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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第1章 時の森
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第5話 戦闘開始と決着

 森の主を倒す。

 そう決めてから俺が行ったのは俺が目覚める場所の観察。

 そして……。


「こっちだ!」


 今俺は森の主に追いかけられている。

 ミスをして見つかったわけではない。

 森の主の動きを観察するためにあえて見つかったのだ。


 全速力で森の主から逃げる。

 だがその差はものすごい勢いで縮められていく。


「……今だ!」


 ギリギリで回避する。

 そして再び逃げようとすると、


 ケエエエエエエエエエェェェェェェェェン!


「……!」


 森の主の鳴き声が響く。

 全身が少し痺れるが、動けない程ではない。

 耳栓をすれば対処できると言うのは正解だったようだ。


 だが痺れたことによって逃げる速度が落ちたのは事実。

 数秒後、俺の胸には立派な角が生えていた。




 カラーンカラーンカラーン……


「……」


 いつも通り木の幹から出る。

 観察結果を何かに記録できればいいのだが、巻き戻りが起きれば地面に書いたものもすべて消えるため、記憶するしかない。


「だいじょうぶ?」

「……ああ」


 さっき死ぬまでのことを思い出す。

 森の主は俺を見つけたときにはまずまっすぐ突進してくる。

 その突進を2回避けると今度は鳴き声による金縛りをかけてくる。

 そして動きが鈍ったところでとどめを刺す。


 これが判明した森の主の行動パターンだ。

 どこで見つかってもこの行動は変わらなかった。


 耳栓の効果も実証することができた。

 金縛りを完全に無効化することはできないが、全く動けなくなるということはない。


 そして、この場所の時間の変化パターンも完全に頭に入った。

 時間の変化パターンは場所ではなく物体ごとに固定されていることも観察の結果明らかとなった。


「よし、これで行ける」


 俺は早速森の主を倒すための作業に移る。


「けっきょく、なにをするの?」

「悪いが教えられない。

 森の主にはある程度の知能があることは確認済みだ。

 君の動きから森の主に作戦が漏れるリスクは避けたい」

「ばれたらだめ?」

「ああ。

 これは1回きりの作戦だ。

 2度目は通じないだろう」


 ……それに、君と森の主が繋がっている可能性もある。

 口には出さないもう1つの懸念事項を考える。

 彼女に作業を手伝わせない理由でもある。


 数十分かけて作業を終える。

 最後にすべての仕掛けの確認する。


「そこは危ない。

 少し移動してくれ」

「これくらい?」

「あと右に3歩」

「わかった」

「では作戦開始だ」

「おー」




 森の主は怒り狂っていた。

 その原因は突然現れ縄張りを荒らすようになったあの男。

 最初に気づいたのは縄張り内で大声を出していたからだった。


 その時は縄張りを荒らす者としてしか認識していなかった。

 突進を回避されたから金縛りを使って止めてから殺した。

 殺したはずだった。


 しかし頭の中で聞いたことのない音が聞こえたと思ったら数分前にいた場所に戻されていた。

 森で生きていて初めてのことだった。

 森の主はその原因があの男にあると判断。

 その後見つけるたびに殺すことにした。


 だが何度殺してもいつもの場所に戻される。

 だから男が森から出ていくのを見逃してやったこともある。

 それでもいつもの場所に戻された。


 この時点で森の主の怒りは頂点に達した。

 見つけ次第殺す。

 いつもの森に戻るまで殺す。

 何度でも殺す。


「……! ……!」


 何か声が聞こえる。

 何かの話す声だ。

 その声は最初にあの男を見つけた場所から聞こえる。


 あの男がそこにいる。

 ならば殺す。


 一気に駆け、あの場所へたどり着く。

 あの男の姿が目に入った。

 男と森の主の間に遮蔽物は何もない。

 

 顔を下に、角を男に向ける。

 突進を開始する。

 男を殺すのに十分な速度を出す。


 男は避けない。

 諦めたか。

 あと数歩でいつも通り角が男の胸を貫くというまさにその瞬間。


 下を向いていた顔にとてつもない衝撃が加わった。




「ギャンッ!!」


 森の主はたまらず声を上げ、動きを止める。

 森の主にダメージを与えたのは立派な大木だった。


 埋められていた若芽が一気に成長し、森の主の顔を下からかち上げたのだ。


 動きを止めた森の主のもとへ、四方から急激に成長した木が襲い掛かる。

 地面、木、あらゆる場所に植え付けられた木の苗が一気に成長し森の主を叩きのめそうとする。


 俺の作業とは簡単だ。

 適当な時間で急激に成長する植物を初級土魔術で作った穴に埋める。

 そうすれば時間差で何もしなくても発動するトラップが出来上がる。


 ケエエエエエエエエエェェェェェェン!


 金縛りのための魔力の乗った声。

 だが、木の成長は止まらない。


「それは、その声を聞く耳がないと意味がないんだよ」


 ゴッ!という鈍い音がいくつも響く。

 全てが直撃することまでは期待していない。

 だが森の主に確実にダメージは入った。


「やったか?」

「それはフラグだからやめなさい」

「ふらぐ?」

「……後で説明するよ」


 フラグのせいか、森の主はヨロヨロになりながらも生きて出てきた。

 少し彼女を恨めしそうな目で睨んでおく。


 どうやら森の主のやる気はまだ失われていないらしい。

 唸り声を上げながらこちらへの突進の準備をしている。


 先ほどの鳴き声のせいで俺の動きは鈍い。

 そんな俺をめがけて突進してくる獣。

 追い詰められているからか、その勢いはこれまでで一番だった。


 だがしかし。


「当然、次の策も用意してある」


 俺の言ったことを理解したのか、その場から飛びのく森の主。

 また下からかち上げられると思ったのだろう。


「今度は上だ」


 上から何十本もの大木が降り注ぐ。

 これも予め真上の木の枝において置いた若木が急激に成長したものだ。


「……!!!」


 森の主は何か断末魔を叫んでいたのかもしれない。

 だがその声は落ちてくる木がかき消す。

 森の主の姿は大木の雨の中に消えていった。


「やったな」

「だからやめなさい」


 ……やったよな?

 実はまだ仕掛けはあるが、ここから先は逃げながらトラップに引っかかるのを待つことになる。

 この時点で金縛りがあることは予定していなかったため、下手したら自分がトラップに引っかかることになりかねない。


 じっと積もった大木の山を見つめる。

 数分待ってみたが森の主が出てくる様子はない。


「……勝った」

「そう」


 金縛りが解けたことを確認してその場に座り込む。

 緊張が解け、体から力が抜ける。





「これでもりからでられる?」

「まだ分からない」


 彼女が原因である可能性はまだ残されている。

 だが……。


 彼女は森の主が下敷きになっているであろう場所をじっと見ている。


「きみはこのもりからでたい」

「その通りだ」

「そのために、きみをとじこめているかもしれないもりのぬしをころした」

「そうだな」

「でもわたしが、きみをとじこめているげんいんかもしれない」

「……そうだな」


 彼女は俺の目をじっと見る。


「わたしも、ころす?」

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