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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第2章 風王の葬式
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第9話 認識の違い

 王都西門についてから数日。

 俺たちはまだ詰所にいた。


 やることがないわけではない。

 俺は詰所内に置かれている周辺に生息する植物や動物について書かれている本を読み漁っていた。

 知識はあるに越したことはない。


 シロはというと……。


「あ、シロちゃん。

 お菓子食べる―?」

「たべるー」

「はい、あーん」

「あーん」


 女性兵士たちと戯れていた。

 いや、餌付けされているといった方が正確なような気がする。


「シロ、あまり食べすぎると夕飯が食べられなくなるからそのあたりにしておきなさい」

「えー、けちー」

「えーじゃない。

 貴女たちも、あまりシロにお菓子を与えないでください」

「えー、小動物みたいでかわいいのに―」


 えーじゃない。


「じゃあシロちゃん、オカンがだめって言ってるからまた後でこっそりお菓子あげるね」

「うん!」

「うんじゃねえよ。

 後誰がオカンか」


 俺は完全にシロの保護者として見られるようになっていた。

 俺もシロも、こうして軽口をたたいてもらえるくらいには馴染んできた。


 それともう1つ、ここで生活するようになってからの変化がある。

 いつも通りの時間にゼルオス小隊長が現れ、俺たちに声をかける。


「ロック! シロ!

 訓練を始めるが今日も参加するか?」

「はい。

 よろしくお願いします」

「やる」


 西門の兵士が日常的に行っている訓練への参加である。

 ダメもとで参加を頼んでみたら快く承諾してくれた。

 なんでも「お前が数日鍛えたところで誰にも勝てねえだろ」とのこと。


 さすがに見返してやろうと思ったのが初日。

 訓練の半分辺りで体力が尽きてギブアップした。

 模擬戦を行った2日目。

 一度も模造剣を当てることなくボコボコにされた。


 ……。

 そういえば戦闘訓練は元の世界でも護身術程度しか受けていなかった。


 今日の訓練も模擬戦。

 俺の相手はゼルオス小隊長だった。

 小隊長の相手をするのは今日が初めてだ。


「はじめ!」

「ふっ!」


 開始と同時に気合いと共に踏み込んで槍を突き出す。

 槍はこの西門で最も使用者が多い武器らしく、それを使わせてもらっている。

 もちろん訓練用のため、刃はつぶしてある。


「ふん!」


 ゼルオスさんが得意武器の槍を横に振り払う。


「くっ!」


 たったそれだけで俺の攻撃は払われ、体勢が崩される。

 急いで立て直す。

 ゼルオス小隊長はそんな俺を待ってくれている。


 真正面からは無理。

 ならば……


「これなら!」


 足払いを仕掛ける。

 しかしそれも容易に対応される。


「甘ぇよ」


 足を狙った槍はそのままゼルオス小隊長の足に止められ、そのまま踏みつけられて動かせなくなる。

 武器を動かせなくなったまま何もできずゼルオス小隊長が振り下ろした槍の柄に頭を叩かれた。

 パッカーンとかではなく、ごす、という重い音が響く。

 

「ぐおお……」

「お前には筋力が足りてねえ。

 だから動きも遅えし、槍にも振り回されてる。

 かといって技術もねえ。

 足払いくらいで工夫したとか思ってんじゃねえよ」

「はい……」


 ボロクソの評価を受ける。


「まずは大量に飯食え。

 槍使うならある程度体ができてからだ。

 それまではナイフとか使ってた方がよさそうだな」

「わかりました。

 ありがとうございます」

「おう」


 ゼルオス小隊長は他の兵士の様子を巡回しに行ってしまった。

 ナイフか……。

 料理とかで使ったことがある分、槍よりは手に馴染むだろうか。


 そんなことを考えているとシロが近づいてきてタオルを渡してくれる。


「おつかれ」

「ああ、ありがとう」

「いつも通りボコボコだったね」

「わざわざ言わんでよろしい」


 もはや恒例となってきた会話を交わす。

 だが今日は女性兵士がシロの後について来ていた。

 シロの模擬戦の相手だろうか。

 ミレア、とその女性兵士は名乗った。


「お疲れ様ー、ロック君。

 小隊長は容赦なかったでしょー?」

「いえ、アドバイスも的確で助かってます。

 シロの様子はどうですか?」

「あ、やっぱり娘さんのことは気になる?

