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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第5章 光王の献身
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第80話 遺物リサーチ

~ 光王国 学院『解呪課』 大施術室1 ~


「せっかく学院に来たんだし、【遺物】研究がどんな感じか一回見てもらおうか」


 シューヤのこの一言で学院最大規模を誇る課『遺物課』へ行くことに。

 これまで何度もあったようにナギア達はシューヤの後ろについていこうとする。


「いや、ちょっと待とうか」


 まさに歩こうとするその瞬間、シューヤが止まる。

 何事かと思えば、こちらを振り返ったシューヤはソルアの方をじっと見て悩むような表情を浮かべている。


「ソルア、今日はこの学院の競技場で近衛騎士が戦闘訓練やってるんだけど、君はそっちの方が楽しいんじゃないか?」

「む」


 戦闘訓練という言葉を聞いてソルアが反応する。

 火王国での裏闘技塔の経験が、一人のバトルジャンキーを産んでいた。


「こっちに来てから体も動かせていないだろうし、そろそろパーッと運動したいんじゃないか?」


 シューヤの提案は願ってもない話だ。

 この国の近衛騎士ともなればかなり高いレベルが期待できる。

 闇王国でアスディルと別れて以降、孤児院で働くのも楽しかったが、どこか物足りなさも感じていたのだ。


 しかし。


「…………行かない。ナギアと一緒に行く」

「そうか? それならまあいいけどさ」


 闇王国でカロスに言われたことが忘れられない。

 ナギアは魔王側の人間かもしれない。

 光王国全体の魔王に対する姿勢からはまともなナギアの監視を期待することも難しい。

 であれば、ナギアから目を離すわけにはいかない。


(……でも、どうして、私はここまで魔王を警戒してるんだっけ……?)


 カロスや闇王に言われただけというだけにしては胸が騒ぐ。

 しかし、この時にはその原因をどれだけ考えても分からなかった。








~ 学院 『解呪課』の渡り廊下へ続く道 ~


 学院はいくつかの課に分かれており、各課ごとに広大な施設が与えられている。

 それを結ぶのが、蜘蛛の巣のように張り巡らされた渡り廊下である。

 噂によれば、この学院に入る者が一番に覚えるべきなのは、この渡り廊下がどこへ向かうのかという事とかなんとか。


 とはいえそこは勝手知ったるシューヤ。

 ナギア達はその後ろについていくだけで目的地につくことができるだろう。

 ソルアは元から道を覚える気などなく、物珍しそうにあたりを見回しながらヒョコヒョコと付いて来ている。

 たまに振り返って付いて来ているかどうか確かめないとあっという間に迷子になりそうだ。


 その道行の途中。


「…………うわ」

「…………はあ」

「む?」


 ナギアが立ち止まり、シューヤがため息をつく。

 『解呪課研究室』と書かれた大きな扉の前。

 そこに膝を抱えて丸くなっている光王ルクスピカラさんの姿がそこにあった。

 ご丁寧に『反省中 エサを与えないでください』と書かれた立札が首にかかっている。


「あれ、何?」


 少し距離をとり、あれといわれたものを指さしながらソルアが尋ねる。


「多分研究室内でもごねにごねて追い出されたうちの奥さんじゃないかな……」

「どう対応すべきだと思いますか?」

「① 声をかける

 ② 無視して通り過ぎる」

「②を選んだ場合は?」

「キレて飛び掛かってくるんじゃないかな?」

「………………①で」


 苦渋の決断だった。

 シューヤが困った笑顔を浮かべて小さくなった光王の方へ近づく。


「ルー、そんなところで拗ねてないでナギア達の学院案内に行こう?」

「…………」

「ナギア達もルーの遺物講座とか聞きたいと思ってるぞ?」


 優しく声をかける光王の夫。


「いや、別に?」

「黙ってろ。ややこしくするな」

「むー!」


 その後ろでソルアの口を雑に手でふさぐナギア。


「この国で一番長く遺物に関わってきたんだ。知識量ならだれにも負けないだろ?

 そんなルーの姿を見たらナギア達も見直すんじゃないかな」

「…………ん」


 光王は無言で両腕をシューヤの方に伸ばす。

 シューヤはそのまま光王を抱きかかえ、背中を優しくたたく。

 どうやら説得には成功したらしい。


「これで良し、と。

 すまんね。じゃあ改めて行こうか」


 そう言って光王を抱えたまま歩き出すシューヤ。

 なんだか見ていて顔が熱くなるような光景だった。

 ふと横を見ればソルアがこちらに両腕を伸ばしている。


「ん」


 どうやら同じことをしろということらしい。

 期待に光るソルアの肩ににこやかな顔を浮かべて手を置く。


「やだよ。重いし」

「……ふんっ!」

「痛ってえ!」


 全力で脛を蹴られた。


 


