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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第5章 光王の献身
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第93話 晴天プラクティス

 太陽が頂点を指す時刻。

 学院から西へ続く石畳の道を食べ歩きをしながら進む一人の小柄な女の姿があった。

 両腕に目いっぱいの食べ物を抱えたソルアだ。


 ソルアは模擬戦の前に腹ごなしをしようと考え、王城を出て交易特区に向かい、そこで昼食をとるつもりだった。

 この後に激しく体を動かすという事もあり、軽くすませるつもりだったが、行く先々の店で、


「お嬢ちゃんお使いかな? よし、おまけしてやろう」

「ははは大丈夫、おじさんがおごってあげよう」

「お姉さんがご馳走してあげるから、ちょっとお茶しない?」


 という感じの熱烈歓迎を受け、気づけば全くお金を使うことなくこのありさまだ。

 というのも、学院での見知らぬ美少女騒動、交易特区での追いかけっこが伝達魔術を通して光王国のほとんどにソルアの存在が知れ渡っており、一種のアイドル的人気を獲得していたからなのであるが、当の本人は知る由もない。


 一度持ち帰って後から食べる、という事も考えたが、氷菓子やそのまま渡された串焼きなど保存が難しいものもある。


「うんうん、仕方ない仕方ない」


 こうなれば一気に全部食べるしかなかろう。

 口ではそう言いつつもニッコニコの表情で次々と口に放り込んでは飲み込んでいく。

 ナギアにこの光景を見られようものなら「行儀が悪い」だの「晩御飯たべられなくなるぞ」とのお小言が飛んでくるだろうが、ナギアは王城を出てすぐに何処かへ行ってしまった。

 そのことにほんの少しの寂しさも感じつつ、楽しみにとっておいた甘い氷菓子に手を付け始める。

 いや、ほら、溶けるし?、と誰に対するでもなく確認をとる。


 そんなソルアの背には2本の槍がホルダー機能の付いたたすきに斜めに括り付けられている。

 ソルアが1歩を進むたび、木でできた柄同士がぶつかり合ってコツコツと調子良く音を立てる。

 ソルアの武器は風王国で餞別としてもらったもので、1本は訓練用に刃を潰したもの、もう1本は実戦で使うものだ。

 全長がちょうどソルアの身長と同じになっているそれらは、ソルアの身長より少し短いくらいの木製の柄の部分と、柄と同じ太さの金属製の刃の部分だけという遠くから見たら長い棒といえる構成となっている。

