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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第3章 炎王の喧嘩
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第54話 別れの時

 あの後、裏闘技塔の試合を何戦か観戦して、俺とソルアは帰途についた。

 闘技塔に比べ競技人口が少ないこともあり、質が落ちるものかと思ったが、同じくらいだった。

 あの場所でソルアが10位以内に入っていたという事実に戦慄を覚える。

 今後ソルアの機嫌を損なわないように気を付けよう……。





「ナギア、お金はどれくらい稼げた?」

「1か月分節約を考えずに生活することができる程度には。お前は?」

「んー。物価にもよるけど私が満足するくらい飲み食いしても当分もつくらい」


 あれからさらに数日が経過したある日。

 俺とソルアはお互いの稼ぎを確認していた。

 次の国、闇王国へ出発する予定日が間もなく近づきつつあった。


「挨拶とかもそろそろしておかないとね」

「そうだな……。

 そういえば裏闘技塔のランキング、急に抜けても大丈夫なのか?」

「その辺は大丈夫。

 近い内に別の国に行くことはすでに伝えてあるから」

「そうか。そっちの方にも挨拶に行くんだろ?」

「もちろん」

「じゃあ、今日はお互い自由行動で」

「はーい」


 俺もイチト達に挨拶に行かなければならない。

 彼らに伝えようと思っていることを考えれば、想定以上に長い時間がかかるかもしれない。

 イチト達とソルアに面識もないし、俺の都合でソルアを待たせるのも悪い。

 それなら1日まるっと自由行動にしてしまった方がいい、という判断だった。


 そんなわけで俺が向かったのは表の闘技塔。

 イチト達は今日もそこで奉仕活動に勤しんでいることだろう。


 幸いすぐに見つかった。いつも通り囚人服を着て、闘技塔の観客席の掃除をしていた。


「あ、いたいた。おーい、イチトさん」

「あん? ……なんだお前か」

「そんなガッカリした顔しなくても……」


 イチトとは試合後もたまに顔を合わせていた。

 最終的に華炎流ではなく、天井の崩落によって勝ったということについて一番何とも言えない表情を浮かべていたのがイチトだったが、一度は致命傷を与えたこと、炎王に魔術を使わせたことで何とか満足してくれた。


「何の用だ?」

「もうすぐ次の国に行きますので、最後の挨拶に伺いました」

「そうか。もうそんな時期か。

 ちょっと待ってろあいつら集めてやるから」

「ありがとうございます」


 掃除用具を置いて門下生たちを呼びに行く。

 今更ながらに思うが、受刑者にしては自由だよな。


「ナギア君、お待たせ〜」

「お疲れっす〜」


 イチトが皆をぞろぞろと連れてくる。

 やはり受刑者とは思えないくらい明るい表情だ。


「大変お世話になりました」


 深々と頭を下げる。

 まずは言うべきことを言わなければならない。

 彼らがいなければこの国での試練を突破することは絶対にできなかった。

 感謝してもしきれない。


「気にすんな。お前があの試合で一発入れてくれたおかげで華炎流の評判はうなぎ上りだしな」

「門下生になりたいって人が毎日来るんすよ。いやー、うれしい悲鳴って奴っすね」

「私も、色んな所で声かけられるようになった」


 ニヤリとした笑みを浮かべるイチト達。

 明るい表情だったのはそういうことか。


「で、用件ってのはそれだけか?」

「いえ、もう一つ」

「?」


 お礼を言うのも大切な目的だが、俺としてはこのもう一つの目的の方がメインだ。


「俺って王様目指してるじゃないですか」

「そうだな」

「皆さん、俺が王様になったあと、俺の国に来てくれませんか?」

「「「「……」」」」


 要はスカウトである。


「ねえイチトさん、華炎流、もっと広げたくありませんか?」

「それは別にここでだって……」

「今回の修行で分かったと思うんですけど、華炎流の技って属性ごとに効果が変わるんですよね」

「……」

「俺の空属性って希少属性なので、俺の国ってこの国みたいに特定の属性のばかりが集まるなんてことはないと思うんですよ。

 他の属性の人が華炎流の技を使うとどうなるか……。見たく、ありません?」

「……条件は?」

「纏魔の闘法は俺の国では必修。

 そこでの技術指導をイチトさん達に任せます。そこでイチトさんが一般的なことを教えるのに加えて、華炎流を教えても良しとするっていうのはどうです?

 ああ、そうなればイチトさん達を公務員として雇うことになるんでしょうねえ」

「公務員……」

「安定した生活……」


 形式上はイチトに向かって話しかけているが、狙いは門下生達だ。

 将を射んと欲すればまずは馬から。

 野盗生活という不安定な生活を長年送ってきた彼らからすれば安定した収入はいい餌となるはずだ。

 イチトもそれに気付いているようで、背後からのキラキラした視線に負けて深いため息をつく。


「分かったよ……。

 じゃあお前さんが王様になったときには考えてやる」

「ありがとうございます。

 あ、実はもう1人俺の国に来てくれるっていう人はいるんで、その人のこともお願いしていいですか?」

「あん? ああ、あの解説にいた嬢ちゃんか?」

「いえ、現風王の姉ですね」


 あの人にはストッパーがいる。

 だが俺はその役割は担いたくない。

 だって怖いもん。


「…………なんて?」

「風王の姉です!

 気付いたら弱み握って笑顔で刺しにくるタイプの人ですがよろしくお願いします!」


 言うべきことは言い終わったので帰宅の準備を始める。

 物資の補給とかしないといけないし。

 ああ、忙しい忙しい。


「待て! 何帰ろうとしてんだ!

 王族!? 何とかできるわけねえだろうが!」

「そこをなんとか!

 俺には無理です!」

「サントォ! こいつ殴ってでも止めろ!

 今なら『崩突』までなら許す!」

「殺す気か!?」

「うるせえ! 馬鹿じゃねえのかお前!」


 見かねた闘技塔の職員が止めに入るまで大の男が俺の服を掴んで離さないという光景が続いていた。

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