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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第5章 光王の献身
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第78話 お悩みボックス

 光王国におけるナギアの試練。

 それは光王の人気――もとい信仰の回復。

 成功すれば4つ目の試練成功の証が、失敗すれば光王国の墜落を招く……かもしれない。


「しかしルーさんや。

 この国に来ても間もないナギア達に信仰集めって言っても難しくないか?」


 シューヤから当然の疑問が出る。

 まさか毎日街宣して光王の良いところを言って回るわけにもいくまい。

 そんな疑問に対しても光王は自信満々の表情を崩さない。


「もちろんその辺は考えてるわ!

 アンタ達がこの国に来てすぐに動けるように準備はしてあるのよ。

 ……それがこれよ!!」


 そう言って机の上に勢いよく置いたのは程よい大きさの箱。

 箱の前面には『お悩みボックス』とでかでかと書かれている。

 もう何度目か分からない思考停止に陥るナギア達。


「……何これ」

「え? 書いてある通りだけど。

 ここに入ってる国民のお悩みを私とナギア達が解決するのよ。

 そうすれば私のありがたさが分かって『流石光王様!』とか『頼りになります!』とか『スタイル良くて美人ですね!』とか言われたりするのよ?」

「……やべえ。うちの奥さんめっちゃ安直単純バカだった」

「何よ。もうあちこちに計1000箱くらい設置しちゃったから今更やらないとかはないわよ?」

「そのくせ行動力だけはあるんだもんなあ!」


 実の所そのうちのいくつかは不審物として撤去されているため残っているのは1000箱もない。

 何とも優秀かつ迅速な対応だった。


「この島が他の島と合流次第、この箱を回収して良さげな奴を選別して行動開始するわ!

 くっくっく……。これで私の人気は最高潮……。

 今から笑いが止まらないわね……」


 光王は一人静かに悪役のような笑みを浮かべる。


「……誰も光王に相談していないに1票」

「……シーッ。それは言っちゃだめだ」

「なんか本当にすまんね……」







 試練の内容も明らかになったところでひとまずお茶でも飲みながら……と改めて席についた4人。

 ちなみにお茶は光王自ら淹れた。

 何でも「暇すぎて色んな事に手を出してたらなんか凝り始めちゃった」とのこと。

 その言葉通り今まで飲んだものと同じ茶葉が使われているとは思えないクオリティだった。


「ところでさ」


 お茶よりもお茶菓子の方に何度も手が伸びているソルアが光王に尋ねる。


「魔王は良いの?

 こっちに来てから試練の話しかしてない気がするけど」


 ナギアのお茶を口に運ぶ手が一瞬止まる。

 魔王側ではないかという疑いがかけられているソルア。

 まさか彼女の口から魔王の話が出てくるとは予想していなかった。

 ……決して目の前のお菓子に気を取られているからとかではなく。いや本当に。


「ん? ああ、魔王ねえ……。

 アンタ達がクロアからどんな風に聞かされたかは知らないけど、私としてはまだいいかなーって感じ」

「そうなんですか?」


 闇王国で魔王という言葉を聞いた時の周囲の衝撃っぷりを思い出せば、魔王の出現はかなりの大事件のように思えた。

 それがここでは放置しててもいいというのはどういうことか。


「魔王を名乗る者。

 それが現れたのは別に今回が初めてじゃないわ。

 過去にわたって何度も、今の体制に反発する者が魔王を名乗って色んなことをしてきているのよ」

「……初耳でした」

「そりゃそうよ。

 最後に魔王が現れたのなんて今から900年位前のことだもの。

 古い記録とかになら載ってるだろうけど、今じゃどの国でも奥深くに埋もれてるだろうし」


 光王も800……もといかなり長い時間を生きてきたが、魔王という者を直接見たことはない。

 あくまで記録上、警戒すべき者として頭の片隅に止めているくらいだ。


「じゃあ何で闇王はあそこまでピリピリしてたの?」

「あー……それは……」


 珍しく言いよどむ光王。

 シューヤもある程度は聞かされているのか、黙ってカップを傾けることに努めている。


「うーん……隠しても仕方ないしなー。ま、いっか。

 クロアがあそこまで警戒してるのは、前回の魔王が闇王国の出身だったからよ。

 『堕落の魔王』と呼ばれたそいつは多くの命を永遠の眠りにつかせることで多くの被害を出したと言われてるわ」


 記録では最終的にクロアネロンから数えて2代前の闇王によって討伐されたとされている。

 しかし同時に闇王自身も呪いに侵され、次代に継承せざるを得なくなった。


「前回の魔王の時に一番大きな被害が出たのが闇王国なのよ。

 だから今度はっていう風に思ってるんじゃない?

