第28話 新たな旅へ
「と、いうことになりました!」
「やはり阿呆じゃろお主」
夜も明けて次の日。
俺が『戴冠の儀』に挑むことなどを、風王がアーガルムに報告していた。
場所はアーガルムの執務室。
わざわざ風王がアーガルムの部屋を訪れての報告だった。
この時点ですでにアーガルムの顔は険しかった。
その後風王の説明が続くほどその眉間の皴は深く、深くなっていった。
説明が終わると、アーガルムは深ーくため息をついた。
「まず一つ、王ならばわざわざ臣下の部屋などに来ず、臣下を呼べ。
次に『継承の儀』の意味をもう少し考えよ」
「「……?」」
風王とソルアは首をかしげている。
「陛下が俺を認めたっていうことは、もし俺が失敗するようなことがあったら陛下の見る目がなかったことになりますね」
「そうなればお主の支持は下がるじゃろうな」
「……はっ!」
王が支持を失うことは弱体化に直結する。
それを分かって渡したんじゃなかったのか……。
「ただでさえ今回の事件でお主の支持基盤は揺らいでおるというのに……」
「ぎゃ、逆に言えば、ナギアさんが一発で儀式を成功させれば僕の見る目があったことに……」
「今まで一度も達成者がいない儀式じゃぞ?」
「うぐ……」
アーガルムは半分諦めたような表情で俺を見る。
「とはいえ、一度認めたものを後から無かったことにすることなどできん。
……頼むぞ?」
「もちろんです。俺にも王になる理由はありますから」
「それでいつ出発する?」
「できるだけ早くとは思ってます」
そうじゃな、とアーガルムも賛成する。
長い時間をかけて認めてもらいました、よりも短時間で全ての王に認められましたの方が王としての能力の証明になるだろう。
「単刀直入に聞きますが、扱いやすそうな王とか居ます?」
「お主、結構図太くなったな……。いや、初めからか?」
ふむ、と考え込むアーガルム。
立ち上がり、巨大な地図を机に広げる。
世界地図のようだ。
地図を覗き込むと、広大な大地と中心にある大きな池、そしてその池の中心に一つだけ浮かぶ島が描かれていた。
「これが現在人類が活動する範囲じゃ。
風王国は……ここじゃな」
そう言って地図の左下の方を指す。
「お主らが次に向かうべきは火王国。
炎王フレアグニスが治める闘争と狩猟の国じゃ」
アーガルムは地図を指した指を上に滑らせる。
そこには『火王国』と書かれていた。
「炎王? 火王じゃなくて?」
ソルアが細かな質問を投げかける。
「歴代の王は火王を名乗っておったのじゃがな。
今代の王は『炎王の方がカッコいい』という理由で炎王を名乗っておる」
「バカなの?」
「……否定はせん」
否定しないんだ。
「悪い人ではないんですよ?
ちょっと後先考えずに行動する結果周りにすごい被害をもたらしてるだけで……」
「それ、フォローになってませんからね?」
「えっ……」
固まる風王。
あれでフォローのつもりだったのか。
「なぜここに行くべきだと?」
「一言で言えば御しやすい。
口だけは上手いお主ならいい感じに操って認めさせることもできるかもしれん」
人を詐欺師みたいに言うのはどうかと思う。
「それに地理的にも近いしの。
この中心にある『アルス湖』を挟んで反対側にある土王国に行くよりかはマシじゃろ」
「それはまあ、そうですね」
次の行き先は火王国で決まりのようだ。
早速準備をするために部屋から退出しようとする。
流石に今日明日で出発というわけにもいかないが、今からでもできる事はある。
だがアーガルムはそんな俺たちを引き止める。
「待たんかい。どうやって火王国に行くつもりじゃ?」
「それはもちろん徒歩ですけど……」
俺の答えにアーガルムは深いため息をつく。
節くれだった指を俺に突きつける。
「お主は風王が認めた者じゃな」
「そうですね」
「で、そんな者にタダで見送るとなるとこの国の面目はどうなる?」
「丸潰れー」
「そういうことじゃ」
ソルアののんびりした答えに頷くアーガルム。
「ということで、火王国に着くまで、火王国の者たちに護衛させよう」
