第72話 邪智暴虐の魔王
そこは暗い森だった。
おどろおどろしく育った木々は空から降り注ぐ陽の光を拒み、まだ日の沈まぬ時間帯でありながら、まるで夜のような不気味さと静けさを作り上げていた。
その森のとある木に、場違いな装いをした女性がもたれるようにして座っていた。
肩口に切り揃えられ、血に濡れた髪。
同じく血に濡れ、本来の純白さをかけらも感じることができないホワイトブリム。
白と黒と新たに赤黒い斑点があちこちにつき、見るも無残に切り裂かれたフリル付きのエプロンドレス。
――闇王たちから『ドール』と呼ばれる、魔王の配下だった。
「……ふぅ」
ドールの背中には何本もの短剣が突き刺さったままになっている。
アスディルから逃げる際に避けきれず直撃したものだ。
その何本かは肺や内臓に達しており、通常であれば一息つくたびに激痛が走りそうなものだが、ドールは体を休めるように木に体重をかける。
当然ズブズブと短剣はより深くドールの体に差し込まれ、服をさらに血に染めることになる。
(あー……。痛い。
怪我に関係なく体を動かせるようにしたせいで動くたびに中で動いて余計に痛い)
ドールにも痛覚はある。
この体を作る際に痛覚をなくすこともできたが、久しぶりに自由に動くことができるということもあり、ついついノリにノって色々と機能をつけすぎてしまった。
今となってはその時の自分に恨み言を言いたい気分だ。
(ま、この体はともかく、拳銃は渡すわけにはいかなかったからねー……)
残された左手にはしっかりと魔王から貰った拳銃が握られている。
すでに弾は切れ、ただの持ちやすい形をした鈍器と化しているが、アスディルを牽制する上で大いに役立ってくれた相棒でもある。
ドールは異なる肉体を移動する際にも記憶を継承することができる。
だから実験結果を魔王に報告するだけならさっさとこの体を破棄してしまうこともできた。
しかし、もしこの拳銃が闇王側にわたり、量産されるようなことがあれば……。
(流石に魔王は怒るよね)
ドール自身は与えられたこの武器の構造を正確に理解しているわけではない。
しかし、この武器が様々なパーツを組み立てて作られていることや、魔術を介さずそれなりの殺傷性を持つこの武器の重大さは理解していた。
ドールにとっては、魔王から与えられた物というだけで値千金の価値を持つ。たとえ壊れていようが手放すといった選択肢はなかった。
「……ふふ」
魔王。
ドールに武器を与え、実験結果の報告を命じた者。
そんな魔王のことを思うとドールの顔は自然と綻ぶ。
それこそ今まさに身を苛む痛みなど忘却の彼方に押しやれるほどに。
(まだ来ないかな……?
ふふ、待ち合わせなんて本当に何時ぶりだろう)
今ドールがいる場所。
その場所こそが魔王に実験の結果を報告する集合ポイントであった。
今にも死にそうな体を横たえ、ドールは魔王を待つ。
ドールの体はどれだけ怪我を負おうとも運動機能を阻害しないことに特化した特注品だった。
それはアスディルの猛攻から脱するのに大きく役に立ったが、決して不死身というわけではない。
電池が0%になるまで機能の低下がないというだけで、0%になれば止まるものは止まる。
まだしばらくは保つだろうが、確実にその時は迫っていた。
ガサガサッ!
(……ん?)
ドールが魔王を待ち始めてから数十分。
草木を分けるような音がした。
やっと魔王が来たかと音がする方向に顔を向ける。
「やあ、遅かったじゃな……」
笑顔と共に向けた言葉は途中で止まる。
姿を現したのは魔王ではなく、四足獣型の魔獣だった。それも10匹。
魔獣が吐く息には炎が混じっており、攻撃の意図を前面に出している。
ドールから漂う血の匂いを感じ取り、丁度いいエサでも見つけたとでも思ったのか、魔獣たちは涎をだらだらと流している。
その動きは群れで狩りをする動物としては慣れたもので、獲物を確実に逃がさないように、ドールの周囲を囲むようにして少しずつ距離を詰めてくる。
(うーん。拳銃は弾切れ。
体を動かす分には問題ないけど、仮に1匹何とか出来てもその後美味しく頂かれちゃうよねえ……)
左手に握られた拳銃にちらりと視線をやるが、拳銃は何も答えてくれない。
立ち上がって応戦する? それとも一度ここから離れて諦めるまで逃げてみるか?