 あの子、なんだかんだで責任感あるし。……性格は悪いけど」


 大半はくだらない嫌がらせとその仕返しに繰り返しではあるが、闇王と光王の交流は長い。

 世界広しといえども、闇王を指して「あの子」といえるのは光王だけだろう。


「呪いといえば、そういえばアンタ腕治さないといけないじゃない」

「……そういえばそうでした。

 結構長い間この状態だったのですっかり慣れてました」

「放置していいこともないし、さっさとやっちゃいましょうか。

 じゃあ早速処置室に……ってうん?」


 光王の顔の横に光のパネルが現れる。

 ちょうど闇王国でシューヤが通信につかってきたものと同じ物だ。

 どうやら今回は文書で何か伝達があったらしく、光王の目がパネルの上を滑る。


「あーはいはい。ナギア達の荷物ね。そういや忘れてたわ。

 アンタ達、闇王国に置いてきた荷物が届いたみたいだから先に取ってきなさい。

 場所はアンタ達がこの国に来た時と同じ場所……【動く歩道】に乗っていけば勝手につくわ」

「ついでに2人がこれから生活する場所に荷物置きに行くか。

 案内するから俺も一緒に行くよ」

「りょーかーい。

 じゃあ私は先に処置室に行ってるから。

 シューヤ、学院の解呪課まで連れて来てねー」

「はいよー。

 じゃ、行こうか」


 あっという間に話が進みナギア達はシューヤについていくことに。

 【動く歩道】に運ばれること約10分。

 ナギア達は元居た場所に戻ってきた。

 ちなみにその間、ソルアは動く歩道を逆走したり流れに乗って走ったりしていて遊んでいた。


「荷物はー……お、あったあった。

 俺は入口で待ってるから、忘れ物とかないように気を付けろよー?」

「はーい」

「ありがとうございます。

 量もそんなに多くないのですぐに戻ってきます」


 建物の中に入ると【天の階】の上にナギアとソルアの荷物がまとめて置かれていた。

 それぞれの荷物を持ち上げて戻ろうとすると……。


「!? むー!」

「ん? どうした……って、ああ、鞄の底が破けてるな」

「……ショック。お気に入りだったのに」


 風王国で購入してから長い間使用したためか、ソルアの鞄の底から荷物が零れ落ちていた。

 わたわたと拾い集めて胸に抱え込んだところで、ナギアの方をじっと見る。


「これどうしよう」

「……『リバース』で鞄の状態を戻せばいいんじゃないか?」

「なるほどー」


 ソルアは鞄に指先を向け、時間を逆行させる魔術を発動させる。

 するとあら不思議。ボロボロだった鞄がまるで新品のように。


「便利だよなその魔術……」

「そうでもない。元の形が正確に分からないとちゃんと戻らない」

「そうなのか」

「うん。孤児院で高そうな花瓶を割っちゃったときとか…………なんでもない」

「本当か!? 本当に何でもないんだよな!?」


 どこで何をしでかしているか分からない。

 それがソルア。


「むう。……よし詰め終わった。行こっか」

「大体お前は物をパンパンに詰めすぎなんだよ。

 もう少し大きい鞄を買うとか、いらないものはちゃんと捨てるとか……」

「うーるーさーいー。

 そんなんだからオカンとか言われるんだよ」

「はいはい。

 ちゃんと全部拾ったか? 拾い忘れとかないだろうな?」

「なーいーでーすー。

 ……先行ってるから!」


 大きな鞄を抱えて先に行ってしまった。

 その背中を見送り、一応最後に広い忘れがないかチェックする。


「……うん?」


 何か小さなものが転がっているのが見える。

 位置的にもソルアの鞄から零れ落ちたものに違いなさそうだ。


「やっぱりまだあるじゃないか……まったく……」


 ぼやきながらも落ちているそれを拾い上げる。

 それはどす黒い色をした奇妙な形の結晶だった。

 結晶の中にはもやの様なものが渦巻いている。


「これは、闇王国で手に入れた夢の結晶?」


 自分のものとは色も形も大きく違う。

 ソルアがあの国で夢を誰かから買ったという話は聞いていない。


「…………」


 ナギアは建物から出た。








「お、二人とも来たな。

 ちゃんと確認してきたか?」

「うん。ナギアも、もう落ちてるものなんてなかったでしょ?」

「……ああ。()()()()()()

「ふふん」

「よしじゃあ行くか!」

「おー」

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