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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第3章 炎王の喧嘩
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第50話 目覚めた後で

 最初に目に入ったのは見知らぬ天井。

 右を見て、左を見てみるが、誰もいない。


「……ここは、医務室か何かか?」


 いくつもベッドが並んだ空間。

 風王国の医務室と比べてもベッドは使い込まれており、今まで多くの者がこの場所を利用してきたことがよく分かる。


「……うわ」


 使われた後の薬瓶と思われるものがあちこちに転がっているのが見えてしまった。

 衛生面にそれでいいのかという疑問もあるが、少なくとも火王国の国民たちはある程度傷が塞がったらすぐに帰ってしまい、その後のことは深く考えないのである。

 そのせいか、他国に比べて負傷者数は圧倒的に多いはずなのに医療技術は発展していない。

 それでも死者数は突出して多いわけではないというのだからしぶと……もとい、頑強である。


 とりあえず周りをもっとよく見てみようと、体を起こそうとすれば……


「~~~!!」


 声にならない激痛が走る。

 自分の左半身を見てみれば、包帯でぐるぐる巻きにされていた。

 今更ながらに気付くが、左目にも包帯が巻かれており、視界が半分しかない。


 左半身の重度の火傷。落下による両足骨折。

 本人は意識が朦朧としていたからどのようなけがを負っているのかよく覚えていないが、普通に考えて重体。

 試合後直ちに懸命の治療を受けたおかげで命が繋ぎ止められたという状態である。

 ちなみに炎王は、試合後、自力で瓦礫から這い出てきている。魔術『火鳥』の回復効果もあり、ほぼ無傷といってよい。

 試合に勝った方が重体で、負けた方がほぼ無傷。

 何ともちぐはぐな結果に火王国全員で何とも言えない表情を浮かべていたことをカムルナギアは知る由もない。

 

「……」


 動けない。誰もいない。

 つまり何もすることがない。

 適当な時間になれば誰かが様子を見に来てくれるだろうが、今が何時なのかも分からない。


「あれ、詰んでない?」


 独り言を呟くしかやることがない。

 もう一度眠ってしまってもいいのだろうが、左半身をわざわざ痛めるようなことをしてしまった。じんじんとした痛みが気になって寝付こうにも寝付けない。


「…………暇だ」


 どれほどの時間が経ったのか。

 体感的には何時間も経過した気がするが、おそらく数十分くらいしかたっていない。

 窓は遠く、外から何か音が聞こえてくることもない。


 召喚術を使うようになってからこうして一人静かに何もせずに過ごすということはなかった。

 久々に与えられた平穏を前に、ゆっくりと体を休めたり……


「魔力制御でもしてるか」


 しなかった。

 カムルナギア。本人に自覚はないがワーカーホリックの気がある。

 召喚された彼らはカムルナギアのそうした所が見ていられなかったために協力したという面もある。








 医師が包帯を交換するために入ってきたのはカムルナギアが目を覚ましてから約3時間後。

 それまで延々と魔力制御の訓練をし続けていた。

 それを見て医師は「何て鍛錬に熱心な人なんだ!」と感心。

 医師も火王国の国民。絶対安静という考えはあんまりなかった。


「お、目ぇ覚ましたか。どうだー? 生きてるかー?」


 医師に付いて、もう一人医務室への来訪者があった。炎王だ。


「……御覧の有様ですが、何か」

「そんだけ憎まれ口叩けんなら問題なさそうだな。

 ……とはいえ、すまん。ちょっとやりすぎた」

「……試合の結果は?」

「あー……。あの後、審議に入ってな。

 天井崩落させる奴なんて今までいなかったから、崩落して来た瓦礫を『場外』として扱うかどうかで揉めに揉めたんだよ。

 まあ、最後は俺がバシッっと負けを認めてやったことで議論は終了。お前の勝ちってことになった。

 次からは天井にも防御魔術貼って、二度と同じ戦法が使えないようにしようってよ」

「ですよねー……」


 審判たちは炎王の連勝記録がこうした形で途切れることについてごねにごねた。

 しかし炎王本人が負けを認めてしまったいる以上黙るしかない。

 二度とこうしたことがないように、というのは妥協案として出された結論だった。


「それにしても、目を覚ましてくれてよかったぜ。

 このまま死なれてたら風王国のとこのジジイに睨まれてただろうからな」

「そんなに重体だったんですか?」

「何しろ10日間も目を覚まさなかったくらいだからな」

「…………10日?」

「おう。10日」

「…………」

「…………」


 思考停止。

 からの復帰。


「まじで危ないやつじゃないですか!?」

「だーいじょうぶだって。2日目の段階で峠は越えたって報告受けてたから」

「そこまでは命の危機だったんですね!?」

「まあまあ、そう怒んなって。

 今日俺様が来たのもその辺のことを考えてのことだから」


 炎王はそう言いながら魔力を右手に集め始める。

 ボッ!という音と共に右手が真っ赤に燃える。


「と、いうわけで今からお前を燃やす」

「何が『と、いうわけ』なんですかねぇ!?

 負けた腹いせにこっそり生きたまま火葬する気ですか!?」

「バカ野郎、そんなことをするかよ。

 試合でも見せただろ。これは『火鳥』っつー魔術で、回復の効果もあんだよ」


 火といえば破壊の象徴と捉えられることが多い。

 実際火属性の魔術といえばそのほとんどが攻撃魔術である。

 しかし、火はもう一つ、浄化という性質を有している。

 宗教的な儀式において穢れを祓うために火を焚くのはこうした性質に着目したものであるといえよう。

 その性質を最大限発揮する火属性魔術『火鳥』。身体のあらゆる不調を穢れとして祓う補助魔術である。


「いいから大人しく燃やされてろ」

「ビジュアルが治療っていう感じじゃない!」

「こっちの方がはえーんだって。内臓ねじり切られてもすぐ治るんだぜ?」

「怖い怖い怖い怖い!

 熱っ!―――くない……」


 炎が全身を舐めてはいるが熱さは全く感じない。

 それどころか心地よい温かさに全身が包まれ、怪我どころか疲労や倦怠感といったものがみるみる消えていくのが実感できる。


「もっと早くこうしてやればよかったんだがな。

 面倒臭えのに捕まっててな……」

「?」

「お前にも関係のある話だ。後で話してやるよ」

「……はあ。お願いします」


 妙な伏線を張りながら炎王は治療を継続する。

 カムルナギアは暖かな炎に包まれ、次第に眠気を感じ始める。


「終わったら勝手に帰るから寝てもいいぜ?」

「じゃあ、お言葉に、甘えます……」


 そのまま目を瞑り、静かに寝息を立て始める。

 医師も包帯を交換し終え、炎王に一礼して医務室から去っていく。

 

 この状況、真実はれっきとした治療行為であるのだが、何も知らない者が見れば炎王が人を燃やしているようにしか見えないもので。

 つまり……


「ナギアー、そろそろ起きたー?

 私、お腹空いたんだけどー」

「あ」


 こういうことになる。


「…………ぶっ殺す」

「ちょっ、待て! 違うから! これ治療だから!

 何だその魔法陣!? ぎゃあああああああ!」


 その日、闘技塔に続いて2つ目の公共施設が破壊された。 

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