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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第5章 光王の献身
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第76話 円盤フライング

「いい加減、話を進めるわよ」


 闇王の一言でハッとした表情を浮かべる光王夫妻。

 ようやく王国全土に夫婦喧嘩をライブ中継し続けていることに気付いたらしい。


「通話でも伝えたけど、こっちの用件はナギア君の治療、試練の続行、あとは魔王に関する情報の伝達よ。

 私としてはさっさと引き取ってほしいのだけど」

「人を厄介者みたいに言うの止めません?」


 ナギアの抗議は黙殺された。

 ソルアが肩に手を置いて慰めてくれるが、闇王にとっての厄介者にソルアが含まれていることは多分気付いていない。


『言われなくても分かってますぅ―!

 【天の階】今から送るから待ってなさい!』


 そういうと光王は画面を外れてどこかへ向かう。

 残されたシューヤはやれやれといった表情でそれを見送る。






「……相変わらずうるさいやつね。

 貴方の苦労が偲ばれるわ、シューヤ」

『は、ははは……。

 慣れれば楽しいもんですよ。

 それに最近良い事があったんで舞い上がってるんでしょう』

「ああ、初孫が生まれたとか言ってたわね。

 私からもお祝いを言っておくわ」


 『初孫』という単語を聞いてナギアはぎょっとした表情で空に浮かぶ画面を見る。

 画面に映るシューヤは自分と同じくらいの年齢にしか見えない。

 この世界に来てからもうすぐ1年が経過しようとしているが、いまだに外見と年齢のギャップには戸惑うばかりだった。


 それを目敏く見ていたのもシューヤだった。


『あー……。その顔な、分かる分かる。

 俺もまさか自分が400年超えて生きることになるとは思わなかったからな』

「……もしかして、殿下も異世界の出身者なのですか?」

『ああ。俺はこことは別の世界の地球っていう星の生まれなんだ。

 その世界なら100歳まで生きれば大往生、って感じだったからな。

 慣れるまでは君と同じような反応繰り返してたよ』


 そう言ってニヤッと笑う。

 王族ではあるのだろうが、とても親近感がもてる印象だった。


「ていうか」

『うん?』


 会話に置いていかれていたソルアが声をあげる。


「初孫ってことは、光王との間に子供いるんだ」

『お? おう。

 男2人、女3人の5人だな』

「……変態?」


 光王は異様に長い髪を除けばその体躯は幼い子供のそれと変わりない。

 正直髪を切って子供の集団の中に放り込んでも何の違和感もない。

 そういう者との間に子供がいる。

 つまりは、そういうことである。

 シューヤを見るソルアの目は、極寒のそれであった。


(いや、お前も似たようなもんだけどな……?)


 空を睨みつける小柄なソルアに対しナギアは微妙な視線を向けつつもあえて何も言わない。

 ソルアは子供扱いされることを嫌う。

 指摘しようものなら、最大限まで加速された何かに襲われる。


『いやいやいやいや、勘違いすんな。

 あいつは見た目があんなんでも実年齢は俺よりずっと上の8ぴゃくぶげらぁっ!?』


 シューヤは言葉の途中で飛び込んできた小さな金色の塊に吹っ飛ばされて画面外に消えていった。

 言うまでもなく光王ルクスピカラその人である。


『シュゥーヤァー?

 世界が変わろうとも女性の年齢を暴露しようとするやつは殺していいっていうルールは知らないのかしら?』

『オーケー分かった謝罪する!

