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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第3章 炎王の喧嘩
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第29話 リベンジマッチ

 夜。

 カムルナギアは兵士の訓練場の中心で集中していた。

 その眼は何もない中空を睨むように鋭い。


「……」


 汗が頬を流れ、顎を伝って地面に落ちるがそれでもカムルナギアは一歩も動かない。

 その姿勢のまま固まることおよそ5分。


「……よし」


 カムルナギアの足元には魔法陣が浮かび上がっていた。

 カムルナギアは形成された魔法陣が消えたりしないことを確認。

 ニヤリ、と不気味な笑顔を浮かべるのであった。



 翌朝。

 俺――カムルナギアとソルアリシアはアーガルムの執務室を訪れていた。


「今日の昼に護衛の方がこられるんですよね?」

「そうじゃな。それまでに準備を済ませておけよ」

「承知しました」


 王になることを決意してからすでに数日が経過し、ついに出立の日となっていた。


「とは言っても、既に必要な物は買いそろえてあるんじゃろ?」

「勿論です。こういう準備には慣れてますからね」

「じゃあ、昼までは自由にしてていいの?」


 ソルアは目を輝かせて早速どこかへ行こうとする。

 財布盗難事件以降、ソルアの財産は俺が管理することとなっており、ソルアは与えられたお小遣いの範囲でのみ自由な買い物ができるようになっていた。

 そのおかげでソルアは一日できれいにお小遣いを使い切る計算能力を得ていた。

 貯蓄の概念は未だにないらしい。


「いや、そうはいかない」

「む?」

「お世話になった人たちに挨拶する必要があるだろう」

「むー……」


 ソルアは渋々と言った感じで頷く。

 お菓子を買い漁る欲求と礼を尽くす必要性を秤にかけた天秤はしかるべき方向へ傾いたようだ。


「西門には2人で行く必要があるが、お前が行きたいところがあるならその後に行けばいい」

「わかった!」


 自由時間もあると分かったソルアは元気に返事をする。


「じゃあ、失礼します。お世話になりました」

「バイバイ」

「うむ。風王に認められた者として自覚ある行動を心掛けるように」


 その後、王城内を巡りお世話になった人たちに挨拶をしていく。

 この数日の間に俺が『戴冠の儀』に挑むことは既に知れ渡っており、激励の言葉を方々から掛けられる。

 中には哀れみの目を向ける者もいたが、これまで成功者がいないことを考えれば妥当な反応だろう。


 風王夫妻にも挨拶を終え、西門へ向かう。


「お久しぶりです。エトゥスさん、ミレアさん、ゼルオス小隊長」

「ひさしぶり」

「久しぶりだな。ロックとシロ……いや、カムルナギアとソルアリシアか」


 俺たちの挨拶にゼルオス小隊長が代表して挨拶を返す。

 訓練時間中だったらしく、見知った面々が槍を振るう音が聞こえる。


「今日出発か?」

「ええ。お世話になりましたのでその挨拶に」

「気にするな。俺たちは仕事をしただけだ」


 ゼルオス小隊長は渋い対応をしてくれる。

 ゼルオス小隊長は俺の服装を見てニヤリと笑う。


 俺は戦闘訓練用の装備だった。

 ソルアも俺に合わせて訓練用の装備ではあるが、おそらくその意図は分かっていない。


「だが、用件はそれだけじゃないみたいだな?」

「リベンジマッチに来ました」

「……ほう」


 ゼルオス小隊長はその笑みを深くする。

 獰猛な獣が発するような雰囲気が辺りに満ちる。

 エトゥスさんとミレアさんも握る装備に力が入る。


「俺は誰にも勝てませんでしたからね。ここで1勝くらいはしておこうかと」

「じゃあ私から行こうかなー」

「じゃあ私はソルアさんとですかね」


 ミレアさんが俺の相手に名乗りを上げる。

 エトゥスさんはソルアとやるようだ。


「じゃあ俺が審判をやろう」

「「「「お願いします」」」」


 数分後。

 俺たちのために場所が空けられた訓練場で俺とミレアさんが向かい合っていた。


「当たり前だけど容赦しないからねー?

