エピローグ
本章〆のお話です。
【枢国】で起こった人形事変は国家八分の一に相当する人口が死亡するという決して少なくない犠牲を払うことになったが、【愁国】の食客達の強力で無事解決することができた。
禁足地にて〈枢魂操邪〉の発動起点となっていた紅・累細の遺体も無事回収されて丁重に弔われることとなった。
また彼女に禁術使用を煽り自らは何もしなかった軍部大臣以下複数の官僚たちは「煽動罪」ならびに「統帥権侵害罪」で厳しく罰せられることとなった。今は栄養失調から治療を受けているが、まともに歩ける頃には監獄行きになるだろう。
棺に眠る姉の姿を美鳳は憐憫の眼で見つめる
「命懸けで国を守ろうという固い決意。立派でしたよ、姉上」
「紅・累細か。どんな姉ちゃんだったんだ?」
「交わした言葉は少ないですが……聡明さの中に情熱のある方でした」
「でも、美鳳が都落ちした時には助けてくれなかったんだろ?」
「アイツも《操族》に溶け込むのに必死だったんだよ、姉御。下手に皇族を匿えば《操族》としての民族意識が低いと見られかねねェからなァ」
皇族同士の別れが終わった頃合いを見計らって《操族》が棺を運び出した。もう国葬の準備はできていたらしい。
本当なら仰々しくも美しい葬儀が開催されるはずであるが、国が崩壊しているため歴代国家元首の中では一番質素な式となった。
国民の大半が栄養失調で倒れている中駆けつけられた者は多くはない。それでも彼女を慕う者達の多さを推測できるに足る人数が集まりお悔やみの言葉を述べていった。
ささやかな国葬が終わりを告げると、今度は荒れた国土の修復に入る。
国民総技術職の《操族》であるため、睿と綾繕の指揮の下に目まぐるしい速さで仮説住居ができあがっていく。
「まずは住むところを確保しなきゃな」
「寝不足は良い仕事の敵だしね」
「ただちゃんとした町をつくるのは後回しになる。この修羅の蠢く世界で〝壁〟がないのは不用心すぎるからな。前より強い要塞を造らなければ」
「頑張りましょう、若様」
「ああ。しかし――何かと物入りだからな。あの話を進める必要があるだろう」
睿の言葉に愛零と綾繕は決意の籠った眼で頷いた。
仮説住居の制作が進む中、育壌も一人で歩けるくらいには回復してきたようだ。栞那と一緒に釣りに出かけていた。
「よぉし、大量だね! 《操族》には速く回復してもらわないと!」
「栞那は釣るのうまいナ。育壌、魚釣りはあんまりやったことないゾ」
「【土国】は農作物や鉱石に溢れた国って聞いたけど……水資源はあんまりなかったの?」
「川や池はあるけど、所々小さい場所があるだけだからナ」
「分かった。じゃあボクがコツを教えてあげる」
魚釣りはリハビリには丁度良かったのかもしれない。
二人は遊戯感覚でフィッシングを楽しんでいた。
一方、一紗達は【枢国】を出発するタイミングを計りかねていた。
元々長期滞在するつもりはなく、【拳国】へ向かう最中の休憩のため立ち寄っただけなのだ。中継国が滅んでいた上に進路上に危険な人形達が跋扈していたため、成り行きで彼らを助けることとなったが、本来の目的から逸脱していた。
人道的配慮から仮設住宅づくりが落ち着くまでは面倒をみようという美鳳の提案と皆が戦いで負傷していたために回復まで留まっていたのである。
ただ、《操族》達の仕事は早く、予想より遥かに短い時間で国民が一先ず雨風を凌げる居住区を造り上げたのだ。
「そろそろかな」
「あァ、自分のケツは自分で拭くだろう。とっとと旅立とうぜェ」
「……そうですね」
出発の話し合いをしようとした一紗達の部屋にノックがされる。
どうぞと返答すると、続々と《操族》の面々が入ってきた。
人形の暴走を止めたことに関する感謝の言葉を述べる者は多かったため、またその手相かと考えていたが、入ってきた者達の顔を見て一紗らは目を丸くした。