 

 


~ 学院 『遺物課』入口 ~


 複雑な渡り廊下を何度かわたってようやくナギア達は『遺物課』に到着した。

 途中、ソルアがふらっと何処かへ行きそうになるのを止めるのが大変だった。


 そんな『遺物課』の入口にはシューヤから話が通っていたのか、一人の男が待ち構えていた。


「げっ、ブライト博士……」


 その顔を見た瞬間、ばつが悪そうな表情になる光王。

 どうやらここでも色々とやらかしているらしい。


「お待ちしておりましたよ。陛下に殿下。それと研究協力者。

 僕はブライト。この国の数ある研究者の一人で、『遺物課』の長でもある」


 互いに軽く自己紹介を済ませる。

 神経質そうに見えるブライトの目は、光王から外れることはなかった。

 よほど警戒されているらしい。


「今回は【遺物】研究がどのようなものか見学したいとのことで。

 僕としても協力者が増えることは嬉しく思う。是非とも学問の発展に寄与してほしい。

 だが陛下。テメーはダメだ」

「なんでよー。いいじゃない。今日は何も壊したりしないからー」

「そうそう。今回はしっかり俺がついてるからさ。

 ちょっと見たら帰るから」

「……まあ、殿下がいるなら。

 その代わり、ちゃんとしっかり監視しててくださいよ」


 渋々といった感じで了承するブライト博士。

 一体ここで何やらかしたんだ。


「じゃあ早速中に、と言いたいところだが」


 突如ブライトがナギアとソルアの肩をがっしりと掴む。

 二人の身長差がかなりあるため、何とも不格好になってしまった。

 しかし、その顔には鬼気迫るものがあった。


「入る前に君たちはやらなければならないことがある」

「……なんでしょう」


 その真剣な表情に思わずつばを飲み込む。

 忘れてはならないがここは国内でも最高峰の頭脳が集結する場所。

 まさかここに入るのにも試練がいるというのだろうか。


「復唱するんだ。『何もしてないのに壊れた』はありえない、と」

「……はい?」

「『何もしてないのに壊れた』はありえないー」


 ちょっと何言ってるか分からなかったナギアと素直なソルア。

 ブライト博士はそんなソルアに相好を崩す。


「素晴らしい。素直なお嬢さんだ。後でお菓子をあげよう」

「!? やった!」

「どうしたナギア君。早く言いたまえ。

 『何もしてないのに壊れた』はありえない、と」

「……『何もしてないのに壊れた』はありえない」

「よろしい。

 ……陛下は、今更言わなくても、分かるよな?」

「………………はい」


 もはや睨むを通り越して瞳孔が開いた目で見るブライト博士と目を逸らす光王。

 どうやら心当たりがあるらしい。


「ならば良し。

 頼みましたよ、殿下」

「ああ、任せてくれ。

 この通りしっかり捕まえておくから」


 しっかりと光王を抱き直す。

 ブライト博士がその様子を見て特に何も言わないあたり、この国では特に珍しい光景でもないのかもしれない。


「……俺もお前を捕まえておいた方がいいのかもしれない」

「何か言った?」

「いえ何でもないです」


 口から漏れた一言を聞き逃さなかったソルアに睨まれつつ、『遺物課』に入った。







~ 学院 『遺物課』 ~


「ここには全国から発見された【遺物】が集められる。

 そこで僕たち研究者がどういう性質を持っているのか、危険性がないかとか言ったことを研究してるということだ」


 ブライト博士の説明を聞きながら広い空間を進む。

 壁や天井をよく見れば対毒、対衝撃、対腐食などあらゆる防壁魔術の魔法陣が見える。


「もちろん事故はないのが一番だが、予期せぬ動作をすることもあるからここの造りはとにかく避難のしやすさと作り直しやすさを重視してる。

 君たちも何か異常事態が起こったら真っ直ぐ今入ってきた入口に向かって走れ。分かったな?」

「はーい」


 現在もだだっ広い空間で見たこともないような形状をした【遺物】の研究が進められている。

 誰もかれもが光王を見た瞬間一瞬だけ顔を顰めるのが何とも言えない。


「【遺物】は3つの危険度に分かれて分類されるんだが、まあその辺の詳しい話はあとにしよう。

 今日見てもらうのは危険度がほぼないと判断されたこれだ」


 そう言って見せられたのは真っ白な薄い楕円のものが2つだった。

 一見しただけでは特に異常なところは見られない。


「これも【遺物】?」

「そうだ。数日前に発見されたここに運ばれた。

 異常性は見られるが、危険性はないと判断されてるからそんなに警戒しなくても大丈夫だ。

 後は、この異常性の原理が解明できれば研究は終わりだ」

「異常性……」


 ソルアが机に置かれた【遺物】の周りをぐるぐると回りながら観察する。

 上下左右、あちこちから見て……。


