第82話 食後ティータイム
~ 光王国 レストラン『栄光亭』 ~
「へー。じゃあ、試練を受けてるのはそのナギアっていう人で、ソルアちゃんはそれについていってるんだ」
「そう。ナギアは弱いから守ってあげないとすぐに死んじゃうかも」
「偉いねえ。じゃあ、頑張らないとだ」
「むん」
食後のお茶をゆっくりと飲みながら談笑中。
量も質も兼ね備えたランチをしっかりと堪能したソルアは御満悦だった。
ルクシアの夫でもあるドルグはこのレストランの料理長。
食事が終わるとすぐにまた厨房へ戻っていった。
無口な人ではあったが、作っている料理はおいしかったので、心の中で良い人認定しておく。
「それでそのナギア君は?
今は一緒じゃないの?」
「…………あ」
サーっと顔が青ざめる。
そういえばシューヤの美味しいものという言葉に釣られたはいいが、今の今までナギアのことを忘れていた。
監視を任されながら今の今まで頭から抜け落ちていたなんて、闇王が聞いたらどんな罰が飛んでくるか分かったものではない。
「ナギアはまだ学院の研究所で捕まってるんじゃないか?」
「そーねー。なんかブライト博士にがっちり肩掴まれてたし、なんかやらかしたんじゃない?」
一応魔王かもしれないと疑われている者に対してこの態度の光王夫婦。
闇王国でのピリピリ感を知っているだけに、ちょっとテキトーすぎないかと思う。
そんなソルアの思いを光王はフンと鼻で笑う。
「あのねえ、アンタの旅の目的は別に魔王を倒すことじゃないでしょ?」
「……そうだけど、でも……」
「でもじゃないわ」
キッパリと光王はソルアの言葉を遮る。
光王はソルアの目をじっと見つめ、ソルアもそれに負けじと睨み返す。
「ソルアリシア、アンタの旅の目的は何?」
「……自分が何かを知ること。
なんであの森にいたのか、これからどうすべきかを知ること」
「そうね。そう聞いてるわ。で、それに魔王の事って関係ある?」
「……わかんない。でも……」
ソルアはどうしても魔王が気になって仕方がないことをポツリポツリと告げる。
どうにかしなければ、という焦りが隙あらば生まれてくる。
それに対し光王は顎に手を当てて考え込む。
「ふむ……。過去に魔王と何かあったか、といってもそれも覚えていないんだものねえ……」
「うん。でも私が何とかしないと……」
「はいストップ。まずその考えを改めなさい」
「む?」
ピシ、と軽くデコピンされる。
痛くはなかったがとりあえず額をおさえる。
「私、その一人で何でもやろうっていう考え嫌いなの。
少しは人を頼ることを覚えなさいっつーの」
「でも、これは私の問題だし……」
「解決方法も分かってないのに?」
「むー……」
確かに自分のことも魔王のこともどうすればいいのか分からない。
近くにいるナギアは着実に試練をクリアしていっているだけに複雑な思いもあるのだ。
「この国は世界でもっとも未知に遭遇しやすい国。
だからこそみんなお互いに補い合って暮らしてる。
『一人で何でもできる人』なんてむしろいても困るのよ」
「む? なんで?」
首を傾げる。
優秀な人はどれだけいても良いと思うのだが。
「例えばだけど、アンタが何か困った時、『何でもできる人』がいたらどうする?」
ソルアにとって『何でもできる人』と言われてぱっと頭に思い浮かぶのはナギアだ。
仕事や戦いを見てもそつなくこなしているように見える。
「その人に頼む……かな。だって何でもできるんでしょ?」
「そうね。多分私もそうする。皆もそうする。
……そしてその内、本当なら自分でもできることもその人に頼むようになるのよ」
「…………」
「時として一人の天才は百人の愚者を生む、という話ね。
それくらいなら天才なんていらない。お互いに補い合える凡人が百一人いればいい。
少なくとも私はそう思うわ」
光王の言いたいことは分かる。
ソルアも自分でできることをついついナギアに代わりにやってもらったことはいくつもある。
……そうして自分も気づかないうちに『愚者』になっていくのだろう。
「……じゃあ、私はどうしたらいいと思う?」
とはいえ話は結局そこに戻る。
今何をするべきか。
ナギアのように研究に役立てるような知識はない。
空飛ぶこの島ではこれまでのように魔獣討伐も多くはない。
「ソルアちゃんの悩みって要するに問題は分かってるけどその解き方が分からないっていう感じでしょ?
じゃあ、学院に通って勉強したらいいんじゃないかしら?」
思いがけないところ――隣に座るルクシアから思わぬ提案がされる。
「む? 学院って研究するところじゃないの?」
「学院は研究機関でもあるけど、将来の研究者を育てるための教育機関でもあるんだよ。
長い間生きてきて自分の知識を広めたいっていう人もいれば、とにかく新しいことを知りたいっていう人もいる。
教師と生徒がコロコロ入れ替わる面白い場所だからソルアでも興味を持てるものもあるんじゃないかな」
「いいんじゃない?
そうやってできることを増やしていくといいわ」
「それじゃあ……」
できることを増やすために学ぶ。
正直勉強は好きではないが、もしかしたら興味が持てるものがあるかもしれない。
この国にいる間だけだが、やるべきことが決まった。
そのことはソルアの気持ちを落ち着かせるものだった。
「……ねねね、シューヤ」
「ん? いきなり服を引っ張ってどうした?」
「私、今物凄く王様っぽかったんじゃない!?
いい感じに諭す感じで、威厳とかぶわーって感じじゃなかった!?」
「うん、今それ吹き飛んだかなー」
「そんな馬鹿な!?」
ショックを受けて机に突っ伏す光王。
本当にそういう所だと思う。
「あ、本当にいた。
……何やってるんだ?」
「お、ナギアだ。
聞いて聞いて、私、学院で勉強することにした」
「うん。……うん?
どういう流れで?」
ソルアからざっくりとした話を聞く。
ナギアとしても試練の間、ソルアの監視を継続することは難しいと思っていた。
(学院にいる間は、そこにいる人が俺の代わりに監視をしてくれる……?)
こっそりとシューヤを見れば静かにうなずくのが見えた。
どうやらそうらしい。
「いいと思うぞ。
その調子で一人で料理できるようになってくれ」
「えー。ナギアの料理美味しいのにー」
「えーじゃありません。
ところで、こちらの女性は……?」
「どうも、初めましてー。
光王ルクスピカラとシューヤの娘、ルクシアですー」
「…………むすめ」
どこかで見たような固まり方をするナギア。
復活するまでに数秒を要した。
「ほらいつまでもそこでぼーっと立ってないで座って何か頼みなさい。
後ろにいるそこの白衣マンも」
「……はっ! そうですね」
「は、白衣マン……」
「え、誰……? 後その剣何……?」
「ああ、説明してやるよ……。
お前に置いていかれた後何があったのかをなあ……」
少し暗い目をしたナギアの説明を聞きながら、少し長い昼食となった。




