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華風皆殺し娘の交渉術  作者: 微睡 虚
第九章 拳国恩讐編
249/345

己が拳によって

秀英(シュウイン)との決着をつけにいった鎧兜(カイドウ)

主戦力が傷つく道場に不穏な影が忍び寄ります。


 鎧兜(カイドウ)秀英(シュウイン)の元へ向かってからしばらく経った頃、道場の回りに何者かの気配が漂い始めた。この高い霊山をわざわざ登って来る者は相当限られる。今は門下生を募集していないため交流試合を所望する武闘家か(リー)老仙(ラオシェン)の知り合いくらいしかない。

 窮奇(キュウキ)を完全封印するため召喚要望を出した赦鶯(シャオウ)達が到着するにはやや早い。加えて来訪者にしては息を潜めており室内の様子を窺っているようだった。


「来たか。鎧兜(カイドウ)の懸念通りだったな」


「《仙絶血砕流(センゼツケッサイリュウ)》の一派ですか?」


「ええ。四十、五十……いえ八十人以上いるわね」


 武闘派八十人を寄越して平和的に交渉しに来たことはないだろう。美鳳(メイフォン)もそれを分かっているため説得しようとは言わなかった。一人二人と話しをしている内に残りに踏み込まれれば目も当てられないからだ。

 筋肉痛の身体を動かして前に出ようとした一紗(イーシャ)を制したのは教え子達だった。


「師匠、ここは我々が行きます」


窮奇(キュウキ)の手に堕ちた汚名を返上させていただきたい」


「奴らは私達の師や師範代を殺した仇でもあります。やらせてください」


鎧兜(カイドウ)殿に俺達と同じような師を殺される苦痛を味わわせたくはありませぬ」


 短時間とはいえ一紗(イーシャ)の手解きを受けた彼らは此処に来る以前より強くなっていたのは明白である。ただしそれは万全な状態であったらの話だ。

 彼らは皆、窮奇(キュウキ)の悪意に支配されて一紗(イーシャ)蕾華(レイファ)老仙(ラオシェン)と戦った。その時の負傷は美鳳(メイフォン)老仙(ラオシェン)が治療したもののまだ完治しているわけではない。おおよそ七割から八割の回復といったところだろう。それでかつて敗れた《仙絶血砕流(センゼツケッサイリュウ)》と戦うとなると快勝とはいかない。命を削り合う死闘になることは想像に難くなかった。


「「「やらせてください!!!」」」


 それでも師の仇を討つべく、恩に報いるべく戦おうというのだ。彼らの袖を掴むのは無粋だと即断した一紗(イーシャ)はその背中を押して然るべくただ一言告げる。


「行ってこい」


「「「「はいッ!!」」」」


 襲撃者の相手は暫定の弟子達に任せて一紗(イーシャ)(ホン)(タン)老仙(ラオシェン)が眠る寝室の護衛に入る。美鳳(メイフォン)も同じ部屋で二人を介抱し、蕾華(レイファ)はその近くで侵入者が来ないか警戒態勢に入った。


 本堂を守るように飛び出した弟子達が守衛につくと、侵入を気取られた襲撃者は観念して姿を現した。

 やはり二大本家出身だった彼らの師を殺した《仙絶血砕流(センゼツケッサイリュウ)》の構成員たちだった。汚い手を使ったとはいえ、師や師範代を殺した実力は本物なのだろう。

 襲撃者達もまた自分が道場破りをした流派の顔ぶれは覚えていたようだ。馬鹿にした様子で見下してくる。


「誰かと思えばクソ雑魚の門下生共じゃねーか」


秀英(シュウイン)様が本家残党を駆逐する絶好の機会とおっしゃっていたが本当らしいな」


「一度は俺達に敗けて師を守れなかった雑魚共を守衛につけなけりゃいけねーほど爺とガキは弱っているワケだ!」


 彼らに後れを取り目の前で師を殺されたのは事実。自分の弱さを痛感した瞬間だった。だからこそ流派の看板を背負って実力を証明し亡き師に報いるため一紗(イーシャ)の教えを受けて力を磨いてきたのだ。一紗(イーシャ)の暫定弟子達は侮辱を聞き流して端的に宣戦布告する。


「【拳国】にはどの流派でも共通する鉄の掟がある。見解が分かれ双方どうしても譲らぬときは己が拳によって正当性を立証せよ、と。本家筋の首が欲しくば我々を殺してからにしろ」


「フン、雑魚がいっちょ前にほざきおる。よかろう、今すぐ実力の差を――へぶっ!」


 一歩前に出た男の顔面を足蹴にしたお下げの女性は一紗(イーシャ)に忠告された通り主軸となる足技を確実に当てるために拳で追撃して彼を入り口の階段下まで蹴落としてしまった。


「何ッ!?」


 驚く《仙絶血砕流(センゼツケッサイリュウ)》一派の男達を逆立ち回転蹴りで四方に蹴飛ばした彼女は絶好調である。

 明らかに成長していると痛感した敵の一味は背後から氣巧武術で女性拳法家を狙うが、その拳は三つ編みの青年に止められる。


霍威血漿拳(かくいけっしょうけん)―奥義! 〈絶掌・通天砲〉!!」


 一紗(イーシャ)に弟子入りするまで霍威血漿拳(かくいけっしょうけん)の基礎を疎かにし、上手く氣を受け流せていなかった彼は師との死別と新しい環境に刺激を受けて己が拳法の真髄を理解していた。

