第24話 王立図書館
どうやら今の俺はこの世界の住人同様、寿命のない存在となっているらしい。
それ自体は喜ばしいことだ。
少なくとも今すぐ元の世界に戻る方法を見つけなければならないということは無くなった。
「僕たちも貴方が元の世界に帰還する方法を探すお手伝いをしなければならなくなりましたね」
「ええ、そうですね。
何せ私たちの子の命がかかっていますから」
風王夫妻は俺に全面的に協力してくれそうだ。
「ありがとうございます。
とりあえず、俺は図書館で調べ物をしてみたいと思います」
「貴方とお連れの方のことはこの国の賓客として取り扱うよう通達を出しておきます。
そうすればどこを歩き回っても呼び止められるようなことはなくなるでしょう」
風王の私室を後にして、図書館へ向かう。
その途中でシロに出会った。
その両手にはどこから手に入れたのかお菓子が握られている。
「何してたの?」
「ちょっとした話し合いだ」
「ふーん……」
シロが俺の顔をじっと見つめる。
「どうした?」
「何かいいことがあった顔してる」
「いいこと……。まあそうだな」
寿命の心配がなくなったこと。俺のもたらした情報が思わぬ形で役に立ったこと。
……。
よく考えればそのいずれもシロがいなければ成し得なかったことだった。
「君のおかげだ。ありがとう」
「む? よく分からないけどえっへん」
自慢げに胸を張るシロ。
両手に合ったお菓子は既に平らげられている。いつの間に。
「お礼にお菓子をごちそうしてくれてもいいんだよ?」
「ははは調子に乗るな。
そういうのは先に金返してからな?」
「はーい……。ちっ」
舌打ち聞こえてるから。
「この後は?」
「図書館に立ち入る許可をもらえたからしばらくは図書館に入り浸る予定だ。
君は?」
「ミっちゃんと観光。
お金沢山もらえたから」
「……買い食いは程々に」
今回の事件の解決したことで俺とシロには少なくないお金が報酬として渡されている。
シロは早速その使い道を見つけたようだ。
……大半が食べ物に消えるんだろうなあ。
「じゃ、そろそろ時間だから」
「ああ。余り遅くならないように。ミレアさんに迷惑かけないように。怪しい人についていかないように。
後……」
「むー!」
バシッと背中を叩き走り去るシロ。
長い髪をたなびかせその姿はすぐに見えなくなった。
元気なことだ。
俺は一人図書館の方向へと向かった。
図書館には本どころか本棚が数えきれないほどあり、風王が誇るのも納得の規模だった。
入口で許可証を見せ、中に入った俺は早速途方に暮れていた。
どこから探せばいいのかすら分からない。
「入口に戻って聞くか……?」
俺が探すのは異世界移動に関する情報。
これに関する魔術又は伝承があれば参考になるとは思ったが……。
歴史書、記録書、日記、文芸作品……。
数多くの書籍が分類ごとに並べられている。
沢山の物がある一定の法則に則って並べられている光景は嫌いではない。
「学術書……魔術学……特殊属性魔術学……」
大まかな分類から少しずつ細かな分類へと絞っていく。
「『長距離移動魔術の考察』『多人数同時転移魔術理論の展開』……」
近そうな書籍をいくつかピックアップする。
これらをすべて読破しようとすれば数日かかるだろうが、異世界移動に関わる記載があるかどうかを大まかに確かめるくらいなら時間はそれほどかからない。
来館者用の机に本を積み重ね、早速読み始める。
……。
…………。
「おつかれー。捗ってる?」
作業を始めて数十分ほどたった辺りで声がかかる。
顔を上げるとそこにいたのは……
「シルヴィア様」
「シルヴィアでいいよー。あんまり堅苦しいのは好きじゃないし」
俺の向かいの席に座るシルヴィア様……もといシルヴィア。
机の上に積み上げられた何冊もの本を見て「ほえー」と感嘆の声を上げる。
「すごいねー。これ全部読むつもり?」
「異世界移動に関係ありそうな部分だけですよ。
……今の所見つかってないんですけどね」
「ふーん……」
「……あの、何か俺に何か用事でも?」
本を読んでいる所をジロジロ見られていると正直落ち着かない。
この人も暇というわけでもあるまいし。……いや暇なのか?
「ん? まあとりあえずお礼かなー。
ロック君が甥っ子のこと教えてくれたみたいだし」
「一体どこからその情報を……っていうのは貴女には意味のない疑問でしたね」
風を操り声を集める魔術を得意とする彼女のことだ。
弟の部屋でなされた会話のことを傍受することなど朝飯前ということだろう。
「へっへっへー。まあそういうことだよ。
これを機に愚弟も王様らしくなるといいんだけどねー」
なんだかんだでシルヴィアも風王夫妻やその子供のことは心配していたらしい。
「あと、君にはこれもね」
そう言って1冊の本が手渡される。
そのタイトルは『多元世界論考』。
「これは?」
「えっとねー、この世界以外にも存在するであろうあらゆる世界について研究した論文。
君が知りたいことに少しは関係ありそうかなーって」
「助かります。
よくこんな本があること知ってましたね」
「ここは私の隠れ家の一つだったんだよー。
本棚のおかげで簡単に人撒けたしね」
なぜ人を撒こうとしていたのかについては聞かない方が賢明な気がする。
絶対にろくでもないことだ。
俺に本を渡してシルヴィアはよいしょ、と立ち上がる。
「用も済んだし私は帰るねー。
じゃあまた近いうちに」
「ええ。またいつか」
ひらひらと手を振ってシルヴィアは部屋から出て行った。
相変わらず自由な人だ。
「さて……」
早速手渡された『多元世界論考』を読み始める。
なかなかに興味深い内容だ。
異世界があるとする根拠、どのように異世界を観測するのか、観測に伴い発生すると思われる影響……。
多角的な視点から考察が分かりやすくまとめられている。
「しばらくはこの1冊を読み進めるか」
今後の方針は決まった。
この図書館から持ち出すことができないのが非常に惜しい。
閉館時間となって追い出された俺は満足感と共に寝起きしている詰所に帰ることにした。
その夜。
「お土産買ってたらお金なくなった……。貸して…‥‥」
「計画性って知ってるか?」
部屋の床の半分を埋め尽くすお土産を前にして説教が始まった。




