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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第3章 炎王の喧嘩
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第41話 纏魔之闘法

「『てんまのとうほう』? 『かえんりゅう』?」

「おう。ま、説明するより見せた方が早いか」


 そう言ってイチトはどこかへ行こうとする。

 イチトは野盗として捕まり、自由な行動が許されていないはずだ。

 訳も分からないままその後ろについていく。


 イチトは持っていた清掃道具を置くと、奉仕活動を監視している職員の元へ近づいていった。

 ……変なことを考えていないと良いが。


「なあ職員さんよ。ちょっと鍛錬で体動かしたいんだが、闘技エリア使ってもいいか?

 あと訓練用の人形もいくつか貸してくれ」

「いやいやいやいや」


 どこの世界に受刑者が鍛錬するのを許す者がいるというのか。

 職員も困った表情をしている。当然だ。


「別にいいが……。あんまり時間はやれないぞ?

 2時間後に次の試合の予定が入ってるんだ」

「別に構わねえよ。そんだけありゃ十分だ」

「そうか。じゃあ頑張れよ」


 頑張れよ、じゃないが。

 何とも言えない表情をしている俺にイチトが解説してくれる。


「鍛えれば鍛えるほど健全な精神ってやつが育まれるっていうのがこの国の考え方だ。

 犯罪者ならなおさら鍛錬して健全な精神を育てるべしっていう考え方になるのもわかるだろ?」

「……分かるような、分からないような……」

「はっはっは。まあ早目に慣れるんだな。

 付いてきな。道中で理論は説明してやるよ。兄ちゃん、割と頭で考える方が好きなタイプだろ?」


 いきなりやって見せろよりはそちらの方がありがたい。

 闘技エリアに降りていくイチトの横について講義を受ける。


「『纏魔之闘法』ってのは火王国に伝わる武術だ。

 『魔』を『纏』うっていう文字通り、魔力を纏うことで身体強化をするんだ」

「魔力を、纏う……?」

「魔力は魔術を発動するためのただの燃料に過ぎないっていうのが一般的な認識だ。

 普通に考えりゃ魔術で遠くから幾らでも攻撃のしようがあるのに身体強化に使う理由なんてねえからな」

「まあ、そうですよね。

 魔力は放出するもので纏うなんて考えたこともないですね」

「この武術の開祖は極端に魔力総量が少なかったがゆえに魔力を消費することなく戦う術としてこの武術を編み出したって話だ。

 で、現在この国では『纏魔之闘法』は様々な流派に分かれ、流派ごとに師範やら何やらができてるって感じだ」

「『華炎流』がイチトさんの流派ですか」

「そういうこったな。魔術と武術の融合を謳ったそこそこ伝統のある流派だ」


 魔術と武術の融合。言葉だけ聞けば強そうな感じはする。

 だが具体的にどう融合するのかのイメージはつかない。


「『華炎流』以外に魔術を使う流派ないんですか?」

「昔はあった。

 だが、今の炎王が即位して、魔術なんていらねー的な空気になってからはだんだんと廃れていったな」

「イチトさんはそんな状況を憂いて炎王に挑戦したと」

「……さてな。昔のことだからもう忘れちまったよ」


 少し照れ臭そうにするイチト。

 どうやら図星だったらしい。


「今、華炎流の使い手はイチトさんだけなんですか?」

「いや? ニケ、サント、リヨン。あいつらは俺の元門下生だ。

 俺が国を出るって言ったときにも付いて来てくれたいい奴らだよ」

「……門下生? イチトさんの?」

「おう。華炎流師範だからな、俺」

「……」

「今、似合わねえって思ったな?」

「ハハハ、マサカ」

「せめて抑揚つけて言え」


 ぽろぽろと新情報が出てきた。

 そんな話をしていると、闘技エリアに到着した。

 闘技エリアにはすでに訓練用の人形が設置されていた。

 いつの間に、と思ったがニケ達がすでに準備運動を始めていた。


「よし。準備もできてるみたいだし、久しぶりに稽古、やるか」

「「「押忍!」」」

「お、押忍」

「とはいえ、今日は一から説明しなきゃいけねえ奴がいるからお前らは復習とでも思って聞いておけ」


 イチトが闘技エリアの中央に立ち、俺たち4人はその前に正座。

 まずは理論から。


「まずは『纏魔之闘法』の基本中の基本。『纏魔』だな。

 体内で魔力を循環させる訓練が魔力制御なら、纏魔は魔力を体の表面に止めるイメージだ。

 兄ちゃん、まずは感覚を掴むためにやってみな。

 お前らは纏魔を俺がよしっていうまで維持」

「「「「押忍!」」」」


 魔力を体の表面に止める。言うのは簡単だがやってみると難しい。

 魔力は基本的に放出するだけ。それを留めるというのは『全力でボールを投げろ。だが遠くには飛ばすな』と言われているようなものだ。

 放出の瞬間に力を抜く、という方法では一瞬放出しただけで止まるだけ。難しい。


「これは感覚的なものだから何とも言えねえけどよ。

 肌の上に一枚布をかぶせる感じって言えばそれに近えのかな」

「むむむ……」

「あ、魔力は見えねえから隣見ても何の参考にもならねえぞ」

「じゃあ、どうやって成功してるかどうかを見るんですか?」

「ふむ……。おいリヨン、纏魔の状態で一発この人形殴ってみろ」

「押忍」


 リヨンは俺より線が細い女性だ。

 木製の人形を殴ろうものなら逆に手を痛めそうだが……。


「行きます」


 バギッ!

 リヨンの細い腕が人形に大きなひびを入れた。

 殴ったリヨンは平然とした顔をしている。


「成功してるとこうなる」

「まじか……」


 リーズのトカゲの頭を潰すストンプ。

 炎王の一撃必殺の右拳。

 あれらも纏魔の効果だったのだろう。


「纏魔は魔力で出来た鎧みたいなもんだ。

 攻撃力も防御力も上がる、便利な技だ」

「魔力を消費するわけでもないですし、覚えておいて損はないってことですね」

「逆に覚えてねえ奴はスタートラインにすら立ってねえって話だけどな」


 恐らくこの国の人間なら全員使える。

 急いで習得しなければならない。


「時間もねえし、今日は一気に全部やっちまうぞ。

 炎王を倒すための作戦は全部聞いてからの方が組み立てやすいだろうしな」

「お願いします」

「華炎流には7つの技がある。

 柔の拳『尽志(つくし)

 柔の脚『去統(さるすべり)

 剛の拳『緋願(ひがん)

 剛の脚『踏枯(とうがらし)

 突の拳『砲閃火(ほうせんか)

 突の脚『彗尖(すいせん)

 壊の拳『崩突(ほおずき)』」

「どんな技なんですか?」

「今から実践してやる。受けてみるか?」


 いい笑顔でこっちを見るんじゃない。


「死にそうなので止めておきます」

「なんだ。つまらん」


 稽古が始まってからイチトは楽しそうだ。

 野盗などやっているよりもこちらの方が彼にあっているように思える。

 そして、やはり彼もまたこの火王国の民なのだろう。

 その瞳は、炎王のものとどこか似ている気がした。

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