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華風皆殺し娘の交渉術  作者: 微睡 虚
第四章 土国往訪編
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招集される神官たち

大審判開始前のお話です。


 一紗(イーシャ)が目を覚ますと、簡素な部屋に寝かされていた。

 両手には手錠がつけられて上手く氣を練ることができない。

 状態を起こしてみたところ、すぐ近くに鉄格子が見えた。あまり広くないこの部屋は牢獄らしい。


「そうだ……俺はたしか神官に……」


 成す術もなくやられたことを思い出す。相手が本気なら捕まった時点で終わりだった。命を拾ったのは幸運としか言えない。

近くに美鳳(メイフォン)鎧兜(カイドウ)も倒れていた。だがどこを探しても蕾華(レイファ)の姿だけが見えない。


「おい、美鳳(メイフォン)! 鎧兜(カイドウ)! 起きろ!!」


「ん……? 俺は気を失っちまったか?」


「頭が痛いです……」


力づくで失神させられていたからか体が重そうではあったが、二人共命に別状はなかった。

 ただ二人共氣を封じる手錠がしっかりと嵌められており、一紗(イーシャ)同様術が使えなかった。

 蕾華(レイファ)の所在を掴むためにも三人で状況を整理する。


「私達は捕まったようですね。断片的な情報だけで推察するならば《壘族》虐殺の冤罪をかけられたのだと思われます」


 あの時は《壘族》の方から襲ってきた。一紗(イーシャ)たちは正当防衛に徹していたに過ぎない。しかし神官・黒曜(ヘイヤオ)が来た瞬間、彼らは屍に変わり果てた。どう見ても誰かが仕組んだとしか考えられなかった。


「アイツらからは殺気を感じなかった。最初から死んでいたぞ」


「俺も同意見だ。間接を逆に曲げたり明らかに生きた人間の動きじゃなかった。誰かが俺達を嵌めるために死体を操ってたんじゃないのか?」


「確かに死体を操る術に長けた民族もいますが……誰が罠を仕掛けるのです? 私達があの場にいたのは偶然ですよ? そもそも【墳禊(フンケイ)】に行く予定はありませんでしたし」


「いや、転移紋を使ったときから仕組まれていたのなら辻褄が合うんじゃねェか?」


 考えられる可能性は転移紋を使用した壕穣(ハオラン)に悪意があったか、転移紋の座標が何者かに書き換えられたかである。前者は世話になった育壌(ユーラン)の身内を疑うことになるし、後者の場合は【土国】の管理体制の崩壊を意味する。いずれにしても現在【土国】で何者かの思惑が働いていることは確かである。


「とりあえずここから脱出して蕾華(レイファ)を探さねーと!」


「《杜族》の姫ですから手荒なことはされていないはずですが……」


「だが脱出は難しいぞ。この鉄格子に見える棒は願石だぜ。《膂族》の血を引く俺の腕力でも破壊できねェ」


 普通の鉄格子なら彼の力でへし曲げられたはずだ。しかし氣を封じた上に強度の高い願石で固めてられては力づくで壊すのは困難である。ご丁寧に周りの壁も特殊な構造であり、素手で壊そうとすれば砂化して衝撃を殺してしまうのだ。そして数分後には元通りになってしまう。


「凄ぇ技術だな。氣を封じられてなくても拳で割るのは無理そうだ」


「形状記憶願石よ。《鏐族》のおかげで昔より更に技術が上がってるわね」


 鉄格子の外から聞こえた声は聴き慣れた少女のものだった。

 隙間から外を見ると、《壘族》に見張られた蕾華(レイファ)が歩いてくるのが見える。


蕾華(レイファ)、良かった。無事だったんだな」


「……全然良くないわ。これから一紗(イーシャ)さま達は裁かれるのよ」


「おおよそ見当がつきますが、詳しく教えてください」


 言い辛そうに唇を震わせる彼女に代わって口を開いたのは《壘族》の看守だった。


「愛澤・一紗(イーシャ)(ホン)美鳳(メイフォン)(ホン)鎧兜(カイドウ)。お前達には大量虐殺及び国家転覆の罪で極刑が求刑されている! 大人しく沙汰を待て」


 予想していたこととはいえ《壘族》の看守から宣告されるとやはり受け止め方も変わってくる。それに大量虐殺どころか国家転覆罪なんて身に覚えのない罪状が追加されていた。


「ハァ!? 誤解なんだって! 俺達何もしてねーよ!」


「弁明は〝大審判〟の場で訴えることだな」


「大審判だァ?」


「【土国】ではね、国家の命運にかかわることを決める際には全神官が招集されて審議が開かれるの。国家転覆を目論んだ罪人を裁くときは大審判で真偽を裁決することになるわ」


