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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第3章 炎王の喧嘩
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第53話 裏闘技塔

 時は遡ること約3か月前。

 ソルアがうじうじしていたナギアを部屋から叩き出した後。


「……。私も、強くならないと」


 決意を込めて一人呟く。

 ソルアも炎王の戦いを目の当たりにして何も思わなかったわけではない。

 ナギアはこれから炎王と戦わなければならないという絶望があったが、ソルアはそんなことはなかったので、素直にあの強さには憧れを抱いていた。


「とはいえ、どうするか……」


 修業相手になりそうなリーズとライオットは現在討伐作戦に参加中。

 闘技塔で腕試しというのも悪くはないが、あそこでは武器が使えないというのがよろしくない。

 わざわざ使い慣れてきた武器を手放してまで新しい戦い方を模索する気はない。


 ……

 …………。


「ま、こうなるよね」


 ソルアは国から出て、一人獣狩りをしていた。

 できれば人を相手に戦いたいが、往来で喧嘩を吹っ掛けない程度の分別はあった。

 狩った獣を売れば僅かではあるが、お金を稼ぐこともできるので、積極的に狩りをしていた。




 そんな日々が数日続いたある日。

 いつも通り狩った獣を換金するためにもはや馴染みとなりつつあった素材屋を訪れて、稼いだお金をどこの屋台で消費しようか考えていた時。


「……嬢ちゃん」

「……!」


 背後から見知らぬ男に話しかけられた。

 気配もなく近づいてきた男でに警戒心をあらわにするが、男は両手を上げ、攻撃の意思がないことをアピールする。


「そう警戒するな。

 この国じゃ珍しく武器を持ち歩いてる奴がいるもんだから少し気になってな」

「用件は?」

「その武器、手入れしてねえだろ。

 俺が見てやる。ついてきな」


 確かにここ数日で刃の切れ味が落ちてきていた。

 今まで手入れはナギアに任せていて、自分ではやったことがなかったのでそのまま放置していた。

 知らない人についていかないというのはこの世界でも常識ではあるが、その辺の知識はまだ足りないソルアであった。

 手入れしてくれるならラッキー、くらいの軽い気持ちでソルアは男についていった。





「……おい、これどんだけ手入れしてないんだ?」

「手入れの仕方知らない」

「まじか。じゃあ教えてやるからこっち来い」


 幸い男は善良な男だった。

 ソルアに乱暴しようとすることもなく、それどころか丁寧に武器の手入れ方法を教えてくれた。


「よし。こんなもんだろ。これからはちゃんと丁寧に扱ってやれよ」

「ありがと。お金いる?」

「あー……。正直払ってくれるならありがてえが、無理にとは言わん。

 俺はひどい状態の武器が見てられなかっただけだからな」

「むー……。じゃあ、少しだけ払う。

 手入れの方法教えてくれたお礼」

「ありがとよ」


 お金を渡す瞬間、ソルアはふと思った。

 この国の武器と言えば手甲のようにせいぜいが手を覆う程度のもの。

 なんでこの男は槍の手入れの方法を知っているんだ?


「ねえ、何で槍の手入れができるの?」

「何でってそりゃあ……。俺、鍛冶師だし…‥‥」

「そうじゃなくて。この国じゃ槍使う人なんていないじゃん」

「ああ、そっちか。この国にも武器を使って戦いたい奴は少数ながらいるんだよ」

「それ、どこ!?」

「え? あまりお勧めできるところじゃないんだが……」

「いいから」

「分かった。それは……」



 ……。

 …………。



「と、いう感じでここ教えてもらった」

「そっかー……」


 時は戻り現在。

 経緯を聞き終えたナギアは観客席に適当に備え置かれた机に突っ伏していた。

 大体予想通りと言えば予想通りだが、できれば当たって欲しくないタイプの予想だった。


「じゃあここは、火王国の中でも武器を使って戦いたい人が集まる場所ってことで合ってるか?」

「そんな感じ」

「一応言っとくと、何かの法に反してるなんてことはないからな」

「……!?」

「あ、ダっくん。やっほー」


 気づけば俺の後ろに誰かが立っていた。

 ソルアの反応を見る限り、知り合いのようだが……。


「さっきの話にも出てきた、私にここを紹介してくれた人」

「鍛冶師のダストンだ。あんたは、カムルナギア、だろ?」


 ダストンが差し出す手を握り、握手を交わす。

 俺が修業にかまけている間、ソルアにあれこれ手を焼いてくれたようだ。


「ダっくん、影薄いんだから後ろから話しかけちゃダメだって」

「悪かったよ……。今日は試合に出ねえのか、ソルア?」

「今日はその予定はない」

「そっか……。また儲けさせてくれると思ってたんだが……」

「また今度ね」


 会話から2人の仲はかなり良好なようだ。

 ソルアが多くの人と触れ合うのは良いことだと思う。


「で、ここが違法じゃないってのは本当なんですか?」

「本当さ。場所が場所なだけに人は寄って来ねえが、ちゃんと国に許可をとった民間事業だよ。

 今の炎王が即位してから反武器が主流になってるってだけで、武器を使うこと自体が禁じられてるわけでもないしな」

「そうですか。それなら、いいのか……?」


 ソルアは武器を使って対人の戦闘訓練を積みたかった。

 ここは武器使用も許された合法的な闘技場。

 何も問題はない。ただ立地があまりよろしくないというだけで。


「ここに通うようになってから、何か困ったりしたことは?」

「ない。外で狩りするより稼ぎもいいし、ちゃんと皆ルール守ってる」

「その辺はしっかりしてるよ。なにせ零細事業だからな。ルール無用な奴がいたらただでさえ少ない支持がさらに下がることになっちまう」


 観客席から闘技エリアを見れば『表』の闘技塔より人相が悪く、脛に傷を持っていそうな人たちが待機場所でたむろしている。

 『表』が戦士の闘技塔であるなら、『裏』はゴロツキの闘技塔と呼ばれても致し方ない。

 通常であれば、やっぱりここダメじゃね?、という感想を抱きそうな光景ではあるが……。


「まあ、それならいいか」


 ナギアは元の世界でのとある経験から人を見かけで判断しないというのが刷り込まれている。

 人相が悪い程度で評価は下がったりしないのであった。


「ところで、ソルアはここでどれくらいの成績を残してるんだ?」

「ここはランキング制度を採用してるんだけど、今は大体10位以内」

「あれは凄かったな。入ったその日に何試合もやってガンガンランキング上がっていったんだからな。

 普通なら1年くらいかけて50位くらいになるのがやっとだっていうのに。

 紹介した俺も誇らしいぜ」

「ふふん」

「……まじか」


 今回の修行を通してソルアともまともに戦える程度に強くなった自信はあったが……。

 どうやら現実はそうは甘くないらしい。


「姉御ー!

 今日も頑張りますんで見てて下せえー!」

「おー。頑張れー」


 次に試合を控えた若者から姉御呼びされるソルア。

 この3か月何があったのか、もう少し詳しく聞いてみても面白いかもしれない。

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