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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第3章 炎王の喧嘩
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第48話 炎王の喧嘩③ 戦士と王

 拳を突き出したまま姿勢のまま止まったカムルナギアと腰を突き出した滑稽な姿のまま止まった炎王。

 これまでの動から一挙に静となった闘技場。

 観客には何が起こったのか分からない。


「な、何が起こったのでしょうか!? 両者1歩も動きません!」

「ソルアリシアさん、何かご存じですか?」

「知らない。初めて見た技」


 止まっていたのは5秒かそれとも5分か。

 カムルナギアがゆっくりを拳を引き、構えも取らずじっと炎王を見つめる。

 まだ勝利を確信してはいない。だが、勝利のために必要なことは既になし終えた。


「――――ゴフッ」

「!!」


 炎王が少なくない量の血を吐く。

 そしてそのまま前に倒れこむ。


 観客はここにきてようやく先ほど挑戦者が放った技が致命傷を与える一撃だったということを悟る。

 少し遅れて炎王が倒れたという事実に驚愕する。

 常勝不敗の炎王。それがいま地に倒れ伏している。


「カ、カウントを始めます! 1、2、3!」


 審判が動揺の中カウントを始める。

 後はこれが10まで続けばカムルナギアの勝ち。


 ……頼むから立ってくれるなよ?

 今のが最後の一撃なんだ。この後には策も何もない。

 内臓が捻じれてるんだ。起きてくることはないはず――。





「おうさま、がんばれー!」

「まけるなー!」


 闘技場に倒れた炎王にかけられるのは観客からの声。

 炎王に憧れ、炎王に近づこうと努力する子供たちの声。


「立ってくれ我が王!」

「あんたならまだ戦えるだろう!?」


 それに続きかけられるのは戦士の声。

 かつてどこかで王に敗北したのかもしれない大人たちの声。


「4、5、6!」

「立て! 立って俺たちに勝利を見せてくれ!」


 ……立つな! そのまま倒れてろ!


 声に出された願いと声に出なかった願い。

 届いたのはどちらの願いか。


「7、8、9!」


 ――ピクッ。

 倒れた炎王の手が動く。

 そして、大地を掴むように拳が握られる。


 膝を立てる。肘をつく。体を起こす。

 歓声に応えるように。まるで民の声が糸となって吊り上げられるように。


 炎王は立ち上がった。


 …………嘘だろ。

 体の中は捻じれ、今も激痛が走っているはずだ。

 それでも立つのか、炎王!


「……ああ。痛え。効いたぜ、今のは……」

「そのまま倒れていてほしかったんですけどね……」

「……はっ。そんな簡単に負けるかよ……。ゴフッ!」


 炎王はまた血を吐く。

 傷が治ったわけでも突如パワーアップしたわけでもない。

 炎王は今も満身創痍だ。


「……しっかし、華炎流とはな……。

 やっぱ、立ちはだかるよなあ……」

「華炎流を知ってるんですか?」

「……当たり前だろ。今から41年と68日前。華炎流の師範って奴と一戦交えてんだよ……。

 あいつは強かったぜ……。危うく殺られるかと思ったくらいだからな……」


 ……俺はその男の名を知っている。

 俺をこの状況まで導いてくれた大恩ある人だ。


「……魔術と武術の融合、だったか。

 魔術を否定した俺様とは、正反対だな……」

「……貴方だって、魔術を使えばもっと強くなれるでしょうに。

 貴方が1つでも遠距離攻撃魔術を覚えていたら俺は手も足も出ませんでしたよ」

「……それじゃダメなんだよ。それじゃ俺様の憧れには届かねえ」

「憧れ?」

「『纏魔の闘法』の開祖。僅かな魔力しか持たないにも関わらず最強の名をほしいままにした男。

 神代を生きた我が祖。初代火王だよ。……ガフッ!」

「……!」

「魔術も何も使わずただ圧倒的な力で全てをねじ伏せ、混沌溢れる神代において人類という種をこの世界の支配種族まで押し上げた大英雄。

 ……そんなの聞いちまったら、俺様もそうありたいと願うのは当然だろ?」


 俺はこの世界の神代といわれる時代を知らない。

 だがイチトから聞いていた『纏魔の闘法』の開祖。風王の言っていた『八人の始祖』。

 それがここで繋がるとは思ってもみなかった。


「……あー、くそ、まじで痛え……。

 意識が飛びそうだ……。……ゴフッ!」

「そのまま飛ばしてもらって一向に構いませんが」

「……は。冗談。お前にも聞こえただろ?