 もうすぐ使い始めて1年に差し掛かろうとしているという事もあり、その扱いは慣れたものだ。

 それこそ暇なときに室内で演舞のようにくるくると回していたらナギアに叱られるくらいには。


 槍があることを確かめるように振り返ったソルアの視線は吸い込まれるように空に流れる。

 その目に映るのは5つの点。空を駆ける光王国騎士団だ。

 両足に小型の円盤状遺物を装着した騎士団たちは己の足の方向――西へとクルクルと位置を交代しながら飛んでいく。


 ――事情があって念入りに哨戒をしている。

 初めて空飛ぶ彼らを見た時光王はそう言っていた。

 今なら、その事情がジャバウォック襲来という情報がもたらされたことだと分かる。


「…………むぅ」


 握りしめたフルーツの刺さった串を持つ手に力が入る。

 僅かに身に覚えるのは、ナギアに対する苛立ちだ。

 ドールと会っていたことも、ジャバウォックの事も、シューヤが話さなければ己はずっと知らされないままでいただろう。


 それが己の事を魔王だと疑う不信から来るものではないという確信はある。

 彼からそうしたピリピリしたものを感じたことはなく、こちらを見る目は誰よりも優しいものだからだ。

 であれば、彼が頑なに何も話さず隠そうとしたのは、


「……危ないから」


 ソルアは串からミシミシと音が鳴り始めることに気付かない。

 空飛ぶ点を見送るように西へ動く目は睨むような険しいものに変わり、踏み出す1歩は大きくなる。

 串に刺さるフルーツを獣のように荒々しく噛み取る。


「……弱いくせに」


 西の遥か先の空を睨みながらソルアはつぶやく。

 既に腕の中は空になり、その手は槍に伸びていた。 



● ● ● ● ●



 練武場。

 光王国の学院西に位置するこの施設は、真上から見た時東西に長い長方形となっている。

 東側にある入口から入ると、まず受付、その次に更衣室や簡単な治療ができる医務室などが置かれているスペースがある。

 西口も似た構造となっており、建物中央、ちょうど正方形となるように練武のためのスペースがある。

 騎士団が訓練のために用いることもあれば、ちょっとしたイベント会場にも使われる。


 そんな練武場に動きやすい服装に着替えたソルアがいた。

 約束の時間まではまだ余裕がある。

 準備運動でもしながら待てばいいか、という考えだ。


 しかし練武場に先客がいた。

 先客は2つのグループに分かれ、1つは中央辺りでバラバラになって各自柔軟を、もう1つは端の方で何やら円陣を組んで固まっていた。


「……む?」


 ソルアはぐるりと一通り見て気づく。

 柔軟グループの奥に見える円陣の方のグループ。

 金やそれに近い明るい髪色が並ぶ中、ただ一人、異質な黒髪が混ざっている。


「ナギアじゃん」


 顔は見えないが、背格好で分かる。

 遠目に見えるナギアは周りの金髪達と何かを議論しながら、鞘に収めた刀型の遺物で土の地面に何かを書いては消してを繰り返している。

 何をしているのか、きっと聞いても分からないかもしれないが、それでも気になる。

1歩を踏み出す。ナギアの方へ、一直線に駆けだす。


「おっとちょっと待てソルアちゃん」


 柔軟グループの近くを突っ切ろうとした時、肩を掴んでソルアを止める者がいた。

 ソルアは振り返ってその男の顔を見る。知らない男だ。

 男はソルアが止まったことを確認すると、肩から手を放し、


「今あっちに行くのはお勧めしねえよ?

 俺たちにはわっかんねえ話してるからな」

「……誰?」

「え?」

「む?」


 男は雷に打たれたような表情で固まるが、ソルアは本当に知らない。

 柔軟グループの他のメンバーたちが少し離れたところで、


「あいつさっき『俺、陛下の講義で隣の席だったから絶対に顔覚えてくれてる』とか言って自信満々だったのにな」

「あーいるよねー。たまたま飲み会で隣に座っただけで気があるとか勘違いする奴」

「ざまあ。そう簡単に我ら彼女なし勢から脱却できると思うなよ……!」


 とか聞こえてくるから、きっとどこかで会ってはいるんだろうけど本当に覚えていない。

 話しかけてきた男は若干涙目になり周囲を威嚇しつつも、ソルアに説明する。


「俺たちは騎士団に所属してるもんだ。

 今日は昼からここで訓練ってことになってたから来たんだけどな?

 そしたらソルアちゃんの連れの奴――カムルナギアだっけ。あいつがいたんだよ。

 で、なんか地面にガリガリ書きながらブツブツ言ってて怪しかったから事情聴取してみたら――」

「新しい魔術の安全性テストしてたんだってー。

 それ見た騎士団の理論派連中が見たことない陣に飛びついちゃってね……」


 男性団員の肩から首をひょっこりと出すようにして話す女性団員。

 周囲の団員もその内容にうんうんと頷いている。


「私たち、感覚派の魔術師だから何言ってんだこいつら状態になっちゃって。

 離れたところで予定通り柔軟してたってわけ」

「ソルアちゃんも感覚派だろ? 邪魔すんのも悪いし、こっちで大人しくしてよーぜ?」


 そう言ってニカッと笑う男性団員。

 どうやらソルアを止めたのは意地悪とかではなく純粋な親切心らしい。

 ソルアは頷き、踏み出しかけていた足を下げる。


 それで周囲はもう大丈夫と判断したらしい。

 先程話した女性団員はいつの間にかソルアの後ろに回り込んでおり、後ろから抱えるようにホールドしたかと思えば、ソルアに頬ずりを始めた。


「わぷっ」

「あーもー、かーわーいーいー! ほっぺた柔らかーい!

