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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第5章 光王の献身
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第81話 新顔ミーティング

『遺物-1893


 危険度:安全


 保管方法:遺物-1893は戦闘系遺物のレベル1保管庫に保管してください。遺物-1893を利用した実験を希望する研究者は、遺物課課長へ申請書を提出し、必ず二等以上の権限を持った研究員の同伴のうえで行うようにしてください。


 説明:遺物-1893は鞘とこれに収められた片刃の剣のセットです。近衛騎士団団長であり、協力者でもあるシューヤ・カタギリ様より、ニホントウなるものに形状が酷似しているとの指摘をいただいています。


 遺物-1893は闇王国の首都より北北西152km地点で発見された遺跡内より発掘されました。我が国の調査員が同遺跡の3階層に相当する部分で発見し、その異常な軽さから学院にて調査されることとなりました。


 遺物-1893は利用者の技量の如何に関わらず、いかなる物体をも切断することができません。どれほど柔らかい物体に対して使用したとしても、へこませることは可能であっても切れ込みが入ることすらありません。魔力を用いた調査の結果、魔力に対する応答反応が見られましたが、現在特筆すべき挙動は起きていません。


 遺物-1893は外見と重量が一致しておらず、900gです。この点については、遺物-1893を構成する物質が未知のものであることが原因であると推測されます。


 実験:三等研究員オーウェンは遺物-1893を用いて直径20cmの丸太が切断できるかどうかの実験を行いました。全力で対象の右から切りかかったところ、丸太には傷一つつかず、三等研究員オーウェンは腕のしびれを感じたとして医務室に駆け込みました。


 三等研究員メアリアは遺物-1893を用いてピンと張られた毛糸が切断できるかどうかの実験を行いました。対象の上から切りかかったところ、対象は切断されませんでした。対象には遺物-1893が接触しことによる圧迫の痕跡は見られましたが、切断と評価される現象は起きていませんでした。


 インシデント:光王ルクスピカラが「ちょうど良いものがあるじゃない! ちょっと使うわよ!」といって抜き身の状態が置かれていた遺物-1893を用いて袋に入った菓子を開封しようとする事態が発生しました。遺物-1893を用いても袋は開かず、ムキになってさらに力を入れた光王によって菓子袋は破裂。周囲にいた研究員は清掃を余儀なくされました。今後同様の事態を避けるため、研究員は遺物を用いた実験を行う際は周囲の状況に細心の注意を払うようにしてください。』






~ 学院 遺物課 課長室 ~


 ブライト博士は机を指でトントンと叩きながら突如異常な挙動を見せた【遺物】の情報を読む。

 現在部屋には申し訳なさそうな顔で縮こまっているナギアと異常事態発生時に例の【遺物】を研究していた研究員とブライト博士の3人だけ。

 例の遺物はナギアから離れた場所に丁寧に置かれている。


「何度も確認するが、本当に君は接近しただけなんだな?」


 書類から目を上げ、ナギアをジロリと見る。


「はい……。それには触れていません……よね?」

「は、はいぃ。彼の手がそれに近づくことはありましたが、直接触れるようなことはありませんでした」

「ふむ……」


 あの時【遺物】は適合者という単語を使った。

 つまりあの【遺物】を正常に起動するためには、何らかの適合する条件が必要だったというわけだ。

 年齢・性別・体格・魔力の属性……。試すべき項目は無数に上げられる。


「ブ、ブライト博士、提言がありますがよろしいですか?」

「何かね?」


 ボロボロの白衣を着た研究員が目を輝かせて手を上げる。

 どうやら行き詰っていた研究が進みそうな気配を見せ、テンションが上がっているようだ。

 既に何徹しているのだろうか。若干目が血走っている。

 まあ、この学院の研究員としては珍しくもない。


「ち、直接あの【遺物】に聞いてみるというのはどうでしょう?」

「……だそうだ。ナギア君、頼んだ」

「……分かりました」


 突如【遺物】が言葉を発してからブライト博士や研究員も何度か声をかけてみたが、応答することはなかった。

 どうやら適合者であるナギアにしか反応を示さないようだ。


「……あの、聞きたいことがあるんですけど、いいですか……?」


 剣に向かって話しかけるという何も知らない人が見ればちょっとアレな状況。

 しかし周りの二人の圧がすごい。逃げられそうにもない。


『何でしょうか、適合者(アダプター)