 俺が勝つのを待ってる奴らがいるんだよ……」

「その状態でまともに戦えるとでも?」

「……確かに無理だな。

 だが、それは戦わねえ理由にはならねえだろ?」

「……」


 無理だから。不可能だから。

 その程度で止まれる程度の夢を、俺も炎王も持っていない。


「……だが、このままやっても勝てねえのは明らかだな。

 ……仕方ねえな」


 炎王は腕を上げ、俺の腕輪を指さす。

 すると炎王の指先から魔力が放たれ、俺の腕輪に淡い赤色の光がともった。


「……!」

「炎王陛下、挑戦者に王としての資格あり、と認めました!

 すなわちこれは、炎王の敗北宣言か!?」


 ざわざわとどよめきが広がる。

 炎王は立ちあがった。それなのに戦うことなく負けを認めるのか?


「……お前は強い。その強さがあれば王となっても大丈夫だろうさ」


 炎王は清々しい笑顔を浮かべる。

 だがその目は、握りしめられた拳は、負けを認めるつもりなど一切ないことを雄弁に語っていた。


「……ならば何故、そんなにも闘志に溢れた目でこちらを見るんですか?」

「……俺様は初代王に憧れた戦士として魔術を使わない道で自らを鍛え上げ、あらゆる敵をこの拳で叩き潰してきた。

 その道を選んだことに後悔は無え。それが原因で負けたのならそれは俺様が弱かっただけだ。また鍛えて次勝てばいい」

「……」

「だがな。俺様の民たちが叫ぶんだよ。『王よ、どうか勝ってくれ』ってな。

 俺様は戦士であると同時に王だ。王は国民の声には応えてこそだろ?

 だから……」


 大気が震えだす。

 これまで炎王の体を守るために覆われていた魔力が、炎王の体の中に収束し始める。


「……!!」

「お前は戦士としての俺様の矜持に打ち勝った。それは誇れ。

 だからここからは、『私』は王として、我が民のために、お前に勝つ」


 炎王は腰を落とし、右手を後ろに、左手を前にして、



 初めて『構えた』。


「『我は勝利を謳う王なれば!』」

「……!?」

「『あらゆる敵を排し! あらゆる障害を払い!』」

「魔術の詠唱!?」

「『この血に流れる炎熱の再誕を今ここに告げよう!』」

「……させるかっ!」


 この魔術を成立させてはならない。

 この世界の王が詠唱をしてまで使う魔術など間違いなく絶大な効果を持つ。

 詠唱が終わるまでに、もう一度『崩突』を……!


 一息に距離を詰めて、再び必殺の一撃を叩きこもうとした俺の拳を、

 パシッ!

 炎王はお手本のような動きで捌いた。


「『これは始原。これは終局』」

「『火は絶えず。魂は潰えず』」

「『全て、全て、我が前に燃え尽きるべし!』」


「纏魔の闘法・凰火烈日流奥義『火鳥』」


 炎王の体に魔法陣が浮かぶ。

 魔法陣を通って魔力から変換された暖かな炎が炎王の体を覆う。

 炎は炎王の体を癒す祝福となり、炎王の体を守る鎧となり、炎王に戦う力を与える矛となる。


「民の支持によって魔力を増幅させる基底魔術の効果もあり、火王国の王は先天的に魔力が少ないという弱点を克服した。

 戦士としての私は王の力がなくとも個として最強であることを証明しようとしたが、今ここに至ってはそのようなは矜持ももはや不要。

 挑戦者カムルナギア。この一撃『紅蓮』をもってお前への称賛としよう」


 拳に魔法陣が浮かび、魔力が集中する。

 高密度の魔力が大気を揺らし、天井から破片が零れ落ちる。

 炎が溢れ、閉じられた空間の温度が一気に上がる。


「終わりだ」


 炎王が拳を突き出す。

 拳から炎が溢れ、まっすぐに俺に向かう。


 俺は――――。 

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