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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第4章 闇王の難題
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第63話 推理戦争の開始

 夢から覚める。

 どうやら寝落ちした後誰かが椅子に運んでくれたらしい。

 起きた時床に倒れているとかじゃなくて本当によかった。


「ううん……」


 俺の他の受験者も目を覚まし始めている。

 各々自分なりの推理はすでにある程度固まっているようだ。

 表情に困惑は見られない。


「では1日目は以上となります。

 明日は午前9時から今日と同じ会場で2日目を行います。

 念の為、具合が悪くなった等のことがありましたら近くの係員までお申し付けください。

 それでは、お気を付けてお帰りください」


 建物入口にいた男性の案内で受験者たちは帰途につく。

 エドグランは目が合う人全てを睨みながら。

 アスディルは振り返ることもなくさっさと帰っていった。

 ガスティはソルアが気になっているのだろう。ちらちらと見て今すぐに帰る様子を見せない。


「ソルア? 帰るぞ?」


 夢から覚めるとソルアは闇王の近くに立っていた。

 そして今もそこから動く様子を見せない。

 俺が寝ている間に仲良くなった?

 ……無いな。絶対に無い。


「帰れなくなったから1人で帰って」

「……今度は何しでかした?」


 何か備品を破壊した、誰かに怪我をさせた……。

 嫌な予想が頭を駆け巡る。

 またコイツは他所様にご迷惑を……。


「…………」


 ソルアが無言で近付いてくる。

 その表情は見えない。だが分かる。

 あれは怒ってる。


「ふんっ!」

「痛ってえ!」


 ソルアのローキックが決まる。

 綺麗な姿勢から放たれる100点満点のローキックだった。

 どこでこんなの覚えて……火王国かぁ。


「違うから。今回は私悪く無いから」

「蹴る必要なくない……?」

「なんかむかついた」


 ひどい。

 そんな俺たちのやりとりを見てガスティは目をキラキラさせている。

 彼女の目には強い女性像としてのソルアが映っているのだろう。それでいいのか。


「じゃあ帰るけど……。

 大丈夫か? 1人で寝られるか?

 あまり迷惑をかけるんじゃ……やめろ。構えるな。お前それ顔面狙ってるだろ」

「さっさと帰れば?」

「冷たい……」


 その日は1人で帰って1人で寝た。

 静かすぎて眠れないなんてこともあるんだな。





 場所は変わって闇王の居宅。

 すでにソルアはベッドに入り、メイドのケイオシアには監視を言いつけてある。

 ここにいるのは闇王とカロスの2人。


「……今日はありがとう」

「何のことです?」


 家に帰ってきてからも闇王は何かを警戒し続けていた。

 緊張をほぐすためにも、と差し出されたお茶を受け取りながら闇王はポツリと呟く。

 カロスはとぼけるでもなく、何でもないことのように応対する。


「あの子を誤魔化してくれたことよ」

「……陛下が言いたくなさそうでしたので」


 具体的に何のことを言っているのか明らかにしなくてもカロスには伝わる。

 長年闇王の執事兼参謀として仕えてきたからこそなせる阿吽の呼吸である。

 ちなみにケイオシアにはできない。


「一応勘違いがないといけないので確認しますけど、陛下が警戒されているのはソルアリシアさんの夢が見られなかったことだけではなく、『王の力だけが通じなかったこと』ってことで合ってます?」


 闇王は頷く。

 火を起こすといった現象を起こす魔術ではなく、相手に直接働きかける魔術は相手の魔力による抵抗を受けやすい。

 そのため、夢に関する魔術――正式名称『夢幻魔術』がいくら王の力がこもったものであるとしても、規格外の魔力量を持つ相手なら弾かれることは可能性として存在する。

 しかしソルアには王の力を用いない、魔力回復を阻害する魔術は正常に作動したのだ。

 単に魔力量で弾かれているなら、こうして結果が変わってくるはずがないのである。


「現状、ソルアリシアさんが大人しくしてくれているっていうのは本当にありがたいですね。

 ただでさえ暗殺に備える必要があるというのに、問題が増えなくて良かったですよ」


 ホッとした表情を浮かべるカロス。

 王の力が効かないということは、火王国の裏闘技塔とやらで実績を上げてきたらしいソルアを止めることは難しい。精神攻撃に特化した闇王国の住民は、直接戦闘に長けた者は多くない。