「全神官!? 《神聖大父》と十人の《聖領神官》が揃うのですか!?」



 一紗(イーシャ)達が大量虐殺及び国家転覆を目論んだという話は【土国】中の《聖領神官》たちの耳に届いていた。

当然実際に顔を合わせた神官達は驚きを隠せなかった。


 ――陶芸の町【創陶】で招集命令を受けた翡翠(フェイツイ)は動揺するあまり自作の陶器を床に落としてしまう。丈夫故に陶器は割れなかったが、彼女の信義には罅が入っていた。

「虐殺……? そんなことをする子たちには見えなかったんだけどなぁ」

 事の真偽を確かめるために彼女は職務を中断し、首都【陸禱壇(リクトウダン)】への招集に応じる。



 ――同じく宝石の町【宝掘】においても三人の神官達は大きな衝撃を受けていた。


「どうなってんの? あのかわい子チャン達がンなコトするワケ?」


「信じたくはないけど、人は見かけによらないとも言うし微妙なところね……」


辰砂(チェンシャ)紅玉(ホンユー)、すぐに準備せい。お前達は神官として〝大審判〟に参加するのは初めてじゃったな。あそこは新米も古参も関係ない。できるだけ私情を殺して事実だけを受け止めるのじゃぞ。正しい判断をできるようにな……」


 瑠璃(リゥリー)は内心の衝撃を弟子達に悟られないように毅然と振る舞いながら、彼らに神官としての心得を説いていた。



 ――そして【磊磨(ライマ)】で指導していた金剛(ジンガン)は招集命令を受けて厳しい顔をしていた。

 彼は幼い《壘族》を指導する四人の弟子達を呼びつける。


「【陸禱壇(リクトウダン)】に行くぞ。今日の鍛錬は中断だ。壕穣(ハオラン) 隆矼(ロンコン)礑垳(ダンハン)坿碇(フーディン)。お前らも来い。どの道証人喚問されるだろうし、今の内に大審判に慣れておいた方がいい」


「アイツらが捕まったって? マジかYO」


「まさか蕾華(レイファ)様のご友人が……」


「解せませんね」


「師範、育壌(ユーラン)は? 育壌(ユーラン)は一緒じゃないんですか?」


「ああ。姿が見えなかったようだ。その件も審判で尋問する」


 四人の代理官を連れた金剛(ジンガン)は転移紋へと向かう。



 また、一紗(イーシャ)たちと面識のない残る四人の《聖領神官》も各々の領地で招集命令を受けとった。


 中でもいち早く招集に応じたのは【土国】北部の湿地帯【沼湿(ショウシツ)】を管轄する橄欖(ガンラン)だった。長い黒髪で顔の半分を隠した細身の彼は紅玉(ホンユー)達に次いで若い神官であった。まだ大審判は三度しか経験がないために模範的であろうと途中で仕事を切り上げたのである。

 【土国】における貴重な水源の確保と水質の濾過、、そして希少生物の保護を主たる業務としていた橄欖(ガンラン)は忙しい身であったが、何よりも大審判を優先しなければならないという高い意識があった。彼は職務を部下に引き継がせた。


黒曜(ヘイヤオ)様の……呼びかけで大審判を開かれた。ボ、ボクは行かなきゃいけない」


「ハッ! 行ってらっしゃいませ! 橄欖(ガンラン)様。残る罪人達は如何様にすればよいでしょう?」


 橄欖(ガンラン)は縛られた男達に視線を向ける。彼らは絶滅危惧種の妖魔を密猟していたところを捕縛された犯罪者たちである。

 係官の手には傷つき保護された妖魔の赤子が鳴いている。捕えられた男達の裁判は完了していた。再三の警告にもかかわらず密猟を続けて異民族に売りさばいていたことを悪質と判断されて極刑を言い渡した後だった。


