剣士と人形
肆式・護剣VS栞那の闘いが続きます。
どんな枢奇剣を披露してくれるのでしょうか。
再び相手の間合いを図り合うためか弧を描くように睨み合う両者。
数歩歩いたところで今度は栞那から仕掛けようと踏みこむ。
――がその挙動を隙と見た護剣が先に肉薄する。想定外に先手を打たれてしまったが四刀をうまく捌いた後胸を蹴って無理やり距離を離した。
(なんという連携技……。呼吸一つで気取られ、半端な踏み込みは隙と捉えられかねない。でもあの四刀を長時間受け続けるのは流石にキツイかな……)
(某ノ方ガ先ニ斬リコンダニモ関ワラズ防ガレタ……。ソシテ此方ノ方ガ手数が多イノニタッタ一本ノ剣デ全テ捌カレル。剣ノ速サハ彼方ニ分ガアルト認メザルヲ得ナイ)
距離を離されるならと「枢奇剣・延縮刀」で間合いの外から刺突を始める肆式・護剣。
狙いは正確であり、刀身が伸びる速さも迅速であるもののやはり当たらない。一刀で遠距離から仕留めるのは困難だと判断した式・護剣は二刀目の枢仕掛けを起動させた。
「枢奇剣・発電刀」
内部の歯車が回転した分だけ発電させたのだ。
さらに伸ばした延縮刀の付け根にあてることで電流を伝導させるという併用技まで使用し始める。最初の刺突は躱せてもそのまま電流が流れてくるところまでは回避できなかった。
(大業物・紫電に比べたら放電される電力は弱い。でも一瞬でも痺れたら延縮刀に斬られる!)
体が痺れて栞那の動きが鈍くなったのを見逃さず、護剣は三振り目の枢刀の能力を起動させた。鍔そのものが歯車になった剣である。
鍔の回転に合わせて切っ先が小さく振動を始める。
最初は刀身の位置を見えづらくすることで見切り辛くさせるだけの剣かと思った栞那は自身の愛刀・血霞で受け止めかけた。しかし刃が異様な熱を持っていたことを察知したため、刀で受けるのを回避して鞘を盾変わりに使用する。
その判断が正しかったことはすぐに分かった。
丈夫な鞘が溶かされるように両断されたためである。
「今度は振動で焼ききるのか……!?」
「如何にも。枢奇剣・斬熱刀に斬れぬものはない」
微細な高速振動で対象を焼き切る電気鋸のような仕組みを取り入れた刀――それが斬熱刀の真髄である。熱を持った刀は打ったばかりの如き美しい橙色に変化している。
こちらも後に鋼鉄処女が扱う〈振動刃〉のベースになったものである。
電気鋸と高周波ブレードの中間地点程度の威力はある。
倭国製の鞘を溶かし斬ったことから通常の真剣で受け止めるのは危うい。ただの電気鋸ならともかく《海民》が制作にかかわっただけあって剣本体の強度と切味も相当なものだ。
(正面から切り結ぶとボクの血霞でも斬られる可能性がある……でも!)
栞那は剣士――刀で戦う以外の手段を知らない。通常の氣巧術も使用できるが、あくまで真剣勝負の補助程度としてしか実戦では使用してこなかった。
長年剣術を鍛えて刀で生きてきた者がいきなり戦い方を変えることはできない。
そもそも付け焼刃で倒せる相手ではなかった。
したがってとれる行動はおのずと決まってくる。何でも斬り捨ててしまう斬熱刀の攻撃だけは回避に専念して残る三刀の剣閃は受け流すという戦い方だ。
――とはいえ、それも容易なことではない。延縮刀は間合いが自在で見切り難い。また発電刀は電気を帯びているため刀を受け流すことはできるが、刃を防いでも電流による攻撃で痺れさせるのだ。長時間受け続けることはできなかった。
四刀の剣戟を捌きながら相手の首を狙うのは困難を極める。
(此ノ段取リデモ取レヌデカ。ナラバ!!)
