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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第4章 闇王の難題
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第58話 十人十色の事情

 闇王の姿が完全に見えなくなった後。

 ソルアは機嫌悪そうにドカッとベッドに勢いよく腰掛ける。

 虚空を鋭い目つきで睨んでいるから、闇王に対する復讐の方法でも考えているのだろう。


 俺は床に捨てられた書類の束を拾い上げる。

 闇王の態度はともかく、俺にはこの試練を避けて通るという選択肢はない。

 さっそく読み始めるが、その内容は闇王の性格がよく現れていた。

 まず読み辛い。1ページに何十個も注釈がつけられて、目線をあちこちに移動させなければ読むことができない上に、注釈部分も異様に文字が小さい。

 やっと読み終わったかと思ったら実はその部分は試験方法の改正がされる前のもので、次のページからどのように改正されたのかという説明が始まる。

 何時間もかけ、ようやく読み終えたころになれば、何度書類を床にたたきつけそうになったのかもう覚えていない。


「終わった?」

「……ああ」

「私があの女をぶっ飛ばすチャンスはありそう?」

「気持ちは分かるが落ち着きなさい。

 まずは試練の流れを説明しよう」


 試練は2日に分けて行われる。

 試験内容は闇王が出す問題に受験者が答えるという至ってシンプルな形なものだ。


 しかし、その出題方法・回答方法に闇王国ならではの部分がある。

 まず1日目――すなわち出題の日、俺たち受験者は闇王に同じ内容の夢を個別に見せられる。

 その夢の内容については詳細に語られていない。

 少なくとも回答するというプロセスが後に用意されているなら、夢の中で戦わされるといったことはないようだが……。


 そして2日目――回答の日、俺を含めた受験者はもう一度夢に潜る。

 今度の夢は全員でその内容を共有するらしい。

 そして、受験者の間でお互いの回答をぶつけあい、最も優秀な回答をした者が合格者となるらしい。


「受験者同士で潰しあうことになるのね……」

「俺が混ざることになる試験は官僚登用試験の中でも最終試験。

 書類の中には、ご丁寧に他の受験者の情報も書かれていた」


 受験者は俺を除けば3人。

 最終試験に残っているというだけあって、舐めてかかれば痛い目を見ることになるのはこちらだろう。


 まず1人目。エドグラン。

 この国において最大手だった新聞社「デイリーダーク」の経営者の一人息子。

 「だった」というのは、闇王の「なんか気に入らない」という理由により取り潰しにあったためである。


 次に2人目。アスディル。

 この国における元官僚を父に持つ男性。

 「元」がつくのは、闇王から突如「貴方クビ」と告げられたためである。


 最後に3人目。ガスティ。

 この国における元将軍を父に持つ女性。

 「元」がつくのは……語るまでもないだろう。


「これはひどい」

「王の力って国民の支持が要素の1つのはずなんだがな……」


 書類を読む限り闇王の行いを正当化する要素は1つとしてない。

 気紛れにこれまで築き上げたものをぶち壊す。

 きっとこれらの行為をするときもあの死んだ目で表情を動かすことなく淡々とやったのだろう。


「何が一番酷いって、これ読んだところで今の俺に対策としてできることが何もないということなんだよな……」

「結局明日の出題内容次第だからね」


 頑張って読んだのに……。徒労感でどっと疲れが出てきた。

 これも間違いなく闇王の計画通りだというのが本当にむかつく。


「私がぶっ飛ばすチャンスもなさそうだし」

「それは諦めなさい。

 実際に殴ったら本当に不敬罪で捕まりそうだ」


 そんな会話をしているとぐううう、とソルアの腹が大きな音を立てた。

 気づけばもう日が沈もうとしている。昼過ぎから今まで書類を読むのに時間を潰されたということか。


「……とりあえず、どこかで外食しよう」

「そうだな、美味しいものがあることを祈ろう」


 そう言って2人で並び立って部屋を出る。

 夕焼けの中見える街の景色は昼間とはまた違った感想を抱かせる。

 壁の白い部分が夕焼けで赤く見え、どこか郷愁を感じさせる。


 入った店は通りの隅にある小さな食堂だった。

 外から見ていい感じだった……とかではなく、ここしか店がなかった。

 外から来る者も少ないので来訪者向けの店が少ないということにもっと早く気付くべきだった。

 おかげで店を探して何分も歩き回る羽目になった。


「いらっしゃい。何人?」

「2人です」

「適当な席に座ってて」


 相変わらずこの国の住人は言葉が少ない。

 言われたとおりに座って待っていると、料理が運ばれてきた。

 メニューから注文した覚えはないが、きっとこの店にはこれしか料理がないのだろう。


「お待ち。

 ……ん? あんた、その腕輪……」


 女将が目敏く俺がつけている腕輪に目をつける。

 隠しているわけでもないので見つかったところでどうとも思わないが……。

 ……闇王から指令を受けていて、嫌がらせが始まったりしない限りは。


「あんたが『継承の儀』の挑戦者か。

 もう陛下にはお会いしたかい?」

「ええ。強烈な出会いでしたけどね……」

「ふっ。そうだろう。

 何せあの御方は最悪だからね」


 そういう女将の声に闇王に対する嫌悪の感情はなく。

 どこか誇らしげですらあった。


「いいんですか? この国の一番上に立つ人が最悪っていうのは」

「まだこの国に来たばかりのあんたには分からないことさ」


 そう言って女将は立ち去っていく。

 俺もソルアもその背中を見送るくらいしかすることができない。


 この国の王は最悪だ。それは国民も認めている。

 だが、国民がそのことを誇りに思っているとはどういうことだ?