 謝るからとりあえずその手に持ったものを下ろせ!』


 フーッと毛を逆立たせる光王を宥めにかかるシューヤ。

 だんだん慣れてきたナギア達は死んだ目で空を見上げていた。


『つーか、【天の階】の起動はどうした?』

『思ってた場所に起動式がなかったからどこにあるのか聞きに帰ってきたわ!』

『は? いや、確かあれなら第4セクターだろ?』

『あれ? 第2じゃなくて?』

『あーもう、一緒に行くぞ。

 ……というわけで、あともう少し待っててくれ』


 そう言って今度は2人とも画面から消える。

 それを見て闇王はふう、とため息をつく。


「あのテンション、うちの国にはない感じだから疲れるのよねえ。

 画面越しであれなんだから、直に会ったらもっとすごいわよ」

「でもあれならソルアはすごく仲良くなれそうですね」

「ナギア、それどういう意味?」


 精神レベルが似ているから。

 思っても言わないのが優しさである。






「あ、来ましたね」


 しばらく待っているとカロスが上空に浮かぶ光王国の基底部のある一点を指さす。

 そこから白い円盤状の何かがスルスルと滑らかにこちらに向かって飛来してくる。

 円盤は音もなく屋上に着陸すると、そのまま静止した。


「さ、乗りなさいな。

 荷物とかは後からまとめて送ってあげるわ」

「……これ、乗り物なんですか?

 手すりとか、安全柵とかないんですか」


 大きさだけなら大人が5人ほど乗っても十分スペースがありそうなのでそこは問題ない。

 問題はただののっぺりとした円盤でしかないというその形状である。

 さっきと同じ挙動を取られたら空中で振り落とされると思う。


「ああ、そのあたりは大丈夫ですよ。

 乗ればわかりますので」

「え、なんですかその笑顔。

 具体的に何が起こるか説明してほしいんですけど」

「ははは、まあまずはお試しを。

 決してこの後いい悲鳴が聞けるんだろうなー、なんて思ってませんから」

「怪しさしかねえ!」


 カロスはナギアとソルアの背中をぐいぐいを押す。

 そのままにこやかに強い力で円盤に乗せられてしまった。






『乗った? 乗ったわね?

 じゃあ行くわよー?』


 光王の声が聞こえ、間もなく何かが起こる確信。

 ひとまず円盤の上でしゃがみ、縁を全力でつかむことで急激な動きに対応しようと試みる。


『ポーン。【天の階】起動確認。

 魔術柵を発動いたしますので、搭乗者の皆様は中央でお立ちください』


 謎の音と共に円盤から音声が流れるとともに掴んでいる縁に魔力が集まり始める。

 とりあえず音声に従いナギアとソルアは中央でぴったりと背中を併せて直立する。

 すると音声が言っていた魔術柵が円盤の縁からゆるゆると煙のように立ち上る。


『魔術柵の形成完了。まもなく発進します。

 快適な空の旅をお楽しみください』


 そういうと円盤にまた魔力が集まり始める。

 見たことのない素材、術者を介しない魔力の充填、遠隔操作の方法……。

 ナギアは若干恐怖しつつも、この円盤に使われているであろう未知の技術に興味を覚えつつあった。

 ……次の音声が流れるまでは。


『直上発射まで5秒前。

 4……3……』

「今は発射って言ったか!?

 さっきみたいに飛べばいいだろ!

 ストップ! いったん止まって!」

『ロマンですよ。ロマン。

 それに知らないんですか?

 一度火がついてしまったら、もう誰にも止められない止まらない。それが私です。

 2……1……』

「ふざけ……ぎゃあああああああ!」


 カッ!と発光し、ロケットの煙の代わりに光をまき散らしながら急上昇していく円盤。

 一瞬で数十メートルまで上昇するそれを見ながら、カロスはどこか懐かしいものを感じていた。


「いい悲鳴だあ……」

「貴方も初めは同じような反応してたものねえ……」


 闇王も恍惚の表情で見送っている。

 普段余裕を見せている者がうろたえている姿程見ていて面白いものはない。

 聞こえなくなるまで悲鳴をしっかり余韻まで楽しんだ二人は次の標的に目を向ける。


「ああ、そういえばガスティ?」

「ひゃいっ!?」

「数年先ではあるんだけど、光王国で官僚が集まる機会があるのよ。

 もちろん、行ってくれるわよね?」

「あわわわわわわ」


 実質的な命令と今目の前で起きたことが合わさり最悪に聞こえる。

 闇王とカロスはそんなガスティの様子を見て、また愉悦に浸るのであった。





 なおもカロスがからかい、ガスティがうろたえる中、真剣な表情に戻った闇王は上昇を続ける【天の階】を睨む。


(魔王、ね……。

 今度ばかりは、うまく対処できると良いのだけれど……)

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