肆式・護剣は高速の斬撃を繰り出している内にも四本腕に持つ刀を一瞬の内に持ち替える。
彼レベルの達人になってくると剣閃を見切るのも至難であるため、下右手に「延縮刀」、下左手に「発電刀」、上右手に「斬熱刀」。上左手に四刀目という具合に腕で刀の性能を見分けることにならざるをえない。そんな状況下で剣戟の間に持ち変えられれば防御不能の「斬熱刀」を思わず刀で受けてしまいそうになる。
それでも栞那は眼球を八方に動かして四刀のトレードトリックをも正確に見切っていた。
再び両者は一千交えた後に後方に下がった。
栞那は単純な体力消耗から、体力という概念のない肆式・護剣はオーバーヒートを冷却するために一旦下がったのである。
「……我ノ四刀デ殺セナカッタノハ貴殿ガ初メテダ」
「ハァハァ……それは……光栄だね」
「純粋ナ興味カラ尋ネルガ、如何様ニ某ノ剣ノ交換ヲ見切ッテオルノダ? 此ノ高速四刀流ニ併用スル持チ替エハ達人トテ瞬間的ニ対処出来ナカッタ」
彼が闘った敵は確実によけなければならない「延縮刀」が持ち替えられたことに気づかず別の剣を無駄な動きで回避してしまい、異なる手に握られた「延縮刀」を受けてしまって武器ごと両断されるという結末を辿る者が多かった。
肆式・護剣が枢人形故に人間離れした動きで剣を持ち替えられるため、看破するのは困難のはずである。純粋に今まで破られたことのない戦術を見切る少女に興味を覚えたのだ。尋ねられた栞那はそんなことかと口角を上げる。
「ボクは刀剣愛好家として通っていてね。一度見た剣は忘れない。刀身の色と紋様は勿論、その鍔と持ち手の柄もね。しかも「斬熱刀」は刀身が赤く発光しているから分かりやすい。握り手を変えてもすぐに気づくよ」
「戦闘中ノ刹那を見切ッタト……イウノカ? 末恐ロシイ娘ヨ。ナラバ此レナナラバ受け止メラレヨウカ!?」
肆式・護剣の太刀筋が急に変化する。
連携に比重を置いたものから刺突に重きを置いたもの、そして執拗に四肢切断を狙う凶悪なものまで様々に変わりゆく。
事前に《操族》の軍議に参加していた栞那はその特性を把握していた。
肆式・護剣の名の由来は四刀流だから肆式というだけではないのだ。最大四流派までその剣技を覚えさせることができる。
本来は《操族》は剣術の達人ではないため、剣士の傀儡を操るのにも限界がある。そのため傀儡を操作しつつ人形が半自動的に剣技を発動する設計にしていたのである。無論半自動剣技を発動すると使用者の氣も多分に消費される代償があったが、剣の才がなくとも人形遣いとしての技量さえあれば操れる仕様になっていた。〈枢魂操邪〉により自分の意思で動けるようになった今の肆式・護剣は尚更に強い。
彼には制作時に覚えさせた《海民》の剣術、《操族》に伝わる剣術、そして他者から盗んだ技を最適化した剣術が組み込まれてあった。
四本腕で性質が異なる剣を振るう上に剣技まで現状三通りの変化を見せる。
事前に情報を聞いていたとはいえ、全てを捌ききるのは難しい。
ついには捌ききればかった刹那の隙をつかれて斬熱刀による斬撃で首筋を狙われてしまう。
辛うじて剣で受けることはできそうだが、普通の刀で受けたところで熱切断されるのが関の山だ。それでも栞那には勝算があった。
「剣ガ燃エタ!? 此ノ斬熱刀ヲ以ッテ割断デキントハ!?」
「ボクの剣が簡単に斬れるわけがないだろう?」
肆式・護剣の眼は節穴ではない。その振動が相手の剣にまで届いていないことは見えていた。栞那の刀を包んだ炎が熱振動を阻んでいたのを看破したのである。
「剣ガ炎ヲ纏ッテイル。珍シイ術ヲ使ウ……ダガ今マデ其ノ術デ某ノ剣ヲ受ケ止メナカッタコトカラ察スルニ、多用デキル術デハナイヨウダナ」
半分図星だった。正確に表現すれば斬熱刀の振動切断に抗う火力を展開し続けるには栞那の術でもかなり多量の氣を消費しなければならなかったからだ。故に限界まで出し渋りをしていたのだが今はそうもいっていられない。
栞那の剣が燃えたのは彼女の《魏族》としての力によるものだ。『覚醒遺伝・魑纏威』は武器に見えざる力を纏わせ強化させる異能として代々神菊家に伝わるものである。
「其ノ力……五大民族ガ扱ウ憑霊術ニ似テイル。アレハ他民族ニハ認識デキヌ神霊・精霊ト対話シ己ノ体ヲ依代トシテ貸ス代償ニ力ヲ得ルモノ。ダガ……貴殿ノ其レハ対話モナク万物ニ宿ル小精霊ヲ無理ヤリ収束隷属サセテ武器ニ力ヲ宿シテイル。成程妖魔ノ子孫ラシイ力ダ」
「……目敏いね。ところでキミの方は四本目の枢刀の力は使わないの? 消去法でもう一刀の能力は分かってるよ。厄呪刀――納刀の瞬間に鞘に仕込んだ呪符の効果を付与する刀、でしょ?」
「《操族》ガ話シタカ。手ノ内ガ割レテルナラバ出シ惜シミナシ」
今までただの刀としてしか振るっていなかった四刀目の効果をついに使い始めた。しかしその力は滅多に使われることがなかったうえに記載文献も一部消失していたため全容を知る《操族》はいなかった。
分かっているのは納刀を繰り返すことで呪術的効果を付与させるということである。
「厄呪刀!――〈壱式〉!」
再び振るわれる四刀の内、危険な刀を捌ききるのは負担を強いられることになる。
栞那は常に『魑纏威』と発動して刀を強化しなければ「斬熱刀」「発電刀」を防ぐことはできないからだ。そんな中、さらに呪力を付与した「厄呪刀」の剣閃が追加される。
(視覚的な変化は見られない。そして斬撃は重いがそれだけだ。……これなら!)
