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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第2章 風王の葬式
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第25話 それぞれの悩み

 読むべき本は見つかったので図書館に入ってすぐ『多元世界論考』を読み始める。


 朝起きた時に既にシロの姿は無かった。今日もミレアさんと街の観光に行っているのだろう。


 ついでの俺の財布も無かった。

 帰ってきたらまた説教しよう。絶対にしよう。


「……」


 本を読み進める。

 異世界移動。

 これを実現するためには何が必要となるのか。


「……ん?」


 本のある部分が目に入る。


『任意の異世界への干渉にはその世界との縁が必要となると思われる……』


 ……縁?


『例えば血縁者。血の繋がりは世界を繋ぐ上で最もわかりやすい指標となる……』


 ……俺は孤児だった。

 あの世界に血縁者がいるということは期待できない。


『縁が無ければ不可能というものでもないが、任意の世界への干渉は著しく困難となる……』


 ……。

 簡単に行かないとは思っていたがこうも初めから事実を突きつけられるとは思っていなかった。


「……とにかく読み進めよう」


 メモを取ったらページをめくるという作業を繰り返す。


『世界間には生態系、環境の在り方等様々な違いがある。我々のいる世界と似た世界ほど干渉は容易であり、逆もまた然りである……』


 元の世界とこの世界は魔術の在り方や言語大系に違いはなかった。


「極端に干渉が難しい間柄ではない、ということか」


 時にはこうして帰還の上で有利とも言える情報に出会う事もできる。


 だが大体は任意の異世界移動など非現実的と思わせるような情報ばかりだった。


『異世界へ干渉するための門の形成に成功。

 そのためには平均的な魔術師数百人分の生命力を全て魔力に変換させ用いることが必要』


 どうやらこの本を書き上げた研究者は人として褒められる部類の人間では無かったようだ。


『生命体の異世界転移、尽く失敗』


 生きたまま移動しようとすればその難易度はまた跳ね上がるようだ。


「……はぁ」


 思わずため息が出る。


 俺の召喚魔術は異世界間の生命体の移動を実現するものだ。そういう意味ではおそらくこの本を書いた研究者よりも適性はあるはずだ。


「だが、任意の世界に自分を移動させるとなると全く別物なんだろうな……」


 俺は暴走しても死体をランダムな世界へ移動させることが限界だった。


 本の最後のページはこう締め括られていた。


『我が研究の最終目標が達成できなかったことは残念で仕方がない。

 私はこの本を干渉し得る全ての世界に送ることにした。

 願わくばこの本が流れ着いた先でいつか誰かが私の意志を継いでくれることを祈る』


 ……。

 この本はこの世界で書かれたものではないのか。

 道理で学問の発展レベルが合致しないと思った。


 カラーン、カラーンと真昼を知らせる鐘が鳴る。

 朝食は軽く済ませてきたためいい感じに腹が減っている。


「休憩にするか」


 図書館の入り口を守る兵士に一声かけ、俺はこの王城で働く者用の食堂へ向かった。





「あれ? ロック君?」


 食堂で思わぬ人と出会った。ミレアさんだ。


「ミレアさん? シロと観光に行っているのでは?」

「んー? 今日はそんな約束はしてないよ?

 私こそ今日はロック君がシロちゃんと一緒にいると思ってたのに」

「じゃあシロは一人でどこに……?」


 2人で頼んだ昼食を受け取りテーブルに着く。


 ちなみにこの食堂、職員であれば無料で食事を提供してもらえる。

 そうでなければ今日俺は断食を強いられていた。


「シロちゃんねえ…。昨日ちょっと様子がおかしかったんだよ」

「何かあったんですか?」

「やっぱオカンとしては気になる?」


 オカンではない。

 いい加減否定するのも嫌になってきた。明らかに反応見て楽しんでるだろ。


「昨日シロちゃんすごい量のお土産買ったと思うんだけど……」

「ああ、あの床を埋め尽くすお菓子のことですね……」


 今日朝起きたら半分は無くなっていた。

 あいつの胃は異世界にでも繋がっているのだろうか。


「シロちゃんったら、おススメされる物全部買ってたんだよ」

「それが何か?」

「私が『気に入った物だけ買えばいいんだよ』って言っても反応がなくて……」

「お菓子に夢中だっただけでは?」


 あいつのことなら十分あり得ると思う。

 何故かミレアさんの目が少し冷たくなった。


「あれはなんていうか……。自分が好きな物が分かってない、みたいな感じ?」

「……」

「だからあれは、自分が好きな物を探すためにとりあえず買い集めたのかなって」


 最近のシロの印象は食いしん坊に固定されつつあった。

 だが言われてみれば、差し出されるものは何でも食べていたような気がする。

 あの時は好き嫌いがなくて良いことだ、くらいにしか思っていなかったが……。


 俺はシロが同じ物を食べていたところを見たことはない。


「ねえロック君、シロちゃんって、どんな子?」

「……」

「何が好きで、何が嫌い?」


 俺はそれを知らない。

 俺はシロの人となりというものについて何も知らない。


 シロ自身も自分のことを分かっていない?


「俺が会った時点で、シロに記憶はありませんでしたから…‥‥」

「シロちゃんはその答えを探してるのかもねー……」


 自分は何者であるか。


 難しい問いだ。少なくとも俺が答えを教えてあげられるものではない。

 その答えはシロ自身で見つけるしかないのだろう。


 とはいえ、だ。


「俺の財布を勝手に持ち出すのはやめてもらいたいんですけどね……」

「そんなことしたの!?

 だめだよー、ちゃんとダメなことはダメって教えないと。他の人に同じことしたらどうするの?」

「それ、俺の役割ですか……?」

「だってオカンじゃん」


 もう何も言うまい。


 シロのことは夜になれば帰ってくるだろうということで意見は一致した。

 詳しいことはその時に聞くことにしよう。

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