 ソルアが何を考えているかは分からないが、美味しいものを与えている間は大人しくしているということは分かった。

 後は残された問題である暗殺なのだが……


「ああ、暗殺犯ならエドグランよ」

「お待ちなさい」


 闇王からあっさり答えが告げられる。

 カロスはその言葉を聞き逃すことなくしっかりとツッコミを入れる。

 闇王の言葉が真実なら、今まさに暗殺犯が暗殺対象に接近している状況が完成してしまっている。


「それ、確かなんですか?」

「貴方は夢幻魔術の本質を知っているでしょう?」


 人は夢を見る。しかし、夢を見ている間はそれを夢と自覚することは難しく、目を覚ませばどんな夢を見ていたのかもう思い出せない。

 そして夢を形作るのはその人の無意識であり、無意識とは本人すら自覚しない認識の集積地にして認知の集合体。

 即ち――無意識へのアクセスによる情報収集と無意識への干渉による洗脳こそが夢幻魔術の本質である。


「私はエドグランが暗殺計画を抱いたその日の夜にはその全てを知っていたわ」


 夢幻魔術の本質を知るのは闇王の周囲のごく一部の者だけ。

 この国で一度でも眠れば闇王にすべてが知られ、洗脳されるリスクを負う。

 暗殺など、最初から成り立つはずもなかった。


「何でもっと早く教えてくれなかったんです?」

「彼の計画だと最終試験の直後にグサっとやりに来るみたいなのよ。

 そこでガスティがどう対応するのかを見たかったっていう理由じゃダメかしら」

「なんでガスティさんだけ?」

「アスディルは暗殺対策のための私的な協力者だから」

「……おおう」


 情報を握っていればその対策も容易に取ることができる。

 エドグランの暗殺計画を知った闇王はその日のうちにアスディルの夢に干渉し、協力を取り付けていた。

 闇王の名誉のために付言するが、協力である。洗脳ではない。

 

「では何を警戒しているんですか?」


 闇王の発言が真実なら暗殺対策は完全にできている。

 そして計画を聞く限りその内容は杜撰といってもおかしくない。

 このままエドグランが凶行に及んでも止めることは難しくないと思われる。

 しかし闇王は何かを警戒していた。

 

「確かに私はエドグランの夢にアクセスして暗殺計画を知って、その対策も十分に備えたわ。

 でも、なぜ彼が暗殺を計画し始めたのか、その部分にどうしてもアクセスできないのよ。

 その部分だけ、私の夢幻魔術が弾かれた」


 暗殺計画を知った時点で無意識に干渉してその計画を考えなかったことにすることもできた。

 だが、初めて起きた異常事態がその手段をとることを闇王に躊躇させた。


「そして彼の精神の奥深くまで潜り込んでようやく引き出せた単語が……」


 それこそが闇王が現在も警戒を続ける最大の理由。

 ある日突然人に殺意を抱かせ、闇王の夢幻魔術すら弾く異常性を持つと思われる存在。


「『魔王』」

「……穏やかではないですね」


 この世界において王を名乗ることが許されるのは『八人の始祖』からその地位を受継いできた者のみ。

 どんな戯れであっても王を名乗ることはこの世界に対する挑戦に他ならない。


「そうして魔王について調べている間に、今度は夢に全くアクセスできないあの子が現れた。

 それだけであの子を警戒する理由として十分でしょう?」


 夢にアクセスできないという点で共通性を持つエドグランとソルアリシア。

 ソルアリシアがエドグランと同様に魔王の影響下にある可能性は十分にある。


「ソルアリシアさんが魔王という可能性は?」

「分からないわ。魔王に関して調べていても、何の情報も出てこないの」


 カムルナギアは闇王がなかなか進まない調査に苛立っていたころに現れた厄介ごと。

 嫌がらせもしたくなるというものだ。

 まさかそこで魔王と関連性を有するかもしれないものにぶつかるなど想像していなかった。

 これも魔王の手の平の上、と思うと苛立ちがさらに募る。


「大体何なのよ魔王って……」

「魔王といえば英雄に倒される存在ですもんね……。

 わざわざ倒される側の名前を名乗るのにどんな理由があるんですかね……」


 魔王の正体・所在・目的・能力そのいずれも分からない。

 これからは調査の手も広げる必要がある。


「とりあえずこれからは貴方も魔王に関して調査を進めて頂戴」

「承知しました。まずはエドグランとソルアリシアさんの周辺について調べてみます」

「くれぐれも極秘にね」

「もちろんです」


 大々的に魔王に関連する情報を集めるために周辺国に協力を求めるという方法もあった。

 しかし、闇王としての在り方がそれを邪魔する。


 王とは立ちはだかる者。それが闇王クロアネロンが歴代の闇王から受け継いできた在り方。

 王は、何者にも屈せず、横暴であり、傲慢な最大の悪でなければならないのだ。

 警戒していることを明らかにすることすら王にはふさわしくない。

 いまさらその在り方を変えることはできなかった。


 だが今回の騒ぎはそんなクロアネロンをして多大な疲労感を感じさせるに至っていた。

 もちろん疲れという弱味を見せることもあってはならない。

 すっかり冷え切ったお茶を一気に流し込んで、大きく息をつく。


 長い夜はまだ明けそうになかった。








 翌朝。

 昨日と同じ会場に俺たち受験者は集まる。

 目に映るもの全てを睨むようなエドグラン、目を閉じ静かに集中するガスティ、そして、試験自体に興味がなさそうなアスディル。


 そんな俺たち4人を前にして闇王は豪華な椅子に深く腰掛け、尊大に、そして、ぞんざいに告げる。

 その様子はいつも通りだ。いつも通りの最悪と謳われる闇王だ。


「では官僚登用試験兼継承の儀の試練を開始するわ。

 これこそは探偵同士の殺し合い。

 知で知を洗う『推理戦争』を始めましょう?」

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