相手が他の三刀で追撃を加える前に組み合った厄呪刀ごと力任せにつき飛ばす栞那。一瞬、護剣が無防備な状態になったところで今度はこちらから攻めようとする。
――だが追撃は届かなかった。
疲労で腕が上がらなかったわけではない。使い慣れた得物であるはずの血霞が重いのだ。
「ボクの剣がこんなに重いはずがない……! 剣で斬った対象に重さを付加させる能力!?」
「初撃デ見切ッタカ。如何ニモ。此ノ厄呪刀壱式ハ使用者ガ振ルッタ斬撃ノ重サヲソノママ対象ニ転化サセルコトガデキル。本来ナラバ初撃目デ重サニ耐エキレズ隙ヲ作リ、某ノ三刀ヲ受ケテ命ヲ落トスノダガ……ソノママ剣ヲ握ッタ者ハ初メテ見ル」
「ご称讃どうも。ところでこの重くなった刀はキミを倒せば元に戻るのかな?」
「此ノ期ニ及ンデ某ニ勝ツ気カ。其ノ意気ヤ良シ。案ズルナ、某ヲ倒セズトモ数分デ効果ハ切レル。――但シ其ノ頃ニハ貴殿ノ首ハ落チテイルデアロウガナ!!」
重くなった愛刀を握る栞那は冷や汗を流していた。今はまだ《魏族》故の筋力で剣を振るうことができているが、二撃、三撃と厄呪刀を受ければどんどん加重されていきまともに振るうことができなくなるだろう。
決着を急いだ厄呪刀の剣を受ける前に決めようと果敢に攻める。
(あの刀は使用者の剣戟の重さを相手に移す能力を持っている。ということはボクの剣を受ける際――つまり――)
「――使用者ガ防御ニ徹シテイル間ハ能力ハ発動シナイト考エテイルナ」
思考が読まれたことに驚く栞那。そんな機能は枢になかったはずである。つまり肆式・護剣の自我そのもの、戦士としての経験則から考えを察したのだ。
思考を読んだ上で敢えて攻撃を受けたということが思惑があるということに他ならない。まして相手は一度納刀している。つまり厄呪刀に新しい呪力を付与したということである。
「厄呪刀!――〈弐式〉!」
(手応えがない……!?)
