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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第2章 風王の葬式
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第22話 男だらけのお茶会

 俺の目が覚めてから更に2日。

 傷も完治し、出歩く許可も貰えた。


 アーガルムの部下という立場ができてしまった以上宿屋に戻ることは叶わず、王城内の兵士用詰所を使わせてもらっている。


 今日はアーガルムに呼び出しを受けている。

 時間通りに彼の執務室の前まで行き、ドアをノックすれば入るようにとの声があった。


 中に入れば執務机に向かい仕事に励むアーガルム。

 そしてその横で馬車馬のように働かされる風王の姿があった。


 ……上下関係、崩れてない?


「今日お主を呼んだのはほかでもない。

 お主に王立図書館への立入許可証を渡すためじゃ」


 こちらを見る事もなく雑に告げるアーガルム。


「こういうのって栄典授与みたいに公開の場でやるものじゃないんですか?」


 でなければ誰が許可証を持っているのか判断ができないだろう。


「中庭の修繕、情報統制、国民の信頼回復……。増える仕事に減る人材。

 そんな中、更に仕事を増やせと?」


 ジロリとこちらを睨み付けるアーガルム。

 その辺りの責任の一端を握るものとしては黙るしかない。


「そういうわけじゃ。ほれ、シルヴァリオ、許可証を渡さんかい」

「はい!」


 ビシッと直立した風王から小さなメダルのようなものが渡される。


「えーっと……。

 此度は我が子、我が国を脅かした逆賊、ラシルドの悪事を見事暴き、これを討伐した事、誠に見事であった。

 この功績をもって、其方の王立図書館への立ち入りを許可するものとする」


 練習した文書を読み上げるように話す風王。

 評価を気にするようにチラチラと後ろを振り返りながら話すその様に、アーガルムは深いため息をついていた。


 ……威厳、無いなあ。


「頭が痛くなってきたわい。少し休憩する。

 お主も付き合え」


 そんなわけで男3人のお茶会が始まった。




「この度は本当にありがとうございました」


 椅子に座って挨拶を終えると早速深々と頭を下げる風王。

 そういうことすると……


「王が軽々と頭を下げるな!」


 スパーン!と頭をはたかれた。


「で、ですが爺。人として礼は尽くさねばならぬと……」

「振る舞いを考えよと言うておるんじゃ!」


 また説教が始まりそうだったので止める。

 何が悲しくて大の大人が説教される様を見なければいけないのか。


 ちょうど良い機会だったので気になっていたことを聞くことにした。


「そういえば、王妃殿下のあの治癒魔術も風属性の魔術の一つなんですか?」

「いえ、妻の属性は治癒と裁定に特化した『聖』属性という特殊属性なんです」

「治癒は分かりますが、裁定とは?」

「その人の本質を見分ける魔術だそうです。結婚する前は生まれた子供の魔力属性を見定めるために使っていたらしいです」


 聞いたことのない特殊属性だ。非常に興味深い。

 ……人の本質?


「それ使えばラシルド達の企みも分かったのでは?」

「……あの2人は信頼してたので……」


 魔術として使わなければその人の本質もわからない、ということか。

 あの2人はそこにうまくつけ込んだと言えるのだろうか。


「お主ら……」


 アーガルムが残念なものを見る目になっている。

 まずいと思った風王は慌てて話題を変える。


「そ、そういえば貴方はどういった経緯で爺の部下に?」


 風王はアーガルムが言った出まかせをまだ信じているらしい。


「あれは嘘じゃ」

「えっ!?」

「お主、人を疑うということを本当に覚えた方が良いぞ……」


 話せば話すほど墓穴掘ってないか?

 この国の行末が不安になってきた。


「良い機会じゃから儂が王とは何たるかをじっくりとな……」

「いえ、それは分かっています」


 キッパリと言い切る風王。

 纏う雰囲気が唐突に変わる。


「王とは慈悲あるもの。

 全てに寛容であり、皆に寄り添い、罪を断じるのではなく許すことこそが王たる僕の役割です」

「……何度裏切られることになってもか?」

「確かにラシルドの事は悲しいことです。父として怒りに震えるべきなのかもしれない。

 ですが僕はこの在り方を曲げる事はありません」


 裏切られないようにもっと勉強しないといけないですけどね。


 恥ずかしそうに頭を掻く風王。

 さっきまでの雰囲気は霧散していた。


 ……今のがこの男の本質か?


「……ふん。綺麗事を抜かしおって」


 風王の在り方はアーガルムの理想とは異なるものだろう。

 だが、この時はアーガルムもそれで良いと思ったようだ。


「ええと、では貴方は何故この事件に関わったのですか?」

「俺はある事件がきっかけでこの世界に飛ばされ、故郷に守らなければならない人達を残してきてしまっています。

 だから、故郷に帰還する方法を探しているんです」


 御子殺しの犯人探しは手段であって目的ではない。


「なるほど、それで王立図書館なんですね。

 確かにあそこには長年の知識が積み重なっています。貴方の探す情報もあるかもしれません」


 風王のお墨付きがあるとなれば期待が持てそうだ。


「申し訳ありませんが、早速図書館に行きたく思いますので、ここで失礼させていただきます」

「そうですね、長く引き止めてしまって申し訳ありませんでした」


 立ち上がり、一礼する。

 風王はつられそうになったがぐっと我慢して、俺に手を差し出した。


「貴方の目標が叶う事を祈っています。

 今回は本当にありがとうございました」

「こちらこそありがとうございます。

 では、失礼します」


 固く握手をして部屋を出る。

 これから向かう場所に希望があると信じて。






 部屋を出て行った青年を見送って王と宰相は仕事に戻る。


「中々な好青年でしたね」

「お主もあの小僧くらい賢しくなれば良いんじゃがなあ……」

「これから頑張りますよ。

 ……僕の方でも何か手伝えれば良いんですけど……」


 宰相は王にある書類を渡す。


「あの小僧の聴取結果を纏めたものじゃ。

 何かアドバイスをしてやるなら必要になるじゃろ」

「ありがとうございます。

 なんだかんだで爺も彼の事を気に入ってるんじゃないですか?」

「阿呆。儂を脅してくるような男じゃぞ。

 恨み言があるとしても気に入るなど……」

「…………」

「大体、異世界移動など聞いた事もない。

 変に期待を持たせるような事を言いおって」

「…………」

「……どうした?」


 渡された書類を食い入るように見たまま固まった風王。

 宰相の呼びかけにも答えない。


 不審に思った宰相が王の肩に手をかけようとすると、その手をガッと掴まれる。


「な、何じゃ?」

「彼を呼び戻してください。今すぐに」


 その余りにも真剣な顔に宰相は頷くことしかできなかった。

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