第79話 呪いリリース
~学院 解呪課~
光王国の象徴ともいえる場所、学院。
複数の課からなるその施設には毎年莫大な予算が投じられ、日夜世界の発展のために研鑽を積み上げている。
ナギア達は複数ある課のうち呪いの類を扱う『解呪課』にいた。
光王に指示されるまま右腕の封印を外す。
「うっわ。気持ち悪ぅ……」
ミイラのように黒く干からび、腐ったような臭いを発している腕を見ながら光王が一言。
右腕は封印を外した瞬間から辺りに呪いをまき散らそうとするが、光王がしっかりと右腕を覆うように光の膜を作って呪いの拡散を抑えている。
「闇王は光王なら何とかできると言っていましたが、実際どうですか?」
「はっ。余裕よ。なめんじゃないわよ」
ナギアは呪いにかかって初めて呪いについて調べてみた。
幸い闇王国には呪いに関わる文献は多くあったため、調査に苦労することはなかった。
だからこそ呪いというものはかけるよりも解く方が難しいということはよく知っている。
呪いは人の思いから生ずる。
思うことは容易くとも、それを昇華させることが難しいのと一緒だ。
「よし。じゃあ施術を始めるわ。
そこで見学してる皆も良く見てなさーい」
気合いを入れ、光王は施術室の片隅に固まっているグループに声をかける。
そう。光王は自身のアピールとして解呪課の研究員のほとんどを集め、解呪の様子をレクチャーしようとしていた。
自分の不手際が原因とはいえ、まさか大勢に注目されながら解呪することになるとは思ってもいなかった。
「こういうのって専門家に任せるのがやっぱり一番だと思うんですけど」
「うっさいわねー。私だってこういうのは何回もやってきてるんだから大丈夫よ。
……最後にやったの何年前か忘れたけど」
「チェンジ! チェンジを要請します!」
すがるようにシューヤの方を見るが、肩をすくめるだけで助け舟を出してくれる様子はない。
「大体こういうのって何かしら魔道具とか用意してやるもんですよね!? なんで何もないんですか!?
先に行って準備してるんじゃなかったんですか!?」
「準備ならしっかりしたわよ?
私が目立つための舞台づくりという準備がね!
王様命令で解呪課の研究員全員ここに集めてやったわ!」
「どおりで無駄に広い部屋だなと思ったよチクショウ!」
現在、ナギアは体育館ほどの広い空間の中心にぽつんと置かれた椅子に座らされている。
部屋も椅子も全部光王が自分で用意した。
だって誰も手伝ってくれなかったし。
「すぐに終わらせてあげるわ」
おもむろにナギアの右腕をがっしりと掴む光王。
呪いは獲物を見つけたと言わんばかりの勢いで光王をも侵そうとする。
光王の右手が黒ずみ始める。
「ちょっ……」
展開についていけず驚きの声をあげるナギア。
呪いは触れたとこから光王の腕をも黒く染め上げようとするが……。
「うん? あー、はいはい。そういう感じね。
それならこうして、こうするとー……」
這い上がってくる黒に焦ることもなく探るように己の魔力を走らせる。
細い糸のようなものが腕の中を駆け巡るこそばゆい感覚。
黒の浸食が止まる。
「ここまで来たら今度はこうして……。
で、あとはガッと勢いで押し流して……」
光王から漏れる白光と黒が拮抗したのは一瞬。
コツを掴んだらしい白はあっという間に黒を押し返し、まずは光王の体から完全に黒を排除する。
「ふんふんふーん。ここまでくれば後は余裕よねー。
はい、呪いの源はっけーん。……ほいっと」
鼻歌交じりに白は黒を押し返す。
そして小さな掛け声と共にナギアの腕の一点にポッと光がともる。
その光が収まるころにはナギアの腕からも呪いは完全に消え去っていた。
時間にして僅か数秒。
これまで味わった苦労が何だったのかと思えるほどのあっさり感。
「はい終わりー。
流石ルクスピカラさん! ここまで完璧にできるなんてみんなのお手本になっちゃうわー」
容易く行われたように見えるが実際に光王の実力は本物だった。
もし普通の解呪士が同じことをやろうと思えば数日がかりでほんの数秒で実現しているのだから。
賞賛の言葉が早く来ないかとにチラチラと研究者たちの方を見る光王。
しかし……。
「陛下の方法は感覚的過ぎて誰も真似できないんですよ」
解呪課のトップである白衣の男性の目は呆れかえっていた。
「? こうガッとやって、ふわ~って感じで、あとはドーンよ?」
「呪性情報の解析、対抗術式の構成・発動、被浸食箇所の復元……。
数十にもわたる工程をそれで説明できているとお思いですか?」
「……」
「で、確かこれ前にも言いましたよね?」
「……そーだっけ?」
解呪課のトップはやれやれとため息をつく。
6年前にも同じようなことがあって、同じようなことを言ったはずなのだが。
「はい解散。かいさーん。おつかれっしたー」
「ちょっ! ちょっと待って! 待ってー!」
研究者たちは去り、光王もそれを追って行ってしまった。
残されたナギアの肩にシューヤが手を置く。
「大体うちはいつもこんな感じだからよろしくな」
「賑やかですね……」
久しぶりに本来の色に戻った右腕を見る。
光王も他の王と同じく、規格外の力を持っているということが分かった。
ただナギアとしてもう少し静かな環境の方が良い。




