる。
「一紗さま、私としては嬉しいけれど、本当によかったの?」
「ああ。紅華帝国平定という美鳳の夢が旅の中で俺の夢にもなった。それに神も言っていた。……この世界が俺の生きる場所なんだ」
一紗は仲間達と共に【武言】の城下町を見下ろした。人々は笑顔を取り戻し、商いに遊びに興じている。そこにあるのは幼かった自分が望んだ平穏な世界そのものだった。
口元が綻んだ彼女は地平線の彼方を見渡した。
――この【愁国】の平和がいつか紅華帝国全土に広がることを夢見て。
『華風皆殺し娘の交渉術』いかがでしたでしょうか。
余暇の時間、お昼休み、就寝前など、空いた時間に皆さまを楽しませることができたのなら幸いです。
聡明な読者の皆さまは既にお気づきかと思いますが、
本作品は『三国志』と『某世紀末伝説』と『異世界転生モノ』を足して三で割った構成になっています。
北より寧ろ南寄りな一紗の拳になります。
プロローグで告知していました通り、書き溜め分は全て放出しました。
表現の甘い所などを加筆している間に投稿に時間がかかってしまいました……。
これにて『第一章 愁国奪回編』終了となります。
長らくフォルダの隅に埋もれていた自作品です。
作者としては設定やキャラは気に入っていたので本サイトに投稿して反応を見ることにしました。
誰も読む人がいないならこれで終わらせようと未練を断つ想いでした。
しかし、ブックマークが一つ付き、2桁になり、30、40と増えていくにつれて
そんなに多くの方の目に止まったのかと感動を覚えました。
大御所の作家さんと比べるとまだまだではありますが、
ブックマークは皆さまからの「声なき激励」だと勝手に解釈しております。
評価してくださった方々、ありがとうございました! m(_ _)m
そんな皆様の期待に応えられるかは分かりませんが、
時間がかかっても続きを書いていこうと思います。
本業や私生活もあるので今すぐにという訳にはいきませんが……。
自分はラノベ単行本一冊分の執筆におよそ2、3ヶ月程かけます。(※あくまで目安です)
その上で「小説家になろう」用に再編成するのでさらに時間がかかるかと思います。
……が、ブックマークを外さずに気長にお待ちいただけますでしょうか。
また、お手数でなければ感想などいただくと作者のモチベーションに繋がります。
「もっと百合を見たい」「他の五大民族を見たい」「龍宝の活躍はまだか」等々何でもいいです。
「面白かった」の一言だけでも構いません。
ご要望に確実にお応えできるとは約束できませんが、必ず目を通して参考にさせていただきます。
以上、よろしくお願致します。




