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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第2章 風王の葬式
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第8話 王都西門

 少しずつ街に近づいてはいるがまだ入るわけにはいかない。

 彼女の魔力制御がまだ十分とは言えないからだ。


「……とはいえ、あと少しだな」

「うん」


 彼女が指を向ける先。

 小さな花がゆっくりとその花弁を開いていく。


「集中するんだ。

 それをあと10秒維持できたら合格にするから」

「むむむ」


 彼女の眉間にシワがよる。

 目を逸らすことなく、指先にも力が篭る。


 10秒後。

 そこには見事に花開いた一輪の花があった。


「ふふん」

「はいはい、よく頑張りました」


 こちらに頭を突き出してくる。

 撫でろということだろうか。

 一度撫でてから癖になったらしい。


 頭を撫でると、目を細めて掌に頭を擦り付けてくる。

 猫だこれ。


「じゃあ、街に行くか」

「! おー!」


 荷物も特に無いのでそのまま歩き出す。

 だが街に入るにあたって懸念事項が一つ。


「街に入れてくれるかどうかは分からないけどな」

「!!」


 驚愕の表情で固まる同行者。


「自分で言うのもなんだが、俺たちはあのおかしな森の方向からやってくる不審者だ。

 入れてもらったとしてもまず事情聴取だろうな」

「めんどい」

「必要なことだ。

 ……先に言っておくが間違っても手を上げないように」


 会話するようになって分かったが、彼女は自分の興味がある事は熱心にやるがそれ以外はかなり雑だった。

 ますます猫のようだ。




 ……。

 …………。

 街に近づくにつれ、想像以上に大きな街だということがわかる。

 今は薄緑色を基調とした壁が見えるが、その壁がどこまで伸びているのか分からない。


 街の入り口らしき門を見つけたのでそちらに近づく。

 そこには門番が2人立っていた。


「ひとがいる」

「そうだな」


 軽い返事をしているが内心感動している。

 目を覚ましてから初めての文明だった。


 門に近づくと門番は警戒してこちらに近づいてきた。


「何者だ!」


 いつ武器を構えられてもおかしくないほどの警戒ぶりだ。

 両手を上げて攻撃の意思がないことを示す。


「俺たちはあの森から来ました。

 どんな質問にも応じるつもりです。

 抵抗もしません」

「おなじく」


 ここで嘘をついて後から揉め事にしたくない。

 正直かつ簡潔にこちらの意見を伝える。


 門番はもう1人の門番に合図をして俺たちを囲むようにして立った。

 いきなりバッサリという事はなさそうだ。


「事情を聴く。

 とりあえず付いて来てもらおうか。

 念の為拘束させてもらう」

「分かりました」

「はーい」


 俺たちは門番の詰所のようなところに連れていかれた。

 両手には縄がかけられ、口には猿轡がはめられている。


 魔術師への対策として魔法陣を出すことが多い手と詠唱を行う口を塞ぐのは常套手段だ。

 訓練が行き届いていることがよく分かる。


 俺と彼女は別々の個室に連れていかれ、そこで猿轡だけ外される。

 小さな部屋には俺と強面の男性、武器を携帯した兵士が立っている。

 兵士は部屋の入口に立っており、逃げることは不可能だ。

 もちろん逃げるつもりなどないが。


 椅子に座るように言われ、向かいに強面の男性が座る。

 周りの兵士とは明らかに貫禄が違う。

 詰所で待機していた上官だろうか。


 男性の尋問が始まる。

 その眼光は鋭く、俺に召喚術を教えた男のことを思い出す。


「俺はこの西門の警備を任されてる小隊長、ゼルオスだ。

 あんたの名前は?」

「俺は『6番』と呼ばれてました」

「……親からもらった名前は?」

「孤児でしたので親はいません。

 俺のいた孤児院は軍人の育成所も兼ねてましたので、初めからそう呼ばれていました」

「……あんた、どこの出身だ?」


 その質問を待っていた。

 俺はこれまでの経緯を説明する。

 ゼルオスと名乗った小隊長は黙って俺の話を聞いてくれた。


 ……。

 …………。

 俺の説明が終わるころ、ゼルオス小隊長の眉間には深いしわが刻まれていた。

 その気持ちは分からなくはない。


「つまりあんたは異世界から来て、元の世界に戻る方法を探してるってわけか」

「そうです。

 それもできるだけ早く。

 あの子たちを助けなくては」


 俺は今一番欲しい情報について尋ねた。


「世界間を移動する手段について心当たりはありませんか?」

「俺はただの小隊長だぞ。

 知ってるわけがないだろう」

「では、そういった情報が集められそうな場所は知りませんか?」

「……」


 押し黙るゼルオス小隊長。

 その表情からは知っていて黙っているのか、本当に知らないのか読み取ることはできない。


「情報がありそうな場所について心当たりはある。

 だがそれを教えるのは、あんたが怪しくないと分かってからだ」

「構いません」


 もとより何か隠すつもりはない。

 時間は惜しいがここで反抗する方が余計な時間を食うことになるだろう。


「まずはだな……」


 俺のいた世界のこと、俺が召喚した者たちのこと、俺がこの世界に来ることになった理由……。

 細かいところまで尋問された。