「そんなことできるんですか?」
「あの国の者は皆戦闘好きでな。
狩猟をして狩った動物の肉を他国に売ることと、護衛業で財政を賄っておるんじゃよ」
まだ行ったこともない国なのに脳筋のイメージが強くなっていく。
「そんなに道中危ないの?」
「そうですね……。
野盗に野生動物など、行商人が襲撃されるという話はよく聞きます」
「えー……」
野生動物に良い思い出はない。
護衛をつけてもらえるなら是非お願いしたい。
「ところで……」
ソルアは地図の方をチラチラ見ながらアーガルムに尋ねる。
「この地図、ちょうだい?」
「やるわけないじゃろ!」
「けちー」
「お主、地図が国防上どういう役割をもってあるのか知らんのか?」
「知らん!」
「……そうか……」
アーガルムはソルアのあまりにも堂々とした姿に黙るしかなかった。
後で教えておけ、と俺に目配せする。
俺は黙って首を横に振るに留めておいた。
「地図といえば気になったのですが、この地図に描かれてない部分はどうなっていますか?」
俺は地図の外の部分や地図の中の空白部分を指す。
「そこは未開拓領域じゃな。
お主が国を興すならその部分を開拓することになるじゃろうな」
「王になってからも前途多難ですね……」
「その辺は王になってから心配すればよい」
寿命の心配がないならその辺はゆっくり考えられそうだ。
「で、この地図が貰えたりは……」
「無いと言っておるじゃろがい」
アーガルムの目が細くなる。
俺、風王、ソルアの3人で急いで部屋から出た。
だってアーガルムが杖を抜くのが見えたから。
風王は執務があるからということで部屋を出てすぐに別れた。
俺とソルアは荷造りのために自室に戻ることにした。
そんな時に現れるのが……。
「こんにちはー、ナギア君」
「シルヴィア……」
「ちょっと相談があるんだけど、いい?」
返事をする暇も与えられずぐいぐいと引っ張られる。
連れていかれたのは俺が暴走した中庭だった。
まだ修繕途中なのか、惨状の面影が残っている。
「今回の事件って公表されたじゃん?」
俺が自分のしたことの重大さに心を痛める中、シルヴィアはマイペースに話を進める。
「で、私のこともバレちゃってー」
「そうだったんですか」
「宿屋の仕事、クビになっちゃった」
「えっ……」
「さすがに王族は置いておけないんだってー」
宿屋のオーナーの気持ちもわからなくはない。
従業員が王の姉とか気が休まらないにもほどがある。
「それでー、今私求職中なんだけどー。
ナギア君、王様になったら私を雇ってくれない?」
「今王族雇うのは難しいって話してませんでしたっけ……」
「雇うのも王様だから大丈夫でしょー。
それに、ほら……」
シルヴィアは中庭を指さす。
「今回の事件を公表する羽目になったのって誰のせいだっけ?」
俺はそれを言われると辛いんだってば。
俺はため息をつく。
「貴女と言い、あの狸爺と言い……」
「私に王族としての教育をしたのは爺だよ? そりゃ似るよー」
ああ、道理で……。
俺はわずかな抵抗を試みる。
「ちなみにですよ?」
「うん?」
「もし断ったら……?」
「えー、そんなことあったら私、悲しいなー?」
心臓にナイフが突きつけられていた。
「分かりましたごめんなさい調子に乗りました命だけは助けてください」
「分かってくれてうれしいよー」
……。
こっわ!
王族よりも暗殺者とかソッチ向きだろうこの人。
諜報部か暗部に配属させよう。絶対に。
「何はともあれ数日中には出発します」
「うん、早く王様になって私を迎えに来てね?」
シルヴィアはウインクをしながら去っていった。
まるでヒロインのような言葉じゃないか。
実態はただの脅迫者なんですけどね……。
シルヴィアの姿が見えなったころ、俺は膝から崩れ落ちる。
……お迎え、したくない……。
「俺、王様になってもやっていけるのかな……」
「……ドンマイ」
俺の声は風に乗ってどこかへと流れて行った。
願わくば彼女には届きませんように。