 シロちゃんはいい感じだよ。

 最近は自分の動きを加速することを覚えたみたい」

「ふふん。

 ミっちゃんも良かったよ」

「調子に乗らない」


 加速とは時間操作の応用だろうか。

 この訓練はシロにとってもいい影響を与えているようでなにより。

 だがいい加減真面目に訂正した方がよさそうな点が1つ。


「親子じゃないです」

「え、そうなの?

 多分この砦にいる人はほとんど親子だと思ってると思うよ」

「いやいやいや……」


 俺とシロの外見は共に20歳前後だ。

 これが親子に見えるってそんなに俺は老け顔だったか?


「どう見ても親子っていう年齢差には見えないでしょう」

「え?」

「ん?」

「む?」


 何を言ってるの?、という顔のミレアさん。


「えっと、ロック君って何歳?」

「19です」


 俺は生まれてすぐに孤児院の前に捨てられていた。

 だから年齢は正確なはずだ。

 俺の返事にミレアさんは驚愕の表情を浮かべる。


「まだ子供じゃん!

 なんでこんなところで訓練してるの!?」

「19ならもう子供っていう年でもないでしょう」


 元の世界では15歳ほどで従軍するのが一般的だった。

 そのため、19ともなれば大人として扱われていた。


「何言ってるの!

 私86歳だけど、これでもこの西門ならルーキー扱いなんだよ!」

「……は?」


 はちじゅうろくさい?

 ミレアさんの体をおもわずじろじろと見る。

 どう見ても俺やシロとそう変わらない年齢に見える。


「……ゼルオス小隊長は?」

「小隊長は確か258歳。

 あの年で小隊長に抜擢されるっていうのはかなりエリートなんだよ」

「……」


 開いた口が塞がらない。

 思考が停止する。

 何とか疑問を解消するために言葉を絞り出す。


「この世界の人たちの寿命って、どうなってるんですか?」

「寿命?」

「どれくらいの年齢になれば、年老いて亡くなるんですか?」

「? 肉体の成長はある程度になれば止まるよね?

 けがや病気、呪いで亡くなることはあっても、単に年齢を重ねたから死ぬっていうのは聞いたことないかな」


 ……。

 …………。

 この世界の人々には寿命という概念がない。

 86歳でルーキーという先程の言葉が冗談でないなら、おそらく時間の流れに対する感覚も俺とは大きく異なる。

 つまり「少しの間」が年単位の話になる可能性すらある……!

 そのことに気づいた俺はゼルオス小隊長のもとに駆け寄る。


「ゼルオス小隊長!」

「どうしたロック。

 そんな血相変えて」

「俺はあと何日で王都の中に入れますか!

 上の判断までにどれくらいの時間がかかるんですか!」

「き、急にどうした?」

「俺には時間がないんです!

 何年も待っていたら俺はそれだけで死んでしまう!」

「……どういうことだ?」


 急いで寿命の説明をする。

 ここが俺の常識が通じない異世界ということを忘れていたわけじゃない。

 ただその認識が甘かった。


「……お前の事情はわかった。

 そういうことなら少しでも早く王都に入れてもらえるように掛け合ってみる。

 それでも王都内でのお前の行動はかなり制限されることになるぞ」

「……なぜですか」


 元居た世界の平均寿命は50歳。

 この世界の特異性を知ってしまった以上、こちらの時間の流れに付き合っているわけにはいかない。

 これ以上こちらの世界の都合で時間を食うことになるのは避けたい。

  

「今王都はゴタゴタしてんだよ。

 風王の御子がお亡くなりになられて、その葬式の準備であちこち動いているからな」


 事務処理が遅れている理由はそういうことか。

 難しい表情を浮かべる俺にさらなる絶望が告げられる。


「それに俺が言ってた情報がありそうな場所。

 それは王立図書館なんだが、そこに入るには風王陛下の許可がいる。

 何らかの功績がなければそこには入れてもらえないぞ」


 今はこのゴタゴタのせいで風王陛下への謁見も難しい。

 どうするんだ?


 ゼルオス小隊長の声が遠くに聞こえた。

 

 

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