ドールは頭に思い浮かぶいずれの考えも否定する。
戦闘能力に乏しいこの体で、目の前の10匹の魔獣を何とかできるとは思えない。
逃走という選択肢も、動けば動くほど余命が短くなる状況にあるドールにとっては進んで取りたい手段ではない。
あくまでドールは『今の』自分が魔王に報告したいのだ。
「えーっと、初めまして?
ボクってばあまりおいしくないと思うからやめた方がいいと思うんだけどなー……」
健気にも交渉を試みる。
当然の如く、言葉が通じた様子もなく魔獣はさらに距離を詰める。
ドールを囲むようにできた円は、少しずつ外周を小さくしていく。
このままいけば数分後にはあちこちに噛み跡ができた死体が転がっていることになるだろう。
いや、もしかしたら骨も残らないかもしれない。
「んー……。
これは、無理かなあ」
抵抗したところで無駄。
そうと分かれば、あっさりと生存することを諦める。
にへら、と力の抜けきった笑みを浮かべ、じわじわと小さくなっていく円が自分に迫ってくるのを見つめる。
(捕食されて死ぬのも随分と久しぶりだなー……。
あれ、全身噛みつかれるくせに中々死ねないから面倒臭いんだよねえ……)
魔獣のうち1頭が目の前の餌が抵抗しないと判断したのか、涎まみれの顔をドールの顔に近づけ、においをかぐ。
ドールの顔にハッ、ハッという興奮した魔獣の息がかかる。臭い。
右肢に魔獣の爪が食い込み、血がにじむ。
魔獣がドールの頭からかじりつこうと、その大きな口を開ける。
(あーあ。最期に見るのがこんなのとはねえ……。
魔王、ボクの死体を見つけたらどう思うかな?)
ドールは目を閉じ、数秒後に訪れる終わりに身を任せる。
目を閉じ1秒、2秒、3秒……。
終わりはまだ来ない。
「うん?」
想定していた痛みが来ない。
それどころか顔のすぐ近くに感じていた魔獣の息すら感じなくなっている。
目を開ける。
そこには10匹の魔獣の死体が転がっていた。
まるでずっと昔からそこに放置されていたかのように腐り、蛆や蠅がたかっている死体。
魔獣だけではない。
ドールにも暗くてよく見えていないが、地面に生えていた草木ですら大量の小さな虫に食い破られ、辺り一帯が腐海と化していた。
先程までと違う点はもう1つ。
魔獣の死体が転がる場所から少し離れた場所に1人の人間が立っていた。
ボロボロのマントに機能性を重視したシンプルな上下の服が一式。
ついさっきまで激しい戦闘があったかのように全身には決して小さくない傷が多く刻まれている。
顔はフードに隠れ、その表情を読み取ることはできない。
体よりも大きなマントに隠れているせいで、体格から性別を読み取ることすらできない。
「……魔王」
ドールは唐突に現れたその者を安堵を込めて呼ぶ。
立ち上がり駆け寄ろうとするが、腐った魔獣の死体から漏れた吐瀉物が己の服を汚しているのを見て、慌てて立ち上がろうとする体を止める。
ドールにとって魔王は、唯一親愛の情を向ける相手。
そんな魔王を己のせいで汚すなど、それこそ死んでもあり得ない愚行であった。
魔王は地面に転がった魔獣が確実に死んでいることを確認すると、ドールの方へ足を向ける。
その途中で腐った死体を踏み抜くことになろうとも、最短距離でドールと会話ができる距離まで近づく。
魔王は、無言でドールを見下ろす。
ドールからは魔王の瞳が見えるが、そこには何の感情も浮かんでいない。
「久しぶり、ボクの魔王。
その様子だと、ついさっき『遠征』を終えた所という感じかな?」
「……ああ。
そちらも、色々あったようだ。
ただ遠くから観察しろという命令でなぜそうなるのか私には理解できないが」
「色々あったんだよ、色々とね。
とりあえず、実験結果でも聞くかい?」
「……いや、不要だ。
結果は『見せて』もらう」
魔王はそう言うと、目を閉じ、ドールの頭をわしづかみにする。
唐突な魔王の行いにドールは驚くが、為されるがままにする。
それよりも自分の頭に触れる魔王の右手に集まる魔力の感触を楽しんでいた。
「…………」
「…………」
しばらく2人は無言のまま固まる。
唐突に魔王が掴んでいた手を放し、ドールのすぐ近くに座ると得た情報を整理するために目を閉じる。
「今のは読心術……いや、過去視かな?
