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元召喚士の帰還  作者: とおりすがり
第2章 風王の葬式
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第15話 初めての気分転換

 翌朝。

 昨日と同じく俺の部屋で皆集まって朝食をとる。


「ロック君、今日も部屋に篭ってるの?」

「そのつもりです。

 昨日はあまり進められませんでしたからね」

「あんまり根を詰めすぎても良くないよー。

 今日1日は気分転換に使ったら?」


 気持ちはありがたいがラシルドとの面会は明日に迫っている。

 何度も面会できる人ではない事を考えれば明日の面会は大切にしなければならない。


「ロック殿、私としても少し羽を伸ばされた方が良いと考えます」


 エトゥスさんからも休息を勧められる。


「しかし……」

「昨日1日考えて何も出なかったなら、今日も多分出ないと思う。

 それなら美味しいものでも食べて気持ちを入れ替えるべき」


 シロも2人に賛成のようだ。

 だがコイツは純粋に俺の心配だけをしているわけではない気がする。


「本音は?」

「お小遣いが尽きたので奢ってほしい」

「そんな事だろうと思ったよ!」


 ……はあ。


 しかし3対1だ。

 それに昨日ライラさんから貰ったおすすめの店のこともある。


「わかった。

 じゃあ今日1日は外で観光することにするか」

「……よしっ」

「あ、奢りはしないから。貸すだけだから」

「……くそ」


 人生そう甘くはない。

 あと言葉遣いには気を付けましょう。


「昨日『風便』の受付の人におすすめの店を教えてもらったんです。

 そこに行ってみませんか?」

「なんていうお店?」

「えっとですね……。

 『風の止まり木』という名前のお店です」






 朝食後。

 ライラさんが描いてくれた地図に従って菓子屋「風の止まり木」に向かう。

 相変わらず空には色とりどりの絨毯が舞っており、太陽が見え隠れしている。


 だが今日は地上も慌ただしかった。

 荷物を持った人があちこちを行き交い、大通り沿いの屋台が朝早くからセールを謳っている。


「何かあったんですか?」

「明後日遂に御子様の国葬が行われるんだよ。西区はこの大通りをお通りになるから今日明日はその準備で忙しいんじゃないかな」


 明後日だったのか。

 そういえば具体的な日程を聞いてなかったな……。


 そんなことに気を配れないなんて、少し視界が狭くなっていたのかもしれない。

 ……皆、そんな俺を心配してくれたのか?


 心の中で感謝していると、目的地に到着する。

 ……したはずなんだけどな。


「……何もないんだけど?」


 着いた場所は煉瓦で舗装された小さな広場だった。

 広場の中心には1本だけ木が植えられている。

 だがそれだけだ。店らしきものが開いている様子はない。


 シロの目が怖い。

 本当にコイツ食べ物が絡むと怖いな。


「もしかしてロック君、からかわれたんじゃないの?」

「まさかそんな……」


 ライラさんに弄ばれたのだろうか。

 そんなことをするような人には見えなかったが……。

 いや、この世界の人は外見から判断できると思わない方がいい。

 何しろ同じくらいの年齢だと思っていた人が実は86歳なんていう世界だ。


「いえ、木の根元に何か置かれています。

 ……これは、メニュー?」


 エトゥスさんが表紙が木の板でできた何かを拾い上げ、こちらに渡してくれる。

 そこには「『風の止まり木』 メニュー」と書いてあった。


「どうやら地図に間違いはなかったみたいですね。

 しかし、メニューだけでどのように注文するのでしょうか……」

「すごいすごい! 隠れ家的なお店なんだね!」


 ミレアさんははしゃいでいる。

 メニューを開くと中にはお菓子の名前とその値段がかかれた紙、そして薄い布が挟まっていた。

 いや、小さなメモも挟まっている。


 どれどれ……。

 『ご注文の品をこのメモに書いてお金と一緒に付属の絨毯に乗せてください。

  品物を絨毯に乗せて送り届けさせていただきます。

  ※注意 当店の場所は秘密です。絨毯を追いかけないように!』


「……だそうです」

「何これすっごい面白い!

