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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第4章 闇王の難題
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第65話 密室踏破の探偵

「犯人は『メイド』だ」


 俺と同じように結論から入るエドグラン。

 その言葉と共に真っ白な風景が変わり、あの4人が集まっていた深夜の食堂が再現される。


「さっきも言っていたが、食堂にいたやつらも常に相互監視の状態にあったわけじゃねえ。

 要は、10分以内に殺人を実現できるならここにいる奴らでも十分に犯人足りえるっつーわけだ」


 そこに関しては異論はない。

 問題は、それをどう実現するかという問題である。


「難しく考える必要はねえ。

 あの食堂にいたやつで最も簡単に密室を攻略できるのはメイドだ。

 なんせマスターキーを持っていたんだ。密室も何もねえ」


 エドグランが思い描く犯行の様子が再生され始める。


『 時刻は24時ころ。

  食堂に残った客人たちは酔いも回り、出会って数日だというのに賑やかに談笑を楽しんでいる。

  そんな中、せわしなく給仕に当たっていたメイドが何かに気付いたように声を上げる。


 「あ、そうでした。

  ミストレス様が秘蔵のワインがあると仰っていたのを忘れていました。

  皆さん、どうでしょう。もしよろしければキッチンにあるのを持ってきますが」


  メイドのその一言に酒好き達はメイドの予想通りの反応を見せる。


 「お、まじか。今まで出してもらった酒も最高級品だったんだ。

  秘蔵の一本となればもう一生お目にかかれないものかもしれねえな」

 「探偵殿には悪いですが、僕たちで飲んでしまいましょう」

 「それで構わんじゃろう。あやつ、避けにはあまり強くなさそうじゃったからな」


  これでメイドが食堂を離れる理由ができた。


 「じゃあ、持ってきますね。ええと、どこにしまってあるって言ってたかな……。

  ごめんなさい、少し時間がかかるかもしれません」 』


「こう言っておけば多少食堂を離れていたとしても誰も不思議には思わない」


『 メイドは食堂を離れ、キッチンへ。

  そこで凶器となるナイフを回収し、ヴィクティムの部屋に静かに、しかし、素早く到達する。

 

  そして、持っていた鍵でドアを開け、ナイフをヴィクティムの胸につきたてる。 』


 ここで場面は一時停止する。

 俺が指摘すべき箇所がある。


「この時点でメイドには返り血が付着します。

 このまま食堂に戻ろうものなら、一発でバレますよ」

「だろうな。

 だから、メイドはもう一工夫行ったんだよ」


 再び場面が動き出す。


『 メイドは急いで外から鍵を閉めなおし、キッチンへ戻る。

  真っ赤な血がついたナイフを洗い流し、元あった場所に戻す。


  そして、棚に飾られた赤ワインの中から1本を手に持ち、その中身を自分に向かってぶちまけた。 』


「メイドには物をよく落とすとか無くすとか言った描写がされていたな。

 これは、このための伏線だったんだよ。

 メイドは、返り血の赤をワインの赤で塗りつぶしたんだ。

 で、食堂に戻った後こう言えばいい」


『 「お、戻ってきた。秘蔵の一本てのは……どうしたよ、おい」

  「えへへ……。

   ワインを探してる間にワインボトルを割って中身を頭からかぶっちゃいました。

   これは明日ミストレス様に怒られちゃいますね……。

   あ、でも秘蔵の一本は死守しました!

   私は先に着替えてくるので、皆さんは楽しんでいてください!」 』


「これで怪しまれることなくメイドは返り血のついた服を処分できる。

 どうだ? さっきの推理と比べてもマシな推理だろ?

 10分っつー時間制限も、鍵を持っているメイドなら絶対に不可能って程じゃねえだろ」


 ……。

 もっと詳細に事情聴取をしておけばよかった。

 俺は「何か気になったことはなかったか」というあいまいな質問しかしなかった。

 メイドが物を落としたりすることがよくあることだと認識されていた場合、メイドが服を真っ赤に染めて帰ってきても不自然ではないとしてスルーされてしまっていたかもしれない。


 つまり、俺の持っている情報ではエドグランの推理を覆せない。

 エドグランはそんな俺を見て笑みを深める。


「どうやら反論はないみたいだな。

 あんたらはどうだ? 俺の推理に何かケチつけるところはあるか?」


 よほど自信があるのだろう。

 エドグランは勝ち誇った表情を浮かべている。


 そんなエドグランの余裕を打ち砕いたのはガスティだった。


「エドグラン様の説明ではまだ不十分です。

 なぜ、メイドはヴィクティムを殺害したのですか?」


 ホワイダニット。なぜ犯人は犯行に及んだのか。

 これは俺の推理でも欠けていたが、俺の場合はそれ以前の問題だっただけだ。


「……別に、そんなのどうだって言えるだろ。

 あの館にいた奴らの中でメイドだけが経済的に不自由だった。

 ヴィクティムから金を奪おうとしたんじゃねーのか?」

「お金が欲しかったのならミストレスを狙えばよかったのです。

 いくら武器を持っているとはいえ、わざわざ男性のヴィクティムを狙ってリスクをとる理由はありません。

 それに……」


 ガスティが円卓の中心に目を向けるとミストレスの姿が浮かび上がる。

 今から流れるのは、ガスティが夢の中で得た情報か。


『お招きした御客人の皆様には1週間滞在していただく予定で、帰りの船便もその日にならないと来ない予定でした。

 まさか2日目にこんなことが起こるなんて……』


「メイドは鍵を持っていたということもあり、あの中で怪しまれやすい位置にいました。

 そんな中、2日目に事件を起こすようなことをするでしょうか?

 せめて事件を起こすにしても、最終日が近づいてからではないでしょうか」


 確かにメイドがカギを持っていると分かった瞬間にメイドは犯人扱いされていた。

 残りの日々をあの針の筵状態で過ごすのは難しいだろう。

 それに、金銭目的だったのなら、メイドの部屋からヴィクティムの物が見つかれば一発でアウトだ。


「……ミストレスを狙わなかったのは、雇い主っていう関係性があったからで……」

「それは無いです」

「……あぁ?」


 それを覆る情報を俺は持っている。

 円卓にミストレスの姿が浮かび上がり、俺が聞いた証言を再生する。


『まだ雇い始めて数日しかたっていないというのに……』


「メイドとミストレスの間で深い関係性が形成されるような日数はありませんでした。

 よって、メイドがミストレスをあえて狙わない理由はありません」

「……」


 ガスティと俺から告げられた情報をエドグランは知らなかったのか、あえて無視していたのかは分からない。

 しかし、エドグランはこれ以上反論することができなかった。

 苛立ちを隠すこともなく、荒々しく椅子に座る。

 彼のターンは、ここまでだ。


「エドグランの推理も破却。

 ……アスディル? もう少し積極性を見せなさい?」

「…………は」

「……まあいいわ。

 ではガスティ、次は貴女の推理を聞かせてもらいましょう」


 そして3人目の探偵が立ち上がる。

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