「裁決は出ている。咎人は全員沈めていいよ」


「そんなぁ! 橄欖(ガンラン)様! お慈悲を!」


 助命を請う男達は係官に蹴り飛ばされて沼湿(ショウシツ)神殿前の沼に落とされる。

 足掻いてどうすることもできず彼らは絶望のままに沈んでいった。


「さて、捕えられた異民族。咎人ならばボクの沼に沈めちゃおう……フフフ」


 薄ら笑いを浮かべる橄欖(ガンラン)は転移紋で首都まで移動した。



 二番目に招集に応じたのは《神聖大父》に次いで古参の神官である黝簾(ヨウリェン)だった。

 御年九百歳になる彼は最年少で土地神と契約したために十歳程度の少年の姿をしているものの、長い人生経験を積んできた賢人だった。また土国の陶芸文化発展に寄与した伝説の陶芸家であり、翡翠(フェイツイ)の師でもあった。故に彼の治める【案造】の町もモノづくりの大都市として栄えている。


「創作の良い案が浮かんだのですが、親父さんの命とあれば黙殺はできませんね」


 数多の土器が並ぶ案造神殿の最奥に設けられた転移紋に足を運んだ。



 次いで【土国】西南部【埃及(アイキュウ)】の町を統治する女性の《聖領神官》、瑪瑙(マーナオ)が腰を上げた。

 女性神官では最古参の七百七十歳である。老齢であるが彼女も若い時分から才覚を発揮して土地神と契約したために約八百年美貌を保っていた。長く綺麗な黒髪が褐色の美肌に映える瑪瑙(マーナオ)は土国一の美女と名高いが、常に目元を布で隠している。彼女は自身の目の代わりに目を象った額の願石を使って視覚を確保していた。


 瑪瑙(マーナオ)の治める【埃及(アイキュウ)】は【土国】において有数の資源産出地域であった。金銀の産出量は【土国】一である。また、【宝掘】に次いで二番目の宝石採掘量を誇り、願石の出土量も二番目に多い。ちなみに願石出土量随一を誇る【望磐(ボウバン)】は瑪瑙(マーナオ)の弟子の瑠璃(リゥリー)が治めている。


「はぁ~、久しぶりに愛弟子に出会えるのは嬉しいのですが、まさか咎人を裁く場とは。……なんて罪深いのでしょうか」


「心中お察しします、瑪瑙(マーナオ)様」


 憂う彼女を労うように女性代理官たちが上着を着せたり、水を用意したりと甲斐甲斐しく労う。瑪瑙(マーナオ)の代理官は全員女性で固められていた。


「異民族と言えばまた宝石を盗む外国人の侵入者が見つかりまして」


「えーまたですか。最近多くないです?」


「我が国は特に資源に恵まれております。我らを恐れる心より我欲の方が勝るのでしょう。――して、彼らの処遇についてはいかがいたしましょうか」


 ピラミッド型の神殿の前に捕縛された盗賊たちが跪かされていた。

 今も盗人の裁判が神殿内で行われているために異民族の盗掘者まで収納できないのだ。階段を下りて白い肌の異民族を見下ろした瑪瑙(マーナオ)は溜息をつく。


「あなた方に選択肢を与えましょう。一つは法に則り次の裁判を牢獄の中で待つこと。もう一つはこの場でわたくしの裁きを受けることです。後者を選んだ場合わたくしと戦うことになります。勝敗に関わらず十秒持てば解放してあげましょう。どうしますか?」


 盗賊の異民族はよく考えもせず後者を選んだ。解放されるという甘い謳い文句に釣られたのだ。相手が若い女性であることも判断を見誤らせた理由の一つだった。代理官達は小さく「愚かな」と呟くが盗賊達には聞こえていない。

 盗賊の男達は縄を切られて立たされる。

 屈強な男達が瑪瑙(マーナオ)と盗賊達を囲うように土属氣巧で即席の壁を作り出した。


「ホントに十秒耐えきれば解放してもらえるんだな!?」


「はい。既に手遅れですけどねぇ」


 瑪瑙(マーナオ)はサファイア製の小刀を盗賊の一人に投擲する。急所を狙ったが躱されてしまった。流石に【土国】に侵入できただけあって身体能力は高く、腕を僅かに掠めただけに留まった。


「こんな攻撃なら十秒耐えることだって――」


「アニキ! アンタ体が!」


 盗賊の弟分が悍ましい表情を向ける。その視線の先には先程ナイフが掠った傷口があった。彼は出血に驚いたのではない。傷口から化膿するように兄貴分の身体が宝石へと変貌していたことに恐怖したのだ。