 学院で見かけた時からこうしたかったのよねー!」


 他の団員も次々と寄ってきては、


「うわホントにちっこいな。ちゃんと食べてるか?」

「俺、レーズの所の大食いチャレンジ成功したって聞いたぞ?」

「それマジ? 確かあそこって直径1メートルのミートパイとかじゃなかったっけ」

「そうそう。作る度に赤字なもんだから嫁さんに『お前をミートにしてやろうか?』って言われた伝説の奴」

「てか今いくつよ? アンドレんとこの娘と変わらないんじゃね?」

「いやでもうちの陛下みたいなパターンもあるしなー……」

「つまり合法ロ……」

「はい処刑」

「「異議なーし」」

「早くね!?」


 こちらの頭を撫でたり懐から取り出したお菓子などをどんどんと手に置いたりしていく。

 女性団員は満足するまで頬ずりしたのか、次はソルアを膝に乗せ離れる様子がない。

 別にこれはこれで落ち着くからいいか、と思いされるがままになる。


「そういえばソルアちゃんはどうしてここに来たの?

 カムルナギア君に何か用があったのかな?」

「む、えっとね……」


 ソルアはこれまであったことを説明した。

 ジャバウォックのこと、模擬戦のこと、どこまで話していいかよく分からなかったため、朝からあったことは全部話した。

 ソルアの頬をもにもにしながら話を聞いていた女性団員は、ふんふんと頷くと、


「じゃあもうすぐここに陛下と団長が来るんだ。

 ……待って、ソルアちゃん団長と戦うの!? マジで!?」

「マジで。シュー君、強いの?」

「シュ、シュー君……。

 ああうん、実力ね。そりゃ団長というだけあって強いわよ。

 陛下から無限に魔力供給受けられる上に遺物でゴリッゴリに身体能力底上げしてるから速いし固いし」

 

 ほえー、と二人して声を漏らしそのまま前後に揺れる。

 普段のぽやぽやした感じから、シューヤが強いと聞いても実感がわかない。

 少しの間揺らされるままにしていると、頭の上から「あ」と声が漏れる。

 ソルアは抱きかかえられたまま、声のする方を向く。


「それならソルアちゃん、団長の前に私たちと一戦やっとかない?

 準備運動だと思ってさ」


 断る理由もない。

 膝から飛び跳ねるように立ち上がる。

 自分の鼻息が自然と荒くなるのを感じる。


「うん、お願い。武器取ってくるからちょっと待ってて」


 それだけ言うと、更衣室に向かって一直線に走るのだった。



● ● ● ● ●



「……強い」


 晴天の下、模擬戦が始まってすぐ。

 ソルアは獲物を強く握りしめて悔しそうな表情を浮かべていた。

 理由は目の前に立つ女性団員。

 彼女が振るう鞭に翻弄され、ソルアは苦戦を強いられていた。

 加速すれども攻撃は届かず、回避すれども鞭のしなりが追い立てるようにソルアの身を襲う。

 まるでどう動くかが知られているようだ。


「いやまあそりゃ私これが仕事だし。犯罪者の鎮圧とか結構経験してるんだよ?

