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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第4章 闇王の難題
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第64話 不在証明の探偵

 闇王の魔術によって再度夢に落ちた俺の目に入ったのは真っ白な空間に置かれた巨大な真っ黒な円卓。

 円卓な周りには等間隔に5つの円卓と同じ色をした椅子が置かれている。

 ここに座れということだろう。

 椅子に手をかけると俺以外の受験者が同じように座ろうとしているのが見える。

 残る1つの席に座るのは闇王。

 全員が着席したのを確認して、闇王は告げる。


「これから1人ずつ推理を披露してもらうわ。

 他の受験者は推理の途中でも反論を許すわ。

 言っておくけど私が評価するのは正解を導いたか否かではなく、的確に状況判断、質疑応答ができるかよ。

 だから全員の推理が開示された後でも前の推理を撤回して別の推理を披露しても構わないわ」


 そう言って闇王は俺の方を見る。

 他の受験者がどのような情報を握っているのか不明な中、後から推理を披露するほど有利となる。

 この状況で闇王が誰を1番に指定するかは明らかだった。伊達に最悪と呼ばれていない。


「最初の探偵はカムルナギア君、貴方よ」

「ですよねー……」


 指名を受けた俺は立ち上がる。

 アスディル以外の受験者は俺の推理を叩き潰そうとギラギラした視線をこちらに向ける。

 では、俺の推理を開示しよう。


「今回『黒望館』で起きたこの殺人事件、犯人は『ミストレス』です」


 その言葉と共に俺たちの座る椅子と円卓を残して、周囲の風景が流れるように変化する。

 変化した先の光景は、あの黒望館の内部だった。

 これは……俺の説明に合わせて視覚的にも変化してくれるということでいいのだろうか。


「今回の事件において最も重要なのは、どのようにしてあの閉じられた部屋を突破するかということです。

 犯行当時、あの鍵を持っていたのはメイドのみ。

 このことからメイドが犯人のようにも思えますが、メイドには犯行当時のアリバイがあります」


 場面が変わり、深夜の食堂が映る。

 そこではドクター、アスリート、プレジデント、メイドの4人が酒盛りをしている。


「常に全員がそこにいたわけじゃなかったんだろ?」

「確かにその通りです。

 ドクターが言っていましたね」


 エドグランの指摘は確かにその通りだ。

 俺の言葉に対応するように半透明のドクターの姿が円卓の中心に現れる。

 全員がぎょっとしてその姿を凝視する中、ドクターの幻は語り始める。


『確かに皆さん何度か席を外してはいましたが……。長くても10分くらいでしたよ?

 その間に犯行に及ぶことなんて……』


 これはすごい。

 場面だけでなく証言まで再現してくれるのか。


「ドクターの言っていた通り、食堂にいた人が食堂から離れていたのは長くても10分。

 その間に犯行現場の3階まで登り、密室を突破し、何食わぬことで戻ってくることは現実的ではありません」


 今度は黒望館の見取図が円卓の中心に現れる。

 食堂から犯行現場の部屋までの距離をこれで見ろということか。


「なにより問題なのは殺害方法との関係です。

 ヴィクティムは真正面からナイフで刺されていました。

 そうなると、どうしたって返り血が犯人にはかかります。

 しかし食堂にいた人に返り血がついていたなんて証言はありません」


 誰か判別不能な人が真正面からナイフで人を刺す映像が流れる。

 被害者の傷口から血が勢いよく溢れ、犯人の前面を赤く染める。

 この返り血を落とすのはかなり時間がかかることだろう。

 それこそ10分ではどうしようもないほどに。


「このことから、食堂にいた人たちには犯行が不可能であるということが分かります」


 俺の推理は要は消去法だ。

 犯人でない人を順番に消していき、最後に残った人が犯人。


「以上より、犯人はアリバイのないミストレス以外にあり得ません」


 円卓の中心にミストレスの姿が投影される。


「しかし、その推理では肝心の密室について何も説明されていませんよね?

 ミストレスはどのようにして鍵のかかった部屋を突破したのですか?」


 その点について俺はあえて説明を省いた。

 ガスティは俺の狙い通り動いてくれたというわけだ。

 そして俺はその問いに対する答えを持っている。


「簡単な話です。

 魔術を使ったんですよ」


 俺の説明通りに風景が動き始める。


 深夜24時頃。

 一人部屋に戻ったミストレスは誰もいない廊下を進み、キッチンから凶器となるナイフを拝借し、3階のヴィクティムの部屋までたどり着く。

 そのまま右手をドアノブにかけ、何か術式を呟く。

 するとミストレスの右手に魔法陣が浮かび上がり、カチャリと音を立て鍵が開く。

 ミストレスは右手にナイフを持ち変え、一気に部屋の中に突貫。

 驚いた表情を浮かべるヴィクティムの胸にナイフを突き立てる。

 当然ミストレスには返り血がかかるが、そんなことも気にも留めず、部屋の外から魔術を使って鍵をかけなおし、来た道を帰り、自分の部屋に戻る。

 そして血の付いた服を脱ぎ、それに魔術で火をつけ、証拠隠滅を果たす。

 そして翌朝メイドの悲鳴が聞こえたら、何食わぬ顔で犯行現場に現れる。


 何も不自然な点はない。

 密室なんて魔術の前では何の意味もない。

 『謎解きもの』としては落第もいいところだろうが、合理的に説明できればよいのだ。


 そんな俺の推理を覆したのは、エドグランだった。


「悪いがその推理はねーよ」


 その言葉と共に円卓にメイドの姿が映し出される。

 恐らくはエドグランが見た夢の中でメイドが答えたのであろう言葉が再生される。


『え? 魔術ですか?

 えーっとぉ、お話の中とかではなく、現実に、ですか?

 おかしなことを言う人ですね? 魔術なんて、おとぎ話の中でしか存在しませんよ?』


「夢の中では魔術が使えなかった。

 そのことを疑問に思ってメイドに聞いたらこう答えやがった。

 あの夢の世界に魔術は存在しない。だから、アンタの推理は成立しようがない」


 再度あの深夜の場面が再生される。

 しかし、今度はミストレスがドアノブに手をかけ、何かを呟いても魔法陣は現れない。

 扉は開かない。


「……」


 世界に亀裂が走る。

 俺が何も答えられないでいると、亀裂はだんだんと大きくなる。

 そして遂に、ガラスの割れるような音と共に全ての風景が崩れ去り、真っ白な空間に戻る。


 円卓に映るミストレスの姿にもノイズが走り、そして何も見えなくなる。


「再反論はできねーみてえだな。

 じゃあ、アンタの推理はそれまでだ。はっ、意外と大したことなかったな」


 エドグランの嘲笑に対しても俺は何も言えない。

 いけると思ったのに。

 だが同じ事件でも皆それぞれ違う観点から違う情報を得ているというのはこれで確定した。

 きっと俺しか知らない情報もあるはず。

 それを使えば他の受験者の推理を否定した上で、新たな推理を構築できるかもしれない。


「カムルナギア君の推理は破却。

 残念だけどこれじゃあ試練に合格したとは認められないわね。

 今の間に次の推理でも考えておいたら?」


 これは罠。

 きっと今の俺が持っている情報だけでは答えにはたどり着けない。

 他の人の推理を潰しながら、新たな推理を構築しなければならない。


「では次の探偵はエドグラン君、貴方よ」


 そして2人目の探偵が立ち上がる。 

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