「なんじゃこりゃああああ!!」


 叫ぶ男はそのまま全身が宝石化してしまった。瑪瑙(マーナオ)は艶めかしい美脚で廻し蹴りを繰り出し、宝石化した盗賊の身体を粉々に砕いてしまう。


「今月は青玉の盗難が多かったのです。不足分は盗人である貴方達の身体で賄ってもらいます」


「「ひぃ~!!」」


 恐怖に慄く他の盗賊達もまた瑪瑙(マーナオ)の投げナイフを喰らってしまっていた。それぞれルビー、サファイヤ、エメラルド等々、自身が攻撃を受けた宝石と同じ材質に変わっていく。

 十秒経過する頃に残ったのは一人の青年だけだった。だが彼も既に体の宝石化が三分の一程進行してしまっている。微笑む瑪瑙(マーナオ)は土属氣巧で周囲の岩壁を破壊した。


「お見事です。十秒耐えきりましたね。このまま貴方は解放してあげましょう」


「この……身体を直してくれ! 頼む!」


「それは約束していません。ですが高位の呪術師ならば私の宝石化を解くことができますよ。貴方達盗賊がよく目撃される国境付近に運んであげましょう。貴方を見つけたお仲間が術を解いてくれるかもしれません。あ、でも体を砕かれたら呪術師でも直せませんので」


 生き残った男は絶望に顔を歪ませた。宝石と化した自分に仲間達が気付くはずがないのだ。それよりも〝等身大の宝石〟に目がくらんで砕いて山分けすることは目に見えていた。心が折れたことで男の宝石化はどんどん進行していき、やがて苦悶の表情を浮かべる彫刻へと変わり果てる。


「相変わらず瑪瑙(マーナオ)様の地霊術は悍ましいな」


「いや助かるよ。盗賊の損害を埋めてくれるんだからな」


 部下達に宝石人間の運搬を命じた瑪瑙(マーナオ)は近くの転移紋を踏む。


「少々時間を浪費しましたが、【陸禱壇(リクトウダン)】へ向かいましょうか」


 彼女は紋を起動して首都へと転移した。


 ――そして最後、首都から最も離れた位置にある【咎刑(キュウケイ)】という町においても《聖領神官》が招集命令に反応を示していた。


「親父殿の命令ならばこの方解(ファンジェ)、急ぎ馳せ参じねばならんな」


 願石で形作られた番犬のような仮面を被る男が【咎刑(キュウケイ)】を統べる神官であった。常に上半身裸であるために筋骨隆々の肉体がより強調される。猛々しい胸筋から腹筋にかけて独特の入れ墨が入っていた。

彼は抱えていた仕事に方をつけるべくアンクを象った願石製の杖で罪人の背中を打った。


「お許しください! 神官様!」


「黙れ! 貴様は十数件に渡り婦女暴行を犯した重罪人である! この場で死ね!!」


「ぎゃー!!」


首都から最も遠い【咎刑(キュウケイ)】は【土国】における重罪人を労役させる刑務官の町であった。神殿の下層では鞭打たれる罪人たちが肉体労働に従事している。殺人・放火・強姦、その他社会に悪影響を与えた極悪人達が厳しい労役を課される処罰の町だった。住民は受刑者か彼らを監督する刑務官たちが殆どである。


受刑者の多くは凶暴な妖魔が多く出没する危険地帯での採掘や超級妖魔討伐を任務とされる。そのため労役中に命を落とす受刑者も少なくない。模範囚のみ安全な願石加工の業務が許されるのである。


「異民族が国家転覆を目論むか。もしやここ最近の異変は奴らの仕業かもしれんな」


 出立の準備をしながら身近な事件との関連性を頭で整理していると、犬耳のカチューシャをつけた少女が現れた。その華奢な手で受刑者の亡骸を引きずっている。


「すみませ~ん、父上~。明日の死刑執行予定者を殺してしまいましたー」


星稔(シンレン)、お前はまだ修業が足りんな。執行日は厳守しなければならん。たとえ悪人であっても処刑日まで生かす必要があるのだ。法律に違反したお前は罰として代理官から降格だ!」


