第47話 炎王の喧嘩② それぞれの必殺
「おらぁっ! 行くぜ!」
炎王は開始と同時にまっすぐ突っ込んでくる。
下手な小細工など不要。
ただ圧倒的な力で押し切るのが炎王の戦い方だ。
そして、俺はその炎王とまともに戦うためだけにこの2か月間修業を積んできた。
「ふんっ!」
「……っ!」
炎王の攻撃は単純。
拳を振りかぶって殴る。足を振り上げて蹴る。
ただそれだけの動きが異常な速さで、そしてすべての動きが一撃必殺の勢いをもって襲ってくる。
だから逸らす。
真正面から受け止めればこちらの手が砕ける。
横から動きに干渉して必殺の一撃の方向を変える。
ブォン!という音と共に拳が振るわれ、パシッ!という軽い音と共にそれが払われる。
傍から見れば炎王が一方的に攻め、俺がなすすべもなくじりじりと後退しているように見えるだろう。
だが実のところ、捌くのは難しくない。
思うままに力を振るう炎王の動きには無駄が多いのだ。
あらゆる無駄を一切排したイチトの攻撃に比べれば、動きも読みやすいし、余裕をもって対処できる。
「どうした! それだけか挑戦者ァ!」
「……なんの!」
炎王の攻撃を捌いてカウンターの拳を放つ。
狙いは顔面。
……全部の攻撃を全力でやるから簡単に体勢が崩れるんだよ!
バキッ!と良い音が響く。
だが、炎王は俺の拳を真正面から顔面に受け止めながら1歩も後ろに下がることなく耐えて見せた。
それどころか、拳が刺さったまま、不敵に笑って見せた。
「はっはー! 効かねえなあ! そんなもんかよお前はァ!」
「……くっそ!」
炎王の防御力は纏魔のせいで以上に跳ね上がっている。
――事前にイチトから聞いていたとはいえ、ここまでとは!
再び炎王が攻撃し、俺が捌くという光景が続く。
「どうしたどうしたァ! そんなんじゃ俺様には勝てねえぞおい!」
「……!」
力任せに攻撃を続ける炎王と無駄を最小限まで減らした動きで捌き続けるカムルナギア。
体を大きく動かしている炎王の方が先に体力が尽きる。
――そのはずなのに、なんで攻撃するたび攻撃の鋭さが増すんだよ!?
攻撃を捌くのにも限界がある。
剛速球で自分に向かってくる石の側面を叩いて軌道を逸らす様子を想像してほしい。
石が直撃するよりは少ないとしても、捌く手に少しずつダメージが溜まっていく。
……長期戦はこちらに不利!
「……っ!」
「……あん?」
一度大きく後ろに飛んで距離をとって、横に移動する。
そうしなければ場外まで追い込まれて負けそうだった。
「おいおい、そんな消極的でどうするよ。
そんなんじゃ認めてやらねえ、ぞ!」
「……!」
たった1歩で距離を詰めてくる。
炎王が使うのは纏魔による身体強化のみ。
たったそれだけにも関わらず、ここまで脅威となるなど普通ではありえない。
――王の力による補正か。
「おらおらおらおらおらァ!」
「……ぐ、ぅ!」
怒涛のラッシュを必死で捌き続ける。
致命傷だけ避けて……などと言う暇などない。
そもそもすべてが致命の一撃。全てに対処しなければ死ぬ。
……俺が付け入る隙があるとすれば。
これまで噂として聞いてきた炎王の人となりや目の前で見たその暴威から予想される唯一の弱点。
「があああああ!
鬱陶しい! いつまでちまちまやってんだ手前!
そんなんで俺様に勝てるわけがねえだろうがああああ!」
やはり炎王は気が短い!
先ほどよりもさらに攻撃に無駄が多くなる。
怒りに任せた攻撃は単純となり、より小さな力で捌けるようになる。
そうした俺の対応にさらに炎王は怒りを募らせる。
そしてより一層攻撃が単調となる。
「やる気あんのか手前! さっきからパシパシパシパシやりやがって!
そんなにパシパシやりてえなら――」
「……!」
「――俺に殴られるまでずっとそうしてろボケが!」
試合が始まって一番の大ぶりの一撃。
……俺はそれを待っていた。
放たれた右の拳を左の掌でそっと右に逸らす。
これまでとは違い、前に衝撃を逃がして炎王が前につんのめるように誘導する。
「う、おっと……」
「……そこ!」
俺の体の右側を抜けていこうとする炎王の体。
そこに俺は右手でカウンターを放つ。
既に普通に殴ってもダメージが入らないことは思い知った。
ならば確実にダメージが入るところを叩けばいい。
すなわち、目潰し。人差し指と中指を突き立てて炎王の眼球を破壊する!
炎王の姿勢は崩れている。回避は、できないはず!
「あっぶねえ!」
「……!?」
炎王が状態を全力で後ろにそらす。
俺の右手は炎王が逸らした体の少し上を走っていく。
……なんであの姿勢からそんな動きができるんだよ!?
炎王は驚くとともに攻撃を誘われたと気づいた。
危ねえ……。つか、目潰しとかえげつねえなあいつ!
上体を逸らしながら少し冷静になる。
……緊急回避したけど、このまま攻撃できるな!
思い立ったら即行動。上体を逸らした勢いをそのままにバク転に移行。
振り上げた足でカムルナギアの顎を狙う。
そうして世界が縦に一回転して元の姿勢に戻る。
――手ごたえはなかったから当たりはしなかっただろうが、追撃はできねえだろ!
そう思って前を向いたとき。
対戦相手の姿はなかった。
「…………はぁ!?」
「『煙舞』」
「……!」
答えはすぐ右から聞こえた。
炎王はそこで考えてしまった。
いつの間に? どうやって? 何故?
その一瞬が、命取りとなった。
繰り出されるはただの一撃。
しかしそれはこの瞬間のために鍛え上げられた必殺の一撃。
「華炎流奥義! 壊の拳『崩突』!」
「……これが狙いか手前!」
――これはやべえ! 本能がそう告げていた。
必殺の一撃が来るのは炎王の体の右から。狙うは体の中心。
何とか拳の軌道上に体を置かぬよう、腰を全力で前に突き出す。
――不格好だ! 不格好だとも! だが、避けたぞ!
視線を右に、拳を突き出した男の顔を見れば。
最高に不敵にして不遜な笑顔を浮かべていた。
よく見れば、拳には魔法陣も何も浮かんでいない。
――こいつ、ブラフ貼りやがった!!
「『煙舞』」
「……てめぇっ!」
今度は真正面に現れる。
拳を突き出したままの姿勢で。
すでに拳は炎王の鳩尾に添えられている。
――長かった。
実際は試合が始まって10分もたっていないのかもしれない。
だがこれまで延々と攻撃を捌き、炎王の怒りを誘い、隙を作り、最後の回避の可能性すら考える。
一撃でも当たれば即終わりの極限状態。
カムルナギアはそれを乗り切った。
既に条件は整っている。
後は、術式を唱えるだけ。
――これで、終わりだ!
「が、ぁ。くっそおおおおお!」
「……『崩突』!」
挑戦者から放たれた魔力は、絶対王者の中で猛威を振るった。