 俺の発言に矛盾がないか、嘘を言っていないかを確かめているのだろう。

 時系列もバラバラに、ゼルオス小隊長は調書を取りながら尋問を続けた。


「ふむ……」

「あの、俺が言うのもなんですが、異世界から来たっていう話は信じてくれるんですか?」

「それは俺が判断することじゃない。

 この調書はこの後上に提出するからそこで真偽は判断されるだろ。

 まあ、俺の感覚としては、あんたは嘘は言ってないと思うぞ」


 そう思い込んでる頭のおかしいやつかもしれないけどな、と付け加えるのを忘れない。

 だが第一印象は悪くないようだ。


「なんでかっていうとな、あのソルの森の方から来る奴なんているはずないんだよ」

「ソルの森?」

「この街の西側に位置する森だよ。

 あの森の方角に人が住んでるなんて話は聞いたこともない。

 だからあんたの話は嘘じゃないと思うのさ」


 思った以上に論理的な理由だった。

 強面だから脳筋だと思ってた。

 小隊長に抜擢されるだけのことはあるらしい。


「たまに森に人が派遣されているとは聞いていますが」

「確かにたまに調査に行くことはある。

 それでも変な森だったろ?

 そんなに奥まで入らずに異常がなければすぐ引き返しておしまいさ」

「この世界でも変なもの扱いなんですね……」


 安心した。

 あの森が日常茶飯事に見られる世界だったら恐らく心が折れる。


「とりあえず俺が聞きたいのはこんだけだ。

 あんたの同行者の答えと照合してくるから少し待ってろ」

「分かりました。

 俺たちってこの後どうなります?」

「しばらくはこの詰所にいてもらう。

 危険がないと上が判断すれば街の中にも入れてもらえるだろ。

 それまでそこのそいつにこの街について聞いておきな」


 ゼルオス小隊長は入り口で構えていた兵士を親指でぐいと指すと、部屋から出て行った。


「西門警備隊所属、エトゥスであります。

 質問をどうぞ」

「では早速……」


 エトゥスさんから聞いた情報は以下の通り。


 ここは風王シルヴァリオが治める風王国。

 俺達が行きついたのは風王国最西端にして王都でもあるエンシルという都だった。

 『シル』というのは古代語で『風』を意味しており、王族の名前や重要な場所には『シル』の文字が必ず入っているらしい。

 風王国というだけあって、風属性の魔力を有する者が多く住む。

 主な産業は風式魔術航空産業。

 言葉を見ればカッコいいが要するに風の魔術で動かす空飛ぶ絨毯とのこと。

 それを用いた運送業が盛んらしい。


 応答を繰り返しているとゼルオス小隊長が戻ってきた。


「待たせたな。

 とりあえずあんたらの答えに矛盾したり怪しいところはなかった。

 上の判断があるまでここにいてもらうが、兵士用の仮眠室でよければ貸すぜ」

「すぐに街の中に入れてもらうことは難しそうですか」


 街の中に入れば情報収集もしやすいだろう。

 だがゼルオス小隊長は難しい表情を浮かべる。


「……今はちょっと、上もゴタゴタしててな。

 悪いが時間がかかると思う」

「……そうですか。

 分かりました。無理は言いません」


 この王都で何かあったのだろうか。

 ゼルオス小隊長の言いにくそうな表情から、ここですぐに教えてもらうことは難しいと判断した俺はすぐに引き下がる。

 

「じゃあ詰所を案内するぞ。

 エトゥス、お前もついてこい」

「はっ!

 猿轡と手の拘束はどうされますか?」

「あー…、もう外していいだろ。

 仮に暴れても、お前でも制圧できそうだしな」

 

 少なくとも俺に関してはその通りである。

 両手が自由になって部屋を出ると、彼女はすでにいた。


「お待たせ」

「うん」


 仮眠室に向かう最中にふとゼルオス小隊長がこちらを向く。


「お前らどうやら2人ともまともな名前がないみてえだな。

 とりあえず、兄ちゃんは元の呼ばれ方をいじって『ロック』、姉ちゃんは白髪だから『シロ』って呼ぶことにするわ」

「分かりました」

「わかった」

「……安直すぎでは?」


 エトゥスさんは首をかしげる。

 俺は特に名前というものに執着がないのでなんでもいい。

 彼女――『シロ』も同じらしい。


 シロが俺の耳に口を寄せ、秘密の話をする。

 他の2人の目がこちらを向いているので秘密でも何でもないのだが。


「いいじょうほうが、てにはいった」

「……何だ?」


 もしかして元の世界に帰る方法に関する情報を手に入れたのだろうか。


「ここのめいぶつは、ふうちょうのくしやき」


 ドヤ顔で語るシロ。

 風鳥の串焼き。

 まさかの食べ物。


「……他には何かあるのか?」

「ある。

 ふうぎょのむにえる」


 風魚のムニエル。

 また食べ物。

 こいつ、俺が情報集めてる間に飯のことしか考えてなかったのか……。


 撫でて、と言いたげに頭をこちらに向けるシロ。

 黙ってゼルオス小隊長の方を向く。


「さて、案内の続きをお願いします。

 仮眠室はこっちですか?」

「お、おお……。

 いいのか? 放置して」

「別にいいです。

 さあ、行きましょう」

「むー!」

「いってえ!」


 頭をこちらに向けたまま頭突きを食らわして来やがった。


「そんなことするなら串焼きとかも買ってあげませんよ!」

「いじわる!」

「え? お前らどういう関係?

 親子? 親子なの?」

「くくく……。

 はっ、すみません!」


 賑やかなまま詰所の案内は終わった。

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