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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第4章 闇王の難題
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第61話 黒望館殺人事件②

 まずは検死の結果を聞こう。


「検死の結果ですが……。

 死亡推定時刻は24時。死因は胸をナイフで刺されたことによる失血死です。

 ナイフによる傷はまっすぐつけられていたので、こう、真正面から刺されたのだと思われます」


 ドクターはまっすぐ腕を突き出す動作をして犯行状況を説明してくれた。


「他に遺体に何か気になるところはありましたか?」

「詳細に調べたわけではありませんが……。

 胸の傷以外にも腕などに軽い切り傷がありました。

 恐らく起きていらしたときに襲撃に遭い、その時に防御創ができたのだと思われます」


 ヴィクティムは襲撃時起きていて、防御する余裕はあった。

 ヴィクティムは昨日それほど酒を飲んではいなかったから、防御するのに酔いが邪魔になるということもなかっただろう。


「では次に、メイドさん。最初に発見した時の様子を教えてください」

「は、はい。ええっとですね……」


 次に話を振ったのはミストレスに雇われたメイド。

 俺と同じくらいの年齢の女性で小動物のような印象を受ける。

 あまり手先が器用ではないようで、昨日出会ってからわずかな時間でうっかりミスを何度も連発していたのを記憶している。


「私は朝食の準備ができたので皆さんをお呼びにお部屋を回っていたんです。

 こう、上の階から順番に。で、ヴィクティムさんの部屋の扉をノックしても反応がなかったので、おかしいなー、と思って鍵を使って扉を開けたんです。そうしたら……」


 あの光景が広がっていたということか。

 それよりも気になった一言があった。


「鍵を開けた、ということは鍵がかけられていたということですか?」

「え? ああ、そうですね。あの部屋には内側から鍵がかかっていました」

「じゃあなんだ。メイドが開けるまであの部屋は密室だったっつーことか?」


 ……いよいよそれっぽくなってきたな。

 絶海の孤島で起きた密室殺人事件。使い古されすぎで逆に新しいんじゃないかと思うレベルだ。


「ミストレス、メイドが持つ鍵以外に客室の扉を開ける鍵はいくつありますか?」

「現在は鍵はメイドが持つ1つだけです。

 最初はいくつもスペアがあったのですが、メイドがすぐに失くしてしまい、1つだけあったマスターキーを渡しておりましたの。まだ雇い始めて数日しかたっていないというのに……」

「なるほど……」


 あの部屋に鍵を開けてはいることができたのはメイド一人。

 自然と疑惑の視線がメイドに向けられる。

 向けられた視線の意味が分からない程鈍感ではなかったようだ。メイドは必死に首に横に振る。


「……確実でもないのに疑いの目を向けるのはやめましょう。

 第一、メイドさんは事件当時、食堂で給仕をしていたのでしょう?」

「そ、そうです! プレジデントさん、アスリートさん、ドクターさん、一緒にいましたよね!?」

「……そういえばそうだったな。悪い」

「しかし、常時お互いの動きを見張っていたわけでもあるまい?

 ワシも用を足しに何度か食堂を出ておる。その間であれば誰の目にも付かずに自由に動けたじゃろうて」

「確かに皆さん何度か席を外してはいましたが……。長くても10分くらいでしたよ?

 その間に犯行に及ぶことなんて……」


 ……ふむ。

 食堂に残っていた組は事件当時の完全なアリバイがあるわけではない。

 だが、食堂をこっそり抜けて犯行に及ぼうと思えば短時間で事をすまさなければならない。

 密室のことを考えると難しいだろうか?


「そういう意味では、私にはアリバイはありませんわね」


 そう。ミストレスは誰よりも早く自室に戻っている。

 その後、今日の朝まで彼女がどこで何をしていたのか誰も分からない。

 ……もちろん、密室をどうするのかという問題はついて回るが。


「食堂に残っていた皆さんで、何か気になったことはありますか?」

「……いや、特にねえなあ。普通に飲んでただけだし……」

「ワシも同じじゃな。今思い返しても特におかしなところはなかったと思うぞ」

「同じく……」


 食堂でおかしな挙動は特になし。

 うまく情報を引き出せていないだけか?


「……」

「……」


 俺が質問を止めたとたんに皆表情を消してピクリとも動かなくなった。

 なるほど。彼らは闇王が出題する上で作られたキャラクター。俺の質問に対してどのように答えるのかは予め決められているということか。


 ……。ここからどうすればいいんだ?

 夢の中での俺は探偵らしいが、捜査のやり方なんて知らない。


「じゃあ、事情聴取は、ここまでで……」


 これで本当に良いのか? もっと聞くべきことがあるんじゃないのか?

 ……ダメだ。

 俺たちはミストレスによって招かれた客人。この島に来るまでお互いの事なんて全く知らなかった。

 そんな彼らに何を聞けばいいのかさっぱり分からない。




 場所は変わって事件現場。

 ヴィクティムの遺体と流れた血は今も床に置かれたままだ。


 とりあえず先ほどの話に出てきた内鍵を確認。

 つまみを回すタイプのよくある構造の物だ。

 メイドがこの部屋に来たときはこの鍵が閉まっていたらしい。


「他に侵入経路になりそうなものは……」


 あった。窓が開いている。

 昨夜は暑かったからヴィクティムも窓を開けて涼んでいたのかもしれない。

 ここから入ってきたなら密室問題も解決するのだが……。


「まあ、無理だよな」


 窓を開けて下を見れば地面は遥か下。

 ここは3階だ。ここからは出ることも入ることもできない。



 ……。

 …………。

 ここからどうしよう。

 事情聴取して、事件現場を見て。

 すでに検死の結果は聞いている。その手の専門家であるドクターから聞くことができた事実があれだけならそれ以上の情報は用意されていないということだろう。

 ……俺が上手く聞き出せていないだけという可能性は勿論あるが。




 気分転換のために館の外に出てみた。

 この島は大きいのか、館から出ただけでは海は見えなかった。

 これまでの捜査からわかったことをまとめたメモを見て考えながら歩き回る。


「……うわっ!?」


 ぬかるんでいた地面に足を取られる。

 ……ダメだ。

 捜査が上手く進められないことが悪いものをどんどん呼び込んでいる気がしてきた。

 いつもならこんなぬかるみに足を取られたりしないはずなのに。

 すごすごと館の中に戻る。




 正直手詰まりだ。

 今この瞬間も他の受験者たちは上手く情報を収集しているかもしれないと思うと焦りが募る、

 こういう部類のことは得意分野だったはずなのだが、火王国で修業に明け暮れたせいで勘が鈍ったか?


 自室に戻って砂時計を見ればもう残り時間が少ない。

 ……最後に何か一つだけでもヒントを。


 部屋を見渡す。

 被害者の滞在していた部屋と同じ構造の部屋。内側から鍵がかけられ、外から入るには鍵がなければ……。




 ……。

 …………。

 いや、鍵がなくても行けるのか?

 我ながら、いつもいつもよく考え付くものだ。

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