 むしろここで『弱い』なんて言われたら立つ瀬がないというか……」

「でも何回かヤバイ場面あったよな?」

「あん?」

「おい馬鹿やめろ鞭構えんな」


 お互い息が上がる程の力は入れていないが、明らかにソルアの方が余裕がない。

 そしてその結果に誰もが当然のこととして受け止めている。

 ソルアはもう一度自分に加速魔術を行使し、一直線に向かう。

 しかし、


「おっと危ない」

「……!」


 また読まれているように躱される。

 それどころか躱した勢いをそのままに横を通り抜ける体に鞭を振るう余裕すらある。

 鞭の先端は足に絡みつき、操手が振り上げる動きに合わせて勢いよくソルアの体を宙に飛ばす。

 空中で体が回転しないようにうまく調節され、高い高いされたかのような一瞬の浮遊感の後、


「ほいキャッチ」


 落ちた先は鞭を腕にぶら下げた女性団員の腕の中だった。

 ソルアを覗き込む顔に先ほどのやり取りの焦りは一切ない。


「どうしてか聞きたい?」


 そっと優しく地面に下ろしながら女性団員は問う。

 何を、というのは聞くまでもない。

 ソルアは拗ねるように荒々しく地面に腰を下ろし、じっと女性団員を無言で見つめる。

 ふふ、と小さく笑った女性団員はゆっくりと腰を下ろす。


「じゃあ実践はいったん終わりにして、ここからは反省会ということで。

 私がソルアちゃんに圧勝できた理由は大きく言うと2つ」


 女性団員はソルアの顔の前で二本指を立てる。


「まず1つ目。これは何度かやり取りして分かったと思うけど、アーティファクト――遺物のおかげね。

 私が持つこの鞭型アーティファクト【掃除屋の鞭(スイーパーズウィップ)】。

 軽い目標追尾機能と捕縛機能があって、逃亡する犯罪者とか捕まえる時とかに便利なのよ」

「……あと冷蔵庫に隠したケーキとかかすめ取る時とか」

「遠くにある書類引き寄せる時とかな」

「あれ結構難しいんだよ? 力加減間違えるとグチャッてなるし」

「その努力を他に活かせよ!?」


 いつの間にか近くに座っていた他の団員は無視。

 さらに加えるように女性団員は鞭を操っていた右腕を左手で軽く叩きながら、


「後は、筋力強化用の符型アーティファクトをいくつか貼ってるの。

 光属性の身体強化魔術の原理って『動きの邪魔になる要素を祓う』ことだから、どう頑張っても自分のフィジカルの限界は越えられないからね。アーティファクトでその上限をあげてるの」


 ちなみに炎王国で用いられる『纏魔』は魔力を体に纏わせ一時的に筋肉の代わりをさせるタイプの身体強化。

 ただ纏わせるだけであれば魔力の消費はほぼないが、集中力が切れればたちまち魔力の鎧は剥がれ、無駄に魔力を散らすだけになる。

 その意味では筋力強化という方向性を初めから与えている遺物による強化の方が簡単である。

 熟練の武術師ともなれば集中力を切らすという事などほぼ無いが。


「で、2つ目はソルアちゃんね」

「……私?」

「そう。私はソルアちゃんの属性が『時』で、加速魔術を好んで使うっていうことを知ってる。

 それを知ってるだけでも、対処のための第1歩は簡単に踏み出せる」


 魔術戦において知識はそのまま結果に直結する。

 だからこそ魔術師は自分の魔術を隠す。

 自分の手札を晒しながらポーカーに勝てるはずもない。


「じゃあ何も知らなかったら私が勝ってた?」

「んー。残念だけどそれでも同じ結果になったんじゃないかなー。

 ……あらやだ睨む顔もかわいい」


 まただらしない顔になる。

 話が進まないと思ったのか、横に座る男性団員が説明を始める。


「まあ結論から言っちまうと、ソルアちゃんは攻撃のタイミングが読みやすいんだ。

 魔術を発動するには魔力っていう燃料がいるけど、ソルアちゃんはその多すぎる魔力量のせいで必要以上の魔力を励起させて、それが外に漏れちまってる。

 特に魔術を使う直前には集中するせいか、目に見えて余剰魔力が増える。

 そのせいで外からは『あ、今から魔術使うな』っていうのがバレバレなんだよ」


 ソルアは自分の手をじっと見つめる。

 確かに自分が『アクセル』を使うとき、全身からは金色の魔力が溢れんばかりに漏れている。

 そして同時にナギアのことを思い出す。

 ナギアが魔術を使うとき、手元に銀色の魔法陣が現れるだけだ。

 自分のように派手なことにはならない。


「何回も言われてるかもしれないけど、調整下手ってこった。

 魔力量が多い人にはよくあるんだけどな」


 そう締めくくられて説明は終わった。

 理屈は分かった。

 しかしそれは今すぐどうにかできそうなものではなさそうだ。

 ナギアの魔力操作の訓練に付き合ったことはあるが、ものの数分で音を上げた覚えがある。


 自然と悩ましげな顔になる。

 その肩を優しく叩く者がいた。

 周りにいた騎士たちだ。


「大丈夫だ。別にその悩みを持つのはソルアちゃんが初めてじゃない」

「そしてその悩みを解決するための方法も今では確立されてる」

「それが――『根幹象徴(シンボル・システム)』だ」


 根幹象徴(シンボル・システム)

 聞いたことのない単語に首を傾げる。


「カムルナギア君から聞いたことがないのも仕方ないと思うわ。

 これは感覚派魔術師にしかできないことだからね。

 理論派魔術師の彼には縁のない話だったろうし」

「……難しいお話になる?」


 問題はそこだ。

 難解な言葉を並び立てようものなら逃げ出す自信がある。


「安心しろ。めっちゃ簡単だから。

 俺たち感覚派魔術師は、発生させたい結果を強くイメージしてそれを基に魔術を使うよな?