 相手の氣を纏った拳打を受け止めその氣を吸収転用する形で自らの氣に合成して掌打として撃ち返したのだ。

 技を受けた男は胸に円状の風穴が空き、そのまま階段の下へと落ちていった。


 他の修練者達も一紗(イーシャ)の手解きで自身の流派を再理解したことで上手く闘えている。師に報いるため、傷ついた老仙(ラオシェン)達を守るためという大義名分を背負って戦う彼らとただ満身創痍の老人子供を暗殺に来た《仙絶血砕流(センゼツケッサイリュウ)》とでは明確に精神面の強さに差が出ていた。


 焦った《仙絶血砕流(センゼツケッサイリュウ)》達はもうなりふり構わなくなっていく。


「火を放てェ!」


 誰かの一言から火矢が大量に道場の建物へと射出されていく。誰かが油袋をも投擲していたため炎は一気に道場敷地に広がっていった。


「直接俺達が手を下すまでもない! 動けねぇ爺とガキなら火事で焼け死ぬはずだ! へへッ、へへへへ! 俺達の勝だぜ」


「おのれ! 貴様はそれでも《膂族》か!? 拳法家としての恥はないのか!?」


「勝てばいいのよ勝てば! 〈仙闘氣(セントウキ)〉なんてインチキ殺法は仙血と共に滅びればいい! おめーらも悔しかったんだろ? 努力じゃどうにもできない血才を憎んだはずだ!」


「黙れ! (ホン)(タン)殿は拳才がなくとも努力し〈仙闘氣(セントウキ)〉を身に着けた! 鎧兜(カイドウ)殿は〈仙闘氣(セントウキ)〉を使えずとも常に己が武を磨き続けている! 自分の弱さを才能のせいにするな!」


 目的のために手段を択ばない《仙絶血砕流(センゼツケッサイリュウ)》は《膂族》や拳法家の面汚しと唾棄すべき存在だった。それでも無視はできない。

 先程まで優勢だったが消火のために《仙絶血砕流(センゼツケッサイリュウ)》達にさく戦力を分けなければならなくなった。敵の主力と対峙する者、火矢を放つ者を仕留める者、消火に専念する者と分担しなければならない。

 ここにきて一紗(イーシャ)達も積極的に動き出した。


 ――とはいえ、老仙(ラオシェン)の周りを離れることはできない。消火に専念して眠る彼らを殺されては元も子もないからだ。

 一紗(イーシャ)は熱煙と炎から二人を守るべく水属氣巧で球体状に壁を展開した。これで最低限焼死は防ぐことができる。

 迫りくる炎を消すのは美鳳(メイフォン)の封印術が大いに役立った。

 展開した紙に素早く術式を記載し、炎に向かってそれを広げる。


「〈封印式・封火無印〉!」


 隣室を焼いていた炎は美鳳(メイフォン)の広げた紙の中に吸い込まれていく。

 目前にあった危機は去ったものの、火矢が投擲されれば同じ危険が伴ってしまう。

 そこで蕾華(レイファ)が木属氣巧で大量の植物を召喚する。

 火矢への防御と敵への牽制を兼ねた技である。

 いきなり眼前に聳え立った大木の壁に委縮した《仙絶血砕流(センゼツケッサイリュウ)》の男達だったが、すぐに標的をその木に移した。


「先に木々を焼き払え! 焼き落とせば建物にも延焼するはずだ!」


「ふふ、馬鹿ね」


 それこそが蕾華(レイファ)の狙いだった。彼女が召喚したのは山火事に耐性のある木々である。火矢程度の火力ではすぐに消えてしまう。

 力で打ち砕こうとするが、それは自身の居場所を音で周囲に知らせることになる。一紗(イーシャ)の教えを受けた修練者達がその隙を見逃すはずもなかった。


「火事はなんとかなりそうだ! 皆! この間に《仙絶血砕流(センゼツケッサイリュウ)》を討つぞ!」


「おう!」「ええ!」



 覇兇拳道場が小規模ながら合戦の間になっていた時、鎧兜(カイドウ)は森の奥地へと足を踏み入れていた。門下生時代、修業のために入った山だ。道場のある【陽光霊山】の近くにある山であり、ほとんど開発が進んでいない。


 奥地には食人妖魔も出るためかつては門下生をふるいにかけるべくこの場でサバイバル演習を行うこともあった。【拳国】においても他の森林より危険地帯である。一説には【陽光霊山】に住んでいた妖魔が覇兇拳に怯えて移り住んだとも言われている。


 まだ修練を始めたばかりの頃は鎧兜(カイドウ)も妖魔の影に怯えたものだ。

 しかし今となっては妖魔の方が鎧兜(カイドウ)の気配を察して隠れてしまう程になっている。秀英(シュウイン)と二人妖魔を狩れるようになる頃には良い腕試しの場になっていた。幼い二人は競い合うように奥地へ足を運んだ二人はやがてその地に秘密基地を作ったのである。