 あの時は私良いとこなかったし」

「よろしくお願いします」

「……はじめ!!」


 ゼルオス小隊長の掛け声とともにミレアさんが訓練用の槍を構えて一直線に突っ込んでくる。

 風で後押しをしているのか、その速度は想定よりも早い。


「やぁっ!」

「……!」


 裂帛の声と共に突き立てられる槍をギリギリで左に体を回転させながら回避する。

 『風弾』に比べれば全然遅い。

 左足を軸にした回転の勢いのまま右手に持った訓練用のナイフをミレアさんの首筋を狙ってナイフを横に振るう。


「甘いっ!」


 だがそのナイフは空を切る。

 突撃するミレアさんの体が風に押され、さらにミレアさんが前転することで回避された。


 俺の体も風にあおられ体勢を崩したために追撃をすることができない。

 そのままミレアさんと距離が開くのを許すこととなった。


「ふーん……。そういうことするんだー……」

「目が怖いんですけど……」


 槍とナイフでは間合いが大きく違う。

 突撃に対するカウンター狙いという手の内を晒してしまったのは痛い。


 その後、ミレアさんは突撃をやめ、間合いの差を活かしてゆっくりとした戦闘を展開し始めた。

 こうなると俺にはどうしようもない。


「そこまで!」


 ゼルオス小隊長の声がかかり俺たちは構えを解く。


「ミレア、相手の動きを読んで対応を変えたのは良い判断だ。

 カムルナギアも、以前より反応が良くなっているようで何よりだ」

「「ありがとうございました」」


 一礼して訓練場を次のエトゥスさんとソルアに譲る。


 次のエトゥスさんとの模擬戦の前に休憩をとっておこう。


 エトゥスさんとソルアの試合は相性の差がはっきりと現れた。


「『風弾』!」

「『アクセル』」


 杖の先に魔法陣を形成しソルアを近づけてさせまいと魔術を連発するエトゥスさん。

 全身に薄く魔法陣を浮かび上がらせ、襲いかかる魔術を全て回避しながら少しずつ近づいていくソルア。


「とった」

「……参りました」


 最終的にソルアが間合いを詰め、槍を突きつけた所でエトゥスさんが降参した。


「エトゥスは近接戦に持ち込まれない状況の作り方をもっと考えるべきだな。

 ソルアリシアは今のままでもいいが、攻撃にもっと多様性を持たせられるように」

「「ありがとうございました」」


 ソルアは待機場所に移動する。

 俺は入れ違いに入場する。


「ふふん」


 すれ違い様、ソルアがドヤ顔を見せつける。


「見てろよ。驚かせてやるから」

「楽しみにしてる」



 俺はエトゥスさんと向き合う。

 その距離は30歩ほどの距離がある。


 エトゥスさんは連戦となるが、つい先程負けたのが悔しかったのかモチベーションが下がった様子はない。


「では、はじめ!」

「『風弾』!」


 エトゥスさんは開始の合図と共に杖を突き出し魔術を行使する。


 エトゥスさんは遠距離戦を得意とする魔術師だ。俺に間合いを詰めさせることなく一方的に攻撃し続けるつもりだろう。


 それに対する俺の答えがこれだ。


「『瞬身』」


 術式を唱えると同時に俺の足元に魔法陣が形成される。

 そしてこの魔法陣に魔力を流し込む。


 次の瞬間、俺はエトゥスさんに手が届く距離に立っていた。


「!?」


 エトゥスさんは目の前に現れた俺の姿に固まる。

 俺は突き出されたエトゥスさんの右腕と襟を掴み、体を懐に入れ込んで、その体を投げ飛ばす。


「がっ!?」


 背中から地面に叩きつけられたエトゥスさんに馬乗りになり首にナイフを突きつける。


「とりました」

「そこまで!」


 ゼルオス小隊長の声がかかり、エトゥスさんの上から降りる。


 ……初めて勝った。


「ええ……?」


 混乱したままのエトゥスさんを助け起こす。


「カムルナギア、あれは何だ?」

「対遠距離攻撃用に開発した魔術です」

「完全に私対策ですね……?」


 その通りである。

 発動条件がそこそこシビアなので詳細は教えられないが、短い距離を転移することができる。


「エトゥス、初見のものに対応できないのはわかるが実戦でそうなことを言ってられないのは分かっているな?」

「はっ!」

「ならいい。そしてカムルナギア、先の魔術はもちろん、その後に繋がる攻撃も見事だった」

「ありがとうございます」


 初めてもぎ取った勝利だ。

 喜びをこっそりガッツポーズで表現する。


「ふむ……」


 何やら考え込むゼルオス小隊長。

 野獣なような眼光が俺を射抜き、とてつもなく嫌な予感がする。


「次は俺とやるか」

「え゛」

「ソルアリシアと一緒で良い。

 胸を貸してやる」

「………………どうも」




 結論から言おう。

 ソルア共々ボコボコにされた。


「お前の新しい魔術、弱点が多いな」

「ぎく」

「移動先が見えていなければならない、両足が接地していなければならない、一度使えば10秒は使えない。違うか?」

「仰る通りです……」


 黙っていた弱点を全て暴露された。

 今後改善出来るとは思うが……。


「数回見ただけでタネが割れるような使い方はするな。

 新しい魔術にはしゃぐのは分かるがな」


 ゼルオス小隊長はニヤリと笑って去っていく。

 ……敵わないわー。


 その場に倒れて空を仰ぐ。

 すぐ横にはソルアが倒れている。


「ばたんきゅー」

「……それ口に出して言う奴初めて見たよ」

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