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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第4章 闇王の難題
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閑話 追憶③ 一触即発の食堂

「……あのさあ」


 呆れた表情を浮かべる俺の前にいるのは長身の男性と小柄な男性。

 エルフのキールとドワーフのゲルド爺である。

 2人は1本の酒瓶の所有権を争い、お互いに掴んだまま放さない。

 俺がふらりと食堂に立ち寄ってみれば既にこの状況だった。


「子供の前で恥ずかしくないのか?」


 俺の後ろにはシルードとオルテが控えている。

 俺から子供たちの表情は見えないが、きっと俺と同じような表情を浮かべているに違いない。


「くっ! 分かります! 分かってはいるんです!

 ですが、この1本だけは……」

「男には譲れん戦いというものがある!

 あんたにも分かるだろ!? 大将!」

「少なくとも今ではねえよ」


 冷たい視線を向ける俺に対して今問題となっている酒の素晴らしさを説き始める2人。

 酒を嗜まない俺にとっては「良い酒なんだな」程度の感想しかわかない。


「別に1杯分しかないわけでもないんだろ?

 分け合って飲めば良いじゃないか」

「分かってませんね隊長。

 こんないいお酒、次はいつ手に入るか分からないんですよ。

 たった1杯であっても譲るつもりは一切ありません!」

「この酒の価値はあんたも飲めばわかる! もったいないから飲ませんがな!」

「……ガビー? ガビはいないかー? こいつらどうにかしてほしいんだけどー?」


 これ以上相手したくない。

 なんで普段はまともなのに酒が絡むとこんなにダメになるんだ。


「ガビの兄ちゃんならもう休んでるぜ?」

「今日のお仕事は大変でしたからね……」


 ……そうか。

 今日の仕事は中身もよく分からない重い物をあっちこっちへ運ばされるものだった。

 今後の作戦において重要な役割を果たすものらしいが、木っ端のような扱いを受けている俺にその具体的な内容が告げられるわけもなかった。


「じゃあ、この状況どうしようか……」

「「ふぐぐぐぐぐ……」」


 俺たち以外にも食堂を利用している者はいる。

 その誰もが「うわ……」という視線を向けている。

 この食堂を利用する者が召喚された者だけというのが不幸中の幸いだ。

 もしこの場面を他の部隊から見られようものなら、今後の扱いがさらに悪いものになりかねない。


「隊長、アタシが何とかしてやろうかい?」


 そんな俺に後ろから声をかけてきたのは1人の女性。

 俺よりも高い身長、筋肉質な体、ヒトではありえない赤い肌。

 彼女の名前はシィル。オーガ族の女戦士だ。


「シィルか。何とかって、一体何をするつもり……」

「ん? 急に固まってどうしたんだい隊長」

「……何故服を着ていない?」


 俺は思わず途中で言葉が止まる。

 振り返った先に全裸の女性がいるとか心臓が飛び出るかと思った。


「あ? さっきまで水浴びてたからかな」

「着てこい。今すぐにだ」

「はっはっは。こんなごつい体見たって誰も興奮したりしないさね」

「教育上よろしくないんだよ!」


 ここには純粋な少年もいるんだよ。

 そう思ってシルードの方を見ればオルテがしっかり目を塞いでガードしていた。ナイスフォロー。


「……若い頃からいろいろ経験しておくってのも大切だよ?」

「ここで使う場面ではないと思うなあ!」


 ぐいぐいと背中を押してとりあえず食堂から追い出す。

 その時デリケートな部分に触れないよう細心の注意を払う。

 ……何でちょっと残念そうな顔してるんだ。いいから早く何か着て。


 何とかシィルを追い出して食堂に戻っても例の2人はまだやり合っていた。

 シィルが全裸で立っていたことに気付いた様子もない。

 こいつら……。


「まったく……。隊長はうぶだねえ」


 数分してシィルは戻ってきた。

 今度はラフなものではあるがしっかりと服を着ていた。


「そんなんじゃ将来苦労するよ?」

「俺のことは良いんだよ。

 ……それで、この状況を何とかするいい案があるのか?」

「ああ。アタシに任せな。一発で解決してやるよ」

「……何故だろう。嫌な予感がする」


 シィルは酒瓶を取り合う2人にずんずんと近づいていく。

 2人は目の前の酒瓶に夢中でそれに気づかない。


 シィルはその筋肉に覆われた立派な腕を伸ばし。

 2人から力づくで酒瓶を強奪した。


「「…………!?」」


 そして、その栓を開け、一気に飲み干した。


「「…………!!??」」

「っかーっ! うまいねえコレ!」


 解決。問題やもつれた事件などを、うまく処理し落着させること。

 これを解決と呼んでいいのかはなはだ疑問である。


「お、おま、何やっとんじゃお前――!」

「返して! 僕のお酒を返してください!」

「ああん? 胃袋に入ったもんが返ってくるわけないだろう?」


 情けなく服に縋りつく大の男2人をポイっと投げ捨てる。

 エルフとドワーフとオーガ。力比べをした時の結果は明白である。


「許さん! 許さんぞおぉぉ!」

「酒の恨みは何よりも深いということを教えてあげましょう!」


 なおも諦めない2人は立ち上がり、魔力を集中させる。

 ……まさかここで魔術を使うつもりか!?

 流石にそれは止めようと1歩を踏み出す。


「……カッコ悪い」


 ビシッ!と2人の動きを止めたのは幼い少女のつぶやきだった。

 2人は固まったままギギギ、と顔だけを動かし、少女――オルテの方を見る。


「そんな風に暴れるなら……嫌い」

「「!!」」


 この言葉がとどめとなったようだ。

 2人はしょぼくれた顔をして食堂から大人しく去っていった。


「はっはっは! いい一撃だったよ、オルテ!」

「む~……」


 ガシガシと力を込めて頭を撫でるシィルとされるがままになっているオルテ。


「隊長さん、私酷いこと言ってしまいましたか?」

「いや、あれでいい。今回はあの2人が全面的に悪いからな」


 優しく頭を撫でてあげると気持ちよさそうに目を細める。

 オルテの一言が今回の騒動を治めたのは間違いない。

 良いことをしたら褒めるのは周りの大人の役割。


「酒のことは悪いことをしたあの2人への罰だということにしておこう。

 だからオルテはもうこのことを気にする必要はないよ」

「……分かりました」


 こう言ってもこの子は優しいからこれから少しの間悩むかもしれないな。

 その辺のフォローはちゃんとしよう。


「……それでも」

「うん?」

「あの2人があれだけこだわるお酒……。やっぱり気になります」

「……大人になったらな」

「そうそう。子供のうちから酒を覚えるとああなっちまうからねえ!」

「むう。それは嫌かもです」


 ソルアのその容赦ない一言で、この騒動を見守っていた者たちは皆ほっこりするのであった。

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