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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第3章 炎王の喧嘩
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第45話 修業の終わり

~修行最終日~


 いよいよ明日が炎王との試合の日となった。

 炎王は今日まで討伐作戦にいそしんでいるというのに、明日すぐに試合としてしまってよいのだろうか。

 とはいえ、炎王が少しでも披露した状態なのはこちらにとって好都合だ。

 ……疲労、してるよな? 戦いでテンションが最高潮になってたりしないよな?


 何にせよ、炎王の体調について俺ができることはない。

 今は、目の前の修行に集中するべきだ。


「今日はいよいよ最終日。ってことで、模擬戦といこうか。

 明日のことも考えて連戦はできねえ。1戦だけにして、あとは体を休めるのに使え」

「押忍!」

「相手はサントだ。俺たちはお前の動きを見て、問題がねえか確認してるからな」


 イチトの進行で始まった最後の修行。

 これまでの総決算というわけだ。


「よろしくお願いするっすよー、ナギアさん」

「よろしく頼む」


 この2か月で彼らともかなり打ち解けてきた。

 共にイチトに虐められ、研鑽を積んできた仲間といっても過言ではない。

 サントにはこれまでの模擬戦でボコボコにしてくれたお礼もしなければならない。


 それともう一つ。

 リヨンに聞かされたがサントとニケは恋仲だった。

 それを聞いて2人の様子を注視してみると、確かにたまにではあるが修行中にいちゃついていた。

 今の所誰かとそういう関係になる気は一切ないが、それはそれとしてなんかむかつく。


「絶対にその顔面に一発入れてやるからな……」

「ん? 何か言ったっすか?」

「いや? なんでもない」


 闘志と私怨のこもった声は幸いサントには届かなかったらしい。

 この溢れんばかりの思いは握りしめた拳に込めよう。


「なんか邪念を感じるが……。まあ、いいか。

 ……準備は良いか? じゃあ、始め!」

「行くっすよー!」


 開始の合図と共にサントが素早く距離を詰めて拳を放つ。

 サントも俺も纏魔の状態だ。生身で受ければお互い大怪我を負うだろう。


「……」


 俺は無言でサントの拳を捌き続ける。

 俺の『尽志』は本来の『尽志』から魔術的要素を抜いた純粋な武術的なもの。

 そのため、術式を唱えることなく使うことができる。


「……このっ!」


 サントの攻撃に足技が混ざり始める。

 俺もそれに対応して足でサントの攻撃を捌く。

 踏み込みのための足を踏みつける。放たれた拳の軌道を横から柔らかくずらす。

 あらゆる手を尽くしてサントの攻撃を潰し続ける。


 しかしサントも俺が攻撃を捌く修行を続けていたことを知っている。

 つまり、その対策方法も知っている。

 サントは一度俺から大きく距離をとる。

 積極的に攻める手を持たない俺は距離を詰めるわけにもいかず、相手の出方を待つしかない。


「捌くのはずいぶん上達したみたいっすけど……。

 これは捌けないっすよね! 『緋願』!」


 サントの握りしめた右の拳に魔法陣が浮かび、真っ赤に燃え上がる。


「捌いてもいいっすけど、火傷は間違いなしっすよ!」


 これが俺の弱点。

 捌くためには触れなければならない。

 触れられないように対策されてしまえば捌きようがない。


「サント、行っけー!」

「うおおおおおおお!」


 ニケの声援を受けて、サントが突貫を開始する。

 恋人の声援を受けて勝利を目指すその姿は、物語であれば間違いなく主人公のようだった。


 何故か。本当に何故か理由は分からないが、リヨンと目が合った。

 リヨンはまっすぐ俺の目を見つめ、視線だけで俺にメッセージを伝えてくれた。

 すなわち「構わん、殺れ」と。

 ……目の前でいちゃつかれてストレスが溜まってるんだろうなあ。


 若干の同情を覚えつつ、目の前に迫った拳に集中する。

 確かに俺は触れられない攻撃は捌くことができない。

 だから捌かないまま対応する方法を遂に俺は編み出したのだ。


「『煙舞(えんぶ)』」


 『瞬身』を改良した魔術。

 移動距離はたったの2,3歩程度。

 その代わり、視界に入っている場所なら連続で移動することができる。


「……うえぇ!?」


 拳が当たる直前に俺の姿は消え、全力で勢いをつけたサントの拳は空を切る。

 放たれた右の拳が伸び切った体のすぐ横に俺の姿が現れる。

 サントは大きく体勢を崩して俺の攻撃に対処できない。


 拳を握り、力を溜め、全力で振りかぶる。


「爆発しろおらああああ!」

「ぶべらっ!?」


 叫び声と共に放たれた俺の拳はきれいにサントの顔面をとらえた。

 なぜあんなことを言ってしまったのか分からない。だが間違いなく魂の叫びだった。

 サントの体は大きく吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がって止まった。

 起き上がってくる様子はない。気絶したようだ。


「ほいそこまで。ニケ、サントの様子見てやれ」

「はい! サント、大丈夫!?」


 拳を振りぬいた姿勢で固まっていた俺は直立の姿勢に戻る。

 とても清々しい気分だ。


「ナギア君……」

「リヨンさん……。やりましたよ、俺」

「グッジョブ」


 いえーい、とハイタッチする。

 あの拳にはリヨンの思いもきっと篭もっていた。

 そのせいか、リヨンも満足げな顔を浮かべていた。


「お前らさあ……。虚しくならねえ?」

「「いいえ? 全く?」」

「……あっそう」


 何かを諦めたような表情を浮かべたイチトはきりっと表情を引き締める。


「遂に完成したんだな、高機動転移魔術。『煙舞』って言ったか」

「ええ、移動距離は大幅に犠牲になりましたが、殴り合いなら十分な距離でしょう」

「そうみたいだな。相手の攻撃に合わせて転移するってのは良い使い方だ。

 後は……」

「転移先を見ていないといけないっていう弱点がばれる前に片をつける必要がありますね」


 結局その弱点は克服できていなかった。

 こればかりは仕方ない。見えていない場所に移動する、というイメージがどうしても掴めないのだ。


「相手の攻撃を捌き続けて長期戦を狙うスタイルとは相性がよくねえが仕方ねえ。

 奥の手として隠しておくんだな」

「そうします」


 今となっては短く思える修業も今日で終わり。

 新たな武術。新たな魔術。

 この2か月で俺が習得したものだ。


「俺がこの2か月という期間で教えられることは全部教えたつもりだ。

 2か月前、俺に言ったことは覚えてるか?」


 忘れるはずもない。

 魔術を使い、炎王を倒す。

 魔術を捨てたこの国に魔術の偉大さを叩きこむ。


「俺が諦めた景色を見せてくれ」

「もちろんです。最前列の席を予約しておいてください」

「生憎俺たちは客席には座れねえよ。犯罪者だからな。

 だが絶対にどこかからお前の試合を見ている。

 ……頑張れよ」


 小さく告げられた激励の声。

 その言葉は間違いなく俺の力となった。




 いよいよ明日が炎王との試合。

 熱気と闘志で彩られた舞台の幕が上がる。

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