「また降格~!? 先月代理官に再々出世したばかりなのに~! 実の娘ですよ~! ちょっとくらい見逃してくださいよー」


「肉親だからこそ厳正に処分しなければならん! 情に甘えた瞬間、組織は腐るのだ!」


 年相応に不満いっぱいの星稔(シンレン)は父親の足元に転がっていた死体を見つけて指をさす。


「父上だって受刑者殺しているじゃないですか! コイツの死刑執行は二時間後のはずです! 本日の執行ではありますが時間を守ってないなら父上も同じじゃないですか!」


「なるほど! 確かにその通りだ! 我も神官の職を辞して再びお前と修業し直そう!」


 今すぐにでも職務放棄して修業の旅に出そうな勢いだった方解(ファンジェ)を他の刑務官たちが慌てて止めに入る。


「お気を確かに方解(ファンジェ)様! 貴方が辞められたら誰がこの咎刑(キュウケイ)神殿を維持するのですか!」


「お二人共、減給処分ということでどうか続投していただきたい!」


 部下達からの言葉により現状維持となった。方解(ファンジェ)は受刑者の屍を【墳禊(フンケイ)】に移送するように命じた後、娘に留守を託して首都へ出立した。



 【土国】全土から《聖領神官》が招集されるという知らせに一紗(イーシャ)達は戦慄していた。

 たった一人の神官にも手も足も出なかったのにそれが十人集まるというのだ。さらにその強者たちをまとめ上げる陸王こと《神聖大父》の力は未知の領域である。


「今すぐにでも皆を助けたいけど、神官さま達から逃げることは不可能よ。だから私は証人として皆の無実を訴えることにしたの。だから皆も抵抗せずに審議に参加して」


「……審議ねェ。解せねェぜ。俺達が咎人なら一緒にいた蕾華(レイファ)だって同罪だろォ。なんでこうも扱いが違うんだよ」


「高度に政治的な判断ですよ、兄上。親交ある《杜族》の姫を起訴すれば両国間で摩擦が生じます」


「ハッ、寸借があって〝大審判〟とは片腹痛いなァ」


 鎧兜(カイドウ)の意見には一理ある。だがこの際蕾華(レイファ)が無事なのは幸運でもある。入国から共に行動し、無実を証明してくれる証人が一人確保できているのだ。

一歩間違えば【木国】の介入も考えられるはずだ。そうなれば蕾華(レイファ)の親族と接触することになりかねない。だが彼女は友人の潔白を証明するために証言台に立つことを選んでくれたのだ。

 一紗(イーシャ)美鳳(メイフォン)は味方になってくれる友人の存在に感謝しつつ鉄格子越しに蕾華(レイファ)と抱擁する。

 そして、来るべき大審判に備えて覚悟を決めたのだった。




大審判については蕾華(レイファ)の解説通りです。

国家を揺るがす事態に神官達が審議する場ですね。

良識ある神官達十名が意見交換し、《神聖大父》が決議することになります。


かつては始皇帝との開戦や和睦、帝国からの独立などが議題にあがりました。


今回は黒曜(ヘイヤオ)の呼びかけにより

翡翠(フェイツイ)辰砂(チェンシャ)紅玉(ホンユー)瑠璃(リゥリー)金剛(ジンガン)

橄欖(ガンラン)黝簾(ヨウリェン)瑪瑙(マーナオ)方解(ファンジェ)

――と全《聖領神官》が招集されました。


一紗(イーシャ)と対面していない神官は四名ですね。以下まとめです。


橄欖(ガンラン)紅玉(ホンユー)達とほぼ同世代の新人。生物好き。

黝簾(ヨウリェン)翡翠(フェイツイ)の師匠で陸王に次ぐ高齢。合法ショタ。

瑪瑙(マーナオ)=女性神官最高齢で瑠璃(リゥリー)の師。土国一の美人。

方解(ファンジェ)=刑務長官的な立場。実娘の星稔(シンレン)が代理官。


※ちなみに瑠璃(リゥリー)が年寄り口調なのは師・瑪瑙(マーナオ)

 早く大人として認められたかったからという裏設定があります。

 七百七十歳からすれば百十九歳もひよっこですからね。

 師がいると大人ぶれないため普段は接触を避けています。


というわけで古参神官を知る蕾華(レイファ)は逃げられないと判断しました。

次回、潔白を証明すべく大審判に臨みます。


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