第27話 戴冠の儀
新しい名前を貰い心機一転。
先程まで部屋を包んでいた重い空気は霧散している。
内心大丈夫かこいつと思っていたが、やはり王となるものは伊達じゃない。
「まだあるんですよ」
風王はずいっと俺に身を寄せる。
「ナギアさん、異世界移動の方法は見つかりましたか?」
「見つかることは見つかりましたが、どうも現実的ではなくて……」
まず魔力が足りていない。
元の世界との縁を持たない俺はその不足分を魔力で補わなければならない。
「魔力のことなら僕に考えがあるんです」
「後天的に魔力を増やせるなんて話は聞いたことないんですけど……」
魔力の多さは才能だ。
努力してどうなるものではないはずだ。
「ナギアさん、王になりません?」
「……は?」
魔力が足りないことと王になる事に何の関係があるのか。
俺の疑問に風王は答える。
「王に力を与えるものは何か知っていますか?」
「歴代王の力の継承と聞いています」
だから俺が新たに王となっても継承する王の力はない。
まさか今いる王からその座を簒奪するようアドバイスしているわけではないだろう。
「その通りです。
ですが、実はもう一つあるんです」
「もう一つ?」
「国民の支持です」
曰く、国民の王に対する支持も王に力を与える源となっているとのこと。
「貴方が新たな王となって国を興し、国民の支持を得ることができれば……」
「足りない魔力を補える、ということですね」
「それだけではありません。
貴方1人ではどうしようもない事でも、皆の手を借りれば良いのです」
王となれば魔力と人手を得ることができる。
勿論一方的に得るだけとはいかないだろう。
王として還元できる何かがなければならない。
……だがしかし。
「俺は王なんて器ではないですよ」
「それは僕だってそうですよ。
今だって1日に何回爺に叱られてると思ってるんですか?」
偉そうに言うことじゃないと思う。
それ以外にも問題はある。
「それに俺はいつか元の世界に帰還するんですよ?」
「それなんですけど……」
王妃が会話に加わる。
「帰還して、皆さんを助けて、それからどうするんですか?」
「どうするって……」
「助けて終わりとはいかないですよね?」
……。
そこまで考えが及んでいなかった。
「助けた人達を一時的にでも受け入れる為の場所がいるんじゃないですか?」
「……その為の俺の国ですか」
聞けば聞くほど魅力的に思える。
だがそんな私情で国を興すなど許されるのだろうか?
他にもっと良い方法があるのではないか?
それこそ他の王の協力を得るのでも……。
そんな俺にソルアがはっきりと告げる。
「皆を助けたいんでしょ?」
「ああ、もちろんだ」
「それが君のやりたい事でしょ?」
「ああ、その通りだ」
「他に確実な方法があるの?」
「ないけど……」
「やりたい事が決まってて、達成する方法も分かってるのに、やらないなんてずるいよ」
ソルアは俺の目を真っ直ぐ見つめている。
だがその目は俺に訴えていた。
私は何がやりたい事かも分からないのに、と。
ずるい、か……。
王になるということに尻込みしていたのはその通りだ。
いざという時俺に責任が取れるのか、と。
だが皆を助けると誓った。
この誓いに偽りなどない。
手段などもとより選べる立場ではない。
私情で王となるとしても。
それでも付いてきてくれる王になればいい。
俺に今必要なのはその覚悟だ。
「もう逃げないと決めたんだ」
「うん」
「俺は、王を目指す」
俺は風王に向き直る。
「どうすれば王になれますか?」
「『戴冠の儀』という儀式があります。
この世界にいる8人の王に認められることで9人目の王となる資格が得られるのです」
『風王』『火王』『闇王』『光王』『土王』『水王』『金王』『樹王』
この世界にいる8人の王。
「どうすれば認められたことになるんですか?」
「過去にこの儀式に挑んだ者がいますが、その時は王が各々に試練を課していました」
「8人の王に8つの試練ですか……」
それは長い旅になりそうだ。
「では風王の試練は?」
「貴方はシルードルムが無事に生まれてくることを確証してくれました。それでもう十分です。
……貴方に王になってもらわないと困るというのもありますけどね」
そう言って風王は俺に8つの透明な珠のついた腕輪を渡す。
風王がこの腕輪に手をかざすと、1つの珠が薄緑色に淡く光る。
「これは『戴冠の腕輪』。
『戴冠の儀』に挑む資格を有する証であるとともに王に認められたかどうかを判別する魔道具でもあります」
「この8つの珠に全て光をともすことができれば……」
「儀式は成功、ということになりますね」
腕輪をはめる。
軽いはずの腕輪が重く感じた。
「過去にこの儀式に成功した者はいるんですか?」
「……いません」
「え」
「過去に多くの者がこの儀式に挑んできましたが、全ての王に認められた者はいません」
なぜだろう。腕輪がより重くなった気がする。
「じゃあ今いる王はどうやって王になったんですか?」
「『八王』はこの世界が生まれたと同時に生まれた『八人の始祖』から王の座を継承してきたんです」
引き受けたはいいもののこれはこれで前途多難な気がしてきた。
…?
そういえば。
「人の支持が力になるんですよね?
それなら、王と認められる必要までは無いですよね……。
それこそ適当な互助団体でも作ってそこのトップになれば……」
「それはダメです。
あくまで国民の支持が力になるのであって、そのためには王になることは必須ですから」
「……そうですか」
そこまで甘くはないらしい。