 でもその時のテンションやらノリやらで、同じ魔術を使おうとしても同じイメージになるとは限らない。

 そこで魔術ごとに1つの象徴(シンボル)――図形で文字列でも何でもいい、とにかく1つ決めるんだ。

 それを起点にすることで安定させるんだ」

「例えば私の場合、捕獲の時には『手』の象徴(シンボル)だね。

 見てなかった? さっきぶん投げた時も使ってたんだけど」


 そう言って女性団員は先ほどまで振り回していた鞭の先端に黄色の魔法陣を作り出す。

 言われた今ならわかる。

 その魔法陣は開かれた手の平が輪郭となり、その内側に構成要素となる記号や文字列が並んでいる。


「他にも武器の切れ味を良くしたいから『△』の象徴(シンボル)とか、盾を作る時は『□』の象徴(シンボル)とかね。

 ソルアちゃん、その辺全く考えずやってるみたいだし、一回考えてみたらいいんじゃないかな」

「まあ、象徴(シンボル)決めてから今まで使ってた魔術に結び付けるっていうのにもある程度時間かかるから、今すぐってわけにはいかねえだろうけどよ。

 さっき言われた弱点くらいならそのうちどうにかできると思うぜ?」


 なるほど、とソルアは思う。

 今まで何とかなってきたのは文字通りの溢れる魔力と属性の珍しさによるアドバンテージのおかげ。

 でもこれからはそれが通用しないこともあるかもしれない。

 強くなるためには、新しいことも覚えていかなければ。

 そうすれば――


「そうすれば、ナギアも守れるかな……」


 呟いた一言はどこにも届くことなく空に溶けて行った。



● ● ● ● ●



「……賑やかになってきましたな」


 少し時は遡る。

 練武場の端。

 円陣の中から声が生まれた。


 その声を始めとして、地面を見つめていた騎士団員+ナギアは地面を荒々しく踏みしめる音や空を切る音がする方に目を向ける。

 そこには高速で槍を振り回す小さな少女とそれをあしらう女がいた。


「何やってんだあいつ……」


 呻くようにナギアは声を漏らす。

 何をどうすればそういう状況になるんだーーあ、捕まった。

 ソルアは必死なようだがそれを見る周りの雰囲気は和やかだ。

 良い感じに受け入れられているなら、それで良いのかもしれない。


 そんなことを考えていると手元から声がする。


『何やってんだ、はこちらの台詞でもあるのですが、適合者?』


 声の主は鞘に収められた刀型の遺物。

 「斬る」という機能を一切放棄したそれは今、地面に図面を描いたりするための棒として働いてくれていた。


『仮にも学院で重要遺物として保管されていた私をそこらに落ちている木の棒と同じように扱うとは良い度胸ですね?』

「安心しろ。途中で折れたりする心配が無い分木の棒よりは優秀だから」

『そういう話ではありませんが?』


 まだ何か文句を言っているがナギアは無視する。

 ナギアは新しい魔術を作るにあたり、空属性の魔術師のために作られたこの刀からなら有用な情報が得られる期待していた。

 しかし例によって『所有者でなければ〜』の一点張り。

 ならば棒扱いも致し方なかろう。


 それに引き換え騎士団に所属する理論派魔術師の方々の素晴らしさ。

 こちらが目指すゴールを示せば、


「なるほど。承知した」

「陣のこの部分、構成要素が互いに干渉して意味変わってね?」

「……魔力の伝導率を考えればここはサンキ式ではなくデルヒ式を使ったほうが…」


 などとアドバイスが湧いてくる。

 おかげで詰まっていた箇所も解決の糸口が見えてきた。


「助かります。

 新しい魔術の構想はあってもどうしたらまともに動くのか分からない部分も多かったので」

「気にしなくてもいい。

 我々としても未知の属性の研究に関わることのメリットはある」

「そうそう。

 それに私たちが関わるのは根幹には触れない部分だけ。

 それ以上は踏み込んじゃうと、君の新しい魔術の弱点も全部知っちゃうことになるし」

「だからこそ好き放題口出せるっていうのもあるけどな」


 ソルアの方に負けないくらい和やかな雰囲気の中、時には関係のない話をしながら研究は進む。


「…どうでしょう。この魔術、完成したらシューヤさんとまともにやりあえると思います?」

「いやー……、無理じゃねえかなー」

「一発逆転でいいのが入れば、ワンチャン……?」

「え、ナギアって格闘タイプだよな?

 ……うん、手足が砕けないように頑張れよ?」

「なにそれ怖い」


 まもなく約束の13時。

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