技術開発局局長繰・睿とその相棒たる愛零、室長の紬・綾繕、《人形操演師傭兵団》の各団長達及び名も知らぬ文官までもがそろい踏みだった。
任務で国を開けている他の座団長や治療のため仮説病院にいる者を除けば【枢国】でも栄職にある者達が一堂に介した訳である。
「どうしたのですか? 協力のお礼なら先日いただきましたしもう結構なのですが……」
「いえ、此度はお礼ではなくお願いに参りました」
「我等《操族》を殿下の麾下に加えていただけないでしょうか?」
「「「―――!?」」」
驚きはあったが全く予想外の話ではなかった。いくら彼らが学のある優秀な民族であっても修羅蠢く乱世で重病者を多数抱えて国土が荒廃した状態で再始動するのは困難なのだ。――となれば誰かの庇護下に加えてもらうしかない。本来ならば帝国本土から救援がきて然るべきであるが、弱肉強食論を唱えて自助自治を基本とする帝都の人間が助けてくれる可能性は限りなく低かった。そうなると乱世で生きる武力を持ち、狡猾に立ち回る知略があり、ある程度勇名で信頼のおける人物を頼るしかないのだ。白羽の矢が立つ人物は一人しかいない。
「此度の戦で一紗殿、鎧兜殿、栞那殿、育壌殿の武勇に救われ、殿下の知略に国民の多くは守られました。最早文句を言う者はおりません。既に話は通してあります」
「恥ずかしながら今の我々には資源も資金もなく、国土を復興するには殿下のご慈悲に縋る他ありません」
「ですが、我々は五大民族からも一目置かれた技術と防衛力があります」
「聞けば殿下は天下を狙う野心があるとのこと。復興の暁には必ずやお役に立ちましょう」
「我等の護りは強固。それは口約束とて同じこと。お疑いならば呪術による契約を用いても構いません」
彼らは真剣だった。【愁国】の保護国になるのが復興の最も近道だと理解しているからだ。 武力のみで平伏させようとした暦・海亘一派より、己の利を計算するよりも慈悲を示し、迅速に行動して国民を救ってくれた実績のある美鳳を選ぶのは当然だった。
誰もが《操族》の要望を美鳳が受け入れてくれるものだと信じている。
そして彼らの信頼はその通りだった。
「分かりました。受けましょう」
皇女の一言に皆が頭を垂れて膝をつき感謝の意を示した。
こうして《操族》は美鳳傘下に下ったのである。
「【枢国】崩落はいずれ帝国全土に伝わるでしょうが、風の噂が伝播するまでは黙しましょう。誰もが耳を疑うはずです。噂が真実だと知れるまでに要塞を再建してください。それでも外敵が現れたら私の麾下にいることを主張してください」
「「「はっ!!」」」
「フン、今回は利益を回収できそうとはいえ、面倒な国ばっか吸収していきやがってよォ。そもそも【愁国】だって【慧国】や【寥国】領の整備終わってねェだろ」
「まぁ、いいじゃねーの。面倒なコトは洋が全部やってくれるさ」
「それもそうかァ」
意図せず勢力を拡大することになった美鳳一行。
彼らは大きな寄り道となってしまったが収穫はあった。技術力の高い《操族》は大いに役立つことだろう。一同は本来の目的地【拳国】へ出発するための準備を始めるのだった。
自身の道具であり武器である人形が暴走してしまった国のお話でした。
一紗達の活躍により【枢国】が【愁国】傘下に入りました。
まずは復興からなので手間かかかりますが、今後大きな力になってくれるでしょう。
そしていよいよ鎧兜のルーツ【拳国】へ向かう事になります。
というわけで次回は【拳国】編ですね。
・鎧兜の師父の登場
・覇兇拳道場が始祖の血才に拘った理由
・崩界童子、牛魔王に続く《九妖王魔》が明らかになります。
次章投降は来年になります。
今年ももう一月を切りましたね。
皆様良いお年を。