 森のカーテンを抜けて木漏れ日差す拓けた場所に小屋というにはいささか大きい建築物が建っている。

 長い間放置していた故に屋根は苔生し、壁には蔦が茂っているものの二人で造った建物は健在だった。屋根の上には腰かける秀英(シュウイン)がはにかむ。


「懐かしいだろう? 鎧兜(カイドウ)?」


「ああ。初めは俺と秀英(シュウイン)で技比べのために二軒建てる予定だったなァ」


「そうだった、そうだった。お前の建てるアバラ屋が来るたびに妖魔の巣になっていたから取り壊して二人協力して一軒家を建てるようになったんだよな」


 博識で建築技能もあった秀英(シュウイン)は上手い具合に土台から建てていたが、見様見真似の鎧兜(カイドウ)建築はみすぼらしいものだった。訪れる度に新規の住人妖魔と顔を合わせることになった。

 見かねた秀英(シュウイン)が手を貸そうとしたが余計なお世話だと鎧兜(カイドウ)が断り喧嘩になってしまったこともあった。しかしある日危険な妖魔まで鎧兜(カイドウ)建築に棲みつくようになったため二人で協力して妖魔ごと建物を倒壊させたのだ。


 互いの健闘を称えあった二人は協力して一軒家を建てた。それが今尚残る大きな建物である。

 共同生活の覇兇拳道場ではあまりプライバシーがなかったためか鎧兜(カイドウ)秀英(シュウイン)はよく此処を利用していた。老仙(ラオシェン)に叱られた時、一人になりたい時などは良い隠れ家だった。


 壁には作者である二人の夢が彫られている。『最強』と『英雄』の文字だ。

 よく二人で夢を語ったものだ。同じ外弟子として時間を共有し、同じ兄弟子・(ハイ)(ゲン)を目標にし、同じ師に教えを受けた。大切な思い出だった。


「変わらねェな。此処は……」


「……だが人の心は移りゆく」


 思い出話に興じていた二人の空気がガラリと変わった。


「考え直す気はねェのか? 師父も悪気があったわけじゃない」


「お前こそ俺と手を取りあの爺を殺す気はないのか?」


 秀英(シュウイン)は本家への憎悪で動いている。窮奇(キュウキ)の悪影響があろうと開祖の血才を覚醒させるために二大本家が外弟子を捨て石にさせていたのは事実である。消極的にせよ老仙(ラオシェン)がその制度に関わり、良家の人間だけ事故死させないよう選別していたのもまた事実だ。

 頭の良い秀英(シュウイン)が師の葛藤に気づかないわけがない。察しの良い彼が師からの愛情を感じないわけがない。

 彼は全て理解した上で、兄弟弟子を殺した制度を作った本家を憎み、根本である〈仙闘氣(セントウキ)〉を覚醒させる血筋を断絶する道を選んだ。最早妥協も譲歩もなかった。


秀英(シュウイン)、引き返すなら最後だぞ」


「何をたわけたことを。既に賽は投げられた。引き返すことも立ち止まることもない。初めから何もしないか……仙人の血筋を絶滅させるか、だ」


 覚悟を決めた男に何を言っても無駄である。

 二人の主張はまるで平行線。これ以上の問答は無意味だった。

 こうなれば互いに最後の覚悟を決めるだけだ。覚悟が出来ていない者が死ぬ。――同じ釜の飯を食った友を殺す覚悟を固めなければならない。


 秀英(シュウイン)は大きく息を吸い、平常心を装いつつも血が滲む程拳を握る。

 鎧兜(カイドウ)は何度も拳を鳴らして哀しい覚悟を決める。

 互いに憎み合った訳ではない。寧ろ今でさえ親友と思っている。それでも師を守ろうとする者と殺そうとする者、今の覇兇拳を極めようとする者と新しい覇兇拳を興そうとする者で決して譲れない者同士退くわけにはいかなかった。


「【拳国】には鉄の掟がある――」「見解が分かれ双方どうしても譲らぬときは――」


「「己が拳によって正当性を立証すべし!!」」


 両雄は互いの想いを乗せて拳を交わした。


鎧兜(カイドウ)の読み通り《仙絶血砕流(センゼツケッサイリュウ)》が全戦力を以て仕掛けてきました。

主戦力は傷つき戦えないため守衛に入るのは一紗(イーシャ)の手解きを受けた修練者達です。

彼らにとっては仇討ちのチャンスでもあります。

過去には惨敗し、師を殺されてしまった彼らですが覇兇拳道場で修業を積み、レベルアップしていました。



一方で鎧兜(カイドウ)秀英(シュウイン)は思い出の場所で雌雄を決すべく拳を交わします。

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― 新着の感想 ―
[一言] >鎧兜の読み通り《仙絶血砕流》が全戦力を以て仕掛けてきました── ──全戦力で仕掛けておいて、仕出かした事は何と放火ww。おいおい、武力で勝てそうに無いからって放火とは、武道家の風上に置け…
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