別にそんなことしなくてもボクがじっとりと教えてあげるのに」
「……口頭による説明と、映像と伴うものなど比較するまでもない。
それに、そもそもお前を信用していない」
「酷くない?
こんな大怪我を負ってまで君の役に立とうとしてるのに」
「……はっ」
魔王は嘲笑する。
魔王もまた、ドールにとって肉体の死が何の意味がないことを知っている。
それに魔王にとっては結果が全てであり、その過程でドールに何が起ころうと初めから関心はない。
そんな魔王の薄情な態度にもドールも気にした様子もない。
ドールも魔王に気に入られるに越したことはないが、それ以上に魔王の役に立つことが最優先事項。
別に頭を撫でで褒めてほしいわけではない。
「じゃあもうボクが見たものは全部知ってる体で話進めるけど、どうかな?」
「……後先を考えないのであれば『強制結合』も持続的なドーピングとして使用可能。
複数の魂を混ぜれば、同時に複数の効果も見込めるという発見は大きい。
だが、何を混ぜればどの能力が向上するのかのデータが足りない。
素材となる魂はこちらで用意する。適当なサンプルでさらに実験を継続してくれ」
「りょーかいだよ。
ところで今回の実験台はやけに復讐に固執してたけどなんで?」
「目の前で家族全員を解体した男の魂を使ったからだろう。
ある一つの感情に固定させた方が不純物が混ざらずに良いと思ったが、内容次第だな」
ドールの問いに魔王は淡々と答える。
そこに自らが行った凶行に対する後悔は全くない。
今の魔王にとって生物を殺し、その魂を回収することはただの作業に過ぎない。
魔王の意識は既に次の魂を回収する場所の検討と、どの感情で固定化させるかに移っていた。
しばらく無言の時間が続く。
魔王はドールの治療など念頭になく、自らの思考に没頭している。
ドールもまた、そんな魔王の邪魔をするわけもなく、楽しげに魔王を眺めている。
「……ふむ」
「考えはまとまったかな?
じゃあ次はボクの予定を済ませたいんだけど」
「……」
ドールの言う『予定』の内容を知っていた魔王は懐から漆黒の塊を取り出す。
現れた拳大の大きさのその塊は、心臓のように脈打ち、触れるものを取り込もうとするかのように細かな触手をウゾウゾと動かしていた。
体温に近い熱を持つそれを、魔王はゴミでも捨てるかのようにドールに向けて投げ渡す。
「お、ありがとう。
これで3つ目だね。順調順調。
今回の遠征はどうだった? 苦戦した?」
「……問題ない。
いつも通り十全に調査し、確実に勝てる状況を作り上げ、決められた作業をこなすだけだ」
「ふーん? それならいいけどね」
ドールは受け取った塊を手の平で転がして弄ぶ。
この塊こそが『魔王の核』。
この核を埋め込まれた者は魔王として覚醒する。
ドールはかつてこの核を8つ所有しており、各地を巡って8体の魔王を生み出していた。
ドールの目の前にいる者も、ドールによって核をその体に埋め込まれたことにより、8番目に生まれた魔王だった。
しかし現在ではドールは目の前にいる魔王に他の全ての7体の魔王の抹殺を依頼していた。
「……解せない。
お前の『全人類の抹殺』という目的を達成するためならば、私に他の魔王を狩らせるのは非効率的のはずだ」
「そんなことないよ?
