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華風皆殺し娘の交渉術  作者: 微睡 虚
第九章 拳国恩讐編
251/345

覇兇拳VS覇兇拳

鎧兜(カイドウ)秀英(シュウイン)漢の戦いが始まります。

同門同士は修羅の世界でもやり辛いですね。


 鎧兜(カイドウ)秀英(シュウイン)は実力伯仲だった。

 使う拳法は勿論、師も同じだったため戦闘能力はほぼ互角である。才覚という意味では秀英(シュウイン)の方が上であるが、老仙(ラオシェン)に師事した時間が長い鎧兜(カイドウ)の方が使える技の数は多い。


 実戦経験も似たようなものだ。

 秀英(シュウイン)は本家筋を絶滅させるべく己を磨き、達人級の拳法家達を正面から抹殺してきた。

 鎧兜(カイドウ)も【拳国】を飛び出してから落ち武者狩りの拳法家たちや《戮族》と戦った。武言城で惡姫・一紗(イーシャ)に敗れて以降は【愁国】の武将として多くの猛者達と拳を交わしている。


「成程、強いな鎧兜(カイドウ)


「こっちの台詞だぜ、秀英(シュウイン)!」


 共に育ち技を競い合ってきたからこそ相手の癖や好む技も互いに熟知している。

 片方が技を掛けようとするも他方が見切ってカウンターに備える。それを察した攻め手が技を出さず牽制に終わるということも幾度か続いていた。


 このままでは体力勝負となり運の良い方が相手にとどめを刺すという締まらない幕切れになることは双方頭の片隅にあった。

 そんな情けない勝敗のつけ方はどちらも望んでいない。引導を渡すのは運でも時間切れでもなく己の拳のみ。それが二人が共有する見解だったのだ。


 そこで先に仕掛けたのは鎧兜(カイドウ)である。

 左腕を斜め上に、右掌を逆さの状態で斜め下に持ってくる構えを取った。

 武術において構えとは敵を威嚇すると同時に次の技を仕掛けるための予備動作でもある。

 全く未知の拳法であれば牽制になるし、名のある覇兇拳と戦闘経験の無い者だと警戒するだろう。だが同じ流派の拳法使いなら構えから繰り出される技は筒抜けである。


「優しいな鎧兜(カイドウ)。俺に次の技を告知してくれるのか!? その〝咆虎の構え〟から派生する技は二つ! 敵が先に仕掛けてきたら返し技として氣を封じる〈覇兇暗掌拳〉へ移行する。相手に動きがない場合はどちらか片手から先制攻撃を仕掛けて敵の氣を乱れさせる〈覇兇連爆拳〉に繋げられる」


 鎧兜(カイドウ)は短く舌打った。彼の指摘はすべて正しい。無知な敵ならば先制して氣を封じられて戦えなくなるか、鎧兜(カイドウ)の先手から爆死する未来しかないのだ。技を知られているというのはやりにくいものだ。


「俺は返し技をくらいたくないからな。ここは動かんぞ、鎧兜(カイドウ)! 仕掛けて来い」


「なら望み通りにしてやるぜェ!」


 右手か左手、どちらから仕掛けるかくらいが翻弄される点である。故に秀英(シュウイン)鎧兜(カイドウ)の手の動きを注視していた。


(――右だ!)


