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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第2章 風王の葬式
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第23話 思わぬ歓喜

 王立図書館へ向かう途中。

 ようやく帰還の手掛かりとなるものが見つかるかもしれないという期待に自然と足が早くなる。


 そんな俺の足を止める声が後ろからかかる。


「小僧!」


 アーガルムだった。

 走るか走らないかというギリギリの速さで俺を追いかけてくる。


「どうしました?」

「悪いが少し図書館は後回しにしてもらえんかの」

「……何故です?」


 今の俺にとって図書館で調べ物をすることは最優先事項だ。

 許可してもらった身であるとしても、余程の用事でもない限りアーガルムの頼みは聞くことはできない。


「儂にもよく分からん。

 じゃが、王が今すぐに話を聞きたいと言っておってのう」

「……」

「そう嫌そうな顔をするな。

 ……中庭を滅茶苦茶にした件、忘れたわけではあるまい?」


 目が覚めてから中庭は一度見に行っている。地面や木が抉れ、一言で惨状と表現できるものだった。

 つまり、それをダシにされると俺は強く出られない。


「……分かりましたよ」

「すまんの。

 お主の聴取結果を渡してから急に目の色を変えおってな。一体何がそんなに気になったのやら」


 この国に来て真っ先にゼルオス小隊長から受けた事情聴取。嘘を言っていないのはもちろん、アーガルムが見逃すような情報などなかった気もするが……。


 アーガルムに連れられたのは風王の私室。

 中に入ると風王シルヴァリオと王妃エルディーネが入ってきた俺を真剣な目で見つめている。


「引き返してもらってすみません。

 ですが、貴方に聞かなければいけないことができました」


 風王は真剣な顔で俺の聴取結果を掲げる。


「そこに何かありましたか?」

「ええ。私達夫婦にとって最も重要な事です」


 風王夫妻に関わるもの?

 全く心当たりがない。





「貴方が召喚したというシルードルムという少年のことです」


 ……。


「その子供がどうかしたのかの?」

「シルードルム。

 この名は私達夫婦が生まれてくる子供に付けようとしていたものです」


 ーー『シル』というのは古代語で『風』を意味しており、王族の名前や重要な場所には『シル』の文字が必ず入っている。

 いつかエトゥスさんから聞いたこの国の情報だ。


「小僧が召喚したのがお主らの息子じゃと?

 単なる偶然ではないのか?」

「ええ。ですが、シルードルムという名はよくある名ではありません。

 だからこそ、彼に少年のことを聞きたいのです」


 シルードルムという名はかなり珍しい名だとは確かにそう思う。


「どんなことでも良いんです。

 その子に関する事を教えてください」


 王妃も祈るように俺の顔を見る。


「シルード……。

 あの子は10歳の男の子です。

 外見としては濃い緑色の髪に薄い青色の瞳でした」

「髪の色は魔力の影響を受けるとされ、まだ制御が難しい子供の時は特にその影響が濃く現れるとされる……。

 エルディーネ、君の父君の瞳の色は薄い青色だったね」

「はい! そうです!」


 あの夫婦からシルードの様な外見の子供が生まれる可能性はある、ということか。


「他には何かありませんか!?」


 シルードが自分の子であるという可能性が高まってきたためか、王妃が興奮気味となる。


「かなり腕白でしたね。

 備品の剣などをよく振り回していました」

「お主も幼少の頃は姉と一緒に似た様なことしておったのう……」

「あれは姉様に連れられてでしたけどね……」


 また特徴が一致する。

 ……もしかすると、もしかするのか?


「他には……」

「母親の作るスディルムという料理が好きだと言っていました」

「「「!!」」」


 3人が驚愕の表情で固まる。

 まさか……


「エルディーネ……」

「はい! はい! 私、母よりスディルムの作り方を教えてもらっています!」

「……外見、性格、この世界にある料理。

 これらが全て一致するともなれば、偶然で片付けることはできんじゃろうな」


 いまだ感情が追いつかない王と喜びに口を覆う王妃。


「待ってください。

 時間軸が合わないことはどう説明するんですか?

