第32話 どん詰まりの属性
ブーブー言うソルアを寝かしつけるのに苦労すること約30分。
その間護衛団だけでなく野盗達からも生暖かい視線を背中に受け続けていた。
誠に遺憾である。
「カムルナギア殿はまだ寝られないのですか?」
「日課の訓練をやろうと思いまして。
後、俺のことはナギアでいいですよ」
俺は適当な小石を拾って地面に置き、火を囲むライオット達の近くに座る。
「何するんだ?」
「魔力制御と、新しい魔術の開発を」
俺はまず自分の中の魔力が全身を淀みなく巡るように操作するのを10分。
次に右手から魔力を放出して左手で受ける作業を10分。送る側と受ける側を変えて10分。
いずれも魔術師としては初歩の初歩の訓練だが、これを疎かにする者は大成しないとも言われている。
「それ毎日やってんのか?マメだな」
「出来ることは出来るうちにやっておきたいですから」
「良い心掛けと思います」
ライオットの声も夜なので抑え目だ。
大きな声でソルアの目が覚めて物を投げられる危険が無くなるので助かる。
基礎訓練が終わったところで俺はさっき置いた小石に右の掌を向ける。
そしてその小石に向かって魔力を放つ。
小石の周りに俺の魔力を纏わせるイメージ。
「何してんだ?」
「……」
その質問に答えるほどの余裕はない。
俺の真剣な表情を見てそれを察したのか、イチトはそれ以上の質問をやめた。
小石の周りには俺の魔力が渦巻いている。
そして……。
ビシッ!
音が響いたかと思ったら小石は弾け飛んだ。
「あぶねっ!」
破片がこちらにも飛んできてイチトがひっくり返る。
俺は小石だったものを拾い、どうなったのかを観察する。
小石は内側から捻じ切られたようになっていた。
「凄まじいですね……」
後ろから覗き込んだライオットが感想を漏らす。
「今のが新しい魔術か?
それ、人に向けてやったらグロいことになりそうだな……」
「……」
「どうしました?」
俺が不満げな表情をしているのが気になったのだろう。
ライオットが尋ねる。
「……俺はあの小石を手元に転移させようとしたんですよ」
「つまり……」
「失敗です」
小石を投げ捨てて元の場所に戻る。
魔術とは魔法陣に魔力を通すことによって生じる現象だ。
そして魔術の開発とは魔力の放出によって発生する現象を何度やっても同じ結果となるまで制御下に置き、それを魔法陣によって安定化させる作業だ。
制御下に置かれたといってもそこから更に発展させることもできる。
エトゥスさんの『風弾・三連』は魔術『風弾』をさらに発展させた例の1つだ。
俺は自分の位置を転移させる『瞬身』を開発し、次に遠くの物を引き寄せる魔術の開発に移ったのだが、その進捗はよろしくない。
『瞬身』と同じように魔力を対象に纏わせることで行けると思ったのだが、なぜか破裂する。
「イメージが悪いのか、制御が足りていないのか……」
現状、何が原因なのかもわからない。
ちなみにイチトは先ほどの破裂が人に対して放たれることを心配しているがそれは不可能だ。
魔術の中には人に対して行使することができないものがある。
研究では無意識的に忌避しているからではないか、という説が多数を占めている。
とりあえず周りの優秀そうな魔術師からヒントが得られないか聞いてみよう。
「昼間のあの戦闘を見る限り、ライオットさんは火属性ですか?」
「そうですね、火王国では最もポピュラーな属性です。
リーズも火属性ですよ」
「イチトさんたちは?」
「俺たちはリヨン以外は火属性だな。あいつだけ風属性だ」
現在位置は火王国と風王国の大体中間辺り。
各王国には王の属性と同じ属性の者が集まるとのことなので、分布としてはそんなものだろう。
「火属性で遠くの物を引き寄せる……とまではいかなくても、動かす魔術ってあります?」
「俺は聞いた事ねえな。火属性の魔術なんて大体壊すことに特化したもんばっかだし」
「我が王の意向で攻撃魔術が中心に研究されていますからね……」
脳筋すぎる……。
俺の残念なものを見る目に気付いたのか、ライオットが必死のフォローを図る。
「りょ、料理とかにも使うんですよ?
火力が欲しい時とか重宝しますし」
「いや、料理にそこまで火力必要ねーし。
それくらいなら他属性の魔術師でもできるし」
「……うぐぐ」
俺でも時間をかければ火属性の魔術は使える。
属性はその属性の魔術が使いやすいというだけで他の属性の魔術が全く使えないというわけではない。
「火属性って……」
「あんま火属性に期待しない方がいいと思うぜ?
所詮は発展性のねえどん詰まりの属性なんだからよ」
イチトはそう自嘲する。
「何かあったんですか?」
「……何もねえよ」
イチトは嘯く。
その目に映っているのは……諦め?
「もう開発は終わりか? だったらもう寝るんだな」
「……。いえ、もう少し続けます」
「そうかい。俺は寝るぜ。おい護衛団の旦那、縛るなら縛りな」
そう言ってイチトは立ち上がる。
明らかに話題を逸らされたが、ここで追及しても答えてはくれないだろう。
どん詰まりの属性とイチトは表現した。
その属性を統べる炎王は一体どんな人物なのだろうか。
新たな小石をまた一つ破裂させながら、夜は更けていった。