「あ」

「何か見つかったか?」

「これ、ちょっと浮いてる」


 そう言われて【遺物】を下から覗くと、確かに少し浮いていた。

 正確に言うと、3mmくらい。


「魔術……じゃないな。

 魔法陣も見当たらないし、魔力が流れてる様子もない。

 いや、内部に陣が刻印されてる可能性が……?」

「それは僕も考えて内部を透視してみた所、金属でできた何かがまるで魔法陣のように張り巡らされていた。

 だが魔力反応は見られなかったから、浮いているのは魔術によるものではないのは確かだ」

「ふむ……」


 魔術を使うわけでもないのに魔法陣のようなものが張り巡らされている。

 それが【遺物】を浮かせているのだろうが……。


「今の所、殿下の故郷にあったという機械ではないかと考えている。

 殿下、このような機械を見たことは? あと、その構造とかもわかれば是非」

「んー。どれどれ……」


 そう言ってシューヤは光王を抱きかかえたまま【遺物】を観察し始める。

 軽く叩いたりしてみたり、持ち上げたりしてみて何やら考えているみたいだが……。


「いや、こんな機械は見たこともないな……。

 まあ、たとえ分かったとしてもその原理とか構造までは俺には分からないんだけどな」

「何度聞いても不思議ですよね……。

 用途が分かっているのに、その原理を理解しておられないとは……」

「んー……。流石に作った人は分かってはいるんだよ。

 ただ、それを使うだけの俺らはそれを理解する必要がなかったというか……」

「はあ……」


 異世界の文化を理解するのは難しい。

 基本的に常識を捨てて「そういうもの」と考えた方がいい。

 それが多くの異世界人とかかわってきたナギアの結論だった。

 

「機械なら俺も少し聞いたことがありますけど……」


 ナギアが呟く。

 召喚した仲間の中にそういうものを使う者が一人いたのを思い出した。


「ほう! それで、魔道具ではなく機械という観点から何かわかることはあるかね?」


 途端に目を輝かせるブライト博士。

 研究者としての血が騒ぐらしい。


「いえ……。

 結局何言ってるか分からなかったというか、魔術とは原理が違いすぎるというか……」

「そうか……」


 がっくりと肩を落とす。

 協力できないのは心苦しいが、その機械を使っていた異世界人もチンプンカンプンだったらしいため、どうしようもない。


「殿下、確認ですけど、機械というものはこちらから何かしない限り、何か異常な挙動をしたりはしないんですよね?」

「そのはずだ。

 中には自律判断するものもあるらしいけど、これはそんな感じじゃないしな。

 ただ浮かんでるだけだし」

「承知しました。

 それではこれの調査は終了ということで」

「おつかれー!」


 途中から飽きていたソルアが元気な声をあげる。

 もう帰れると思って復活したらしい。

 シューヤにずっと捕まっていた光王も同じなのか、もぞもぞと動き出す。


「終わった? 終わったわね!?

 よし、じゃあ次はもっと派手なの見に行きましょう!」

「動くな喋るな降りようとするな。

 殿下、そのままさば折りとかできません?」

「…………はい。大人しくしてます」


 ナギアとしてももう少し見ていたいが、そろそろいい時間になっている。

 これ以上いても邪魔になるだけかもしれない。


「今日の所はもう帰ろうか。

 美味しいものが食べられる店を知ってるんだ。そこへ行こう」


 シューヤも同じ考えだったらしく、光王をそう言って宥める。

 美味しいと聞いてソルアもワクワクとシューヤの後ろの後についていく。

 ブライト博士にお礼を言って、ナギアもその後ろについていこうとした。


 その時。

 すぐ横の机で調査してされていた【遺物】と偶然距離が近くなった。

 ただそれだけである。


『適合者の接近を確認。起動プロセスを開始します。

 ……起動完了。おはようございます、適合者』


 【遺物】が唐突にしゃべった。

 思わず固まったナギアの肩にブライト博士が手を置く。


「…………何をした?」

「…………信じてもらえないとは思いますが、一応言ってみてもいいですか?」

「…………言ってみろ」


 ブライト博士の手に力が入る。

 まさにその【遺物】を調査していた研究員がおろおろとしている。


「『何もしていないのに』こうなりました」

「よし。ちょっとお前奥に来い。話がある」

「助けてソルア!

 陛下、今こそ権限を濫用する時では!?」

「ねえシューヤ、美味しいものって何ー?」

「駄目だあいつもう聞いてねえ!」


 研究所の奥深くに引きずられていくナギアの悲鳴が響いた。

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