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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第2章 風王の葬式
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第16話 乳兄弟ラシルド

 この部屋で朝目覚めるようになって3回目。

 この部屋に皆が集まって朝食をとるという光景にも慣れてきた。


「今日はラシルド殿との面会の日ですね」


 朝食を食べながらエトゥスさんがつぶやく。

 小さな食卓にはいつものパンと干し肉、サラダに加え、昨日買ったタルトの残りが並んでいた。


「今更聞くのもなんですが、お二人のラシルド殿の印象ってどんな感じですか?」


 宰相アーガルムのような人でないことは祈る。

 少し隙があるくらいがこちらもやりやすい……いや、話しやすい。


「そうだねー……。

 基本表に出られるのは陛下とアーガルム閣下だから、影の薄い人、かなあ?」

「大変優秀な方とは聞いております。

 言うなれば陰の立役者といった感じの御方なのではないでしょうか」


 ふむ……。何とも曖昧な。


「実際に会ってみないと分からない」

「やっぱりそうか……」


 食卓を見れば4つに均等に切り分けられたはずのタルトがすでに無くなっている。

 俺はまだ食べていないのに。


「……おい」

「何で真っ先に私を疑うかな。

 ミっちゃんかエーくんかもしれないじゃん」

「日頃の行いのせいじゃないかな?」


 朝食を急いで食べ終えてシロはいそいそと外出の準備を始める。


「もうそろそろ時間だよ。準備しないと」

「こういう時だけ時間を気にしやがって……。あとで覚えておけよ……」


 楽しみにしていたのに。





「ふむ。時間通りじゃな。

 それはそれでつまらんのう。

 なんかトラブルに巻き込まれるとかはなかったのか? ん?」


 王城正門前。

 時間通りに現れた俺たちを待っていたアーガルムからの一言目がこれである。


「おはようございます、宰相閣下。

 わざわざ貴方が出迎えに来られるとは思いもしませんでしたよ」

「お主らを呼んだ手前、儂がお主らを坊主に紹介せねばならんじゃろう。

 それにまだ坊主にはお主らが来ることをも伝えておらんからな。

 その辺の説明もせねばならん」

「え」


 伝えてないの?

 本当に会ってくれる? 大丈夫?

 

「2日間何してたの? サボり?」


 そういうこと言うとまたミレアさんとエトゥスさんの顔が真っ青になるから。

 ……なってた。


「かっかっか。儂は宰相じゃぞ。

 お主には想像もできんような大事な仕事をしておったんじゃよ」

「ふーん」

「さて、案内してやろう。こっちじゃ」


 幸いにして優しい宰相は怒ることなく。

 俺たちはとある一室の前に連れていかれた。


「ここがあの坊主の仕事部屋じゃ。では早速入ろうかの」


 こちらが心の準備をする暇も与えずノックもなしに部屋に入っていくアーガルム。

 慌ててついていくと、中には男性と女性が一人ずついた。


「なんじゃメネス、お主もおったのか」

「宰相閣下!? いきなりどうされましたか!?」


 驚きの表情を浮かべる男性。いきなり部屋に押し入って来られたら誰だってこんな反応になるだろう。


「坊主、こ奴らは御子様の件でお主に聞きたいことがあるらしい。

 そう時間はとらんでいいから、話を聞いてやるがよい」


 質問に答えることなく自分の要件だけを伝えるアーガルム。

 アーガルムは俺たちの方を向いて紹介を始める。


「この優男が陛下の乳兄弟であるラシルドじゃ。

 その横におるのが妻のメネス。王妃殿下のお世話をしておる」

「……ロックです。急に押しかけてすみません」

「……ただいまご紹介に与りました、ラシルドと申します。

 風王陛下の執務のお手伝いをさせていただいております」


 お互い気まずい雰囲気の中自己紹介をする。

 眼鏡をかけた少し神経質そうな優男、といった印象だ。


「じゃ、儂は仕事があるから先に失礼するぞい。

 あとは若いもん同士で何とかするがよい」


 そう言って部屋から出ていこうとするアーガルム。

 少し待ってほしい。


「閣下! 流石に適当すぎでは!?」

「なんじゃ、約束は果たしたじゃろう」

「できれば雰囲気も整えていただきたかった!」

「そうは言うてもな……。

 坊主に先触れを出すのが面倒でこんな行き当たりばったりにしてしまった儂としては気まずいから早く帰りたいんじゃよ」


 ……このクソジジイ。


「やっぱサボりじゃん」


 シロの的確な指摘が静かな部屋に刺さる。

 

