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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第3章 炎王の喧嘩
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第34話 炎王フレアグニス

 勝利至上主義。

 それも純粋な武力による勝利。

 火王国を表すとするならばこの一言に尽きる。


「さて、我々の任務は貴方を陛下の元までお連れすること」

「この国のシンボルも見ていただきましたし、早速謁見と行きましょうか!」


 ライオット達は俺をずるずると引きずって行く。

 この強引さにも風王国の移動から色々あったせいか、いい加減慣れてきた。

 抵抗したところでどうしようもないので、大人しく引きずられることにした。


 ……。

 …………。


「ここが陛下がおられる場所です!」


 連れて行かれたのは闘技塔のすぐ横の建物。

 風王国の王城と比べれば随分とこじんまりとした建物だ。

 周辺の建物と比べても少し豪華かな?と思うくらいのものでしかない。


 外壁は燃えるような赤。

 この国の人工物は赤を基調とした物が多いが、この建物はより鮮烈な赤だった。


「あんまり豪華じゃないね」


 ソルアが率直すぎる感想を漏らす。

 その感想には同意するが、口に出さない程度に俺は大人だった。


「よく壊れるのでお金かけても仕方ないんですよねー」

「……なんで壊れるの?」

「よく陛下の元にはその武を示しに挑戦者がいらっしゃるんですよ。

 私たちは闘技塔で挑戦を受けるよう申し上げているのですが、陛下はノリに乗ってこの場で戦闘を始めてしまいますので……」


 そういえば風王が後先考えずに被害を出すとか言っていたけど、そういうことか……。

 今から謁見していきなりゴングがなったりしないだろうか。

 服の中にナイフがあることをこっそり確認しておく。


「心の準備はよろしいですか? この扉をくぐれば陛下がいらっしゃいます」

「こういうのって防犯上色々手続きがあって、長々と待たされるのがよくあるパターンのはずなんですけどね。いきなり謁見できちゃうんですね」

「はっはっは。陛下に勝てる者などいませんからな!」


 どこまでも脳筋な国民だった。

 そして炎王。少なくとも武力の面については国民からの信頼に厚いようだ。


 ……。

 …………。


 壁に掛けられた沢山の武器。

 かつて討伐した獣たちの剥製。

 その中心に、床に敷かれた絨毯に直接胡坐をかいて、一人の男が俺を待っていた。


 鍛え上げられ、血管の浮き出た筋肉。

 ギラギラととした闘志そのものを映した瞳。

 数多の獣を食らってきたであろう牙を誇るように見せた笑み。


 戦うために、いや、勝利するために生まれてきたような紅い男がそこにいた。


「よくぞ来た! 俺様こそが炎王フレアグニス!

 王を目指す者など久方ぶりでなあ! どんな面か是非拝んでおきたかった!」


 まあ座れ、と絨毯を指さす炎王。

 俺たちは炎王を向かい合う形で座った。


「まずは名乗るといい!」


 風王と違い、堂々とした振る舞いを見せる。

 流石に即位して10年の新王とは心構えも実績も全く異なるのだろう。


「俺はカムルナギア。

 異世界に帰還するために王を目指す者です」

「ほう! 面白い。詳しく聞かせろ!」


 俺は王を目指すことになったこれまでの経緯を簡単に説明する。

 炎王はうんうんと頷きながら俺の話を黙って聞いてくれた。


 ……。


「なるほど! よく分からんがまあそんな王がいてもいいだろう!」

「……」


 よく分かんなかったのかよ。何に頷いていたんだ。

 口から漏れかけた言葉をぐっと飲みこむ。


「では早速だが俺様からお前に課す試練の話をしようか!」

「!!」


 話の展開が早い。

 まさか本当にここでゴングが鳴ってしまうのか。


「この国が何と呼ばれているかは知ってるか?」

「『闘争と勝利の国』ですね」

「その通り! 俺様は勝利こそ絶対の価値であると信じ、この国を導いてきた!

 ならば国の頂点に立つ王とはあらゆるものに勝利する者でなければならん!」


 炎王は俺にビシッ!を指を突きつける。


「故に、王を目指すお前に勝利を求めることは当然の摂理!」

「貴方に勝て、と?」

「うむ!」


 炎王は大きく頷く。


 正直この展開はこの国の国民性から予想していた。

 だが王の力を持つ炎王と戦って勝つことなど不可能だ。

 今まで『継承の儀』に成功者が現れていないのはこれが原因なのではないだろうか。


 そんな俺の表情を読み取ったのか、炎王は説明を追加する。


「ああ、そんな顔をするな。俺様は勝利を尊ぶが、王の力を振るって一方的に甚振るなど愚の骨頂だ。そんなものは勝利ではない。

 俺様が言ってるのは、闘技塔でのルールにのっとった試合での勝利だ」

「あの殴り合いですか?」

「もう見てきたのか。なら話は早い。

 使うのは己の肉体と魔術のみ。気を失うか、場外のどこかに体が触れればその時点で負け。

 いたって単純なルールの下に行われる決闘だ」


 それなら俺にも勝機がある……とはならないだろう。

 不意打ちで殴りかかったところであの肉体にダメージを入れられるビジョンが見えない。


「まさか今すぐですか?」


 恐る恐る尋ねる。

 俺としては対策を練る時間が少なくとも1か月は欲しい。

 決闘までの日を伸ばすためならあらゆる手を使って説得しなければならない。


「今すぐだ!」

「それは……!」

「……と言いたいところだが、残念ながらそれはできん」


 炎王は見るからにガッカリと肩を落とす。

 俺はホッと胸をなでおろす。


「実は明後日から大規模な討伐作戦が控えていてな。

 討伐対象の数が多く、そのどれもが強大故、俺様も参加せねばならん」

「具体的にどれくらい……?」

「まあそう逸るな。お前も早く戦いたいというのもわかるがな。

 そうだな……。2か月はかかるか」


 心の中でガッツポーズを決める。

 それだけあれば対策の1つや2つも考え付くだろう。


「折角だ。お前もこの作戦に一部でも参加するといい!

 そしてこの俺様の雄姿を目に焼き付けるがいい!」

「ええ、是非そうさせてもらいます」


 ここで炎王の戦闘スタイル等をじっくりと観察させてもらおう。

 戦い方が分かれば対策も練りやすくなるというもの。

 俺は炎王の戦い方を堂々と研究できることに、炎王は間近に迫った戦いに対して笑みを浮かべる。

 どちらもニヤリ、という笑みではあるが、その方向性はまるで真逆だった。


「またわるい顔してる……」


 ソルアが横で小さく声を漏らす。

 失敬な。


「お前がどう戦うのか、楽しみだ」

「ご期待に適うよう、全力を尽くしますよ」


 俺からすれば戦いとは戦闘そのものだけを指すものではない。

 その準備段階こそがむしろ本番だとすら考えている。


 さあ、今から俺の戦いを始めるとしよう。

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