ただでさえ重くさせられたはずの剣撃が丸めた新聞紙で叩いたときのような軽い衝撃しかなかった。紙の束、竹刀、木刀、真剣とあらゆるもので素振りしてきた栞那だからこそ剣撃の異様な軽さに感づいた。
そして護剣が再び振るってきた厄呪刀を剣で受け止めた際、栞那の体は後方数メートルまで弾き飛ばされてしまった。
護剣の斬撃は確かに重く鋭いものではあったが、先程まで受け止めることができていた。だが今の一撃は急に膂力が増したというだけでは説明できない程おかしな重さだったのである。
「ハァハァ……そうか。ボクの剣の衝撃を吸収したのか……おまけに撃ち返すなんて。でも厄呪刀は能力を付与するためには納刀する必要がある。加重能力と衝撃吸収能力を併用できない」
「ヤハリ目敏い……」
併用できていれば吸収した衝撃をそのまま加重されて積んでしまっていただろう。ただ安心もしていられない。他の三刀も充分強力なのだ。三刀で攻めて後に少しずつまた加重されれば同じことだ。衝撃吸収の盾として使用するだけでも脅威だった。
再び厄呪刀の剣閃を何撃か受け止めてしまった栞那の愛刀・血霞はとても片手で振るえない程重くなり、刃を床につけてしまう。
それだけで木製の床は激しく叩き割れる。もう少し加重されると下層に落下してしまうだろう。数分で効果が切れるとのことだが実戦で数分剣を振るえないことは剣士にとって死に直結してしまう。
「モウ振レマイカ。終ワリダ!」
鉛塊の如き重さになった剣を扱えないと踏んだ肆式・護剣四刀流で確実に栞那を切り刻もうと迫る。
――刹那、栞那は剣を持ちあげると羽のように軽く振るい、延縮刀を握る下右手と発電刀を握る下左手を斬りおとしてみせた。
「〈秘剣・花鳥風月〉!!」
「ナッ!?」
もう剣を持ちあげることができないという油断もあったが、まるで風向きが急に変わったかのようにこれまでの栞那の太刀筋とは異なる変則的な動きを見せたことから下両腕が切断されてしまったのだ。肆式・護剣は義眼を凝らしてその秘密を見定める。
「……成程。風ヲ隷属サセタカ」
「ご明察。すぐに動けば見破られると思ったからギリギリまで耐えて正解だったよ」
栞那は『魑纏威』で周囲にある風を集めて刃に纏わせたのだ。風力を借りて重さを緩和し、そのまま太刀筋を風で捻じ曲げて敵を斬ったのである。本来なら純粋な風属氣巧術は七王武族の一角《颯族》のみが扱うことができるが、妖魔の系譜だからこそ栞那は覚醒遺伝の『魑纏威』は小さな風の精を隷属させて力を振るうことができたのである。
「其ノ憑霊術モドキは脅威。悪イガ封ジサセテモラウゾ」
腕を二本落とされて流石に焦ったのか肆式・護剣は肩口から奇妙な突起物を露出させる。
そこから特殊な周波数の異音が響き渡った。まるで金属をひっかくような、或いは蟲の羽音のような、とても長時間聞いていられない嫌な音である。
その不快な音が鼓膜に届くと同時に血霞に纏わせていた風が消し飛んだ。栞那の『魑纏威』が強制解除されたのである。
(なんだこれは……? 上手く力が使えない……?)
「某ガ五大民族対策ニ作ラレタコトヲ忘レタカ?」
肆式・護剣が多くの五大民族を討ち取ってこれたのは純粋な強さもあるが、最も脅威だったのは憑霊術封殺機構である。特殊な音階で水・木・金・火・土・風・雷を司る霊的存在との対話を妨害するために五大民族の属性氣巧術、及び憑霊術の威力が極端に落ちるのだ。
普段はその比類なき属性氣巧術で圧倒する五大民族からすれば、いきなり弱体化を強いられることになるので狼狽したところで首を刎ねられたのは想像に難くない。
「……不愉快な音だなぁ。でも今まで使わなかったってことは大量の氣を消費するんじゃないの、それ? そんな便利な力なら濫用するでしょ」
「如何ニモ。ダガ貴殿ニ腕二本落トサレタ以上、出シ惜シミシテラレン」
憑霊術封殺機構を常時発動して四刀流と各剣のギミックを併用するのは消耗が激しすぎるため普段は使用を控えているのだ。それで十分敵を倒せるため問題なかった。故にこの機構を発動するのは互角以上の力を持つ者相手に限定した。幸か不幸か腕二本、枢刀二刀分に使用していた氣を妨害機構の継続発動に回せるようになったのだ。
さらに腕二本になったとはいえ、その二刀流の強力さは健在である。
栞那は未だ愛刀の重さが抜けないため、得物を手放さざるを得なくなる。
また、護剣の手にはよりにもよって斬熱刀と厄呪刀という一番面倒な剣二本が残ってしまった。
(でも、これなら躱せる……)
しなやかな動きで二刀流を回避しようとした栞那だったが太刀筋を変えた一閃が二の腕に少し掠ってしまう。
