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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第3章 炎王の喧嘩
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第33話 闘争と勝利の国

 結局新魔術の開発に成功することはなかった。


「では、出発しましょうか!」

「おー!」


 翌朝、ライオットの声と共に火王国への移動を再開する。

 ぐっすり眠ったソルアは朝ごはんもガッツリ食べて元気いっぱいだ。

 俺は夜遅くまで魔術の開発に集中していたためそのテンションについていけない。

 途中で切り上げるつもりが終わりどころを見つけられなかった。


「ちゃんと寝なかったの?」

「……」

「……」


 バシィッ!

 背中を思いっきり叩かれる。

 悪いのはその通りなので甘んじて受ける。


 ……。

 …………。

 ………………。


 その後数日かけて遂に火王国の南門に到着した。

 イチト達も暴れることなく自らの足で歩いてくれた。


「ここでお前らともお別れだな」


 別れの挨拶もなく、あっさりとイチト達野盗は門兵に連行されていった。


 なんだかんだで彼らとはここ数日で仲良くなってしまった。

 ここ数日模擬戦に付き合ってもらったほどだ。

 イチトには最後まで勝てなかった。


「また会うかも?」

「それもあり得ますな!」

「あり得るんですね……」

「なんで?」

「あちらをご覧ください!」


 そう言ってリーズが指差すのは巨大な直方体。

 恐らくこの国の中心に位置しているであろうそれはこの国に入るずっと前から目に入っていた。

 他の建造物と比べても明らかに力の入れようが違う。


 深紅の外壁に覆われた巨大な建造物。

 その異様な外見からは一体何を目的に建てられたものなのか推測することもできない。


「あれ何?」

「あれこそは『闘技塔』!

 我が国が誇る最大規模の闘技場です!」


 ……。


「本当に戦うこと好きですよね……」


 武器屋、武器屋、防具屋、武器屋、八百屋、武器屋、解体屋……。

 今いる通りにある店もほとんどが戦闘関連だ。


 通りはライオット達のように露出の多い人達で溢れ返り、新しい武器の品定めをしているのが見える。

 どの人も鍛え上げられた肉体を持ち、八百屋のおじちゃんですらムキムキである。


 後方担当には目が痛い。


「……に出た獣が強いらしい……」

「……にいる……がまた腕を上げたってよ……」

「……が作る武器、最近質が落ちてきたな……」

「……それなら、……の弟子が……」


 雑踏から聞こえてくる声も戦いに関するものばかりだ。


 風王国は空が絨毯で埋め尽くされていたが、この国は熱気と闘志で満ちている。

 そんな印象を抱いた。


「……!」

「…………!!」


 通りのある一角から歓声が上がる。


「そこだ! 決めてやれ!」

「ナイスカウンター!

 そのまま締めちまえ!」


 声を聞くとどうやら喧嘩のようだ。


「あの塔にはですね……」


 それにも関わらずリーズが説明を続けようとする。

 公務員らしいリーズには止める義務があるように思えるのだが……。


「喧嘩、止めないの?」

「んー。まあ日常茶飯事ですし。

 わざわざ止めてたらキリがありません!」

「えぇ……」


 それでいいのか火王国の治安。


 ガスッ!という音と共に歓声が一際大きくなる。

 いい一発が入ったらしい。

 勝利した方に惜しみない称賛が贈られる。

 負けた方には誰かが肩を貸す。恐らく病院的な所へ連れて行かれるのだろう。


 喧嘩が終われば会場はあっという間に解散となった。

 皆口々に先ほどの喧嘩の感想を語り合っている。

 こういう状況に慣れているということがよく分かった。


「で、あの塔が何?」


 ソルアが会話の流れを戻す。


「あの塔では武道大会などの催し物が行われるんですが、軽い罪の犯罪者はあの塔の職員として労役の義務を負うんです」

「何でまたそんなことに……」


 犯罪者を争い事に近づけてどうする。


「強い者はヒーローですからね。

 ヒーローの強さを目の当たりにして心を入れ替えてもらおうという炎王陛下のお心遣いです」

「誰だって強い者には憧れを抱くものですからな!」

「……なるほど?」


 なるほどなんだろうか。

 多分この国でしか通じないんじゃないかな。


「早速行ってみますか?」


 こちらに聞いているようで、もう塔の方へ向かって歩いているライオット。

 目がキラッキラしている。

 

「……行きたいんですね?」

「はい!」


 とても良い返事だった。



 ……。

 …………。


 ガッ!ゴッ!


 闘技塔は複数階層の建物かと思えばまさかの1階だけの吹き抜け構造だった。

 四方の壁に囲まれた空間にあるのは壁沿いに一周するように設置された観客席と戦うためのフロアのみ。


 バキッ!ドンッ!


「高さ、いらなくない……?」

「どこからでも目立つようにとの陛下のご意向です!」

「我が国のシンボルですので!」

「……なるほど」


 文化が違えばこういうこともあるだろう。

 グシャッ!


 ……でも、もうツッコんでも良いだろうか?


「それよりも……」

「ん?」

「あの人達は何してるんですか!?」


 フロアで殴り合っている人がいる。

 さっきから嫌な音が密閉された空間に響き渡り大変精神によろしくない。

 殴り、殴られるたびに血が舞い、骨が砕ける音がする。


「毎日開催されてる試合ですが?」

「試合!? 果し合いとか決闘とかの間違いではなく!?」

「よくご覧下さい。

 観客もいて、皆熱狂しているでしょう?」


 確かに観客席には空席が見えないほどの観客がいる。

 中には小さな子供がいるのが確認できる。


 バンッッ!!

 殴り合いをしていた1人が観客席の方に吹き飛び、歓声が上がる。


「って、危ない!」


 あのままでは観客席に突っ込む。

 それにも関わらず、観客が逃げる様子はない。


「はっはっは。問題ありませんよ!」


 キンッ!!


 鋭く高い音が響いたかと思えば吹き飛ばされた男の体は見えない壁に阻まれ、観客席に突っ込むことなくフロアに墜落していった。


「ご覧の通り、観客の安全は万全に守られております!」

「あの男の人の安全は守られてない気がしますけどね……」


 せめて優しく受け止めるくらいの優しさがあってもいいと思う。

 べちゃっという音と共に歓声の大きさは最大限となる。

 どうやら決着がついたようだ。


「うむ。リングアウトですな!」

「悪くない試合でした」

「痛そう」


 ボロボロの勝者に向かって観客席から光る物が投げ込まれる。

 あれは……お金?

 勝者は折れた腕を無理やりに上げ、歓声に応える。

 その勝者の様子にさらに大きな歓声が上がる。


 その一方で敗者には誰も目をくれていない。

 彼は勝者以上にボロボロの体を引きずって、舞台袖に消えていった。


「勝者には栄光を。

 敗者には辛酸を」


 熱狂は止まない。

 その称賛を受けるのは勝利した者だけだ。


「厳しい世界ですね」


 俺の表情は厳しいものとなる。

 ライオットとリーズは獣以上に獣らしい笑顔を浮かべ、絶えることのない歓声を背景に右手の拳を左手に打ち付けるこの国独自の敬礼をする。


「「ようこそ闘争と勝利の国、火王国へ。

  王を目指す御方、我々は貴方の来訪を歓迎いたします」」

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