第14話 思わぬ一面
翌朝。
俺たち4人は俺の部屋で朝食をとっていた。
朝食の内容はパン、干し肉、そして簡単なサラダだった。
この世界の平均的な宿の朝食である。
「少ない……」
「足りない分は外の屋台で買って食べるみたいですよ」
「お小遣いには……限界がある……」
結構な額もらったからそんなに早く尽きるはずがないんですけどね。何に使ったんでしょうねこの人。
ジトッとした目で見ていたら目を逸らされた。
「ところでロック君、今日の予定は?」
ミレアさんから質問が飛ぶ。
「俺は明後日のラシルド殿との面会の日までに聞くことをまとめておきたいので、今日1日はこの部屋でメモをまとめたりするつもりです。
エトゥスさんは俺に付き合ってもらう事になるんですが、良いですか?」
「問題ありませんよ」
「シロとミレアさんは自由行動で良いですよ」
ミレアさんは元々訓練をサボるために俺たちの監視役に立候補している。
西門でお世話になったお礼はこういう形で返していくのが良いだろう。
「本当に!?
じゃあシロちゃん、美味しいもの食べに行こうぜ!」
「!!(コクコク)」
パアァッと顔を輝かせる女性組。
朝食を食べ終えるとすぐに準備を整え、部屋から勢いよく飛び出していった。
部屋に食器を残したまま。
「……本当にあの人86歳なんですか?」
「まだまだ若いですからね。あんなものでしょう」
「……そんなものですか。食器、1階に持っていきますね」
「よろしくお願いします」
いまだに外見と年齢が合わないという事に慣れない。
エトゥスさん曰く、20歳位までは俺が元いた世界の人のように成長し、全盛期を迎えた辺りで成長は止まるらしい。
羨ましくないといえば嘘になる。しかし羨んだところで彼等と同じになれるわけでもない為、妬ましいと思う事まではない。
『風便』の受付を見ればライラさんとは違う人が受付をしていた。彼女は深夜にしか担当していないのだろう。
食器を1階の指定の場所に戻して自分の部屋に帰る。
部屋に戻るとエトゥスさんが俺がメモを取りやすいように机を整えておいてくれていた。
気配りができて、物腰も柔らかいエトゥスさん。予測だがかなりモテる。
そんなどうでもいいことを考えながら椅子に座る。
「じゃあ、早速取り掛かりますか」
そういえばどれほどの時間が貰えるかまでは聞けていなかった。
……わざと言わなかったなあの老人。
優先度も考えながら質問を考える必要がありそうだ。
……。
…………。
「ロック殿、そろそろお昼ご飯にしましょう」
「……もうそんな時間ですか」
集中していた割に作業の進みは芳しくなかった。
ラシルドの情報はかなり少ない。
せめて人となりが分かればいいのだが……。
「エトゥスさんは退屈ではなかったですか?」
「そんなことありませんよ。
私も小隊長宛の報告書を作らなければいけませんからね」
手に持った書類を掲げる。
「私の作業がちょうど終わったところでいい時間でしたので、声をかけさせてもらったんです」
「そうでしたか。それならいいんですけど」
「これを出すついでに昼食も頼んできます。
昼食が終わった後、運動がてら訓練でもどうですか?」
温厚なエトゥスさんとは思えぬ提案だった。
だが行き詰まっている現状を打破する上でいい気晴らしになるのかもしれない。
よろしくお願いします、と快諾した。
そして昼食を食べ終わった現在宿屋「風の便り」の中庭にて。
「『風弾』!」
「痛ってえ!」
エトゥスさんが持つ杖の先から放たれた魔術が俺の足に当たり、避ける為に動かしていた足が止まる。
「『風弾・三連』!」
「ぶっ!!」
止まった俺を狙って続く魔術が頭、胸、右腕に当たる。
近接格闘が主体の俺と遠距離狙撃が主体のエトゥスさん。相性が悪すぎる。
降参の合図をして、一度ストップしてもらう。
「無理でしょこんなの!」
攻撃の射程の差が如実に現れている。
持っているナイフが当たる距離に近づくことができない以上、こちらに勝ち目などない。
ここまでの訓練の反省会を始める。
「私としても近づかれたら終わりなので必死なんですよ」
「でもあの戦法なら近接主体の人になら大体勝てるのでは?」
「そんなことないですよ。
ゼルオス小隊長は『杖の先から直線にしか飛ばねえと分かってんなら避けられるだろ』とか仰いますし」
流石小隊長。化け物だった。
「シロ殿であれば素早く動かれるので、こちらの攻撃が当たりませんしね」
まじか。
エトゥスさんで西門警備隊の中でも真ん中くらいの強さですよとのこと。
「ロック殿はまず御自分に合った戦い方を模索した方がいいかもしれませんね。
これまで後方にいた方が近接戦闘が出来ないのは当然です」
エトゥスさんのアドバイスは的確だ。
確かにその通り。
だがしかし。
「それ、訓練始める前に言うのでもよかったですよね?」
「…………ははは」
さてはこの人少し天然入ってるな?
