エピローグ
かなり短めです。
え、もうエピローグ……って感じですよね。
詳しくは後書きで。
栞那は目に見えて焦燥しきっていた。
信じてきた価値観を真っ向から否定される事実に直面したのだから無理もない。《世直組》と戦っていたときは彼らに対する怒りが原動力となっていたが、事件が解決したことで風船が萎むように気力が萎えてしまったのだ。
もし一紗がいなければ自暴自棄になるか発狂していてもおかしくなかったかもしれない。
「一紗……ボクはどうすれば……何を信じればいいのだろう」
「……栞那」
「夜叉女と畏れられて舞い上がっていたのは事実だよ。けど、ボクは世を正すために刀を振るっていたんだ。それなのに……幕府にも正義があった」
受け入れるしかない真実。六河の領主・大河内は善人だった。《八紘刃鬼》もまた救命活動を優先する人格者だったのだ。実際に目で見て体験したことは否定のしようがない。倒幕志士として活動していた頃の記憶を消して《八紘刃鬼》新米として経験だけで判断するのならば幕府側が正義。倒幕派側がテロリストということになってしまう。その事実が栞那にありもしない妄想を抱かせる。
「……もしかしたらボクがこれまで斬っていた人物にも深い考えがあったのかもしれないッ。だとしたらボクは無実の人間を殺して……!」
「落ちつけ! 栞那! 飛躍しすぎだ。倒幕活動はお前一人でやってたワケじゃねーだろ。《菊亶組》の連中も当然裏を取ってたはず。それに栞那と初めて会ったとき、お前が斬った大名は明らかに悪党だった。お前に正義がないわけじゃねぇ! 俺が保障する!」
誰かの口から自分の行動を肯定されることは追い詰められていた栞那にとって何よりの救済となった。栞那は姉妹のように一紗の胸に頭を預けて嗚咽する。
「うぅ……あり、がとう、一紗」
「お前は何も間違っちゃいない。おかしいのはこの国の方だ」
「ぐすっ……やっぱり、幕府側が嘘をついてるってこと?」
「いや、幕府側にも倒幕派にも大嘘つきが紛れてやがる。誰かが両者を争わせようとしていると俺は睨んでる」
【六河】の件は明らかに倒幕派の暴走であるが、【立関】では幕府側の汚職が顕著に見られた。加えて《菊亶組》と敵対していた幕府側も相当な悪徳を積んでいることは間違いない。
しかしで《八紘刃鬼》視点から見た幕府は白とはいえなくとも黒ではなかった。汚職者を処罰する自浄作用が存在し、民を思っている者達も大勢いた。
幕府側も倒幕派閥も腹を割って話し合えば誤解を解くことができるはずであるが、両者は和解に至るどころか益々自身の正義を振りかざして敵対している。
そこで導き出されたのは「誰かが故意に両者を争わせている」という帰結だった。
その正体までは掴めないものの一紗は第三勢力の存在を疑っていたのだ。
一方、《菊亶組》では戦の準備が始められていた。
幕府と正面対決は避けたいという意見が幹部クラスで一致していたものの組長の娘を長期間敵地においておけるはずもない。栞那を奪還するための作戦が議論されていたのである。
「親分、やっぱり今すぐにでもお嬢を取り戻しに行きましょう!」
「相手は《八紘刃鬼》。感情的に動くとこっちがやられちまう」
「でもお嬢の正体がばれたら打ち首だぜ?」
「落ち着けよ、テメェら。今組長が奪還計画を立ててるところだ」
若頭・遜冴の一喝で会議は静寂に包まれる。
岑楼と八重は神妙な顔で救出ルートについて相談していた。
そんな中、《菊亶組》屋敷の入口に馬車が止まる音が聞こえてくる。
「組長! 桐弥の兄貴と百合姉さんが到着しやした」
「ようやく来たか」
長男と長女の帰還に岑楼は口角を上げる。
《菊亶組》、には続々と倒幕戦力が集結しつつあった。
幕府にも正義があり、倒幕派にも正義があるものの対立が続いているというお話でした。
せっかく幕臣とも仲良くなったのに《菊亶組》も決戦準備を初めて大変という状況です。
えー……はい。
何となく察していた方もいらっしゃたと思いますが、
倭国編は前編・後編の二章立てです。
『華風皆殺し娘の交渉術』は基本一国一章で続けてきましたが
流石に今回は一章でまとめきれませんでした。
他の転生者・栞那との出会い、幕府、妖廷、一紗の修業、《八紘刃鬼》メンバー紹介
倭国が抱える問題……等前編だけもかなりの物量なので後編も圧縮すると雑になる懸念があり一章構成は断念しました。
自堕落作者が甘えそうなので宣誓しときますが中編はないです! 次の章が後編です!
ただでさえ次の国、そのまた次の国と構想もあり後がつっかえてますし……。
次章投降は来年になります。
以下が予告です。
・本章で戦闘参加しなかった隊長との交流
・栞那の兄・桐弥&姉・百合との衝突
・本編時系列で登場していなかった一・二番隊隊長との交戦
・倭国が内戦している理由の解明
……というわけで気長に次回投降をお待ちください。