 ナギアが話しかけるとすぐに男性の声で応答がある。

 ブライト博士の方を見ると、続けろとでも言うように目で合図された。


「適合者っていうのはどういった基準で決められるんですか?」

『魔力属性です。空間を操ることに一定以上の適性があることが条件となります』

「それはどうやって判断しているんですか?」

(つば)の部分に周囲30cm内にある魔力の属性を自動解析する機構が備わっています。

 適合者以外の利用を禁止することが目的です。……常識ですが、もしかしてお知りでない?』

「うん?」

『いえ何でも』


 何か今ちょっと煽られたか?

 引っかかる部分を感じながらも質問を続ける。


「どうして俺以外の人の質問には答えない?」

『許可がないためです。適合者以外との応答のためには適合者の許可が必要です。

 ほらほらさっさと許可するのです』

「ナギア君、許可しろ」

「はい! 許可します!」

『許可を確認しました』


 条件反射ともいえる速度で許可した。だって怖いもん。

 許可をもらったブライト博士はニヤリと笑う。

 喋る剣などめったに見られるものではない。

 徹底的に詳らかにして丸裸にしてやらねば。


「では早速質問だ。君は何を目的として設計された?」

『その質問に答えるためには所有者(マスター)権限の許可が必要です』

「ああん?」


 いきなり出鼻をくじかれた。

 研究員も鼻息を荒くしながら質問を試みる。


「で、では、あなたが物体を切断することができないことに理由はあるんですか!?」

『その質問に答えるためには所有者(マスター)権限の許可が必要です』

「ええ……?」


 先程と全く同じ文言。がっくりと肩を落とす。

 ナギアの方を見てみるが……。


『現状、適合者は適合者であるというだけで所有者ではありません。

 適合者の許可があっても先ほどの質問に答えることはできません』


 考えを読んだらしい【遺物】に念を押される。

 頭に浮かんだ無数の疑問を舌打ちと共に消しながら、いま必要な質問をする。


「どうすればナギア君は所有者に格上げされる?」

『私が適正があると判断した時に。

 私を適合者に一定期間携帯させることを推奨します』

「ほう。なるほどなるほど……」


 ニッコリと笑ってナギアの肩に手を置く。

 逃がさないとでも言うように全力でその手に力を籠める。


「さて、ナギア君。言いたいことは分かるね?」

「……拒否権とかは」

「無いよ?

 君も試練で忙しいと思うが、この国にいる間に所有者として認められなさい」


 できなければ、どうなるか、分かってるよね?

 遺物課はこの国最大の部門。そこのトップともなればそれなりの権力を持つ。

 それこそ光王にガンをつけるくらいのことが許されるレベルには。

 試練の結果そのものの決定権限はないとしても、影響を及ぼすことは十分に可能だ。


 ナギアにもそれは分かっている。

 だからこそ何とか避けたかったのだが……。


『よろしくお願いいたします、適合者。

 せいぜい頑張るとよろしいかと』

「さっきから俺に対してだけ一言多いよなあ!?

 誰だこんな機能つけた奴!?」

『その質問に答えるためには所有者(マスター)権限の許可が必要です』


 へし折ってやろうかこの剣。

 いや駄目だ。そんなことすれば博士にへし折られる。


「博士、吾輩もナギア殿について近くで観察することを希望いたします!」


 研究員が右手をピンと上げて志願する。

 そういえばこの人、この部屋に入ってから一度たりとも視線を【遺物】から外していない。

 ちょっと怖い。


「……そうだな、君が直近でこの遺物の研究をしていたんだものな。

 許可する。ただしできるだけつぶさにレポートを提出すること。

 ……ええと、君は……」

「アーレント二等研究員です! 感謝しますブライト博士!

 さ、早速ですがナギア殿、ちょっとその【遺物】を舐めてもらってもよろしいですか!?

 粘膜接触によって何か変化が起きるやもしれません!!!!」

「初対面でこういうこと言いたくないですけど、さてはお前やべーやつだな!?」


 仲間に 研究員アーレントが 加わった!