思わぬ一面を知る良い機会となった。
いい運動になった。
訓練を終えて部屋に戻ると女性組が帰ってきていた。
2人が買ってきたお土産をみんなで食べつつ談笑を楽しんだ。
その日の夜。
今日の報告書を提出しに『風便』の受付に向かう。
「こんばんは〜」
「こんばんは、ライラさん」
今日もライラさんは受付に座っていた。
「今日も昨日と同じところでいいの〜?」
「はい。よろしくお願いします」
「はいは〜い」
相変わらず独特のテンポで話す人だ。
「ところで〜、聞いてもいいかしら〜?」
「なんですか?」
「ロック君は〜、何をしにこの国に来たの〜?」
御子殺しを探しに。
とはもちろん言えない。
「……観光ですよ。
ここに来れば珍しい風景が見れると聞いたので」
「観光〜?
そうなんだ〜」
とっさに嘘をついたが、怪しまれていないだろうか。
「それじゃあね〜、おすすめのお菓子屋さんがあるから〜、明日行ってみて〜」
「ありがとうございます。
連れが食べる事が好きなので喜びます」
「ちょっと待っててね〜、今地図描くから〜」
受付の机の引き出しから紙を取り出して地図を描き始めるライラさん。
地図が完成するまでの間、場が持たなかったため適当な話題を振ることにした。
「そういえば、不思議な『風便』が届くようになったと聞いたんですが、ご存知ですか?」
午前中ずっとその事を考えていたからつい話題として出してしまったがついて来られるだろうか。
「白紙の『風便』のこと〜?
知ってるも何も、噂になってるよ〜」
噂になっているらしい。
「誰が出しているか、とか受付のライラさんなら知ってるんじゃないですか?」
「え〜? 知らないよ〜?
職員でも『風便』に何が書かれてるかは分からないんだよ〜。
だから〜、誰が噂の『風便』を送ってるのかなんて、誰も知らないんじゃないかな〜」
「そうなんですか」
「もちろんだよ〜。
ロック君だって、『風便』に何書いたかなんて、知られたくないでしょ〜?」
確かに。
「それにしても、誰が何の為に送ってるんだろうね〜」
「本当にそうですね……。
シルヴィア様の呪いなんて話もあるみたいですし」
「あはは〜。ロック君、呪いなんて信じてるの〜?」
「ライラさんは信じてないんですか?」
「うん〜。だってね〜、呪いなんてよく分かんないものよりも〜、生きてる人の方が怖いしね〜」
割とリアリストのようだ。
話し方とのギャップがあるが、それもまたライラさんの魅力なのかもしれない。
そんな話をしていると、ライラさんは動かしていた手を止めた。
「地図できたよ〜。
ホントに美味しいから是非行ってみてね〜」
「ありがとうございます。
じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさ〜い」
明日シロに教えてやろう。
あいつの事だ。きっと顔を輝かせて喜ぶ事だろう。
明日の朝見られるであろうシロの表情を思いつつ、眠りについた。