 ……だめだ、俺の理解が及ばない。


「何なんだろうな、この国は……」

「私には分からん。そういうの考えるのはナギアの役割でしょ」

「たまには頭脳労働してくれてもいいぞ?」

「いーやー」


 食事はこんがりと焼いた肉に黒いソースがたっぷりとかかった黒々とした料理だった。

 ソルアはビジュアルに若干の抵抗感を感じていたようだが、味は良かった。

 火王国の焼いただけの料理のせいで味覚のレベルが落ちているせいかもしれないけれども。


 日も沈み、精神的にどっと疲れていたため、宿に就いたらすぐに眠りに就いた。

 明日の朝、俺の枕元には俺が見た夢が結晶となって置かれているのだろう。

 どうか悪夢となりませんように。







 時は少し遡り、闇王が宿屋から出て行った後。

 闇王はそのまま徒歩で自身の居城へ帰っていった。

 居城と言っても周囲の建物と比べても全く違いはない。

 王の城と誰かに教えてもらわなければ、そのまま素通りしそうな平凡な作りだった。


 闇王が自宅の扉をくぐると、真っ先に女性の声が叩きつけられる。


「陛下! 護衛もつけずに一体どこを歩き回っておられたのですか!?」

「……帰って早々うるさいわね。あなたには関係ないでしょう?」

「あーりーまーすー! 私は陛下の秘書なんですぅー!

 もし御身に何かあったらと思ったら、私はいてもたってもいられませんでしたよ、もー!」


 闇王の冷たく拒絶するような声にもめげずに言い返す女性。

 どんどん大きくなる声に闇王のイライラが高まっていく。

 いっそ魔術で黙らせてやろうかと右手を女性の方に向けようとする。


「まあまあ、ケイオシア、落ち着いて落ち着いて。

 陛下もお帰りなさい。おやつの準備できてますけどお召し上がりになられますか?」

「カロス兄さん! またそんな甘やかすようなこと言って!」

「はいはい、またその話は今度ね。

 で、陛下どうします? 今日はご近所さんから美味しそうなお菓子貰ったんですよ」

「……いただくわ」


 毒気を抜かれ、上げかけていた右手を下げる。

 カロスとケイオシアの兄妹。この2人が闇王の現在の身の回りを世話する者たちだ。

 闇王の気まぐれでコロコロと人事変わる中、この2人は古参に数えられる。

 ちなみにケイオシアはメイドである。秘書はあくまで本人の自称。


 3人で食卓を囲む。

 初めは闇王1人だけだったが、カロスが「ご飯の盛り付けとか大変なんでご一緒させていただきますね?」と言い始めてから3人で食べるようになった。

 賑やかな食卓……というより、兄妹が一方的に喋っているの方が正確である。


「まっっっったく! いきなりふらっと何処かに行ってしまわれると私も困ります!

 報・連・相! 御存じですよね!?」

「ケイオシアー、口に物を入れたまま喋るんじゃありませーん。

 あ、陛下、今日は茶葉を変えてみたんですよ」

「…………」

「……ゴクン。急なお客様とかがいらしたらどうするんですか!?

 私は超優秀な秘書ですが、陛下でなければできない応対というのもあるんですからね!?」

「どうです? 僕は風味がお気に入りなんですけど。

 火王国から来た商人から手に入れたんですけど、継続的に買っても良いかな?」

「…………」


 ナギア・ソルアを一方的に虐め倒した闇王の姿はここにはない。

 いつもの表情を崩すことなく、淡々と聞いている。……聞き流しているだけかもしれないが。

 兄妹の態度に機嫌を悪くしているというわけでもない。


 だが、兄妹の次の言葉にはさすがに表情を変えざるを得なかった。


「第一、陛下は今暗殺者に狙われているんですよ!?

 用もないのに外を出歩いたりしないでください!」

「あー……。それはそうだね、うん。

 陛下、用があるなら僕たちに言ってください。できる限り僕たちが代わりにやりますから」


 現在この国では闇王を狙った暗殺計画が進行している。

 ……このことが暗殺対象にバレている時点で暗殺も何もないのだが、このことを知る数少ない闇王の側近たちは厳戒態勢にあった。


 側近たちが闇王の暗殺計画を知るに至ったのは、既に知っていた闇王がふと漏らしてしまったことに起因する。

 もちろん極秘捜査は進行中であるが、誰が首謀者であるか現在でも不明である。

 何せ容疑者が多すぎる。この国で闇王から何の嫌がらせを受けていない者など1人もいないのだから。


「陛下が最悪なのはもう仕方がないとして……」

「陛下、戦闘になったらあまり強くないんですから単独で行動されるのはちょっと……」


 闇王が得意とするのは夢を使っての精神攻撃と闇属性魔術による弱体化。

 戦う前に相手から戦う力を削ぎ落すのが定石である。

 そのため、武器を持った相手と相対するという状況ができてしまっている時点で闇王にとっては大ピンチなのである。


 それでも、闇王は折れなかった。


「愚かね。暗殺されるのが怖いからって引きこもれるわけないでしょう?

 もし余計なことをするようなら、今度こそクビにするわよ」

「陛下……」

「……ごちそうさま。私は部屋で休むわ」


 闇王はそう言ってさっさと部屋に戻っていく。

 残された兄妹は向き合ってため息をつくのであった。 

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