 どうしてくれるんだこの空気。


「……もういいです。

 ここまで連れてきてくれてありがとうございました」

「うむ。では失礼するぞい」


 そう言ってアーガルムは早足で出て行った。






「「「「「「…………」」」」」」


 まあこうなるよ。


「えーっと、御子様の件でお聞きしたいことがあるとの事でしたが……」


 口火を切ったのはラシルド。

 向こうから話を振ってもらえるのはありがたい。


「あまりお時間も頂くわけにもいきませんので、簡潔にお話ししたいと思います。

 俺は御子様の死が何らかの人為的要因によって引き起こされたと考えています。

 この件に関して、いくつか質問をさせていただきたい」

「……」


 流石に唐突すぎただろうか。

 2人の表情が強張る。


「私達が御子様を殺めた犯人であると、そう仰りたいのでしょうか?」


 メネスさんが硬い声で尋ねる。

 確かに今のはそう取られてもおかしくはなかった。


「いえ、今の所は何も分かっていない、というのが正直なところです。

 本当に御子様が殺されたかどうかもまだ定かではありません」


 内心では御子の死に何らかの原因があるとは考えている。

 さすがに5回も不幸が続けばおかしいからな。


「アーガルム閣下には既にご協力をいただいております。

 風王陛下に近いお二人にもお話を窺いたいと閣下に相談したところ、紹介していただけるとの運びとなりました」


 宰相という地位を持った人が確実にバックにいる事を示唆する。

 こうすれば断りにくいだろう。


「そうですか……。

 分かりました。あまり時間は取れませんが、少しの間なら質問もお受けします」

「ありがとうございます」


 取り敢えずスタート地点には立てた。

 アーガルムがサボらなければもっとスムーズに事が進んだと思うと不満がないわけではないが、まあいいだろう。


「まず、お二人は普段ここで何をなされているんですか?」

「僕はシルヴァリオの執務のお手伝いを、妻は王妃殿下のケアをしています。

 今はお二人の限界がかなり近く、その分僕達に回ってくる仕事はいつもより増えてますね」


 確かに部屋を見渡せば書類が机や床に散らばっている。

 アーガルムの部屋も乱雑ではあったがこちらは無秩序っぷりが凄い。多分ラシルドにもこの部屋のどこに何があるか把握できていない。


 ……さらっと王を呼び捨てにしたな。

 乳兄弟故の距離感というやつか。


「そうなると、お二人も大分参ってきてるんじゃないですか?」

「そうですね……。

 僕も妻も、もう数日も陛下・殿下に付きっきりか、この部屋で仕事しているかであのお二人以外と談笑する暇もありません」


 よく見れば2人の目には隈を隠したような形跡がある。

 やはり国の運営というのは激務なのだろう。


「何やら怪しい噂も国に流れていますし、それの対応にも追われているんじゃないですか?」

「白紙の『風便』の事ですね……。

 昨日も届いたのでしょう?」

「あの『風便』について、どう思われますか?」

「……私は王位継承の際、シルヴァリオを支持しましたのでこんなことを言う資格はないのかもしれませんが、シルヴィア様が彼を呪うとしても致し方ないのかもしれません」


 王位継承の折に何が王城内で起きていたのか、それは当時王城にいた者しか知らない。


「……そこまでのことがあったんですか?」

「ええ。今思い出せば酷いものでした。

 連日のようにそれぞれの派閥に属する貴族が刺客を送り合い、シルヴィア様とシルヴァリオにはお相手の醜聞をあれこれ吹き込んでいたのです。

 皆、取り憑かれたようでしたよ。

 少なくともシルヴァリオはそんな貴族を制止してはいましたが、それも叶わず……」


 何度かシルヴィア様が命を落としかけるという事もあったみたいです。


 ……。

 弟の派閥から命を狙われ、実際に殺されかけ、更にその弟に関するある事ない事を延々と聞かされ続けたのなら……。


「では、御子様の死も、シルヴィア様の呪いのせいだと?」

「その可能性は十分にある、と思います」


 断言こそしないものの、ラシルドはそう信じているようだ。


「では最後に。もし御子殺しの犯人がいるとしたら、どうしますか?」

「……シルヴァリオの前に犯人を突き出しても苦しむだけでしょう。彼は王としては繊細すぎる。

 だから、内々に『処理』をしますかね」


 そう言うラシルドの目は刃のような冷たさを整えていた。

 この人も確かに現王が即位してからこの国を支えてきた柱の一つなのだろうと、強く実感させる目だった。

 

「……貴重なお時間を頂き、ありがとうございます」

「いえ、頑張ってください」


 最後まで夫妻の表情は硬いものだった。






「終わったかの?」

「なんでここにいるんですか、閣下」

「何、ちょうど手が空いたのでな」


 ラシルドの部屋を出て王城から出る途中、アーガルムに出会った。

 かっかっか、と笑うが俺たちが部屋から出てくるタイミングを狙っていたのだろう。


「それで、犯人は分かったかの?」

「情報は集められるだけ集めたと思います。

 後は、それをまとめて、考えるだけです」

「そうか」


 アーガルムの表情は読めない。

 俺はもちろん、ラシルドとも年季が違いすぎる。


「一つだけ言うておこう。

 ……犯人がいると公表されれば、お主が考えておる以上の影響が確実に出る」

「だから、これ以上は踏み込むな、と?」

「話は最後まで聞け。

 それに今更そんな事を言うてもお主は止めなじゃろう。

 儂が言いたいのはな、早まるな、と言う事じゃ」


 じゃあの、と本当にそれだけ言って、アーガルムは去って行った。


 彼の真意は何処にあるのだろうか。

 俺には分からない。

 この謎が解ければ分かるのだろうか。


「帰ろうか」

「うん」

「そだねー」

「はい」



 ここから先は余談。

 今日この日の俺とシロの言動について、再度説教を受けました。はい。

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