 絨毯ってこんな使い方もあるんだね!」

「とりあえず、注文しよう。全部」

「シロ殿。全部はさすがにやめません?」


 全部はやめましょう。こちらの財布が死ぬ。


 各々好きな品物を選んで絨毯を送る。


 少し待つと甘い香りと共に絨毯がふよふよとやってきた。

 絨毯は俺たちの前で品物を差し出すように止まった。


 俺が選んだのはたくさんの種類の果物を使ったタルト。

 タルト生地からあふれんばかりに盛り付けられた鮮やかな果物が食欲をそそる。


「おいしいね」

「これは素晴らしいですね。お土産に多めに買えばよかったです」

「追加注文、いっとく?」


 もう食べ始めている……どころか完食間近な食いしん坊が一人。

 一口食べて幸せの御裾分けを考える善良な人が一人。

 もう追加注文のためのオーダーを書き始めている行動力の塊が一人。


 それぞれの反応の違いを楽しみながら俺も一口食べる。

 ……おいしい。

 感想を言うのも忘れて無言で咀嚼を続ける。


 そういえばお菓子を食べるなんて初めてなのではないだろうか。

 必要な時に必要な分だけ作って食べてばかりいた気がする。

 シロがお菓子にはまるのも今なら理解できるかもしれない。


「そういえば、ロック君知ってる?」

「……なんですか? ミレアさん」


 お菓子に没頭していたところでミレアさんが思い出したように語り掛ける。


「またあの白紙の『風便』が届いたみたいだよ?

 今日朝食を受け取る時に聞いたんだー」

「本当ですか!?」


 意識が一気にそちらに向く。

 目的・差出人の全てが不明の『風便』。

 御子殺しの手がかりともなるかもしれない貴重な情報だ。


「誰から聞いたんですか?」

「あの宿屋にいっつも朝食のパンとか運び込んでる人。

 でもその人も人づてに聞いたみたいだから、情報の出所は分かんない」

「それっておかしくはありませんか?

 『風便』は誰が出したかは秘匿されているはずです。

 それにも関わらず白紙の『風便』が届いたなんて情報が何故出回るのですか?」


 エトゥスさんの言うとおりだ。


「考えられるのは2つです。

 その『風便』を受け取った誰かか、『風便』を送った誰か。

 そのどちらかが情報を流しているはずです」

「なんで? 何がしたいのその人?」

「……分からない。

 アーガルム閣下が言ってたように、本当に意味なんてないのか……?」


 実は御子殺しに関係がないという可能性もまだ残っている。

 だが現王が即位してから送られ始めたのだから、風王と何らかの関連性はあるはずなんだ。


「この『風便』については風王の姉君であるシルヴィア様の呪いっていう噂もあるんですよね」

「うん。私が話を聞いた人もそんな話してたよ」


 呪いの白紙の手紙。

 呪いだから自然と噂も広まる……なんてことはない。

 魔術は結局は人が起こす現象で、呪いも魔術の一つの形に過ぎない。

 『魔術は万能ではあっても全能ではない』というのは魔術を学ぶ者が覚える初歩の初歩だ。


 複雑な魔術程開発は難しく、繊細な現象を起こそうと思えば魔術以外の方法を使った方がいい場合がほとんどだ。


 ……ん?

 今何か頭をよぎった気がするが、何だったんだろうか。


「そもそもそのシルヴィアっていう人、呪ったりするような人なの?」

「そうだねー……。

 シルヴァリオ様が『穏やかなる風』っていう愛称っていう話はしたじゃん?」


 先日王城に行った時のことを思い出す。


「それに比べてシルヴィア様は『猛き風』っていう愛称だったんだよ」

「それはつまり?」

「なんていうかー……。

 武闘派? 豪快で……既存の価値観にとらわれない……」

「要するに不良?」


 今度オブラートという言葉の意味を教えよう。

 絶対に教えよう。今決意した。


「……まあそんな感じだったので、シルヴィア様が呪いの手紙を送るなんて方法をとるということについては違和感はありますね。

 あの御方でしたら、言いたいことがあるならまず殴り込……いえ、直談判されると思います」


 今殴り込みって言いかけたか?

