異世界への憧れ
久しぶりの投稿です。
「もし異世界に行けたとして、そこが怖いところだったら?」
をコンセプトにしてみました。
単行本換算で一冊分くらいは書き溜めています。順次投稿予定です。
評判が良く続編熱望の声が多ければ二章以降も執筆しますが、
特になければ一章分で未完となります。
よろしくお願い致します。
「ハァ~……世界滅びねーかな……」
青年、愛澤一紗はこの世界に疲れていた。
さして大きな事件はないが、例年続く不景気、ブラック労働の横行、上がり続ける税金等々、ネガティブな思考に陥る不安要素は沢山あった。そんな現実から逃避すべく彼が嵌ったのは漫画や小説といった創作物である。
とりわけ彼が倒錯するのは異世界転生ものである。何の取りえもない凡人がある日神様の手違い等で事故に遭い、強力な能力を持って異世界に転生する。そしてチートな能力や現代知識で無双してハーレムを築く。最強の主人公に自己投影し、現実の不満から目を反らし続けていた。
そんな彼が神に祈ることがあるとすればたった一つ。
「俺も異世界に行けますように」
彼はこの願いを神社の参拝時、そして流れ星にまで祈った。七夕の短冊に書いたのも同じ文言である。自分が祈ったと周囲にばれないように気を使いながら書いた。学生時代から同じ願いを願い続けたからか、遂に神は夢枕に立った。
――地平線の向こう側まで黄金の野原が広がる不思議な場所。
神聖さすら感じるその場所に何かがいるとしか認知できない存在が一紗の前に立っていた。
あまりの神々しさに直感的に〝神〟だと分かった。
神は一紗の脳に直接語りかけてくる。
「異世界ヲ望ムナラ、与エマショウ。タダシ、アナタノ寿命ハ尽キテイマセン。ヨッテ、アナタノ今ノ人生ト異世界デ不満ヲ持ツ者ノ人生ヲ入レ替エルトイウ処置ニナリマス」
「全然構わない! 早く俺を新しい世界に連れていってくれ!」
ついに自分の願いが通じたと感動した一紗は目を輝かせて即座に返答する。
神は大きく頷いたようにみえた。
「デハ、ヒアリング、シマショウ。アナタハ、ドンナ世界ヲ望ミマスカ?」
「魔法のような能力で化け物を倒せる世界!」
「文化レベルハドノクライガイイデスカ?」
「中世くらい! 現代の知識で無双したい!」
それらはフィクション世界で自己投影し続けた彼の願望だった。
やや沈黙があってから神は再び問いかける。
「アナタハ、ドンナ外見ヲ望ミマスカ?」
「勿論美形! 異性を魅了するくらいの!」
今度は長らく沈黙する。呼びかけても手を振ってみても反応がなかった。
1分は佇んでいただろうか。神は再び言葉を紡いだ。
「一件該当シマシタ……」
「おおっ!」
「アナタハ望ム世界ノ住人ニナレマス。本当ニ今生キル世界ヲ捨テテマデ新世界ヲ望ミマスカ?」
「確認なんていらん! 俺はこんな不景気で! 才能主義で! 夢も希望もない世界なんざいらねぇんだよ!」
一紗は力いっぱい叫んだ。自分の中にある僅かな未練を断ち切るように。
「最終確認ヲ終エマシタ。明日ノ朝カラ、アナタの精神ヲ異世界ノ住人ヘ転送シマス」
その瞬間、視界がホワイトアウトした。
一紗が次の日目覚めると、見慣れた世界ではなかった。初めて見るその景色にある種の感動を覚える。神は彼の意志を汲んで異世界に送ったのだ。
――だが彼はこの選択をすぐに後悔した。
――その世界は地獄だった。
異世界って行ってみたいですよね。