回収した核は加工して君に渡すことで君の新たな力になるんだから。
さっきの腐食魔術も過去視も元は君が殺した魔王の力でしょ?」
「それで私が都合よく8体分の力を持った魔王になるわけでもないだろう。
仮にそうだとしても1体の魔王では代えが効かない。
なぜそこまでしてリスクをとる?」
「……ふふ、秘密だよ」
ドールは静かに微笑むだけで魔王の問いに応えない。
魔王はドールに鋭い視線を向けるが、すぐに興味を失ったようにその目を逸らす。
『過去視』の結果、ドールが魔王を害するような何かをしていないことは分かっているし、そもそもこのドールを殺したところで何の意味もない。
無駄と分かっていることに労力を割く程、今の魔王に余裕はない。
「……まあいい。
所詮私たちの間にあるのは単なる利害の一致だ。
お互いの目的を達成するまでの間、せいぜい友好関係を維持するとしよう」
「ボクは君とはずっと仲良くしていたいんだけどねえ」
「……」
ドールの言葉に応えることはなく魔王は立ち上がる。
既に得るべき情報は得た。
魔王にはほかにもやるべきことが山のようにある。
既に、この場にいる必要性も、ドールと会話をする必要性も感じていなかった。
ドールの手に握られた拳銃を回収し、その場を去ろうとする。
ドールに向けられた背中は、話しかけられることを拒絶していた。
しかし、魔王と少しでも長い間話をしていたいドールはそんな魔王の態度を気にすることもなく、にこやかに話しかける。
「あ、ねえねえ魔王、ちょっとしたクイズしない?
……え、ちょっと待って。無視して行こうとしないで。
答えてくれたらいいものあげるからー!」
「……」
最後の言葉を聞いてようやく魔王は立ち止まる。
振り返ってドールの近くまで戻り、腰を落ち着けると無言で出題を促す。
「とある孤島で密室殺人事件が起きました。
アリバイのない女主人。
密室部屋の鍵を持つメイド。
唯一動機を持つ老社長。
被害者を殺せるアスリート。
さて、犯人は誰でしょう?」
ドールはカムルナギアたちが試験を受けている間、エドグランを通じてその内容を把握していた。
闇王によって提示された難題はドールにとっても面白く、カムルナギアの暴論によって決着がついたことについて若干の不満を抱えていた。
ドールは敬愛する魔王ならば、正解を導き出すことができるかもしれないという期待を抱いていた。
「……情報はそれだけか?」
「ボクに分かる情報なら聞いてくれれば答えるよ」
「……」
しばらくの間、魔王が問いを発してはドールがそれに答えるという状況が続く。
ドールは実際に夢の中で体験したわけではないため、答えられるのはカムルナギアたちの実際のやり取りから得られた情報に限られているが、それでも魔王に十分な情報を与えることはできた。
「……」
「どう? 分かった?」
魔王は目を閉じ深く考え込む。
しばらく無言の状態が続いたのち、魔王は目を開けた。
それは、魔王の中で推理が構築されたことを意味していた。
「犯人はヴィクティムという男だ」
「え? どういうこと?」
ここは闇王が作り出した夢の中ではない。
だから魔王の説明に合わせて周囲の風景が変わるということはない。
「ヴィクティムは表舞台に出てくるのを殊更避けていたと言っていたな。
であれば、招待に応じたのがヴィクティム本人であるかなど、誰にも判断することはできない。
ヴィクティムは軍人時代の部下を会社においても部下として使っていた。
上下関係に厳格な軍隊において、部下の一人がヴィクティムに扮し招待に応じろと命じられればそれに従ったとしても不自然ではない」
「死体で見つかったのはヴィクティムじゃなくて、その部下……?