 鎧兜(カイドウ)が右腕の筋肉に力を入れたことを秀英(シュウイン)は見逃さなかった。

 仕掛ける手が読めればそこからカンターを仕掛けられる。

 右腕を動かしながら前かがみになる鎧兜(カイドウ)の経孔を突こうと秀英(シュウイン)は先に左腕を伸ばした。

 ところがその拳が当たる前に彼は顎を蹴り上げられた。


「足技!?」


 一瞬で顎の経孔を突いた鎧兜(カイドウ)は彼の態勢が整う前に、宙に浮く彼の腹に三連打を浴びせて吹っ飛ばす。

 空中回転で受け身を取り着地した秀英(シュウイン)は既に自身の身体の氣が相当乱されているのを理解した。


「これは〈覇兇・四連破孔拳〉!?」


 秀英(シュウイン)は自分が受けた技の正体を掴んだ。但し彼の知る本来〈覇兇・四連破孔拳〉はアッパーカットで敵の身体を宙に浮かせ、ガラ空きとなった体に三連打を叩きこむ技――つまり全て拳打で完遂する技であり足技が介入する余地がない。大ぶりな技なので達人相手には滅多に使用できないあまり実戦向きではない技だった。しかし鎧兜(カイドウ)は〝咆虎の構え〟を囮にして態勢を低くすることで足の動きを隠し、基本構成に囚われない足技を用いて望みの経孔を突いてきたのだ。自身の経孔を素早く付いて氣の正常化を図る秀英(シュウイン)は素直に舌を巻いていた。


「まァ見知った技も要は使い方次第ってワケだ」


「頭を使うようになったな。算術が苦手だった劣等生とは思えんぞ」


「ハッ! つくづくお前の補習を受けて良かったと思うぜェ!!」


やはり覇兇拳で氣を封じようが乱そうが同じ覇兇拳使いはすぐに対策を講じてしまう。満喰戦でもそうだった。修練者時代から分かっていたことだ。

 両者は相手の瞬きの瞬間、呼吸を整える瞬間を見逃さずに先に大技を決めようと死力を尽くした。


「アタァ!」「オラァ!」 


「アァタタタタタタタッ!!」


「オラオラオラオラッ!!」


 素人目に見れば殴打を連打しているようにしか見えないが、実際は互いの動きの読み合っている。双方拳は相手の経孔を突くに至らず、拳による風圧と闘気だけが二人の周囲に飛んでいく。それは流れ弾のように周りの木々や近くを通りがかった妖魔に当たり、一撃で倒壊させていた。


「まだ目が覚めねェのか!?」


「眼ならとっくに覚めている! 爺に師事することを幸せと感じていた馬鹿なあの頃からな!」


 相手の隙を見出して攻撃して尚勝負はつかない。

 ――となれば取りうる手段は一つ。相手の知らない技で先手を打って畳みかけることしかない。幸いにして秀英(シュウイン)老仙(ラオシェン)の元を去ったのが鎧兜(カイドウ)より早い。

 天才とはいえ未だ納めていない技があった。〈仙闘氣(セントウキ)〉に対抗する術はまだ身に着けていない。だが【拳国】を訪れて今日までに鎧兜(カイドウ)が習得した技がいくつかあった。才能の勝る秀英(シュウイン)に対しての唯一の優位性である。

 問題はどの技を使用するかだ。相手が身に着けていない新技とは言っても、同じ覇兇拳の流れを組む以上、挙動から技の出や効果を推測される危険性がある。(ホン)(タン)のような凡人であればその心配はないが、相手は血統に恵まれなかっただけの天才・秀英(シュウイン)である。

 最悪技が決まらなければ見取り稽古で盗まれてしまう可能性すらあった。


 ここは相手の裏をかく他ない。

鎧兜(カイドウ)は少し秀英(シュウイン)から距離を取ると、驚きの行動に出始める。相対する秀英(シュウイン)は最初意味が分からず沈黙していたが、彼の手が停まった所で目を吊り上げ怒号を飛ばした。


「どういうつもりだ、鎧兜(カイドウ)!?」


「あァ?」


「何故自らの氣を封じたのかと問うている!?」


 秀英(シュウイン)が怒るのも無理はない。真剣勝負を挑んでいる相手が自らの経孔を突き、氣を封じるという不可解な行動をとったのだ。全ての氣を封じた訳ではないが重りのついた枷をすすんで手足につけるのと大差のない行為である。