 俺の召喚は空間を超えることはあっても時間までは飛び越えられるものではないはずです」


 この世界でまだ産まれていない風王の息子であるシルードと俺が元いた世界で会っているというのはおかしい。


「それは……」


 途端に表情が曇る夫妻。

 彼らを悲しませたいわけではないが、期待すればその分悲しみも大きくなる以上、ぬか喜びさせることは許されない。


「ソルの森じゃ」


 アーガルムが静かに告げる。

 ソルの森とは俺がこの世界で初めて目を覚ました森。

 あの森と言えば……。


「時間が歪む森……!」

「小僧があの森にいる間に森全体の時間が逆行していたとしたら……」


 あの森において時間がどのように狂うかはその物ごとに決まっていた。

 もし『ソルの森』という一つの物に常に逆行が起こり続けていたとしたら……!


「元の世界から見て、今この時は過去、ということですか!」


 俺がこの世界に飛ばされて死体から復活するまでの間、どれほどの時間がかかったのかは不明だ。

 だが、逆行の速度、そして復活までの時間が長ければ長いほど俺は大きく過去に飛んでいることになる。


「では……!」

「うむ。小僧が会ったシルードルムという少年。

 ほぼ間違いなく未来に生まれるお主らの息子じゃろう」


 今度こそ歓喜に震え抱き合う風王夫妻。


「小僧が『健在の風王の息子に会っている』という未来を観測しておる以上、無事に子が生まれてくる未来は確定した、ということじゃな」

「それが今からどれだけ未来なのか、は分かりませんけどね……」

「無粋な奴め。素直に喜ばんかい」


 もちろん喜ばしいことだ。

 それが何度も不幸が続いた夫妻からすればその喜びは計り知れない。


 それよりも、シルード……。

 王子様だったのか……。


「ありがとうございます!」


 風王に抱きつかれる。


「ど、どういたしまして……?」


 俺が何かをしたわけでもないためお礼を言われるのは何か違う気がするが……。

 それこそ無粋というものだろう。


「本当に良かった……!」

「早速今晩からでも……」


 目の前で生々しい話をするのはやめて頂きたい。


「それを儂が許すと思うたか?」


 ニッコリと笑うアーガルム。


「子が無事に生まれてくると分かった以上、お主らはこの国をより良くせねばならんよなあ?」

「「は、はい……」」

「今のお主らには足りん所が多すぎるということが今回の事件でよく分かった。

 そうじゃな、とりあえず500年。

 儂がお主らを再教育してやろう。

 子の事はその後じゃ」

「「ええ!?」」


 ……いや、少し待ってほしい。


「500年とか寿命がもたないんですけど」


 先程にも言ったが俺の召喚は時間移動まではできない。つまり、俺が自力であの世界に帰還するためにはシルードが産まれた後に異世界間移動をしなければならない。


「寿命?」


 王妃が首を傾げる。

 この世界の住人に寿命の概念は無かったことを思い出し、寿命の説明をする。


「そういう事なので、できるだけ早く……」

「……。

 ちょっと、失礼しますね」


 不意に王妃が俺の手を握る。


「な、何を……」

「『裁定』」


 握った王妃の手から魔力が俺の体に流れ込む。暖かな魔力が全身を巡り、王妃の体に戻っていく。


 人の本質を見極めるとされる特殊属性。

 しばらく目を閉じて何かを感じとるようにしていた王妃が目を開ける。


「その寿命というものの心配はしなくても良いかと思います」

「どういう事ですか?」

「貴方の体の状態を診させてもらいました。

 貴方の肉体構造は私たちのものと変わりありません。

 なので、寿命の心配はないかと」


 ……。

 ……どういう事だ?

 この中で答えを知っていそうなアーガルムの方を見る。


「お主が死体から復活するまでの間、あの小娘の魔力の影響下にあり続けた事でゆっくりと肉体が作り替えられたのではないか?」

「そんな都合の良い事……」

「そもそも死体から復活したという事自体がイレギュラーなんじゃ。今更都合の良いも何もないじゃろ」

「……」

「まあ、肉体を作り替えるなど途方もない時間がかかるじゃろうから、この仮説によればお主はかなりの時間過去に戻っておることになるじゃろうけどな」


 ……まじか。

 懸念事項だった寿命の問題が思わぬ形で解決した。

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