その部下をこっそり後をつけてきたヴィクティムが殺したってこと?」
「違う。
部下の死は単なる自殺だ。
ヴィクティムが、屋敷の中にある物を使って死ぬように命令していただけだ」
「???」
ドールは頭に疑問符を浮かべて左右にゆらゆら揺れる。
魔王の発言を理解しようとするが、頭がそれに追いついていないようだ。
「うん、ごめん、分かんないや。
それでヴィクティムは何がしたかったの?」
「金持ちの道楽として開催される集まり。招待されるのは著名人ばかり。
そこで招待客の一人が殺されるという事態が起きた時、その場に居合わせた者は今後同じような生活を送ることができると思うか?」
「……」
「ヴィクティムの目的は部下を一人犠牲にすることにより、招待客及びミストレスを社会的に抹殺すること。
絶海の孤島で起きた密室事件という話題を前にして、大衆はさぞ面白おかしく憶測を立てるだろうな」
二次被害という言葉がある。
それは事件が起きた時に、その事件の当事者について荒唐無稽な話が流れたり、事件の当事者が事件のことを何度も繰り返し話すことを強要されることによって生じる精神や名誉、プライバシーといったものに対する被害である。
『本事件はヴィクティムを除く登場人物全員が二次被害を受けることを意図して実行された犯罪である』
それが魔王の推理だった。
今回の事件でヴィクティムは世間一般に置いて死亡した扱いとなるだろうが、元から表舞台に立つ気のないヴィクティムにとってそのことは大した問題ではない。
今回の事件の被害者はヴィクティムではない。
事件の当事者として今後も生活していかなければならない生存者こそが真の被害者だ。
「……んー。目的はそれでいいとして、何でヴィクティムはそんなことしたの?」
「ヴィクティムは元軍人――それも、複数の部下を抱えるほどには地位を有していた。
その地位に上り詰めるまでに、少なからず権力闘争があったのではないか?
権力闘争とはすなわちお互いの揚げ足の取り合いであり、昨日まで権勢をふるっていた者が一瞬で地に堕ちることなど日常茶飯事だ。
ヴィクティムはそれを見るのが楽しかったんだろう。
要は、愉快犯というやつだ。
実際愉快だよ。栄華を極めたと図に乗っている者が苦難にあえいでいる姿を見るのは」
魔王の推理は終わった。
今となってはこれが闇王が想定していた答えなのかどうかは誰も知る由がない。
結局は、ドールが満足のいく答えを出せるかどうかでしかない。
そして魔王が出した答えは、少なくともカムルナギアの答えよりは満足がいくものだった。
「ふーん……。なるほどね」
「満足したか?
では『いいもの』とやらを寄越せ」
「ふふ、せっかちだなあ。
『いいもの』――それは、ボクの投げキッスさ」
――チュッ。
最期の力を振り絞って放たれたそれを、魔王は冷え切った視線で見ていた。
「死ね」
「言われなくてももうすぐ死ぬよ。
ふふ、あー楽しかった。また遊ぼうよ」
「……」
魔王は今度こそ背を向けて立ち去る。
今度はもう呼び止めても聞いてくれそうにない。
「……次の体に移ったのなら一度私の所に来い。
実験に使う魂とは別に、渡しておきたいものがある」
「お、何かな? 楽しみだね」
「とある魔獣の卵だ。
これを使って、光王国と落とすことができるか試してみよう」
「了解」
答えたドールは遂にタイムリミットが目の前に迫ったのを感じる。
体の隅から順番に機能が停止していくのが実感できる。
「……またね、ボクの魔王。
次のボクのことも、よろしくね」
「ああ、ご苦労だった。
次の目覚めまで、存分に休むといい。我が部下――アルスマグナ」
「……ふふ」
これが最後の会話だった。
魔王は既に視界から消え、どこかへ行ってしまった。
残された木の根元には1つの死体が残されていた。
全身に多くの傷を残すその死体は、それでも満足そうな笑みを浮かべていた。