 王族とも思えぬ評価が続々と出てくる。


「じゃあお2人とも、白紙の『風便』はシルヴィア様が出されているとは思わないってことですか?」


 俺の疑問に対しては2人ともはっきりした答えは返さない。


「いやー……。どうかなー……。

 王位継承の時に色々あったみたいだからなー……」

「そうですね……。我々の印象はかなり古いもので固定されているんです。

 というのも、シルヴィア様を最後にお見かけしたのは王位継承の問題が顕在化する前。

 国を出奔されたというのも我々末端の兵士にとってはいきなり聞かされた話で、それまでに何があったのか全く知らされていないんです」


 王位継承の際の出来事は当時王城にいた者以外にとっては全くもって不明らしい。

 街中に流れている情報はシルヴァリオが風王に即位したという結果から推測された曖昧なもの。

 この点についても御子殺しと関係はあるのだろうか。


「なんか気分転換のつもりが考えることが増えたような……」

「まあまあ、新たな視点が増えたってことで」

「考えるのは君の仕事だから。頑張って」

「いつでも相談には乗りますから……」


 いい気分転換になった……のだろうか。

 その後もおすすめの武器屋や雑貨店を回ってゆっくりと過ごした。






 その日の夜。

 今日の報告書を提出するために1階の受付に向かう。


「こんばんは~」


 いつもの独特なテンポの声が聞こえる。

 ライラさんだ。


「こんばんは、おすすめしていただいたお店美味しかったです。

 ありがとうございます」

「いいのよ~。隠れた名店なのよ~」

「ああいったお店ってどういう風に探されるんですか?」


 良ければ今後の店選びの参考にしたい。


「そうね~。私ね~、あちこち目的もなく歩き回るのが好きなの~。

 あの店も夜にふらふら歩いてたら偶然見つけたの~」

「夜にもあの店空いてるんですか?」

「本当はね~、あの店は夜にしか開いてないの~。

 今日は私が前日に無理を言って~、お昼に開けてもらったの~」


 どうやらライラさんは俺のためにわざわざ手間を惜しんでくれたらしい。


「それはありがとうございます。

 ……でもどうして俺にそこまでしてくれるんですか?」


 好意はありがたいがそこに理由がないと正直落ち着かない。

 これは俺が元居た世界で打算と妥協に囲まれて生きていたからだろうか。


「ん~? 特に理由はないけど~。

 あえて言うなら~、ロック君が私に似てると思ったからかな~?」

「ライラさんと俺が、似てる?」

「うん~。私ね~、この時間の担当なんだけど、正直お客さんはあんまり来ないの~。

 たまに外国のお客さんが緊急で使うくらい~」


 そんなようなことは初日に聞いた気がする。


「でも~、私はこういう1人静かな時間が好きで~、あえてこの時間の担当を希望してるの~。

 この仕事に就く前は~、夜1人で街を当てもなく歩くなんてことがよくあったのよ~?」

「……それは何か分かる気がします」


 独特なテンポで捉えきれない性格のライラさん。

 その在り方は夜を舞う蝶のようだ。


「君もそうじゃない~? 1人でこうして窓から静かな夜をずっと見続けていたい。

 そう思ったこと、ない?」

「……どうでしょうね。

 今までずっと忙しくて、落ち着いて自分のことを考えたことなかったですからね……」


 物心ついて召喚士としての才能があると分かってからは召喚士としての訓練だけを。

 召喚士として従軍してからは召喚と召喚した彼らとの折衝を。

 そして今は如何にして帰るのかという未だ答えの見つからない模索を。


 自分のことを振り返る余裕など俺には無かった。

 今日の気分転換が俺の人生で初めての休暇だった。


 そんな俺にライラさんは諭すように語る。


「自分のことをちゃんと見ておくのも大切よ?

 そうじゃないと、いつか他の人のことをどう見ていいか分からなくなるわよ」


 ……そう言うライラさんの顔は夜の暗がりに隠れてよく見えなかった。


「……その言葉は覚えておきます。

 今日はもう、おやすみなさい」

「うん。おやすみなさ~い」


 また明日ね~。

 ええ、また明日。

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