第43話 修業開始
修業が始まって1日目の帰り道。
……全身が痛い。
時間いっぱい正確な形で型をとることと何度も同じ動作を繰り返し繰り返し……。
普段使わない筋肉を使ったせいか、今まで痛みを感じたことのない部分が痛い。
「明日からは実際に捌く訓練をするって言ってたな……」
何でもどう考えても時間が足りないので、とにかく実践で体に叩き込むとのこと。
明日から生傷が絶えない毎日になりそうだ。
帰ってからも今日覚えた型を繰り返して体に覚えさせなければならない。
できなければ2か月後に敗北が待っていると思うと自然と力が入る。
「そういえばソルアは何やってんのかね……」
部屋を追い出されてから随分と時間は経ち、既に日は沈んでいる。
最後に見たときは怒っていたが、その後どこか観光に出かけでもしたのだろうか。
美味しいものでも食べて、帰った時に怒りも収まっていると良いが。
「まあ、うじうじしてた俺も悪い。
さっさと帰って謝るか」
明日からも俺は修業で忙しくなりそうなので一緒に行動することはできない。
1人にすると何をするか分からないので、できれば宿で大人しくしてもらいたい。
そのためにも、餌付けは必要だろう。そう思ってお土産を買っておく。
「ただいまー……って、何してるんだ」
部屋に帰ってくるとソルアはベッドに突っ伏していた。
頭だけがギギギ……と動き、こちらを睨む。物凄く怖い。
「なんだ。まだ怒ってるのか?
……悪かったよ。不甲斐ないところを見せた」
「……それじゃない」
「ん?」
ソルアはまだ起き上がらない。
瞬きすらすることなくじっと俺の方を見つめている。
この部屋のホラー度が秒単位で増していく。
「ねえ、ナギア……。私の財布って、どうなってたっけ?」
「あ」
「私、昼から、何も、食べて、ない」
ソルアの財布は盗難事件以降俺が管理している。
そのため、俺がお小遣いの形でお金を渡さなければソルアは無一文。
観光も買い食いもお金は必要だ。お金がなければ何もできない。
つまり、俺を追い出して以降、ソルアはこの部屋でぼーっとしているしかなかったということだ。
「どうして、もっと、早く、帰ってこなかった……?」
「怖い怖い怖い怖い。
そもそもお前がいきなり追い出したりするからだろうが」
「そういう正論は今聞きたくない」
「理不尽……」
俺の持っていたお土産に気付いたのか、ソルアの目が俺の手元に釘付けになる。
ゆっくりと体を起こし、手を前に出し、体を揺らしながらゆらゆらと近づいてくる。
「ご飯……」
「なんかアンデッドみたいだな」
「……シャー!」
「痛ってぇ! 引っかくな! それには俺の夕飯も入ってるからな!?」
「全部、私の!」
「待て! 落ち着け! 一気に食うな! もう店仕舞いの時間だからそれ食べられると俺が飯抜きになる!」
「知るか!」
「お前……。返してもらうぞ!」
「むー!」
突如部屋の中で始まった夕飯争奪戦は隣室の宿泊客から苦情が来るまで続いた。
ちなみに俺の口に入るものはほとんどなかった。
腹いっぱい食べたソルアは満足そうに眠った。納得がいかない。
次の日。俺は昨日あったことをソルアに説明していた。
「……というわけで、しばらく闘技塔に通って修行することになった。
帰りも遅くなるかもしれないからまとまったお金を渡しておく。無駄遣いしないように」
「はーい」
「何か予定はあるのか?
できれば大人しくしていてほしいんだが……」
「うん。ちょっとね……」
「……何か変なこと考えてないだろうな」
「大丈夫。迷惑はかけないから」
ソルアはやることが決まっているらしい。
まあ、あまり構いすぎて鬱陶しがられるのも本意ではない。
それにいい加減保護者扱いも脱却したいしな。
「じゃ、私は早速行ってくる」
「こんな朝早くからか? どこに行くかくらい教えてくれても……」
「大丈夫」
ソルアはそう言ってさっさと部屋を出て行ってしまった。
こんな早い時間には店も開いていないと思うが……。
やっぱりこっそり後をつけて安全を確認した方が……。
……。いや、大丈夫だろう。
ソルアも子供じゃない。時には信頼することも大切だろう。
そう結論付けて、俺も修行に向かう準備を始める。
後日、俺はこの時の決断を後悔することになる。
~修行2日目~
今日からは実戦も踏まえた修業が始まる。
まずは昨日覚えた型の確認。細かな位置のずれにも厳しい指導が入る。
「いいか、理想とされる型ってのは理想とされるだけの理由があんだよ。
もっとも効率よく、最短距離で技を繰り出すために最適化されてんだ。
……ほれ、左腕が下がってきてんぞ」
「押忍!」
ただ決められた型を維持するのにも苦労する。
こうして型を維持するのに約30分。
その後はいよいよ実践だ。
「よし。じゃあ今からニケがお前に攻撃する。
全力で捌け。できなきゃ殴られるぞ」
「いっくよー!」
「お手柔らかに! 冗談抜きで!」
初日から上手くいくはずもなく。
ボコボコにされました。
以下、その時の様子です。
「目の前の攻撃だけに集中してたら次の攻撃に間に合わねえに決まってんだろ!
もっと全体見ながら動け!」
「ほい、隙あり!」
「ぐえっ!」
「何ボーっとしてんだ! もっとちゃんと集中しろ!」
「ていっ!」
「ぐべっ!」
「捌く攻撃と避ける攻撃は瞬時に判断しろ!
全部捌けるわけねえだろうが!」
「やっ!」
「ごふっ!」
本当につらい。
失敗する度に攻撃がクリティカルヒットするところに打ち込まれるので肉体的にも精神的にもつらい。
一方で成長は実感できている……気がする。
成長具合を数字で見ることができるならそれに越したことはないが、そんなことはできない。
成長していると信じて努力するしかない。
それでも痛いのは勘弁してほしい。
「あ? 痛い思いした方が反省するだろ?」
「鬼だ……」