 自分より劣る相手に対してハンデをつけてやる意味でそういった行動に出るなら分かるが、秀英(シュウイン)と今の鎧兜(カイドウ)はほぼ互角。その状態で自分を弱体化させる意図が分からなかった。


「舐めているのか? それとも錯乱したか!?」


「どちらも違うなァ。これが師父に教わった新技への布石だ」


 返答を聞いて虚を突かれた秀英(シュウイン)は口を開けたまま硬直していたが、少し経ってそれは笑みに変わる。


「ハハ、ハハハハ! そうか、そういうことか!」


「あン?」


「あの爺はやはりお前を強くするつもりなど毛頭なかったのだ! 自らを弱体化させる技など覚えさせて何になる!? 適当な絵空事をほざいて良い様に丸め込まれただけだろう!?」


 鎧兜(カイドウ)の口から弱体化することが新技への布石だと伝えてあったが秀英(シュウイン)は聞く耳を持たなかった。氣を封じて発動させる技など修練者時代に彼が覇兇拳道場で学んできた技の中には一つとしてなかったからだ。そしてその意味も不明だった。せいぜい敵を油断させるくらいの効果しか期待できないはずである。


「どうやら俺はお前を買い被っていたらしい。爺の耄碌修業に付き合って自ら勝機を手離すとは! 望んで本家の捨て石になるとはな! もういい……死ねェぇええ!!」


 空中に跳躍して一番高い木の幹を蹴った秀英(シュウイン)は突進力で加速したまま経孔を狙う。人にとって頭の上は視覚であり、どうしても隙が生じやすい。彼が使用したのは重力に従った落下に突進力を加えて空から奇襲する絡め手の技だった。


「〈覇兇・空襲爆砕拳〉!!」


 勿論同じ技を鎧兜(カイドウ)も体得していたが、秀英(シュウイン)は技を使うタイミングが上手い上に夜闇に紛れていたため、カウンターが狙いにくかった。


(絶妙な時を図っての空襲……! 弱体化したお前には受けきれまい!!)


 ところが秀英(シュウイン)はおかしなものを見た。

 つい先程まで氣を封じていたはずの彼の身体から加速的な氣の奔流を感じたのだ。

 そして鎧兜(カイドウ)が技を繰り出す直前、彼の速度が眼に見えて上昇する。


「〈覇兇・八経爆流拳〉!!」


「ぐわぁぁあああ!!」


 鎧兜(カイドウ)は対空迎撃するように相手の身体の経孔が密集する八か所を正確に突き、その氣の流れを爆速させた。内からの乱流に耐えきれなくなった秀英(シュウイン)の身体の八か所から血肉が飛び散った。あおむけに倒れて吐血する彼は鎧兜(カイドウ)をじっと睨む。


「〈覇兇・八経爆流拳〉……は知っている。だが何だ、この異常な拳速は? それに技を放つ瞬間、封じられたはずのお前の氣が上昇したのは……何故だ?」


「……〈覇兇補完巡天法〉。覇兇拳による身体強化法の一つだ」


「氣を封じることが何故強化につながる? 普通は逆のはず……」


「盲人は視力がない分聴覚が異常発達するだろう。人体は失った機能を補完しようとする。〈覇兇補完巡天法〉はその応用だ」


 つまりは体の一箇所の氣を敢えて封じることにより、残った経孔が氣の循環を補うように氣の量と質を向上させるようにしたのだ。その状態で封じた氣を元に戻すことで通常の何倍もの戦闘力を得る技だった。覇兇拳を受けた多くの敵が成すすべなく氣を封じられたように、勿論鍛錬を重ねなければ補完強化は働かない。鎧兜(カイドウ)の努力の賜物だった。


