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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第4章 闇王の難題
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第62話 場外乱闘の行末

「『夢堕とし』」


 ドアを開けてすぐ目の前の闇王。

 その一言から発動した魔術によって、4人がすこんとその場で崩れ落ちた。

 ただ一人、私――ソルアリシアを除いて。


 闇王があえて私を対象から外した? 

 そうではないみたい。

 闇王は倒れなかった私を見て忌々しそうな表情を浮かべている。

 そのまま舌打ちでもしそうな荒々しさで部屋の奥へ戻っていく。

 あれは私も眠らせようとして失敗した顔だった。


 私がボーっとしている間に真っ黒な服を着た人たちがどこからか現れ、倒れたナギア達受験者を中へ運び、予め置かれた椅子に座らせていた。

 部屋の入り口に放っておかれた私は急いで部屋の中に入る。

 締め出されるところだった。


 受験者たちは今頃夢を見ているのだろう。

 全身が脱力した状態で椅子にもたれかかっているのは変な感じだった。

 ナギアに異常なことが起きないかとその様子をじーっと見ていると、突如ナギアの手が動き、ポケットから愛用のメモ帳を取り出し、ものすごい勢いで何かを書き始める。

 夢の中で何かメモを取っているのかな?

 その間も腕以外はだらりとしたままであるので、下手な操り人形のようになっている。

 ちょっと面白い。


「……っと、そうじゃない」


 ここに来た目的を忘れてはいけない。

 ゼルオスから貰った愛用の槍。これを何とかして返してもらわなければ。

 ……どんな嫌がらせを受けるかは分からないけど。


「槍、返して」


 私はナギアみたいに交渉とかはよく分からないので言いたいことははっきり言う。

 一番豪華な椅子に深く腰掛けていた闇王はよく分からないけどイライラしているみたいだった。

 何にイライラしているかは知らないけれど、それで私に八つ当たりしてくるのは嫌だな。


「……」


 闇王は何も反応しない。

 聞こえていないわけではないと思うのだけれど。

 ……もしかして、無視されてる?


「ねえ」

「カロス、槍持ってきて返してあげて」

「はーい」

「え」


 そう言って入口で案内してくれた人が持ってきてくれたのは確かに私の槍。

 ……。

 うん。返ってきたのは嬉しい。

 でもここまであっさりだとは思ってもいなかった。


「こんなに簡単に返してくれるなら最初から持っていかなくても良かったのに……」


 愚痴の一つや二つ言いたくなるのも当然だと思う。

 何がしたかったのこの人。


「用は済んだでしょ。早く帰ってくれない?」


 流石にイラっとする。

 ここに来ることになったのは誰のせいだと思っているんだ。


 いっそのこと今まさに返ってきたこの槍でぶっ叩いてやろうかと思ったけど思いとどまる。

 少し前に怒りに任せて火王国の治療院を破壊してナギアにいたたまれない思いをさせたばかりだった。

 うん。暴力は良くない。


「……何?」


 闇王は動く様子を見せない私に不審に思ってるみたい。

 さっきから一度も私の方を見ないなこの人。

 昨日とあまりに私への態度があまりにも違う。


 ナギアはこんな時にどうしたら良いって言っていたっけ。

 思い出した。

 まずは観察。そして変化を見逃さないこと。

 闇王をじっと見つめる。

 闇王は私の視線に気づいて嫌そうな表情を浮かべるけれども、私の方を頑なに見ようとはしない。


 昨日と違うところ。

 外見からは分からない。別に体調が悪いとかではなさそう。

 ふむ。昨日闇王と別れてから何かあったっけ……。

 食堂でご飯食べて寝ただけだ。

 ……む。


「夢」


 おかしなことと言えばあれくらいしか思い当たらない。

 この国では闇王の魔術のおかげで夢を売ったり買ったりできるんだったっけ。

 それなら、闇王は人が見てる夢を見たりできるんじゃないだろうか?


 どうやら正解だったみたい。

 闇王は初めて顔を私の方を向けた。

 憎々しげな表情だったのは変わらなかったけど。


「失敗した。ええ、失敗したわ。

 先制攻撃のつもりがまさか化物とかち合う羽目になるなんて」


 先制攻撃っていうのは多分ナギアへの牽制の事。

 化物が、私?

 心当たりがない。

 ……それならそれはきっと私の知らない私の過去の事。


「あなたは私のことを知っているの?」

「……」

「教えて。私はそれが知りたいの」


 それこそが私の旅の目的だ。

 気づいたらあの森にいた。それ以前のことは何も知らない。

 それを知ることができたのなら、この胸に空いた穴のようなものも埋まるかもしれない。


「教えられないわ」

「……どうして。それを聞けばすぐ帰るから」


 旅が始まって初めてのチャンス。逃すわけにはいかない。

 私には闇王と交渉していい感じに話をつけるなんてことは無理。

 だから闇王が話してくれるまでここに居座るくらいしかできない。


「だって、私には貴女の夢が見えなかったんだもの」

「え?」

「えっ」


 驚いたのは私だけではなかった。

 この部屋にいた職員全員が手を止めて闇王を見ている。

 それほどまでに闇王が人の夢を見ることができないというのは異常事態なのだろう。


「えーっとぉ、陛下、それマジです?」

「マジもマジよ。その時点でもう関わり合いたくないわよ」

「……どういうこと?」


 闇王が私の夢を見ることができないっていうことがどういうことなのかよく分からない。

 闇王は答えたくなさそうで、代わりにカロスと呼ばれていた人が答えてくれた。


「陛下が使う夢に関する魔術は歴代王から継承した力を合わせてやっと使える超級魔術なんですよ。

 陛下が貴女の夢を見ることができないっていうことは、貴女がその魔術を無意識で弾いてるっていうことですよね」

「うん」

「で、陛下ってば夢を通して相手の弱点を知ることに特化してるので、夢を見ることができないっていう時点で陛下と貴女は相性最悪なんですよねー……」


 要は闇王の戦い方に対してその前提を崩しているのか私は。

 そういえばナギアが出会った頃に私の魔力量が異常に多いって言ってたな。

 そのことが関係してるのかな?


 何はともあれ、私は闇王に対して有利な立場にあるらしい。

 これは良いことを聞いたかも。

 これを使って闇王に色々要求してみたり……。例えば食べ物とか。


「先に言っておくけど、貴女が何を言っても応じるつもりはないわよ。

 夢が見えない時点で貴女は私の敵。この国にいる間、常に監視下に置かせてもらうわ」


 ……。

 まだ何も言ってないのに。

 いや、ごねれば……ダメだね、ナギアに迷惑がかかる。


「夢が見れなくても表情に出すぎなのよ貴女。

 カムルナギア君が弱点って分かってるから別に困ることもないわ。

 カムルナギア君ごと拘束されるのと、大人しくしてるの、どっちがいい?」


 むう。

 それを言われるとどうしようもない。

 私は手をあげて降参の意思を示す。


「分かった。大人しくしてるからナギアに酷いことしないで。

 その代わり、美味しいものちょうだい」

「それなら黒蜥蜴のイカスミソース炒めとかどうです?」

「黒そうだねぇ……」


 私にとっては人生初の交渉。

 うん、完全に負けたわけじゃないからセーフ。

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