~ 光王国 王都マルクス 2番街 ~


 一方、ナギアを置いて食事に向かった一行。


「で、美味しいものが食べられるっていうお店はどこ?」

「まあ待て。あと少しで着くから」

「むー」


 【動く歩道】に運ばれながらくつろいでいた。

 ちなみに光王はまだシューヤに抱っこされている。

 すれ違う人が一瞬だけ見て「ああ、またか……」みたいな顔になるのが見ていて面白い。


「ほら、着いたぞ。ここだ」

「む」


 着いたのはどこにでもあるような栄光亭という名前の食堂だった。

 王が行くような店というだけに豪華なものを期待していただけにちょっとがっくり。


「高級料理……じゃない……」

「ははは。生憎そういうのには縁がなくてね……。

 味は保証するよ。それに、ここは値段の割に量が多いって評判がいいんだ」

「むう。なら許す」


 入り口をくぐると時間帯のせいか、中はにぎわっていた。

 普段なら案内のために店員が来てくれるが、それすら来ない。


「やっぱ混んでるな……。

 おーい、ルクシアー?」

「んー? 私の名前を呼ぶのは誰……って、ああ」

「や、相変わらず人気だねえ。ところで……」

「はいはい、いつもの席ね。先に行ってて」

「ありがと」


 店の奥から金髪の女性が出てくる。

 シューヤと親しげに話していたが、少しやり取りをするとまたすぐに奥に戻っていった。

 よほど忙しいらしい。


「ソルア、付いて来てくれ」

「……いいの? 席空いてる?」

「ここはいつも1席確保してもらってるんだ。だから大丈夫」

「へー」


 案内された席は隅の方にあり、4人分の席が用意されていた。

 シューヤはその内の一席に光王を下ろし、自身はその横に座る。

 

「好きなところに座って待っていよう」

「分かった」


 座って窓の外を見れば多くの人が行きかっている。

 家の中に引きこもっている人が多かった闇王国に比べ、明るい雰囲気が満ちている。

 この店もよほど人気なのか、外にまで列ができている。

 

「この店すごい人気。よく席とってもらえてるね。これも王様特権?」

「いや、そんなもんじゃないよ。もっと単純な話」

「お待たせー」

「む?」


 頭の上に「?」を浮かべていると先ほどの女性がやってきた。

 そしてそのまま流れるようにソルアの隣の席に座る。


「……え?」

「ああ、紹介するよ。

 こちらはルクシア。俺とルーの娘」

「はじめましてー。ルクシアです」

「…………むすめ」


 ちょっと頭がフリーズした。

 いや、子供がいたとは聞いていた。孫もいるとは聞いていた。

 だがまさか食堂で働いてるとは思わないではないか。


「じゃあ席を取ってもらってるのって……」

「そ。たまに家族団らんということでここで娘夫婦とご飯食べてるんだ」

「なるほどー」


 納得。

 ふむふむと頷く。


「で、パパ。この子は? 隠し子?」

「ぶっ!?」


 口に含んでいた水を吹き出すシューヤ。

 一体娘にどのように思われているのか一回聞いた方がいいのだろうか。


「違う違う違う!

 試練の話は聞いたことあるだろ!?」

「そう。それに私は子供じゃない」

「えー? ほんとー?

 だってこの子の金色の瞳、これって光属性の人の特徴じゃない」


 瞳や髪の色は属性を現すことが多い。

 それゆえに外見から属性を判断することも可能だ。


「ルクシア、よく見なさい。

 ソルアの瞳は私たちの瞳より少し色が薄いでしょ。

 時属性は位置的に光属性に近いからそう見えるだけよ」

「ん? どれどれ……。あ、ホントだ。

 よく分かったね、ママ」

「ふふん」


 光王は感心したような目を向けられてうれしそうな顔をする。


「ま、後の話は食べながらにしよう。ドルグは?」

「旦那なら料理と一緒に来ると思うわ。

 ソルアちゃん、お子様ランチで良かった?」

「だから、子供じゃないんだってば……」


 頭を撫でられながらも否定するが、多分聞いてない。

 そういう所は母親そっくりだと思った。

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