これまで肆式・護剣が使った剣術は覚えていた。《海民》の連携に比重を置いた剣術、《操族》が扱う刺突に重きを置いた剣術、そして今までの戦闘経験を織り交ぜて自ら覚えた四肢切断を狙う我流剣術でもない。
だがそのどれよりも見覚えのある剣術だった。動きを最適化し、必要最低限の挙動で敵を斬る斬術――。
「これはボクの〈蕾閃流〉!? 戦闘中に盗み取ったのか」
「四刀ノ枢刀ニ四ツノ流派。故ニ某ハ〝肆式・護剣〟! 体力ヲ消耗シ刀ヲ失クシタ剣士ニハ防ギキレマイ!」
片や防御不能の剣、片や重さを付加する剣、どちらも一太刀さえ受けることは死に直結する。
虎の子の『魑纏威』は妨害音波でまともに機能しない。愛刀は重すぎて持てず放置している。まさに丸腰であるが、栞那は勝負を捨ててはいなかった。
鍛え抜かれた体捌きで二刀流を回避しながら護剣をとある地点へ誘導していた。
「今度コソ終ワリダ」
「そうだね! 君が思う結末とは違うけど!」
身を捻って護剣の初撃を躱しても続く二撃・三撃目は回避が間に合わない。
だが栞那は回避と同時に床にあった〝障害物〟を蹴り上げて連撃の盾にしてみせた。ただの目晦ましかと判断した護剣は躊躇わずに斬り捨てたが、斬った瞬間に、それが自分の斬られた二本腕だったと認識する。
完全に破壊された両腕から「延縮刀」と「発電刀」が手離される。――と同時に栞那は空中でそれを掴み体を駒のように回転させて肆式・護剣の上半身を割断してしまった。
「――〈蕾閃流・双頭開蓮〉!!」
「マ、サカ……我ノ剣ヲ瞬時ニ……使イコナストハナ……見事!」
通常の刀で護剣の外装を切断はできない。よく切れる刀に剣士としての腕が噛み合って初めて損傷を負わせることができる。栞那は初めて握った延縮刀の刃渡りを調節し発電刀の放電を使用して彼の体に大きな損傷を与えたのだ。
ただでさえ全力を出してオーバーヒートしていた肆式・護剣は下半身を失ったことでついに動けなくなり、言葉さえ話すこともままならなくなる。だが兜の奥にある義眼はどこか満足そうに見えた。
「其方ト此ノ時代デ戦エテ良カッ……タ、ゾ」
義眼の光が消えていく肆式・護剣が完全停止するのを見届けると栞那は崩れるように膝をついた。
強力な四刀流に対処するのに全力だったためか体中の骨が悲鳴を上げていたのだ。おまけに身体への剣閃は殆ど躱せたとはいえセーラー服は厄呪刀で斬られていた。かすり傷故に剣の重さは軽くしか加重されなかったが、それでも何回か斬られたせいで布製のセーラー服が鉄の鎧をまとっているように重くなってしまったのだ。
「……最後の技が決まっていなければ危なかったかな。ハァハァ……異国の剣士も強いなぁ……。みんなの助太刀に行きたいけれど、流石に……これは、休まなきゃ……」
栞那は疲れた体を引きずって愛刀を置いた場所へ這って行く。血霞に触れたとき既に元の重さに戻っていることに安堵した彼女は大の字になって呼吸を整えた。
肆式・護剣は四刀流を扱い、合計四流派までの剣術を記憶できます。
枢人形として使役する際には操作主は最低限四肢を動かすだけでよく、
氣を注ぐだけで自動的に覚えた剣技を披露する人形でした。
(※それでも歴代使役上級者は自ら四刀流を補佐したりもしてましたが)
枢刀は放電機構を内包した「発電刀」、
超振動で対象を焼き切る「斬熱刀」、
歯車で刃渡りを自在に調節する「延縮刀」、
そして納刀することで刀身に呪術を付与する「厄呪刀」を使用します。
甲冑らしい硬さに加えて、枢らしい予備動作から予期し辛い四刀流枢刀で大概の強敵は切り捨てられますが、
五大民族封殺機構が最も猛威を振るいました。
五大民族故の強力な属性氣巧が並の民族が扱う程度にまで弱められてしまうので
戦った憑霊術使いも相当焦ったと思います。
栞那の受け継いだ覚醒遺伝『魑纏威』は
前章では武器に見えざる力を纏わせ強化させる異能と暈していましたが
原理で言えば妖魔版憑霊術みたいなものなのでアンチ機構の射程範囲でした。
彼女が実姉のように普段から『魑纏威』ありきの戦術をとっていたら首が落とされていましたね。
事前にある程度能力を《操族》から共有されていたこと、
倭国の剣士として炎刀、雷刀、四刀流を見ていたこと、
刃渡りが変わる刀との交戦歴があったこと
等々の情報と経験のアドバンテージが栞那にありました。
対して護剣は完全初見での戦いを強いられました。
それでも『魑纏威』に憑霊術封殺機構が有効だと即断即決したので
かなり戦い慣れしていますね。