「盲点だったな。お前の拳が以前より強く速くなったのはこの修業を積んだからか?」


「ああ。一部の氣を封じられた状態で師父の拳撃に耐える訓練を積んできた。【拳国】に到着した時点ではまだお前の方が強かったからなァ。多少無理もしたぜ」


「成程。今回は俺の眼が節穴だったらしい。次は油断せんぞ」


「次だァ?」


 覇兇拳で真剣勝負をすればどちらかが死ぬしかない。よって次はないはずだ。しかし倒れたはずの秀英(シュウイン)から殺気を感じた鎧兜(カイドウ)は急いで飛びのいた。

 すると、地面を伝って秀英(シュウイン)の技が広がり、近くの大木を倒壊させる。


「地面を伝って俺の氣を封じようとしやがったか。何故動ける?」


「ふっ、気づいているのだろう?」


 秀英(シュウイン)の身体にはいくらか経孔を突いた痕が残っていた。それは〈覇兇・八経爆流拳〉で突いた覚えのない箇所である。

 つまり彼は鎧兜(カイドウ)、が技を発動するのを見越して予め自らの氣の流れをいくらか止めたのだ。覇兇拳は氣の流れを暴発させることで敵を爆死させる拳法なので乱す氣の量が少ないと致命傷にはならない。


 秀英(シュウイン)は〈覇兇補完巡天法〉を知らなかったが、〈覇兇・八経爆流拳〉の効果は知っていたので氣の量を制限して即死を避けたのである。


「面白いものを見せてもらった。せめてもの礼に今度は俺の技を見せてやろう」


秀英(シュウイン)が習得している覇兇拳の技は全て鎧兜(カイドウ)も使えるはずである。

真新しい技を使えるはずがない――だが警戒は怠らなかった。常に想像の上の功績を残してきた稀代の天才相手に油断はできなかった。


 一撃を受けただけだがそれで終わらなかった。鎧兜(カイドウ)の身体はただ一点突かれただけの経孔から電気を流されるように氣を通して付近の経孔さえも刺激され体の複数個所を内側から破壊されたのだ。あまりの激痛に悶絶してしまう。


「痛ッ!? あァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


「どうだ、俺が開発した〈覇兇・始点連鎖〉の切味は? 手数で複数の経孔を突く必要はない。ただ一点突き俺の氣を流し込むことでそこを中心に付近の経孔をも突かれた状態にする」


 覇兇拳には地面を通して自らの氣を流し込むことでその氣に触れた者の経孔を突く技がある。秀英(シュウイン)はそれを応用して一点の経孔から氣を流し込んで、その周囲複数の経孔を連鎖的に突く技を開発したのだ。歴代の伝承者達が技として後世に残していない以上、考えついても形として成し遂げられなかったということだ。

 それを一人で編み出したのだから秀英(シュウイン)と言う男は底が知れない。


「独力で技を作りやがったか。相変わらず天才だなァ、オメェはよォ」


 慇懃無礼に煽てながら自身の経孔を突いて気の流れの安定化を図った鎧兜(カイドウ)だったが、全て元通りとはいかなかった。血管が火傷をしているように彼の氣を流しこまれた経孔と経絡が酷く損傷していたからだ。

 一撃で広範囲の経孔を突くだけではなく、氣が通った場所さえ傷つけるため何度も同じ技を喰らうわけにはいかなかった。


 呼吸を整えながら鎧兜(カイドウ)はそれでも闘志を燃やしていた。

 一筋縄でいかない相手だからこそ今ここで自分が止めなければならないと決意を改めたのだった。




互いにほとんど手の内が割れているため

双方相手の虚を突こうと立ち回ります。

冒頭から長時間睨み合い牽制のし合いでしたが、己の拳こそ正拳だと言わんばかりに激しい撃ち合いになりました。


鎧兜(カイドウ)は既存の技を応用し、師に教わった新技で勝負に出ました。

対して秀英(シュウイン)は自ら編み出したオリジナル技で鎧兜(カイドウ)を苦しめます。


……と言う訳で次回に続きます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 自分でオリジナル技を編み出した秀英が天才過ぎるww。
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